第54話 教育
魔法師団第二修練場。
「はぁっ! はぁっ!」
皆で修練場を走っている。
「遅れるな! 常に呼吸を乱すな!」
フラム副団長を先頭に50kmを二回走る、新人が最初に躓く魔法師団の名物訓練だ。
しかも武器、防具を着けての訓練なので結構きつい。
「戦場で走れぬものは置いていくぞ! 死にたくなければついてこい!」
この訓練のきつい所は10kmを走り終えるたびに、二人一組を作り戦い始めなければいけないところだ。
もちろん本気で。
「ルミア! ナーシャ! 時雨! 遅れてるぞ!」
今年入ってきた女の子三人組だ。
ルミアとナーシャの二人は三歳の頃から一緒に育ってきたらしい。
そして時雨は刀刃の実の妹だ。
かなり剣が立つ実力者だ、流石剣王国で育ってきた兄弟という事か。
ちなみに昨年度の入団者は刀刃とルーカスだけだ。
フラム副団長も去年は後一人位は欲しかったと言っていた。
俺達の代が豊作と言われていたのがいまでは良くわかる。
「はぁはぁっ……!! 待って……!!」
本格的に時雨が遅れてきた。
刀刃が下がり時雨に喝を入れる。
「時雨! 走れ! 後で追加になるぞ!!」
「無理……もう、無理だ兄者!!」
フラフラで今にも倒れそうだ。
ゴールまで後13km、戦闘も一回残っている。
「時雨! 走れ! 走り切ったら何でも買ってやる!」
「……無理、はぁっ!!」
バタッと倒れてしまう時雨。
「刀刃!! 時雨を背負って走れ!」
これだ。
これがあるから、刀刃は時雨に頑張って走り切って欲しかった。
そう、新人が倒れた場合はその前の世代が背負って走らなくては行けないのだ。
そして妹を守るのはいつだって兄貴の役目である。
「刀刃! 遅れるな!!」
今度は俺が刀刃に喝を入れに行く。
「私も……駄目かも……!」
聖魔法使いのナーシャもギブしそうになっている。
「ルーカス! ナーシャのフォローに入れ!」
「おい! 走れ!」
ルーカスがフォローへ回る。
でもこの遅れはまずいな……。
これは一応逃げながらの実戦を想定した訓練だ。
距離が出来てしまっては意味がない。
なら……。
「刀刃! 時雨を寄越せ! 俺が背負う!!」
「ナーシャ! 背に掴まれ!!」
俺とワーグルが新人を背負い走る。
「助かりました! ドレイク先輩!」
「お前はもっと牛乳を飲んで肉を食え! 細すぎる!!」
そう、刀刃は騎士団の中では小柄な部類だ。
速さだけで言ったらハイルさんやゲルド副団長と並ぶほどだが……。
速度だけで人を助けられるほど甘くない。
まあ、それをカバーするのが先輩の役目だったりする。
「助かりましたぁ……先輩ぃ……」
時雨が背で何か言っているが聞こえない。
そうして50km走の訓練二回目が終わった。
新人は今日はまともに動けないだろうと見学へ回す。
正直100kmも走れば俺でもキツイ。
「はぁー……死ぬかと思いました……」
時雨が水を一気飲みする。
「私もゴールしてからしばらく動けなかったわ」
ルミアも一人でゴールまで走ったがきつかったらしい。
「明日もあるのかなぁ……」
ナーシャが不安がる。
するとルーカスが塩に付けたレモンを持ってきた。
「ほら、全部食っていいぞ」
「ありがとうございます!!」
パクパクと食べ始める新人達。
ルーカスは刀刃を呼んで端の方で話す。
「先輩達に頼ってしまった……本来なら俺達がフォローするところだったのに」
ルーカスは悔やんでいた。
もっと走れるようにならねば先輩の足を引っ張ってしまうと……。
「ルーカス……訓練が終わったら僕らで走ろう!」
「ああ! いつまでも甘えてるわけにはいかないもんな!!」
二人で自主練をすることにする。
フラム副団長はその光景を遠くから見ていた。
「ドレイク」
「フラム副団長……どうしました?」
「訓練が終わり次第、自主練に付き合え」
!!
珍しい、自分から頼ってくるなど無いフラム副団長が俺を頼ってくれている!
「ディアスとワーグルも修練場へ呼べ、ジークには私から声をかける」
「はい!」
おお、これは楽しみだ。
五人で訓練か……結構面白そうだな。
「ワーグル!」
「ん? どうした?」
ストレッチをしているワーグルに話しかけに行く。
「訓練が終わったらフラム副団長が第一修練場に来いだって!」
「な!!!? なにぃいいい!????」
驚いている。
ワーグルは魔法を得意とする。
フラム副団長から教われるとなれば死んでも行くだろう。
「遂に認めてくれたのかな……グレース様が……俺を……」
いかん、天に昇り始めている。
まあ、ほっといても大丈夫か……。
ディアス先輩に声を掛けにいこう。
「先輩!」
「どうした? ドレイク」
水を飲んで休んでいた先輩へ声をかける。
「フラム副団長が訓練後に第一修練場に来いって」
「おお! 俺の実力を認めてくれたか……」
ディアス先輩も嬉しそうだ。
「ところでドレイク……」
「なんですか?」
「時雨ちゃんはどうだった?」
「は?」
「背負って走ったろ? どうだったと聞いている」
「いや、軽かったなくらいしか感想は無いですよ」
「そうか、何でもない」
うーん、なんかありそうだが……まあいい。
そうして訓練を終えて俺は修練場へ向かった。




