勇者
勇者〜お届けします
三日月
ブラン城編〜勇者〜
空間転移中は耐え難い浮遊感だった。
ゆかとエミリーは手を繋いでこれ以上の分断を防いだ。
空間転移した先は何も無い、ただの広い部屋だった。
外の気配が一切遮断されていた。
「上手く分断されたようだね」
「そのようね、来たわよ!」
メルキオールとバルタザールが上空から飛来し、黄色い目で二人を品定めしていた。
「面白そうじゃない」
「キャハハ!楽しませろよな!」
ゆかとエミリーは目を合わせ、笑った。
「エミリーあんたとはもう随分長いよね」
「そうね、二人で本当に色々あったよね」
「でもあんたとバディ組めて良かったよ」
「私もゆかと一緒なら怖いものなんてないよ」
「あいつら倒してまた二人で朝まで飲み明かそう!」
「ああ!ゆかとなら……ほら、見てよあいつらニヤニヤと腹が立つ!あの顔を泣き面にしてそれをアテにね!」
メルキオールとバルタザールが地上に降り立った。
「強そうね」
あきらかにゆかとエミリーよりも高い戦闘力だった。
「怖気付いてるの?」
「まさか!」
強がっているが二人は死を覚悟していた。
「でもあの舞と結――二人は希望!ここであいつらを……」
「ああ……ゆか……ここは死んでも勝つよ!」
メルキオールとバルタザールの瘴気が濃くなった。
「初めてだけど言っておくわ」
エミリーがゆかを見て言った。
「愛してる……ゆか」
ゆかは面食らったような顔をし言い返した。
「あはは、あんたから初めて聞いたわ、それもこんなとこで!…………嬉しいよ……でもね――」
グローブの超振動ボタンを押す。
「――そういうのはベッドの上で言ってよね!」
ゆかとエミリーが走り出した!
メルキオールとバルタザールが走り出した!
メルキオールとバルタザールの攻撃を鋭い動きでかわした。
メルキオールの爪が縦横無尽に襲いかかる。
ゆかは拳と手刀で爪を弾きながら接近するタイミングを計る。
「ほう?やるではないか!人間!!」
メルキオールは爪を自由に伸ばしながら突いてくる。
ゆかはかわしながら懐に飛び込み超振動で仕留めようと接近するがなかなか距離を詰められなかった。
メルキオールが笑う
「あはは!人間の動きでこの私を捉えられるとでも?」
(くそ!間合いに入れない!)
鋭利な爪がゆかを襲う。腕に目を背けたくなるような傷がついて血が滴る。
「くぅ……」
バルタザールはその幼い体からは想像出来ない体の硬さとパワーだった。
エミリーの弾丸が表皮で止められる。
「キャハハ!効かなーい」
エナジーバレットですら表皮を少し焦がす程度だった。
開いた口に照準して撃つ!
ガキン!
銃弾を歯で止められた。
ぺっ!と吐き出した弾頭がエミリーの頬を掠めて、頬から血が流れた。
「美味しそうなエナジーが溢れた血!」
牙を剥いてバルタザールが襲いかかってくる。
バルタザールの拳がエミリーの肋骨を砕く。
「うぅくぁ……」
ヴァンパイアは少しぐらいの傷はすぐに再生する。
ゆかとエミリーは少しずつ傷が増え動きもだんだん読まれ始めた。
「ちくしょう……ジリ貧かよ」
ゆかとエミリーは、もうギリギリの体力だった……
「ねぇ……ゆか……」
「ねぇ……エミリー……」
同時に言った
「私と逢えて良かった?」
ゆかがバルタザールへ
エミリーがメルキオールへ
互いの敵をスイッチした。
エミリーがありったけのエナジーを銃に込める。
メルキオールの真上にエナジー弾を上空に向けて撃った。
天井付近まで撃ち上げた無数のエナジー弾が、光の柱となってメルキオールの周囲へ降り注ぐ。
エナジーの牢を作った。
「なんだ!この牢は?」
出ようとしてもエナジーの牢に触れる度バチバチとメルキオールの手が弾ける。
ゆかはありったけのエナジーを指先に集中させ手刀でバルタザールの鋼鉄の皮膚を突く!
一撃!
二撃!突くたびにゆかの指の骨が折れていく。
三撃でバルタザールの鋼鉄の皮膚に穴が空いた。ゆかの指先がぐちゃぐちゃに潰れた。
「へへっ思ったより柔いんだよ!」
「ぐぉ!私の皮膚が切られただと!」
ゆかとエミリーはニヤリと笑った。
互いの敵をまたスイッチする。
交差する瞬間
目と目が合う。
(生まれ変わったら――あんたとは出会いたくないね!)
