援軍
援軍〜お楽しみください。
三日月
ブラン城編〜援軍〜
――二十日前
ブラン城の広間で結は玉座に座っていた。
隣には愛理がいた。
元世界的歌姫であり、結をヴァンパイアの王への覚醒を促した純血のヴァンパイアだった。
前代未聞のドーム大殺戮事件の首謀者として全世界指名手配されていた。
未だに連日報道が止まらなかった。
噂であの愛理が吸血鬼だったなどというゴシップも流れていた。
テレビでコメンテーターが好き勝手に憶測を言っているが真実を言い当てる者などいるはずもなかった。
「結様!奴らも動いているようです。我々も三賢者の復活が必要かと」
「よかろう……! これより街へ向かえ。血の祭典を行い、三賢者を復活させるのだ!
そして人間どもに二度と虐げられぬ、圧倒的な力を持つヴァンパイアの王国を築く!」
下僕達が一斉に街に飛び出していく。
ブラン城の近くの街が一夜にして人一人居なくなってしまうと言う事件があった。
集団神隠し?これも連日メディアを賑わせるが東京の事件と関連付ける者もいなかった。
数日後広間に血のプールが出来た。
むせかえるような臭いが広間に充満している。
結は血のプールに足を踏み入れ、手ですくい上げ、喉を鳴らして飲んだ。血が皮膚からも吸収されていくようだった。
結の身体が赤黒く変色する。
愛理が合図すると床が割れて何かが迫り上がってくる。
せり上がってきた不気味な三つの棺。
その古びた蓋には、かつて東方三博士と呼ばれた聖者と同じ名が、呪わしい血文字で刻まれていた。
――メルキオール。バルタザール。カスパー。
かつて世界を震撼させた『血の三賢者』の眠る棺には、棺の顔辺りに悍ましい円形の穴が穿たれている。
結が冷酷な瞳のまま背中を蠢かせると、赤黒い肉の触手が三本、鞭のように鋭く伸びてそれぞれの穴へと深く抉り入った。
結の体内から吸い上げられた生贄の血が、触手を通じて棺の中へと凄まじい勢いで注ぎ込まれていく。
――ガタガタガタッ!!
やがて、絶叫のような金属音を立てて棺の蓋が跳ね飛び、床へと転がった。
その縁を、肉を引き裂くような漆黒のかぎ爪がガチリと掴む。
むくりと起き上がった三つの影から、それぞれ異なる狂気の咆哮と悍ましい翼が、一斉に広間の闇へと解き放たれた。
メルキオールは美しい女性だが、目に狂気が宿っている。
爪を研ぎながら生臭い息を吐く。
「くはぁぁぁ」
バルタザールは少女のような風体で、笑ってるが目が全く笑ってなかった。
「キャハハハハ」
カスパーは老婆だが、その黄色い虹彩だけが瑞々しく口の奥が真っ赤だった。
「三賢者復活ありがとうございます……結様」
三人がバサリと翼を広げ結にひざまづく。
「良くぞ復活してくれた!ヴァンパイアの王国を作るのだ!」
◇
——現在——
ブラン城への侵攻は作戦と呼べないものだった。
簡単に言えば友達の家まで歩いて行ってインターホンを押して入れてくれませんか?ってぐらいの単純なものだった。
舞はミッションシートを見て笑みがこぼれる。
たった一行。
ブラン城へ侵攻し結を取り戻す。
と書いてある。
「仕方ないか……輸送機もないしね」
「舞、この遠足作戦には私も同行させてもらう事にするよ」
「遠足って……まぁ的を射ているところはあるわね。 でもマユリ?本気なの?城にはきっとヴァンパイアがいるのよ」
「私は今まで安全な場所から二人を見ていた。でも今回は違う。私も同じ場所に立ちたいのだよ」
マユリが真剣な顔で話している。
「それにヴァンパイア用のアイテムも考えてるから足手まといにはならないのだよ!」
「分かったわ。危ない時には私があなたを絶対に護るからね」
◇
——LABO最深部——
出発前マユリは地下深くのマキナの所に居た。
マキナがブーンという音と共に精密なホログラムで目の前に現れた。
「マユリ、あなたが戦場に向かうなんて私の予想にはなかったことだわ」
マキナが複雑そうな顔をする。
「今回のミッションはきっとあの二人にとって本当に難しいことになるのだよ。その時私が……役に立てるのなら私の命など…………いや、死ぬつもりなど毛頭ないのだよ」
「それはあの二人への愛という感情なの?私は愛をもっと知りたい……」
「マキナ……愛にも色々な愛があるということなのだよ。愛するだけが愛ではないということなのさ」
「私の基本理念はそこにある。マユリあなたはずっと私と共に進んできた。結果、私は愛を知った。しかし知っただけで、どうしても理解できないピースがあるのです。私にもいつかマユリの言っていることが、理解できるのでしょうか?」
マユリがニコリと笑い、
「きっとその瞬間が来た時には理解を飛び越え、見つけることが出来るのだよ」
「その瞬間を楽しみにしておきます」
「マユリの覚悟も理解します。そして、もしマユリに何かあった時には、その時が来たのなら――奥の部屋にある“あれ”を使う覚悟が出来た。ということですね?」
その声にはAIとは思えない程の優しさがこもっていた。
◇
——ルーマニア、ブラン城近く——
舞とマユリはルーマニア、トランシルヴァニア地方、ブラン城が見渡せる丘の上にいた。
荘厳で禍々しいオーラに包まれていた。
「やっとここまで来られたね」
「私のこの特殊スーツケースがなければ武器なども運搬出来なかったであろうからね」
各種荷物検査を通るための特殊スーツケースからフェアリー戦闘服と武器を出して装着し、腰のバックルに日本刀をセットした。
「ここで見ていても仕方ないからインターホン押しに行くかい?」
とマユリが言った瞬間……
――すぐ側に強い気配が!
