覚悟
〜覚悟〜
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三日月舞
救出編〜覚悟〜
結が思い出したように顔を上げた
「あの三人は? 無事なの?」
「あの三人って?」
舞の質問に結が興奮気味に身を乗り出して答えた。
「あのね、舞を助ける途中で捕まってる三人の女の子を助けたのよ!もちろんゆかさんの力がなかったらダメだったけど」
舞の表情に、微かな安堵が戻る。
弱々しく、それでも優しげに頷いた。
ゆかが笑いながら言葉を添える。
「結さんの勇気凄かったわ。あの三人は大丈夫よ!」
エミリーもあの鋭い眼光が嘘のように微笑みで頷いて答えた。
「もう医療班が応急処置を済ませ、ヘリでアンドロギュノスの医療センターに搬送したわ」
ゆかが時計を見て結に聞いた。
「ヘリが戻ってきたら、舞さんも今からそこへ搬送するわ。精密検査が必要よ。
結さんはどうする?一緒に来る?」
「もちろんです!」
「ここもほとんど制圧できたみたいね」
辺りに静けさが戻りつつあった。
「ゼノバイオ製薬……明日にはいつも通りになるわ」
ゆかの言葉に、結が明らかに不満があるように眉をひそめる。
「え?こんな凶悪な犯罪なのに?裁かれないのですか?」
「……それが今の歪んだ世界なのよ。巨大な資本と権力の前では、一個人の悲劇なんて、ただのデータとして処理されてしまうの。今も、明日も。
世界のどこかで『ふたなり』と言うだけで血と涙が流れていくわ」
エミリーがゆかと視線を合わせながら力強く続けた。
「私たちは一滴でも多くの涙を救い、拭うために戦っているわ」
ゆかとエミリーの言葉に、舞と結の魂が共振し震えるような感覚を覚えた。
ヘリで医療センターに運ばれ精密検査を終えると、ようやく激動の一日は静けさを取り戻した。
柔らかな照明が、白いシーツと点滴のラインを淡く照らしている。
消毒薬の匂いの中に、かすかな花の香りが混じり、時間がゆっくりと流れていた。
ベッドに横たわる舞の傍に、結は静かに腰掛けていた。
看護師たちの足音も遠ざかり、点滴の落ちる音さえ聞こえそうなほどの静寂。
二人きりの空間が生まれた。
舞はゆっくりと上半身を起こし、結の手を探すように伸ばした。そっと触れた指先を確かめるように、ぎゅっと握りしめる。そのぬくもりに、結の胸が熱くなった。
舞の長い睫毛が震え、かすれた声が静寂を揺らす。
「……結。私、決めたの。私の……やるべきことが、わかった気がする」
その言葉には、もう迷いはなかった。
結は大きく瞳を見開き、ゆっくりとうなずく。
「……うん。舞なら、きっと」
窓の外では、街灯の光が静かに瞬いている。
ベッドの上で、寄り添う二人の影が微かに揺れた。
言葉にしなくても伝わる安堵。、
そして、これから始まる新たな運命への覚悟。
それは静かな病室の中で、確かに息づいていた。
「舞……やるべきことがわかったって、どういう意味? 私も一緒に行きたい。何でも手伝うから」
結が問いかけると、舞は真っ直ぐに結を見つめ返した。
「私はこの組織、アンドロギュノスに入り、『フェアリー』になる。世界中の守られるべき人たちを護る存在になりたい。……結は、どう思う?」
結の瞳が大きく輝いた。驚きと喜び、そして同じ覚悟が表情に溢れる。
「私もずっと思ってたよ……同じこと」
結は舞の手を両手で包み込んだ。
「私も行くわ。
私は知ってしまったんだもの。
私が知らないところで悲しい涙が流れてることを。
そしてその涙を拭うため、命懸けで戦っている人たちがいることを!」
まっすぐ視線が交差する。
「今まで、自分には何もないって思ってた。
でも、もう違う。
守りたいって思える人がいて、戦う覚悟もある。
舞と一緒に、同じ道を歩きたい。
それが、私の答えよ」
「そう言ってくれると思っていたわ。明日ゆかさんに話してみる」
舞の頬が少し赤らみ、安堵の笑みが溢れた。
「結……言いそびれていたけど、助けに来てくれて本当にありがとう」
「こちらこそありがとう、あの時――舞が私を助けてくれたから今の私がいるんだよ……これからもずっと傍にいるからね」
ようやく二人に心からの笑顔が戻った。
ところで、と舞がいたずらっぽく笑う。
「ミッション美人局って何?」
一瞬で結の顔が真っ赤になる。
(ゆかさん!言ったのねーーーーーー!!)