(そうだね、こんなに死にたくないって思うなんて!)
《いつか争いのないどっかの田舎の街で…………》
ゆかはエナジーの檻に閉じ込めたメルキオールに接近する。
メルキオールには檻だが、ゆかにとっては天から降り注ぐエミリーからの贈り物のようなエナジーの雨だった。
(今まであんたにもらったプレゼントの中でこのエナジーの雨が一番役に立ったよ!)
心の中でゆかが毒づき、思わず笑みがこぼれる。
拳を!その時、メルキオールの爪が伸びゆかの胸を貫く。
「ぐはっ!!」
動きが鈍くなり針のような爪がゆかに四方八方から突き刺さる!
1本がゆかの右眼から刺さり貫通していた。
「ぐぁ!もう少しで届くのに!」
(マユリが言ってたっけ?共鳴紋からエナジーって出てるって。でも死んだらエナジーが出ることはないって……それってエナジーって命の輝きなのか?だったら……命を使えば!!!)
刹那、ゆかの頭の中で一つの考えが駆け抜けた。
ゆかの体が命の輝きのエナジーで光り輝く。
肉体的な限界など既に超越していた。
一番大事な命そのものが、ゆかの中で弾けた。
まるでゆか自身が太陽の光を発しているようだった。
身体中を貫いていた爪がその光に触れると跡形もなく蒸発する。
メルキオールが信じられないという顔をする。
ゆかの輝きが右拳に集約していく。
ゆかの命の拳がメルキオールの心臓を貫いた。
メルキオールが己の心臓に打ち込まれた拳を見ながら、
「ば……馬鹿な……この私がぁ」
叫びながらゆっくりと塵になっていく。
◇
エミリーの体が激しく燐光を放つ。
エミリーはバルタザールを翻弄するほどの動きを見せる。
重力さえ完全に置き去りにするかのような超高速移動。
バルタザールは残像ばかりを追いかける。
「ちょこまかとウザいわね!さっさと死になさいよ」
懐に入った瞬間バルタザールの右腕がエミリーのお腹に突き刺さった。
「キャハハ!内臓掻き出してあげる!」
エミリーは血反吐を吐きながら獰猛に笑う。
エミリーの極限まで鍛え抜かれた腹筋でバルタザールの腕が抜けなかった。
「う……嘘!」
エミリーは血を吐きながら
「バーカ!これでガード出来ねぇだろ?」
「うぉぉぉー」
ゆかが手刀で切った傷口に銃口を突っ込んだ!
(ゆか!ゆかが繋いでくれたこの隙を無駄にはしない!)
「直接ならちょっとは効くんだろ!」
エミリーの首にバルタザールの牙がゾブリと刺さり喉の肉を噛みちぎられる!
「ぐはぁぁ」
エミリーは自分に残された最後のエナジーを使う。
頭の先。
足の指の先。
肉体の全て。
初めてゆかと会ったあの日、敵同士だったのに意気投合して飲み明かし、お互い枕元に銃を置いて身体を重ねた思い出。
それからのことが全て思い出された。
そんな記憶も全部、エミリーの中のありったけを、命すら弾丸に込めた。
ハンドガンに込めて傷口に突っ込んだ銃口から眩く輝くエナジー弾、いや、《エミリー弾》を直接バルタザールの心臓に打ち込んだ!
「喰らえ!!!」
バルタザールの体の中でエナジーバレットが暴れる。心臓に届き、バルタザールの顔が崩れ始めた。
「人間!!私はバルタザール!あんたの名前は?」
「私はエミリー!」
「エミリー!楽しかった!」
バルタザールが塵になって消えた。
◇
ゆかはエミリーが勝ったのを見た。
エミリーはゆかがやりきったのを見た。
言葉はもう出せなかった……二人の距離が2m程離れているが二人ともお互いに手を伸ばしてるのが見えた。
(ちくしょう……こういう時って手が届くところで最後、……手を繋げるもんだろ……なんだよこの距離……)
(エミリーもっと手を伸ばしてよ!)
(ちくしょう……ゆか!ゆか!動かねえんだ……)
その二メートルの距離は今の二人にとっては永遠とも言える距離だった。
最早、言葉も発することもできない二人はただその手を求めた。
ゆかが爪の先でカリカリと地面を進もうとしていた。
(くそぅ……)
エミリーが顎で地面を掻き進もうともがいていた。
(ちくしょう)
二人の震える指が1センチづつ進んでいった。
指先は――あと、ほんの数センチだった。
どうにも動くところが無くなって二人にはもう見つめることしか出来なくなった。
二人が見つめ合う……
(ゆか……生まれ変わっても)
(エミリー……バディ組もうな)
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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