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フェアリー•レゾナンス  作者: 三日月
ブラン城編

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45/94

舞

〜舞〜

お届けします


三日月

ブラン城編〜舞〜

――マユリの声が聞こえた!


「舞ぃぃぃ!」


 子供のように丸くなっていた舞の背中を愛理がプスッと爪で突いていた。

 

 いきなり舞がその尖った爪を掴んだ。

「お?何だ?今更やる気出したのか?」

 愛理が舐めたように言った。


 バリバリ!

 舞が握力だけでその爪を握り粉々に砕き、ゆっくりと舞が立ち上がった。


 さっきまでとは別人のような気配に、愛理の動きが止まった。

 

 ――舞の全身に雷が迸り、大気を震わせる。

 

 二本の神々しい角が、天を衝くように伸びていく。

 

(ああ……美衣の角だ)

 

 その瞬間、身体の奥で、今まで一度も触れたことのない場所が開いた。

 

 ドクン――。

 

 七つのチャクラを巡ったエナジーが、さらにその先へ流れ込む。

 

 ――角のチャクラ。

 

 舞の八番目のチャクラが、回り始めた。

 

 ドクン――!

 

 舞の身体から爆発するように赤いエナジーが噴き上がった。

 

 共鳴紋が燃えるような赤い燐光を放ち、その光が胸元から肩へ、腕へ、脚へ――全身を駆け巡っていく。


 そして二本の角から赤黒いエナジーが溢れ出し舞の身体に絡みついていく。


 硬質な鬼の鎧が舞の身体を覆い始める。

 

 肩が、腕が、胸が、脚が――。

 

 エナジーが幾重もの鋭い装甲へと変わっていく。

 

 最後に、舞の顔へ赤黒い亀裂が走った。

 

 頬を覆い、額を這い――二本の角へと繋がる。

 

 鬼の仮面。

 

 いや――。

 

 舞自身が、鬼神の鎧となっていた。

 

 バチバチバチッ!!

 

 赤い雷が全身を駆け抜ける。

 床がひび割れ、砕けた石片が舞の周囲へ浮かび上がった。

 

 先ほどまでとは、力の桁が違う。

 

 落ちた左腕を拾い、切断面へ押し当てる。

 

 赤黒い雷が傷口を包んだ。

 

 瞬く間に血管、骨、肉が繋がり、傷口が完全に閉じていく。

 

 舞は再生した左手を開く。

 

 グッ。

 パッ。

 

 もう一度、握る。

 

 そして――。

 

 鬼神の仮面の奥で、赤い瞳が愛理を捉えた。

 

 ニヤリ。

 

 圧倒的な力を前に、愛理の身体が震えた。

 

「な……何なの? お前は!」

 

 その問いには答えず、舞は静かに口を開いた。

 

「美衣……ありがとう……」

 

 心の中で、美衣が笑った。

 

(優しすぎた、お姉ちゃん……美衣のこと思い出してくれて、ありがとう)


 

 鬼神がマユリを見た。

 

「マユリ……声届いたよ……」

 

「舞……よかった」


 

 視線を愛理に移す。

 

「お!お前は一体!」

 

 愛理はそれ以上話せなかった。

 残像も残らないほどの瞬速で愛理に接近した。

 愛理も応戦しようと爪を振りかざす。


 半分に折れた刀を振りはらう。

 爪を断ち切り、愛理の身体に無数の斬線が走った。

 

「——な!っ……」


 それ以上、言葉になることはなかった。

 愛理の身体はバラバラに崩れて塵となった。

 

 それを見た結が、ものすごい咆哮をあげた。

 ますます人外へとなってくる……触手が伸び数も増えた。触手の先にも牙があり……舞に襲いかかった。

「ごああああああああ!!!」

 

 舞も呼応する!

「結ぃぃぃぃぃーーーーー」

 二人の人外がぶつかる……触手を切っても切っても再生し舞に牙を打ち立てた!

 舞の刀も結を何度も切り裂き血まみれだった……

 触手が束になり巨大な蛇のようになり舞を追った。

 

 その蛇の頭部を鞘で叩き落とした。

 

 結の禍々しい爪が舞に襲いかかり切り裂いたように見えたが舞の残像だった。

 

 舞は結の真上に飛んで唐竹に刀を振り下ろす。その空中で身動きの取れない舞に結の爪が伸びた。


 舞の腹に結の爪が突き刺ささり、刀が結の肩を切り裂いた。


 二人から鮮血が迸り、お互いの顔にかかる。

 


 舞の血の甘さに、狂おしいほどの情念、嫉妬という紫の焔が燃え上がる。 

 (舞!どうして私じゃないの?どうしてマユリを守るの?ああ……憎い……全てが憎い……)

 

 舞と結はほぼ互角で消耗も激しかった。お互い限界が近づいていた。

 

 マユリはその戦いをじっと見ていた。

 

「全くあの二人は何をやってるのだよ!見てられないのだよ」

 

 鬼とヴァンパイアが最後の力を振り絞り、命の火花を散らそうとしている。


 もはやどちらの心がどちらを映しているのか分からなかった。


(舞!私だけのものにならないのなら……ここで一緒に!)