翌朝の病室、窓越しに差し込む穏やかな陽射しが舞のベッドと傍に座る結を暖めていた。
トントンとドアがノックされゆかが病室に入ってきた。
「ちゃんと眠れた?身体の具合はどう?」
「はい。大丈夫です」
舞がゆかを見つめ俯き話し始めた。
「ゆかさん……六年前と昨日、二回も私を助けてくれて……本当にありがとうございました」
「いいのよ、これが私たちの使命だし舞さんがこうして笑顔でいられることが本当に嬉しいから」
といつもの人懐っこい笑顔で答えた。
「それよりも私に用があるって聞いたけど?」
決意を固めた表情で二人はゆかをじっと見つめた。
ゆかは、二人の瞳に『揺るぎない覚悟』の光を見た。
「言わずとも語っているわね、生半可な気持ちじゃフェアリーにはなれないわよ?」
ゆかは椅子に腰掛けて、机の端にあるペンをくるりと回しながら微笑んだ。
「私から本部へ報告しておくわ。
結さん、舞さん二人なら大丈夫だと、私は信じてる」
そして突然、ゆかの目が好奇心に輝いた。
「ところで結さん、覚えている?あの時銃を撃つなんて初めてだったのに、迷いなく正確に撃てたでしょう?あれってすごく不思議だと思わない?」
結が記憶を思い出そうと遠くをみるように視線を泳がす。
「そう言われてみると...不思議です。あの時、怖さよりも何かに導かれるような感じがしたの」
「私のあの銃は特別で、ふたなりが持つ『エナジー』に反応するのよ。あの時……あの銃は結さんのエナジーに反応した。才能があると思う、自信を持っていいわ」
ゆかが嬉しそうに話した瞬間、聞いていたかのような絶妙なタイミングで病室のドアが開いた。
「科学的根拠もなく……『才能』で済ませるのは良くないのだよ!」
賑やかな声と共に白衣を翻し一人の女性が入ってきた。
身長は百四十五程だろうか?幼さの残る顔立ちだが不敵な笑み。
小柄な身体には似合わないほどの存在感をまとっていた。
「マユリ! 来てたの?」
「やぁ……初めまして、結、舞。私は科学開発局、局
長のマユリなのだよ。
二人とはこれから長い付き合いになる。
だから、挨拶に来たのさ」
結を見つめる。
「戦闘データから見る限り、結のエナジーは正直訓練もなしにあそこまで制御できるのは信じ難いのだよ」
結は目を輝かせて自分の可能性に期待を込めて話を聞いていた。
「そうなのですか?」
結に頷いて続いて視線を舞に移す。
「そして舞。君も相当なエナジー保持者なのだよ。二人のエナジーが共鳴して相乗効果を生んだ可能性も捨てきれないのだよ!ふっふっふ……君たち二人となら退屈せずに済みそうなのだよ。とりあえず今は身体を休めてくれたまえ」
マユリは楽しげに笑いながら出ていった。
「面白いけど本当に優秀な科学者よ」
ゆかが廊下に聞こえるように言う。
廊下にいつまでも笑い声が残っていた。
二人は顔を見合わせた。
(私のエナジーと舞のエナジーが共鳴した?)
結の胸に静かな熱が灯る。
舞と一緒だからこそ引き出された未知の力。
もっと知りたい。
自分のことも。
舞のことも。
「覚悟は決まってるわ。舞と一緒に、乗り越えていくよ」
「うん、任せて。一緒に行こう……結」
一週間後。
二人はアンドロギュノス本部の荘厳な建物の前にいた。
二人は正式にフェアリー候補生として本部に招集された。
二人は言葉を交わすことなく手を繋ぎ一歩踏み出した。
朝の空気に、ブーツの踵がカツンと響いた。
お読みくださりありがとうございました(o^^o)
次回更新は明日19時です- ̗̀( ˶^ᵕ'˶)b




