エデン
〜エデン〜
お楽しみください。
三日月
竜〜エデン〜
光の塔を螺旋を描きながら、光の竜が登っていった。
ティアが恍惚とした表情で背に乗っている。
そして竜と塔が重なり光に包まれた。
四人は竜化から解放され地面に投げ出された。
「みんな無事?」
お互いの無事を確認した。
「不思議な感覚だった」
「竜すげ〜」
「大丈夫です」
辺りを見渡した。
「ここは何?」
整地された庭のように見えるが、はるか地平まで同じような景色が続いている。
見たことのない植物が生え、木には花が咲いている。
泉があり、こんこんと水が湧き出ていた。
ティアがつぶやく
「――エデン……」
一瞬空気が薄くなったように全員の呼吸が荒くなった。
「なんですって?」
肌を撫でる空気に匂いがなかった。
風も吹いてなかった。
まるで時が止まった神の実験場のような不気味さが漂っていた。
「確かにここは少し変だ」
「そういえば宗教画でこんな景色の絵を見たことあるわ」
結が記憶を探るような目で辺りを見回した。
ティアがキョロキョロと何かを探していた。
結が何かを見つけた。
「人?倒れてる……!!!マユリ??」
四人は走ろうとするが思うように身体が動かなかった。
「身体が重い……」
四人とも黄金の輝きも失われ身体が重かった。
感覚で理解できた。
8thチャクラが消えたわけではないが、しかしそこからエナジー自体が湧き上がってくる感覚が失われていた。
共鳴紋の光も消えていた。
上を見上げると光の竜が天空を旋回していた。
「竜にエナジーを取られた?」
「わかんないけどマユリが生きてる!」
四人は支え合いながらマユリのところにたどり着いた。
「マユリ!良かった……」
「みんな……また一世一代のいい場面をマキナに取られてしまったのだよ」
手短に何が起こったのかを説明した。
マユリの全身には焼け焦げたような傷が残り、
皮膚の下では弱々しい青い光が明滅していた。
それでも、確かに呼吸していた。
「そんな事が……マキナ……」
「私はまだ立って動くことは出来ないからティアを!ここが私の想像通りなら間違いなくティアの言う通りエデンなのだよ」
結が目を凝らして探した。
「いた!向こうに行ってる」
目を凝らすとティアの向かう先に何か光が見えた。
「あれが進化の種?」
「おそらくはアダムとイブが食べることになる知恵の実を実らす木、善悪の知識の木の種なのかもしれないのだよ」
「みんな!追いかけよう」
四人が足を踏ん張りながら進んでいった。
マユリはその足取りの重さと上空を旋回している竜を見て、竜に四柱の力を取られたのだと理解できた。
自己修復を始めている体のナノマシンの力で衛星を捉えてみた。
あった!どうやら本当に別の次元に来た訳ではさなそうだった。
マユリはハッキングして衛星回線に潜り込んだ。
日本の首相官邸内の作戦司令室に音声を繋げた。
「――綾香……聞こえる?マユリなのだよ」
倉木綾香総理がインカムをオペレーターから取り上げた。
「マユリ?マユリなの?どうなってるの?みんな消えてしまった」
「私たちは同じ場所にいる。ただ、世界樹の内部で位相だけがずれているようなのだよ」
「私達は今エデンと思われる場所にいるのだよ」
「エデンって……あの聖書の?」
「私の視覚映像を何とかそちらに送ってみるのだよ」
そういうとマユリは目を開いたまま動かなくなった。
配信されていた画像が切り替わった。
マユリの見ている視界そのもの、静止した楽園、エデン。
綾香が息を呑んだ。
「これがエデン……」
◇
四人が足を引き摺りながら進んでいくが、ティアがもう少しで光に着いてしまいそうだった。
ティアは光へ向かって駆けていた。
足はもつれ、何度も地面へ手をつきながら、それでも止まろうとはしなかった。
「ああ、あそこに進化の種が……リタ……もう少しで手に入る!ああ……」
もう少しで追いつきそうな距離だった。
「ティア……何が起こるか分からないのにダメよ!」
「うるさい!!」
振り向きざまに光の獅子を顕現させた。
四人は獅子の攻撃を避けるのがやっとだった。
倒れるようにして転がり避けた。
ティアが光のそばに立った。
種とは比喩で明らかに光り輝く力の結晶だった。
種からの光でティアの後ろに影が出来た。