(結!どうすればあの結に戻るの?戻れないなら……ここで一緒に!)


 二人が真正面から渾身の一撃を狙う。

「結ぃぃぃ!」

「ゴルルルゥゥ」

 

 二人は自分の防御を捨てていた。

 ただ全力で……この闘いに終止符を打つ為に走った。



 ——刹那


 

「このバカたれども!!」

 

 

 マユリは二人の間に飛び込んだ。

 

 舞の刃がマユリの右胸を貫いた!

 

 結の爪がマユリの腹を左から突き刺した!

 

「ああああ」

「ああああ」

ゴフッと血を吐きながら

結を見る――

「このバカタレがぁ!!女の嫉妬はビリビリくるんじゃー」

 

「ウチと舞はまだ膝枕だけや!それを結!あんたは!このドアホ!!!」

 

 マユリのビンタがペチっと音を立てた。

 

 どんな攻撃にもびくともしなかった結の体がビンタで崩れ落ちた。


 舞の悲鳴のような慟哭が響いた。

 

「マユリ!!マユリ!!!ああ……どうして……ああ私……あああ……」


「舞!あんたもドアホや!」


 ペチッ!鬼神がマユリのビンタで動けなくなった。

 

 二人に聞かせるように……優しい声で話した。


「ふふふ、なんて顔をしてるんだい?私が死ぬとでも思ってるのかい?大丈夫さ!私がこういう事態も予想してないと思ったのかい?」

 

 ゴフッ!大量の血を吐く……マユリの血が結の唇に触れた。

 甘いはずの血から流れ込んできたのは、飢えではなかった。


 三人で笑ったカフェ。

 武器を渡してくれた小さな手。

「おかえり」と抱きしめてくれた温もり。


 血に残されたマユリのエナジーが、結の中へ記憶のように広がっていく。


 ――この人は、舞を奪ったのではない。

 ずっと、私たち二人を守ってくれていた。


 その瞬間、魂を焼いていた紫の炎が消えた。


 マユリのビンタが当たったところからヴァンパイアの硬質な皮膚がバラバラと崩れていき、長い悪夢の繭を破るようにその内側から美しい結が姿を現した。

 

「ああああ……マユリ……マユリ、私……なんてことを…………」

 

 マユリの手が結の頬を優しく撫でた。

 

「結……やっと可愛い結に戻ったのだな。よく聞くんだよ、いいかい?私は横恋慕なんて無粋な真似はしないのだよ……結と舞、二人で私の片想いなのだよ!いつか結……良ければ膝枕……」


 ゴボゴボっ……血が肺に溜まり喋れなくなる……

 

「あああ……マユリ……マユリぃぃ」


 舞の鬼神の鎧もマユリのビンタが当たった頬からバリバリと剥がれていく。

 

「2人ともそんな顔をしてくれるのだな」

 

マユリの両手が2人の頬を撫でる……

 

「死なぬよ……こんなチャンスを逃したりはしないのさ……二人の膝枕で二人の笑顔を見ながら……なんて最高なのだよ……わらっていてくれたまえよ。これを二人に……」

 マユリはそういうと白衣のポケットから小さな筆箱ほどの四角いデバイスを取り出し二人に握らせた。

「これをマキナに……」 

 舞と結は崩れ落ち……その両膝にマユリの頭が乗る……マユリからエナジーが消えていく……


 二人の頬に触れていたマユリの手が地面に落ちた。

 

 (笑ってくれたまえよ)


 そんな声が聞こえそうな寝顔のようだった……

 

 一瞬預かったデバイスが震えたような気がした。

 

 舞と結はただ泣くことしか出来なかった。

 

 一体どれ程の優しさに守られてきたのだろう?

 

 一体どれ程の愛を注いでくれていたのだろう?

 

 涙も出し尽くし

 舞は結を見

 結も、涙に濡れた瞳で舞を見返した。

 

 舞は結に

「マユリの大阪弁凄いでしょ」

 結が

「びっくりしたわ」

 と、涙を流しながら笑った。


 結……

 おかえり……


 舞……

 おかえり……


 2人の間に優しい風が吹いた……

 マユリが口笛を吹いたような風だった。



読んでくださりありがとうございました。

次回更新は明日19時です。


そしてよろしければブックマークや評価など頂けると

私自身の励みになります。

どうかよろしくお願いいたします。

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