第103話 後輩
休日になった俺はセイルを連れて竜剣派の道場へとやってきた。
「ここが竜剣派の国内で一番大きな道場だ、入る覚悟はできたか?」
「ゴクリッ……おう、やってやるよ」
「じゃあ自分で門を叩くんだな、仲間には敬意を払えよ?」
「分かった」
セイルは一歩前に出て道場の入り口前に立つ。
そして勢いよく扉を開いた。
「剣王国出身のセイルだ! 今日からよろしく頼む!!」
なんだなんだと中にいる門下生達が騒ぎだす。
「騒ぐでない!」
「!!」
老人の声一つで門下生達は静まった。
セイルは緊張しながらその光景を見ている。
「セイルと言ったな」
「おう!」
「親御さんの許可は?」
「親はいねえ……先日の戦いで死んだんだ……」
「ウェステンシアの件か?」
「そうだ、だから強くなりたくてここに来た」
しばらく間があく、老人は考えているようだ。
「ここにいる門下生達もタダでは教えてない、親が高い金を払って儂が教えている」
「金……なんでもやるよ! 働かせてくれ!!」
「お前は剣を習いに来たのではないのか? 仕事が欲しけりゃ他を当たれい」
「それは……」
何も言えなくなってしまうセイル。
「世の中金とは言わないが、強くなるには必要なことは分かるだろ?」
「俺は……金は持っていない」
その時クスクスと笑う声がした。
「金もないんじゃあ僕達と一緒に剣を習う資格はないよ、帰って木の棒で素振りでもしたらどうだ?」
「それはいい! でも家名もないんじゃあ物乞いとして生きていくしか無さそうだけどね!」
アハハハと笑う少年達、多分貴族の出自だろう。
「ふざけんな! 俺は騎士になって! 妹を守らなくちゃいけないんだ!!」
「騎士? どれだけの狭き門かお前には分からないだろうけどね、口先だけで慣れたら皆が騎士になっているさ」
「馬鹿にすんな!!」
「いや、騎士とはそれ程までに狭き門じゃ、誰にここの門を叩けと教わってきた?」
「それは……」
セイルが後ろを振り向いた、泣きそうな顔だがこの場に屈しないで騎士になると言い切ってみせた、この俺の前で。
ならその覚悟に応じてやる必要がある。
「どけ、セイル」
「……おう」
「なんだ? 後ろに誰かいるのか? もしかして妹を連れて来たのか?」
「それは面白い! 挨拶だけは聞いてやるとしよう」
「こいつの親代わりだ、文句があるなら俺と試合でもしてみるか?」
俺はセイルと変わって道場の中へと足を踏み入れる。
「貴様は誰だ? 身なりだけは貴族のようだが」
「ふはは! 貴族でも実力ないものはこの道場へは何も言えないぞ! 何か物申したかったら剣を取れ!」
二人組の一人が足元に木剣を投げてくる。
「いらねえよ、俺に剣は必要ねえ」
「言ったな? なら容赦はしないぞ!!」
一人が駆けだしてくる。
「ディークの速度に素人が追いつけるわけがない! 貴様の負けだ!!」
木剣が俺に向かって振るわれる。
しかし、俺は軽々と木剣を素手で掴んだ。
「なっ!!」
引っ張って剣を抜こうとするが微動だにしない。
「どうした? さっきの威勢は?」
「貴様!! 私を侮辱する気か!!」
一旦距離を取り周りの門下生から真剣を受け取り再度構える。
「それがどういう意味か分かるのか?」
「分かっているさ、この道場を代表してこのディーク・エルグランド様が貴様の相手をしよう」
「なら胸を貸してやるとしよう、ドラゴニア魔法師団のドレイク・ランドロックだ」
「「「!!!!」」」
「魔法師団!!」「やめろディーク!!」「相手が悪い!!」
「一度抜いた剣を収める訳にはいかない、仲間が舐められるからな」
「良い心構えだ、だが、俺に勝つつもりなのは思い上がりもいい所だぜ?」
相手の手が震えている、騎士相手に真剣で挑めば殺されるのを分かっているはずだ。
だが逃げる姿勢は取らないディークを俺は少しだけ評価する。
「逃亡を許可しよう、武器を捨ててここから逃げだすと良い」
「ふざけるなよ……? 私は貴族だ、仲間を守って死ぬ覚悟はできている」
「なら本気で相手をしよう、戦神テュールよ、私に勝利を!」
メキメキと音を立てて竜化する。
見ている門下生たちは唖然としている。
「化物だ……」
そう誰かが呟いたが初めて獣化を見るなら仕方ないだろう。
そして斧を生成する。
俺は一瞬でディークの前まで移動し、斧で腕を切断する。
「ぐぅぅぅっ!!!」
剣を落としてもなお眼だけは生きている。
左手でディークの首を持ち上げ軽く力を入れる。
「ガハッ!!!」
