第62話 焦燥
獣王団第二修練場。
「はぁっ!!はぁっっ!!」
ミュフィスは焦っていた。
ドレイクはどんどんと前に進んでいく。
遠くに置いていかれた気分だ。
元々差はあった、しかしLv.100に到達した今は違う。
差ではなく格が違うのだ、強さの格が。
ミュフィスは防御魔法を得意とする。
そうアイルースに教えられて育ったからだ。
せめてドレイクの盾として、家族を守る盾としてもっと強くならないと……。
アイルースはその光景を冷静に観察していた。
自分も気持ちはわかる。仲の良かった人達がどこか遠くへ行ってしまう感覚。
ミュフィスお嬢様はきっとドレイクに追いつきたい一心で今、私を相手に訓練をしている。
Lv.93だ、後は訓練を続けていればLv.100も夢ではない。
ここ数年で騎士団は一気にLv.を上げてきている。
それはドレイクの追い上げが凄くハイル、ゲルド、フラムが今まで以上に苛烈な修練をしているからだ。
先頭を走る者のLv.に近づくのは当たり前だ、ただ追いかけていればいい。
だが先頭を走る者の苦しみや葛藤を、アイルース達後続は知らない。
どれだけ悩み、修練し、どれだけ身を焦がす思いで戦っているのか想像もつかない。
私にできる事と言えば集団から遅れないように、ミュフィスお嬢様を引き上げることだけだ。
悪いが他の事はどうだっていい。
私はミュフィスお嬢様が満足いくまで強くなってくれれば、それだけでいいのだ。
だから訓練中は厳しく指導する。
「ウォーターランス!」
「氷城の守りよ!!」
高威力の水の槍がミュフィスの氷の城壁を削り取っていく。
「もっと集中しなさい!!」
「はい!!」
ドレイク・ランドロックと出会ってからミュフィスお嬢様は変わった。
だらしなく、訓練をいやいや受けていた頃とはまるで別人だ。
勉強にも力を入れている、訓練中は決して弱音を吐かない。
可愛くて私の後ろをついてくるだけだったあの頃を懐かしいと思う……それと同時に彼に感謝しないと。
あの学院襲撃の時、彼は私を助けてくれた……。
まだあの時の恩を返せていない。
だからこの感謝は、貴方の盾としてミュフィスお嬢様を送り出すことで返します!
それがアイルース・ディーネルができる、貴方への唯一の恩返し!
「その杖は唯の飾りか!!!」
「違います!!」
「だったら全て! 受けてみろ!!」
「はい!!」
ライラお嬢様は聖魔法で彼を支えている。メイル様も鍛冶という分野で彼を支えている。
ミュフィスお嬢様も一つ、飛びぬけた才を身につけさせねば……。
「神代の水砲よ!」
「神代の氷城よ!! 私を守れ!!」
魔法師団第二修練場。
「なあ?」
「なんですか?」
「斧、辞めちまったのか?」
「考え中です……」
「斧キャラ被り嫌だったか?」
「気にしたことも無いですよ……」
「そうか?」
「はい」
修練場に寝ころびながらディアス先輩と適当に話している。
「なあ?」
「なんですか?」
「竜のあそこってどうなってんだ?」
「……普通ですよ、変わりません」
「そうなのか?」
「そうです」
特に知られて困る事ではないから正直に話す。
「なあ?」
「今度は何ですか?」
起き上がる。
「俺には何が足りない?」
……今度は真面目な話か。
「先輩は防御に隙がありすぎです」
「だって斧じゃあきつくねえか?」
「じゃあクラスチェンジでもしたらどうですか?」
「……そうか」
「はい」
「昔な、盾が憧れだったんだ」
「だったら盾の加護を貰えばいいじゃないですか……なんで斧を?」
「お前が斧を必要とするだろうなーって思って、クラスチェンジしたんだ」
「……え?」
「初めてお前のことを知ったのは入団試験の日だ、守衛の騎士がステータス紙を持って俺たちの所に来た」
「……」
「凄いやつが現れた! ってな、ステータスを観たら驚いたよ」
「そうですか」
それは素直に嬉しいな……。
「竜の身体を持つ奴か……いずれ斧でも教えてやるかって思ったんだ」
「そうだったんですか?」
初めて知ったそんなこと。
「俺の為にクラスを変えてくれたんですか?」
「そうだぜ?」
「なんで?」
「お前が、グレース様をも超えると思ったからだ」
「!!」
「まあ、ただの予感だけどな」
そう言って笑うディアス先輩。
「まあ、忘れてくれ。俺はお前が成長したし、元に戻るだけだ。教えることも無くなったしな」
「先輩……ありがとうございました!!」
「おいおい……可愛い後輩の為だぜ? 騎士なら当たり前だろ?」
「!!」
「今度はお前が刀刃を導いてやれ、あいつは今迷っている頃だ」
「はい!!」
さて、俺もクラスチェンジしてくるか……と言って修練場を後にするディアス先輩。
全く……かっこいい先輩だ。
刀刃に足りないのはなんだろうな、俺が教えれることは……。
そう考えながら俺は刀刃の所へ向かって行った。




