〜帰還〜
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三日月
LABO編〜帰還〜
舞と結は並んで雑居ビルに入った。
エレベーターに乗り込み秘密の地下へ降りてマユリのLABOへの通路を進んだ。
「ここが、マユリが秘密裏に作ったLABOよ」
「すごい……これをティアに悟られることなくするなんて……」
「そしてこの地下に私たちが目指すものがあるのよ」
二人は気を引き締めて先を進んだ。
◇
「目標の二名、地下LABOへの侵入を確認」
雑居ビルから数キロ離れた遮蔽に潜む指令用大型トラックの車内。
アジア連邦の士官は、液晶に映し出される衛星のマルチモード監視映像を冷酷に見つめていた。
「あの二人の感知能力は異常だ。これ以上近づけば確実に気付かれる。……よし、装甲車をビルの外周へ配置。突入部隊、順次ステルスアプローチを開始せよ」
男の命令の元、完全武装の特殊兵たちが音もなく動き出す。
近年、アジア連邦が《ふたなり》のエナジーを軍事利用しているという情報は、各国の諜報機関でも囁かれていた。
「目的はLABOの完全制圧、および対象二名の生け捕りだ。殺すなよ。特にあの個体は、我が国のエナジー兵器研究を最終段階へと加速させるための、この上ない極上の『実験体』となるのだからな……」
◇
賑やかなアットホームな雰囲気だったLABOが、今は無人で寂しさが込み上げる。
『やっと戻ったのかい?待ってたよコーヒーが冷めてしまったじゃないか』
マユリの声!!二人ははっとして振り返ったが、ただ灰色の壁があるだけだった。
二人は溜息をつき進んだ。
「この先、まだ下なの?マキナって」
結が聞く
「そうだよ……元々アンドロギュノスの意思決定をしていた高機能AI〈デウス・エクス・マキナ!〉」
エレベーターの電源は生きておりすぐさま扉は開いた。
舞と結は手を繋ぎ覚悟を決める。
ボタンは二個しかない。ここと下だ。
舞は下のボタンを押した。
数階分降りたところで止まった。
扉が開くと前にマユリと見た、その景色そのものだった。
人を検知し電気が点灯する。
ブーンという音と共に本物と区別がつかないほどのリアルな立体映像でマキナが現れた。
その瞳には幾億もの膨大なデータが緑色の滝のように流れていた。
「やぁ舞……久しぶり。よくぞ戻ったね……そちらは結だね、初めましてマキナです。結もよく戻ったね」
舞が一歩踏み出して言う。呑気な挨拶をするマキナに、少し苛立ちを募らせていた。
「そんなありきたりな挨拶をしにきた訳じゃないのはあなたが知ってるでしょ?マユリは死の間際、このデバイスをあなたに渡せと言った。これはなんなの?あなたに渡すとどうなるの?」
テンションの高い舞に同調する事なく、静かに返答した。
「貴女はこれを私に渡すとどうなると思っているのですか?まさかマユリが生き返るとでも思ってるのですか?」
二人は動揺した――
「そんなこと……」
「そう願いたいけど……死人は生き返らないわ」
「舞と結が思ってる通りです。死人は生き返りません。ですが、人が死ぬ直前まで蓄積した人格・記憶・思考を、新たな器へ受け継ぐことは理論上可能です。そして、このデバイスには死の間際までのマユリの全てがここに入っています。そしてその膨大なデータは私のこの広大なデータベースの約半分を占めるものです。それをシステム化し私のようにAIとして生まれ変わらせることは私の全てのリソースを使って処理することになるのです」
「何が言いたいのよ!難しいこと長々と言わないで!わかんないわよ!」
舞が壁を叩き、デバイスをマキナのコンソールに叩きつけた!
