新LABO
新LABO〜お届けします
三日月
ブラン城編〜新LABO〜
マユリと舞は裏からルートを手配し南米から日本に向かう貨物船にいた。
舞は以前よりは眠れるようになっていた。
それでも夢にはあの日飛び去った結が現れる。
そして最後には『殺せ!』と夢の中の結は言った。
舞は汗だくで悲鳴と共に起きてしまう。
起きた瞬間、貨物船の暗い室内の据えた空気と鉄の匂いで嘔吐感が込み上げた。
スっとマユリの暖かく、柔らかい手が、舞の震えた手を握り背中を撫でてくれた。
そういう悪夢で起きた時には必ずマユリがそばにいてくれていた。
何も言わずにその小さい手が舞の背中を撫でると気持ちが落ち着き、また眠れた。
もうアンドロギュノスの庇護は受けられない。
もとよりアンドロギュノスは南米ミッションの失敗でほとんどの実働メンバーを失いほぼ崩壊状態だった。
今回の南米ミッションは明らかにアンドロギュノスそのものが標的だった。
組織の壊滅。
それこそが目的だったのであろうか。
どちらにしても真意をティアに聞き、情報をリークした人物に報いを受けさせなければならなかった。
それに二人はいまやティアに造反した裏切り者だった。
「マユリ?これからどうするの?」
「とりあえず日本へ帰るのが先決なのだよ」
「そこからの話だよ!」
「今は何もわからんさ、情報を集めて、考えて、準備して、ぶっ飛ばす。いつもの流れなのだよ」
マユリと話すと、舞の中で絡まった思考が少しずつ解けていく。
焦りかけていた心が少しだけ落ち着いた。
「そうだね、分からないことが多すぎる」
「ティアが黒幕だって言ってたじゃない?元々マユリも加担してたってこと?」
「その件に関しては日本に帰って説明させてもらう事にするよ」
「結は完全にヴァンパイアになってしまったのかな?元の結に戻す方法はあると思う?」
「うむ……牙のチャクラか。それが活性化し結の持つヴァンパイアの記憶が刻まれた因子が目を覚ました。ということだね」
「舞……これは人の可能性の中で起こったことだよ!ということはまた人の可能性の中で戻れると――私は信じているよ!」
遠くで汽笛が鳴った。
長く続いた二人の密航生活が、その音と共に終わりを告げた。
舞とマユリはようやく日本に戻ってきた。
アンドロギュノスからの裏切り者だが組織が機能していない分、とりわけ追われているようなこともなかった。
「マユリ、これからどうするの?本部にはさすがに帰れないよね?」
「さすがに本部には帰れないけど全く行くところがない!私がそんな事態になるかもということがわかって無策で南米くんだりまで行ったと思うのかい?」
「ちゃんと想定済みってこと?」
「ふふふ……ついてきたまえ」
二人は都内の古びたテナントビルに入った。
どこも借り手がなくビル自体の機能も停止してるが、その埃の匂いが充満する廊下の奥のエレベーターだけが生きていた。
マユリは行き先ボタンをいくつか暗証番号のように押すとエレベーターは無いはずの地下に降り始めた。
舞は黙ってついて行く。
エレベーターのドアが開いた。
舞の目に飛び込んできたのは、眩い白色光と整然と並ぶ量子サーバーだった。
そこはまるで本部の科学技術局のLABOを小さくしたような空間があった。
結構な数のスタッフが一斉にこちらを見る
「お帰りなさい。待ってましたよ!局長〜舞さん!」
チームリーダーの美由紀の元気な声がする。
「こ……ここは!?」
舞は驚きを隠せずキョロキョロと周りを見る。
失ってしまったかも知れなかった仲間たちがそこにいて笑っていた。
「LABOのみんな……」
「みんな。よくここまでLABOを作り上げてくれたね……感謝だよ」
マユリが自慢げに言う。
「舞、ここは秘密裏に築いた、本部のLABOのコピー——本部にも引けを取らない《新LABO》なのだよ!
こうなる可能性は、ずっと想定していた。少しずつ機材を移し、スタッフとも密かに情報共有していたのだよ。完璧かい?」
「マユリ……凄すぎる!」
舞がマユリにハグする、マユリのドヤ顔がそのまま真っ赤になる。
「いやはや褒めすぎなのだよ、想像以上に喜んでもらって……あ……いや……舞……離れたまえ!私の心臓が持たないのだよ」
美由紀がニヤニヤしながら
「良かったですね局長!舞さんをびっくりさせたいって言ってたのが叶って」
美由紀の表情がふっと引き締まった。
「もう一つの目標、結さんも必ずここに戻しましょう!」
「そうだ、ここに結を連れ戻して、またみんなで笑いたいのだよ」
舞は拳をギュッと握った。
全てのメンバーがマユリを慕っているのがわかった。
マユリがにっこりと笑い、声を弾ませる。
「みんな、感謝の言葉もないのだよ」
「この新LABOは局長の一番の願いでしたからね、メンバーのみんなも同じ気持ちなんですよ」
マユリが思い出したように聞く。
「早速なんだが、美由紀?あれの稼働状況はどうだい?話せそうかな?」
美由紀は『あれ』ですぐに理解しインジケーターがグリーンになっているのをマユリに見せた。
「はい、100%こちらで稼働しています」
「なんのことなの?」
マユリが答える。
「舞、ついてくるのだよ」
マユリは今いる地下から専用エレベーターでまた下に降りていった……ボタンは二つしかないここと下だ。
そしてエレベーターが止まりドアが開く……
巨大な隔壁とロックで厳重に隔離されている。
マユリがセンサーで本人と確認され扉がゆっくり開いていく。
そこは広い空間で何もない空間だったが二人が入ると灯りが灯る。
――ブゥゥゥンッ……。
腹の底を掴むような、超低周波の振動が地下の密室を震わせた。
直後、周囲の空気がちりちりと強烈な静電気を帯び始める。
暗闇の中に蛍の光のような無数の青い光粒子線が収束し、激しく渦を巻いた。
最初は電子の輪郭。
次に流れるような光の髪。
そして、人間と見間違うほどに滑らかで美しい女性のホログラムが、眩い光の奔流の中から姿を現した。
「おかえりなさい、マユリ」
感情の起伏を精巧にトレースした、驚くほど艶やかな声が鼓膜を揺らす。
「ようこそ舞! 私はAIマキナ――『デウス・エクス・マキナ』」
「……機械仕掛けの神……っ!」
舞が息を呑んでその名を呼ぶ。深いグリーンに発光するマキナの瞳の奥には、世界中の電脳ネットワークから秒単位で吸い上げられる膨大な生体データと暗号コードが、まるで光の滝のように果てしなく流れ落ちていた。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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