気配の元を探る。
ハッと上を見た。
「あら、楽しそうな遠足ね、私達も仲間に入れてくれない?」
すぐ横の岩の上に頼もしい二つの影が現れた。
ゆかの声が聞こえた。
「久しぶりね舞!マユリ!」
エミリーの声が続いた。
「あの南米のジャングルで舞が道を切り開いてくれなかったら私もゆかもおしまいだった。そして何があったのかも全部聞いたわ」
「結を連れ戻すのでしょ?私達も同じ気持ちよ」
「ゆか、エミリーありがとう……心強いわ」
「それにしてもティアが結を孤立させてヴァンパイアと結託をして結の覚醒を促したなんて……」
エミリーが少し声を荒ぶらせる。
「そもそものあの作戦の配置。結を単独任務に当てて結果ヴァンパイアの罠にかかってしまった。南米もあれはもうアンドロギュノス壊滅を目的にしていた。疑う理由は十分にあるわ」
ふふふふ……笑い声が聞こえた。
四人ががキッっと上空を睨む!
ゆかとエミリーがいた岩よりもずっと上、空中にティアが立っていた。
「あっはっはっはっ……お久しぶりね舞……またそんな怖い顔して………可愛いお顔が台無しよ!皆さんもお揃いで、無事でよかったわ」
四人の顔に怒りがこもった。
「ぬけぬけとよく言うのだよ」
「どうして?アンドロギュノスを壊滅させたの?あなたが全てを仕組んだとしか思えないのだけど」
エミリーが怒りを含んだ声で問い詰めるとティアは冷ややかに答えた。
「そんなことも分からないの?もう必要無くなったからよ」
「何人死んだと思ってるの?許さない!」
ゆかが激昂して叫んだが、しかし冷淡な返答が待っていた。
「あなたに許しを乞うなんて思ってないのよ」
舞がイライラとし鋭く聞いた。
「ティア……あなた一体何者なの?」
…………
「何がしたいの?」
…………
「四柱計画って一体なんなの?」
「学校の先生と生徒みたいに質問すれば答えてもらえるみたいな関係性がまだあると思ってるの?」
刀の柄に手をかけた。
「じゃ力ずくの質問タイムってことでいいのかな?」
舞が身体にエナジーを込めようとした。
マユリが舞の肩をトントンとノックするように叩いた。
「舞……実体じゃないのだよ」
「お久しぶりね……マユリ……随分勝手に動いてるのね」
「ティア、元々貴女の思惑通りに動いてた訳じゃないのだよ」
ティアが笑う。
その笑みの奥に、さらに別の笑みが浮かぶ。
歪んだ、底の見えない笑いだった。
「やめなさい……こんな所で怪我などしたくないでしょ?私は結がヴァンパイアでも人間でも構わないのよ。私が欲しいのは牙のチャクラを回したという事実のみ!そして舞、貴女をこの戦いで死なれても困るの……」
「どういうことよ!四柱計画と関係があるの?」
「まだ分からないの?貴女は鬼の因子を持つ者――
そして、角のチャクラを開くものだからよ!」
舞は叫ぶ!
「私はあなたに利用されたりはしないわ!」
「舞!そこにあなたの意思が介入する余地はないわ!
ただ本当にヴァンパイアごときと戦いあなたに死なれちゃ困るからせいぜい死なないようにね」
と言うとティアは姿がだんだん朧になっていき……蜃気楼のように消えた。
ゆかとエミリーが額に汗を浮かべ、ようやく息が出来たかのように大きく息をしていた。
エミリーが額の汗を拭った。
「ティア……わかっていたけどとんでもない化け物ね」
四人はブラン城を見上げた。
「よし!行こう!!」
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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