首都クライシス〜倉木綾香〜
首都クライシス〜倉木綾香〜
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三日月
首都クライシス〜倉木綾香〜
舞とマユリはオーストラリアまでの移動手段として自衛隊のC-2輸送機を借りるため、最高責任者である内閣総理大臣に直訴するべく国会議事堂へと向かっていた。
首都東京は根の侵食が進み、都市機能はほぼ壊滅的打撃を受けていた。
インフラが侵食され電気、ガス、水が止まっていた。
信号も消え夜でも真っ暗だった。
繁華街はかつての不夜城を忘れ、沈黙していた。
街を飲み込んでいく根。
あの根の発生源がオーストラリアにある以上、そこを止めなければ日本も世界も終わる。
スマートフォンやインターネットで情報が溢れていたことに慣れきってしまっていた人々は混乱し自分を見失っていた。
民衆もいつしか攻撃的になっていた。
「この辺りも略奪行為が多いわね」
「嘆かわしいことなのだよ」
スーパーが真っ先に狙われ食料の奪い合いが起きていた。
「ここの警察はまだ機能しているわね」
警官が略奪行為グループを止めているがその行為が油を注ぐことになっていた。
銃社会でないことが救いである。
根は確実に侵食を増して高層マンションすら飲み込もうとしていた。
「クライシスなのだよ」
「やはり大元のオーストラリアに行かなければならないね」
「問題はまだ自衛隊が正常に稼働しているか、ということなのだよ」
「やはりまず倉木綾香総理に会いに行かないとね」
彼女は日本初の女性内閣総理大臣であり、共性——レゾナント。そして元フェアリーでもあった。
しかし二人の歩みは遅かった。
そこかしこで起きている略奪行為。
根に対する情報不足による攻撃。
それらを止めながらの前進だった。
少し歩くとまた次の略奪行為が見えた。
店の店主がバリケードを作り、鉄パイプを手に店を守っていた。
四人ほどの略奪者が離れた場所から物を投げている。
「マユリ……止めるわよ」
「舞!待って……なんか来たのだよ」
少し向こうから重低音の排気音が聞こえた。
大型バイクが走っているのが見えた。
サングラスをかけた女性が、地面の根を巧みに避けながらバイクを走らせていた。
略奪行為の群れに飛び込み大声をあげている。
略奪者と言ってもその人たちも自分や家族を守るために食料を求めている被害者にすぎない。
「やめなさい!今、しなければならないことは落ち着くことです。根は敵意を向けるか、触れない限り無害です。
ですが一度敵と認識されれば、容赦なく襲ってきます」
よく通る女性の声だ。
舞とマユリはゆっくりと近づく。
「うるさい!」
と略奪者が女性に襲いかかる。
女性が腰から警棒を二本抜いた。
手首を返すように振る。
ジャキン!
金属音と共に警棒が伸びた。
女性の身体から淡い燐光が立ち上がった。
二本の警棒で略奪者の鉄パイプを弾き、流れるような動きで略奪者たちを制圧していく。
誰も傷つかない完璧な制圧だった。
「なかなかやるわね」
その動きを見て舞は驚いていた。
「探さなくても向こうから来たのだよ」
マユリがつかつかと女性に近づく。
「息災そうで何より、なのだよ!綾香」
女性が振り向きサングラスをとる。
テレビで毎日見る顔がそこにあった。
「マユリ?おーーマユリ!!」
人懐っこい明るい笑顔と声がする
「内閣総理大臣がこんなところで何をしてるんだい?まさか元フェアリーの血が騒いだのかな?」
舞が声をかける
「私はフェアリー舞、倉木総理、初めまして。」
「貴女がフェアリー舞……噂は聞いているわ。
私は倉木綾香。
元フェアリーというか私はフェアリーを辞めたつもりはないのだけどね!」
「私がレゾナントと言うことは今も公にはしていないわ
残念ながらまだ日本はそこまで受け入れる国にはなってないの、でも……きっと……」
綾香の瞳に決意の光が宿っていた。
「今はこうして街に出て治安活動しているのよ」
綾香は店の店主に、よければ少しずつでも食料を配給的に分け与えてもらえないだろうかと頼んだ。
略奪者も顔の険が取れて、その配給の警護を買って出た。
一歩ずつ進まなければこの未曾有の危機は乗り切れない。
綾香が店の店主と話している間に舞はマユリに気になっていたことを聞いた。
「マユリ? 倉木総理が現役フェアリーだった頃から知ってるんだよね。それに、さっき使ってた警棒もマユリが作ったんでしょ?」
「うむ。あれは随分昔に作ったものなのだよ」
舞は少し考えてから、ふと首を傾げた。
「そういえば聞いたことなかったけど……マユリって、いつからアンドロギュノスにいるの?」
マユリの表情から、ほんの少しだけ笑みが消えた。
「……あまり思い出したくはないのだがね。私がアンドロギュノスに保護されたのは、六歳の時なのだよ」
「六歳!?」
「私はその頃には、数学や物理に限れば大学院レベルの内容まで理解していた。自分で言うのもなんだが、少々目立つ子供だったのだよ」
「少々どころじゃないでしょ……」
「それが災いしたのだよ」
マユリの声が静かになった。
「頭の良すぎる子供。そして、レゾナント。共鳴紋の存在まで知られてしまってね。ある研究組織に捕らえられた」
「……研究組織?」
「ああ。奴らが欲しかったのは私ではない。私の頭脳だった」
マユリは自分のこめかみを、指先で軽く叩いた。
「もう少し救出が遅ければ、私は生きたまま脳を摘出されていたのだよ」
「脳を……?」
「その施設へ突入して、私を抱えて逃げてくれたフェアリーがいた」
マユリは少し先で店主と話をしている綾香の背中へ視線を向けた。
「当時、現役フェアリーだった――倉木綾香さ」
舞も綾香を見る。
「そんなことが……」
「だから私にとってアンドロギュノスは、就職した組織ではないのだよ」
マユリが小さく笑った。
「六歳のあの日から――私の家だったのさ」
綾香が話を終えて戻ってきた。
「話はついたわ」
「治安活動に総理自らなんて……」
「総理大臣だからこそよ。この国が崩れるかもしれない危機の瞬間に、官邸の地下に隠れているわけにはいかないでしょう」
「戦う総理大臣ってことなのだね」
「そのキャッチフレーズ次の選挙で使わせてもらうわ」
と屈託のない笑顔で笑った。
舞はその笑顔を見て安心した。この人なら日本を任せられると。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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