東京事変〜学〜
東京事変〜学〜
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三日月
東京事変〜学〜
佐藤巡査はグラウンドで声を張り上げ避難の誘導をしていた。
結はその様子を見ながら独り言のように呟いた。
「ふーん……なかなかやるじゃん」
その時、グラウンドの二塁ベースを吹き飛ばし、一際大きな根が生えてきた。
近くにいた女の子が弾き飛ばされて、根に激突した。
「危ない!」
佐藤巡査が女の子を庇い、思わず警棒で根を叩いた。
根が佐藤巡査に襲いかかった。
球場の至るところで小さなパニックが起き根を踏んでしまい根の反応を引き起こしていた。大きな根が佐藤巡査に伸びてきた。
キュイン……バシュ!
結がライフルを構えエナジー弾が根を吹き飛ばした。
いちばん強い敵意に球場で反応していた全ての根が結に向かっていく。
(思った通りだ、根は実際の攻撃より敵意に反応している)
グラウンドの真ん中で結が常にいちばん強い敵意を根に向けて他の根を集め始めていた。
エナジーバーストで吹き飛ばしてもすぐに再生していった。
根の攻撃で結はボロボロになっていく。
服は破れ、血が流れた。
小さい根に囲まれた。
結はエナジーシールドを全開したが戦闘服の一部が裂けて共鳴紋が露見してしまった。
それを見た、市民の一部が騒ぎ出した。
「見ろ!あの紋様!確か共鳴紋」
「共性だ」
「あの女!共性だぞ」
「みんなあの女に騙されてるんじゃないのか!」
市民たちが騒ぎ始めた。
その間も結はエナジーショットを撃ち、根に叩きつけられ傷だらけになっていく。
結の身体の奥で、抑えていた何かが軋み始めていた。
喉がやけるように乾く。少し牙が伸びかけていた。
結はエナジーを使いすぎて少しヴァンパイア化し始めていた。
「みろ!あの牙!やばいぞ!」
市民がパニックを起こし始めた。
(このままではまずい。舞!どうすればいいの?)
その時!マイクから大音量で佐藤巡査の声がした。
「お前ら!!よく見ろ!あの人に助けられてるのが分からないのか!共性?関係ないだろ!俺はあんな美しい人を見たことが無い!あの傷は俺たちの傷なんだぞ!あの人は俺たちの代わりに傷ついてくれているんだぞ!」
サナが家族の顔を見る。
両親は行ってはダメだと言いそうになったが、
娘の目をみたら何も言えなくなってしまった。
その目が今までの少女の目ではなかった。
そこには強い意思が宿り、強い光を放っていた。
「お父さん……お母さん……私もう隠さない!戦うわ!あの人のように人を守れる人になりたいの!」
サナのお父さんがサナを真っ直ぐに見て話す。
「サナ。お前は私たちの娘だ!心のままに行きなさい!でも帰って来る場所はわかってるな?」
「はい!」
サナは結の元へ駆け出した。
リナとミナも同時に駆けつけた。
ボロボロの結に治癒魔法をかけていく。
「サナ!リナ!ミナ!どうして?」
「私達もフェアリーです!!」
声を張り上げる。
「皆さん!私達も同じレゾナントです!今まで怖くて隠して黙って生きてきたけど、この結さんが私達に力を勇気を護る心を教えてくれました!みんな人なんです!同じ人なんです!」
結の目から涙が溢れる……
「結さん、これを……」
佐藤巡査が結にロングコートを羽織らせる。
「みんな……」
「しかしこの暴れる根をどうすれば?無限に出てくるのよ」
すると市民が1人、結の前に立った。
サナのお父さんだった。
「お父さんも戦うぞ」
「お父さん……」
「サナ、お母さんもついてるわよ」
「お母さん……」
三人の顔には何者にも屈しない強い意志が満ち足りていた。
そして……また一人また一人と、どんどん結の前に敵意のない人の壁が出来ていく。
根は敵意のない人には攻撃しない。
結の周りには数え切れない程の壁が出来ていた。
根が沈静化していく。
結がライフルを下ろした。
「みんなありがとう」
「サナ、リナ、ミナ本当に来てくれて……」
続きの言葉が出なかった。
4人は抱き合い涙した。
「へへへ、俺は混ざれないよな?」
佐藤巡査がヘラヘラと近寄ってくる。
「バカ!ヘラヘラしない!」
結がツカツカと佐藤巡査に近づいていく。
佐藤巡査はビンタが飛んでくるものだと目を瞑り力を入れて踏ん張った。
だが……頬に想像した衝撃はこなかった。
結は佐藤巡査の頬にそっと軽く口付けした。
この街を託すための祝福のキスだった。
佐藤学はまだ状況が飲み込めず、頬に手を当てたまま呆然としていた。
それを見ていた、サナ、リナ、ミナか笑った。
唇を離した結もイタズラっぽく笑い言う。
「この街は頼んだわよ!学!」
「え!、あ!っ、」
夕焼けのせいではない少し赤く染まった顔で学は結を見つめた。
敵意のない壁はきっと隣の街へどんどん広がり東京を関東を日本を包んでいくだろう。
しかしその元凶を何とかしなければ——
結はバサリとヴァンパイアの翼を広げる。
おおーっと民衆から声が上がる。
ゆっくりと羽ばたき結は夕焼けの中に飛んでいった。
「あの人はいったい?終わったら教えてくれるって言ってたのに……」
佐藤学が頬を触りながら、サナ達に聞いた。
サナは目を細め夕焼けの中に消えていく翼を見つめながら……
「あの人はフェアリー」
「禍々しい翼を持つ――優しき妖精」
佐藤学はいつまでも西の夕焼けに溶けていく妖精を見つめていた。
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