輪廻
輪廻〜お届けします。
三日月
ブラン城編〜輪廻〜
カスパーが虹彩が破裂しそうな程、目を見開き絶叫する。
「おおおおお!!メルキオールとバルタザールが!人間ごときに!信じられぬ!」
愛理はまさかという顔をしてわなわなと震えていた……
「ぐおおおおあああ」
カスパーが怒りの咆哮を上げる!
カスパーの姿が消え転移空間に現れ辺りを見回す。
何かを見つけてそばにふわりと翼を羽ばたかせ飛んでいく。
ゆかとエミリーが残された最後の命を使って、お互いの手を求めていた。
そばにはメルキオールとバルタザールの塵の残滓が……
「むぅ……まさかあの二人がやられるとは……」
ゆかとエミリーの這うような動きに目をやる。怒りが込み上げてカスパーの目が釣り上がる。
「こやつら……まだ!……見てるだけで!腸が煮えくり返る!」
と手をかざす
「完全滅却してやろうぞ!」
と言った時。
「お待ちなさい!」
静かな声がした。
ティアが少し離れたところに静かに立っていた。
ゆっくりと歩いて近づいて、ゆかとエミリーを見てその表情に感情がのっているようだった。
ヴァンパイアに対する怒りのような、その顔にはいつもの笑いが全く無かった。
カスパーは目を見開いて、叫ぶ。
「お前!誰だ?それにどうやってこの結界空間に入り込んだのだ?」
ティアが鼻で笑い、カスパーの言う結界空間をぐるりと見渡した。
改めてカスパーに視線を向け、呆れた口調で煽った。
「ふふっ結界空間?って言うより、すきま風だらけの掘っ建て小屋みたいね!何もしなくても私が前に立つだけで自動ドアみたいに開いたわよ?こんなのを結界空間だなんて本気なの?」
カスパーの顔が怒りで歪む。
「それにね、人間はね、誇り高いのよ。ヴァンパイアごときに勇敢な勇者の最後を邪魔することは許されないわ!」
カスパーは怒りに震える。
「掘っ建て小屋?ヴァンパイアごときだと!!」
カスパーから黒い瘴気が立ち上がる。
「私を愚弄したことを後悔するがいい!」
印を結び、呪術を唱える。
ティアの周りの空気が歪みティアの四肢に絡みつく。
「バラバラに引き裂かれて死ね!」
ティアの四肢がちぎれそうに引っ張られる。
カスパーが勝ち誇った。
「はっはっは、どうだ!この力!わしを侮辱した罪、その血で償うとよいわ!」
ティアは薄く笑う。
「なにこれ?マッサージにもならないわ!もっとしっかり伸ばしてくれないかしら?」
侮辱されカスパーの顔がドス黒くなる。
「貴様ぁ我の術を愚弄しよって!喰らえー血肉の1滴すら残さず滅してやる」
四肢を引っ張る力が倍になる。
「もういいわ!こんな下手くそなマッサージ」
ティアが足をトンと踏むとその呪法は倍の力でカスパーに反射しカスパーの四肢が飛散した……
四肢の千切れた胴体だけでふわふわと浮きながら
「ああおああ…………お……お前は……一体……わしは1000年生きたヴァンパイアなのだぞ!」
ティアは声を上げて笑う
「アッハッハ!1000年?笑わせる!」
ニヤリと笑いカスパーの額に人差し指を当てた。
ゆっくりと人差し指がカスパーの頭蓋を突き抜け脳の最奥へ入って行った。
「!!!!!あああ」
ティアがグリン!っと指を回すとカスパーが断末魔を上げまるで操り人形の糸をでたらめに引っ張ったようなダンスを踊るように痙攣して動かなくなり――
塵になって消えた。
「ゆか……エミリー……」
もう動かなくなっていた二人の横に膝をつく。
僅か数センチの届かなかった距離……
二人の手を、最後の数センチをティアが伸ばしてあげた。
その瞳に、舞たちの前では一度も見せなかった揺らぎが走った。
怒りとも悲しみともつかない、遠い何かを見つめるような光だった。
かつて愛した何かを思い出すような孤独が宿った。
ティアの瞳に初めて見るような光がさす。
二人の手が重なり合った。
「今までありがとう。ゆかとエミリーの魂に救いあらんことを……」
二人の体が光に包まれ薄くなっていく。
肉体の呪縛から解き放たれた、二人の魂がブラン城の呪われた闇を抜け、輪廻を巡る。
残されたのは固く手を握り合い眠る二人の亡骸だった。
◇◇◇
ゆかは気がつくと何処かの砂浜を1人歩いていた。
ゆかが歩いていく方からエミリーが歩いてきた。
「こんにちは」
「こんにちは〜」
「気持ちがいい夜ですね」
「ええ……今夜は海風が気持ちいいですね」
「どちらへ往かれるのですか?」
「今夜は村で妖精祭りがあるのですよ」
「へぇ楽しそうですね」
「一緒に往きませんか?」
「ええ、往きましょう」
「妖精で思い出しました。」
「何を思い出したのですか?」
「私、妖精さんに言ったことがあるのです」
「何を言ったのですか?」
「死ぬその瞬間まで精一杯生きるって」
「大丈夫。ちゃんと出来てましたよ」
「よかった」
「ほら、ちゃんと妖精さんが来てくれましたよ」
以前、舞に渡した名刺に書いてあったイラストの妖精が空から二人を見ていた。
「頑張って生きましたね」
と言うとキラキラと輝き消えた。
「ありがとう。これでよかったのですね?」
「はい、これでよかったのです」
「ええ、これでちゃんと往けます」
「不思議です」
「あなたと初めて会った気がしないのです」
「私もあなたと一緒に往きたいのですがいいですか?」
「ええ、もちろんです。一緒に往きましょう」
二人の手はしっかりと握られゆっくりと歩き出した。
たわいのない話をしながらゆかの手が勝手に動き出す。エミリーが笑う
「なんでしょう?私もほら手が勝手に動いてしまうのです」
フェアリーサインだった。
月明かりに照らされた砂浜で、二人の指先が描く無言のサインは世界で一番美しい祝福の言葉のように見えた。
のどかな、ずっと続く砂浜に二人の影が長く、長く、伸びていった……
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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