獅子
〜獅子〜
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妖精編〜獅子〜
舞と結はゆかに付き添われ、重厚な扉が開かれたアンドロギュノス本部の大広間へ足を踏み入れた。
「すごいね……」
結が並ぶ調度品に圧倒され思わず身震いした。
磨き抜かれた大理石の床が靴音を吸収し、広間には荘厳な雰囲気が漂う。
その奥の代表の執務室の前に立ちノックする。
「どうぞ」落ち着いた声がしてゆかがドアを開ける。
「失礼します。二人を連れてきました」
大きな年代物のデスクが置いてある。
体がすっぽり埋まってしまうほど大きな椅子が置かれている。
その椅子に腰を下ろしている女性がいた。
年齢不詳の女性だった。
30代?40代?50代?
見る角度によって色んな顔が見えそうだった。
「ありがとう、ゆか……よく来てくれたわね、舞、結」
漆黒のスーツに身を包んだ彼女は舞たちの方へ歩み寄ると、鋭い眼光を和らげて微笑んだ。
「私はティア、元フェアリーで今はアンドロギュノスの代表をしているわ」
ゆかが傍らで補足する。
「ティアは『元』フェアリーと言ったけど、彼女が伝説になるまでは『フェアリー』という言葉自体存在しなかったのよ。つまり初代フェアリーということよ!ティアは魔法を使うことができて、妖精のように空を飛び現れ、魔法で解決する。そんな姿が幾度となく人の目に触れいつしか畏敬の念を込めて彼女をフェアリーと呼ぶようになったのよ」
「魔法使い……」
舞と結の緊張が最高潮に達する。
「フェアリーの頃の、ほんの二つ名よ」
その一言は重みを持って広間に響いた。
ティアの存在感が空間を支配しているようだった。
舞と結は新たな使命への第一歩を確かに踏み出したことを感じ取った。
緊張した面持ちでティア代表を見つめる。
自然に背筋が伸びる。
大理石の床に映る自分の影を見つめる。
これから始まる新たな世界への期待と不安が入り混じる。
ティアの漆黒のスーツが大理石の冷たい光沢に溶け込むほど静謐な空間で、彼女の唇がかすかに動いた。
「あなたたちからすごいエナジーを感じるわ」
低く響く声が石壁に反響した。
「うまくエナジーを使いこなせれば......」
ティアの纏う雰囲気が一変した。小声で呪文のような言葉を紡ぎ、腕を前に突き出す。
手のひらから光の粒子が溢れ金色の光が渦巻き始めた。それは眩いライオンの形を瞬時に形成し、獅子の咆哮が天井を震わせた。
黄金のたてがみが微粒子となって煌めく。
光の獅子はまっすぐ舞と結の足元へ疾走する。
「くぅぅぅ」二人は悲鳴を押し殺した。
二人のすぐ前で光の獅子が止まった。
強烈な風圧だけが、そのまま二人の髪をなびかせた。獅子が放つ圧倒的な存在感が空気を焦がし、獅子の黄金の眼差しが二人をじっと射抜く。
ティアがヒュッっと手を動かす。
次の瞬間――光の獅子は霧散するように消滅する。
後に残るのは磨かれた床に映る二人の呆然とした影だけであった。
舞と結は大理石の冷たさすら忘れ、ぽかんと口を開けたまま、ただ互いの驚愕の眼差しを見つめ合った。
「すごい......こんなことまで......」
結の声がかすかに震えた吐息となって広間に溶け込んだ。光の粒子が完全に消え、広間に静寂が戻った。
結はまだ呆然としたまま、隣にいる舞の腕を無意識に掴んでいた。
ようやく大理石の床の冷たさが、靴越しにじんわりと伝わってくる。
だがそれ以上に、胸の奥から湧き上がる熱が全身を満たしていた。
「……信じられない……」
小さく呟いた声は、自分でも驚くほど震えていた。
「本当に……魔法みたい……」
舞の方を見つめると、彼女も同じように息を詰め、目を輝かせている。
「私たちの中にも……あんな力が、眠ってるのかな……?」
期待と不安が入り混じった、かすかな祈りのような問いかけだった。
ティアが二人の前に歩み寄る。穏やかな微笑みを浮かべ。それぞれの肩にそっと手を置いた。
「フェアリー研修、頑張ってね」
その一言と同時に、掌から温かな波動が伝わる。
何か体のスイッチが切り替わったような不思議な感覚だった。
瞬間――二人の身体を包んでいた重さや疲労がすっときえ、呼吸が深く整っていく。
まるで体内のエナジーが正しい位置に導かれたようだった。
「――体が、軽い……」
舞と視線を交わすと、自然と小さな笑みがこぼれる。大広間の荘厳な空気に圧倒されながらも、背筋を伸ばし、結は一歩前に踏み出した。
「ありがとうございます、ティア代表。……研修、全力で頑張ります」
二人は深く一礼した。そして――ドアを開けて出ていった 。
扉が閉まった後、ティアの口角が信じられない程深く釣り上がった。
「一度に二人も……惹き合うということなのね、彼女たちならいいのだけど……」
結は部屋を出ると舞の方を向き、少し照れたように、けれど強い意志を込めて言う。
「舞と一緒なら、きっとできる気がする。ティア代表みたいに、私たちもエナジーを使いこなせるようになりたい」
舞は静かに頷き、結の手をきゅっと握り返した。
二人の指先が触れ合ったその瞬間
まだ名も知らぬ強大な力が、確かに共鳴を始めていた――。
お読みくださりありがとうございました。(^o^)
次回更新は明日の19時です。
「臨界点」お楽しみに^ ̳ට ̫ ට ̳^