その影がティアの動きとは無関係に、ゆっくりと身じろぎした。
はじめは誰も気が付かなかった。
影から黒い瘴気が立ち上がった。
舞が最初にそれに気付いた。
三人を止めた。
「っ!!なんかいる!」
四人は動くのを忘れたように止まっていた。
得体の知れない雰囲気に完全に飲まれていた。
ゆっくりと瘴気が意志を持ったように形になっていった。
ティアだけがそれに気付いてなかった。
ティアは目の前の光の種を見て涙を流していた。
「リタ!やっとこの手に進化の種を!私があなたの願いを叶えるわ!新しき神となり人類を導く」
両手で種を優しく包み込むように手を添えた。
――ゴフッ!突然、その両手が血に染まった。
ティアの胸を突き破り、背後から血に塗れた、白い腕が伸びていた。
ティアの胸元から大量の血が種を受け取ろうと差し出していた両手に流れ落ちた。
口から吐き出した鮮血も加わり掌は真っ赤に染まった。
四人は見た。
ティアの影から立ち上った瘴気が人の形になっていき、その人は美しい女性になった。
一糸まとわぬ身体、下腹部から上半身にまで黒い共鳴紋が禍々しく広がっていた。
ニヤリと笑い後ろから手刀でティアの胸を穿いた。
手刀が抜かれるとより激しく血が吹き出した。
ティアが訳の分からない様子で後ろを振り返った。
「リタ?」
ゴボゴボと肺から血が混じった声で呟いた。
「リタ?どうして」
…………リタが泣いているようだった
クククッ
泣いてなどいなかった。
その肩の震えは嗚咽ではなく、耐えきれない笑いの震えだった。
「ふふふっ」
「あーーー本当に滑稽な!笑いが……止まらない!」
「リタ、生きていたの?一体……」
リタが手刀に付いたティアの血を舐めた。
血のルージュを塗ったように唇が真っ赤に染まった。
「一体どうしたって?一万年近く本当にご苦労さま!ってことよ!」
「あの時、人工進化の種の暴走でリタは命を賭けて、私を救ってくれた。違うというの?」
「はぁ?なんで私があなたの為に死ななきゃならないのよ!私は実験しながら気がついていたのよ!上手くいくわけないって!」
わざと大袈裟に身振り手振りしていた。
「どうしようかって悩んだわ――私だけで過去に戻っても退屈だしね……その時あなたを利用しようと思ったの!私、自分を天才だと思ったわ!」
「馬鹿なあなたは………1万年以上??ほんとに馬鹿よね〜私はあなたの影に隠れて永遠に眠って待ってたのよ!きっと、あなたなら本物の進化の種にたどり着くまでやってくれるって!」
「たまに目を覚ましたときに、あなたは『リタ……あなたの願いは私が!』なーんて真面目な顔して言うんだもん、危うく吹き出しそうになっちゃったわ!」
わなわなと震えるティアの唇にそっとキスした。
ティアはピクリとも動かない。いや、動けなかった。
「はい!一万年のご褒美!」
「それにティア、あなたずっと一万年自分の意志で動いていたと思ってるの?」
「どういうこと?」
「私はずっと、あなたの心に囁いていたのよ。迷いが生まれれば押し潰して、私との約束だけを何度も思い出させた。けれど選んだのはあなた。歩き続けたのも、踏みつけたのも、全部あなた自身よ」
言った後、込み上げる笑いを我慢できずにリタが吹き出した。
「そう!さっきもそこの小娘たちに痛いところをつかれ錯乱しちゃって大事な門の封印もパー。私がもう一度冷静にしてあげたのよ!『まだ終わってない』ってね」
ティアの瞳から焦点が消えた。どこも、何も見てなかった。
唇が震え、呼吸だけが壊れた機械のように早くなっていく。
「あああああああーー」
涙など出なかった。
怒りも湧かなかった。
悲しみも溢れなかった。
それでも身体だけが長年染みついた戦いをなぞるように光の獅子を顕現させた。
リタが闇の獅子で迎え撃った。
闇の獅子の牙が光の獅子の喉に噛み付いた。一切の抵抗もさせず、光の獅子は霧散した。
「アッハハ!あなたに魔法を教えたのは誰だと思ってるの?私に魔法で勝てる訳ないじゃない」
四人は息をするのも忘れていた。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
そしてよろしければブックマークや評価など頂けると
私自身の励みになります。
どうかよろしくお願いいたします。