デバイスがピッと鳴り反応した。
「舞……乱暴なのだよ」
舞と結は幻聴でも聞こえたかのようにキョロキョロと声の出所を探す。
「舞!そんなに叩きつけたら痛いではないか!あはは!君は少しも変わらないのだな。結、この新LABOはどうだい?」
マユリの声がデバイスから聞こえる。
――舞と結の目がこぼれ落ちそうなぐらい大きく見開いた。
「マユリ!その中にいるの?」
「デバイスをそのコンソールに置くことが再起動のスイッチなのだよ!」
結が叫ぶ。
「マユリ!本当にマユリなの?!よかった……生きているのね?」
「生きているも何も私はあの時、君たち二人の膝枕でご臨終したではないか」
「だけども……こうして!」
「今の私はただの箱なのだよ、しかしあの瞬間までの記憶も感情もしっかり保存されてるのだよ。結……本当におかえり……」
結の目から涙が溢れる。隣では舞も抑えきれない涙が頬を濡らしていた。
マキナが黙ってやり取りを見ていた。
「隣の隠し部屋にきたまえよ!マキナ、開けてくれないか?」
マキナを見る。
「どうぞ……これは私の望みでもある。」
マキナの目がキラリと光り、何も無い壁に四角い切れ目が入りドアのように開いた。
ゆっくり進むとまた部屋があった。
所狭しと機械が設置されており、全ての技師が忙しなく動いてキーボードを叩き、データを検算していた。
「あなたたち……ここに?」
「舞さん。結さん。おかえりなさい。」
チームリーダーの美由紀が嬉しそうな声で迎えてくれた。
「あのルーマニアのミッションに局長が舞さんと出発すると同時に、もう上のLABOからここに移動する手筈になっていたのです」
結が嬉しそうに言う。
「そうなのね……本当に良かった」
!!ふと、美由紀の背後にあるものに意識を奪われた。
目の前に大きなガラスの円柱があった。
結はその中にあるものを見て――
息を呑んだ。
培養液の中に浮かぶ一人の女性。
結が近づいていく。
その顔を見て叫んだ。
「マユリ!!!」
裸のマユリが培養液の中でフワフワと浮いていた。
「こ!これは……」
舞も驚愕の表情でその培養液に浮かぶマユリを見ていた。
「こら!デバイスが来る前に服をちゃんと着せておいてくれたまえよ、とお願いしてたと思うのだが?あんまりジロジロ見ないでおくれよ!作り物とはいえ私なのだから」
「作り物?このマユリが?」
「そうとも!私とマキナとここの仲間が心血を注ぎ作り上げたクローン技術とナノアンドロイド技術を駆使して作った半人半機の体なのだよ!」
まじまじと培養液の中のマユリを見る。
共鳴紋まで完全に同じ紋様だった。
LABOにいる全員の顔がドヤ顔になっていた。
「身体は全て局長のクローンで、脳、血液、各臓器全てに高性能ナノマシーンが配置されているのです」
「半人半機!……難しいとこは分からないけどとにかくマユリが生き返るのね?それなら、なんの問題もないじゃない?早くその中に入りなさいよ!」
「舞、相変わらず君は脳筋だね……まぁそこが可愛いところなんだよね?結?」
「え、あ、あ……」
結が急に振られてドギマギしてしまう。
「私は結のそういうウブなところが大好きなのだよ」
「さて、からかうのはここまでにしてそろそろメインの話をするのだよ」
空気の質がビリッと変わる……
「私がその身体に入るためには、二つの条件があるのだよ!」
マキナが続きを話した。
「私とマユリは今、同じデータフレームの中に混在しているのです。つまり片方だけが消失するともう片方もきっと消えてしまう可能性があるのです。マユリはそれを望んでいないようですが……」
「それについては賭けみたいなものだけど勝算はあると言っておこう」
箱のマユリが続ける。
「舞、結二人の力が必要なのだよ……もう一つの条件もそれに関係するのだよ」
二人は声を揃えて言う。
「私達に出来ることは何でもするわ!」
「ありがとう。私の魂と呼ぶものはこのデバイスとマキナの中にあるがそのなんと呼ぶべきか……そう!魂の座標はあのブラン城のあの場所、二人の膝枕のあの場所にあるのだよ」
「その時のチャクラ……そう、結の『牙のチャクラ』と、舞の『角のチャクラ』を回し、私のチャクラを共鳴させてほしいのさ」
マユリの声に、科学者としての熱が帯びる。
「普通の人間には、精神を司るチャクラが七つ存在する。だが、異形の因子を持つ特別な《ふたなり》には、その奥に眠る、八番目のチャクラがあるのだよ。二人には説明は必要なかったかな?」
舞と結が頷く。
「私の予想が正しければ、二人のエナジーでこの半人半機の身体の『八番目』を強制駆動させられたなら、マキナのシステムを巻き添えにすることなく、私はこの器に魂を定着させられると確信している」
「マユリにも私たちと同じように八番目のチャクラがあるの?あれは特別な因子を持つ者だけだと」
「私はずっと君たちのエナジーをCOCOONで研究していたのだよ。人外の因子とは?と言うことをね。正確には、私には生まれつきの八番目はないのだよ」
「では、どうして?」
「君たちのCOCOONデータから、八番目のチャクラが生じる構造を解析した。この器には、その構造を人工的に再現した“空の座”を組み込んであるのさ」
「空の座……」
「そう。舞の角と結の牙、二つのチャクラを共鳴させ、その空の座を起動する。そこへ私の魂を定着させるのだよ」
「やってくれるかい? 針の穴に糸を通すような、難しい精神作業だよ」
「もちろんやってみせるわ」
隣の舞が難しい説明に目を回しているようだった。
しかしその瞳には必ずやり遂げると言う光が見える。
マユリの器がガラスシリンダーから出され床に仰向けに寝かされた。
舞と結が膝にその頭を載せた。
膝が感じる体温と命の気配を全く感じない頭の感触が、二人にあの時の記憶を蘇らせ、顔が曇った。
しかしあの時とは違う、今度はマユリをここに還すのだ。
「結、やるよ」
「舞……想いを一つに」
エナジーを少しづつ体に巡らせていく……
二人の身体が燐光を放ち始めた。
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