「ディーク!!」
周りも青ざめているが誰も止めに入れない。
「選べ、セイルを侮辱した罪を謝るか、今ここで死ぬか」
「分かった! 謝る! 謝るよ!!」
俺は手を放してやり、ディークは地面へと崩れ落ちる。
「はぁっはぁっ!」
息が荒く出血が酷い、だが……。
「すまなかったセイル君! 君を侮辱したことを詫びさせてくれ!」
ディークはセイルに向けて謝罪をした。
「お、俺も悪かった! どうか謝罪を受け取ってくれ!」
もう一人も深く頭を下げて謝罪する。
「うん、もういいよ、顔を上げてくれ」
セイルは許すことにしたようだ。
「助かった……ぐっ!!」
「ディーク! おい! ポーション持ってきてくれ!!」
周りが慌ただしく動き出す。
「これを使え」
俺はポーションの瓶をディークに渡す。
「これは?」
「エルフのポーションだ、切断くらいならすぐに治る」
「ありがとう……感謝するよ」
早速斬られた腕を傷口に着けてポーションをかける。
すると傷が癒えて腕も元通りになった。
「助けて頂き、ありがとうございます」
「気にすんな」
ディークの頭を撫でてやる。
「俺から逃げなかったのは褒めてやる、中々出来る事じゃない」
「……はい!」
セイルを連れて先生と思われる老人の下へと行く。
「初めまして、ドラゴニア魔法師団のドレイク・ランドロックと言います」
「ディークの馬鹿を見逃してくれたのは感謝する」
「子供ですから、あれくらい勢いある方が俺は好きですよ」
「して、セイルをここに入れたいと?」
「お願いします、セイルを鍛えてやってください」
俺は先生に頭を下げた。
「お願いします!! 俺強くなりたいんです!!」
セイルも深く頭を下げる。
「ここの門弟で一番強い騎士になったのは現騎士団長のハイル・アーツだ、奴は剣の天才だった」
(ハイルさんもここの門下生だったのか……)
「だが、ここに入るのには数年かかった。入れる剣士は実力を見てから入れておる、誰一人、例外なくな。唯……お主がたまに顔を出して指導をしてくれるんじゃったら、セイルを受け入れてやろう」
「!!」
「分かりました、私だけでなく、優秀な騎士を何人か連れてまた来ます」
「そいつは嬉しい、じゃあ、セイルこっちに来なさい」
「はい!」
セイルは先生の近くに行く。
「ディーク! 道着を持ってこい!!」
「はい!」
呼ばれたディークが倉庫に入っていき小さな道着を持ってきた。
「ここでは道着を着る事、仲間を守る事、儂の言う事を素直に聞く事、よいな?」
「はい!! ありがとうございます!!」
「今日から訓練していくといい」
「やったぜ!! ドレイク! ありがとう!!」
「ああ、頑張れよ?」
「おう!!」
セイルは皆の所に混ざりに走っていった。
「じゃあ先生、よろしくお願いします」
「良かったら見学していきなさい」
「俺がいたら邪魔になりそうなんで。今日は帰ります」
「まあ待て、せっかく来たんじゃ……実は今日、ハイルを呼んでおる」
「ハイルさんを?」
「そうじゃ、良ければハイルとの手合わせを皆に見せてやってくれんかの?」
「!!」
「たまに指導しに来てくれるんじゃ、今日は運が良い」
「ハイルさんとか……分かりました、私でよければ」
「では頼む」
そうして稽古が始まり俺は出されたお茶を飲みながら、その光景を見ていた。
先生と話しているとどうやらディークは今十七歳で、来年の騎士団の入団試験を受けるらしい。
確かにさっきの試合で剣筋の良さは感じた。
基礎もしっかりしているし俺は試験も受かると思っている。
そうやって道場の門下生の子たちの話をしていると扉が開いた。
「やあ」
「止め! 挨拶!」
「「「お願いします!!」」」
「うん、元気がいいね」
ハイルさんがジークさんとセーラを連れて入ってきた。
セーラの可憐さに男共はザワついている。
「先生、お久しぶりです」
「ハイル、ジーク、よく来た」
「珍しいね、ドレイク君がいるなんて?」
「ちょっと子守りで来てまして」
軽く話して事情を説明する。
「なるほどね……セイル君か。立派な剣士に育つと良いね」
「ハイル、今日はドレイクと戦ってもらいたいんじゃ」
「ドレイク君と?」
「軽い手合わせでいいから見せてやってくれ」
「分かりました、ドレイク君もそれでいいかい?」
「構いませんよ」
「決まりだね、ジーク審判をしてくれ」
「分かったよ」
「じゃあ身体が温まったらやろうか」
こうして俺とハイルさんの試合が始まろうとしていた。




