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フェアリー•レゾナンス  作者: 三日月
W Mission

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34/94

王

王〜お楽しみください。


三日月

W・MISSION〜王〜

 結は心の底から怯えていた……

 この虐殺が全て私の為?

 心が崩壊しそうだった。

 舞……助けて!

 

 魔法陣の集積された生命エネルギーがその中心にいる結の牙のチャクラに集束していく。

 

 常人なら極限の修行の果てにようやく得られるはずの七つの循環。

 

 その先にある禁忌の八番目のチャクラ。

 桁違いの力が結の身体を暴力的に循環していく。

 

「あっあっ……あ…………ああああ……何……なんなの……あああああ…………アガガァァ……」

 

 牙のチャクラが回り因子の中の記憶が蘇る!

 

 ああああ……

 戦争!

 迫害!

 ああ……

 

 炎に囲まれた村。

 悪魔と罵る人間たち。

 逃げ惑う同族。

 千年分の迫害と憎悪が、結自身の記憶のように流れ込んでくる。 

 

 アガゴゴアァァ……

 

 王だけに脈々と受け継がれてきた記憶が結に刻み込まれていく

 

 ……おおおお……

 

 結の魂の最深部から結の心を引き裂いて一千年の呪詛を孕んだ悪魔が這い出てこようとしていた。

 

 大きな牙の生えた顎が、結の中から結を咀嚼した。

 

 記憶が開いた。

 

「人間め!!私たちが何をしたというのだ!

 許さんぞー人間共!!」


 バリバリ!っと背中の皮膚が裂け、結の背から禍々しい翼が生え金色の虹彩が縦に裂ける……

 鋭い牙が生えかぎ爪が伸びる……オオゥ……

 この間のビルでの異形化とはレベルが違う。

 皮膚の色も変わっていく。

 

 あの優しい目が

 あの優しい微笑みが

 あの優しい指が

 あの優しい声が

 あの優しい魂が

 一つずつ黒い衝動に塗りつぶされていく。


  

◇



——南米——

 舞は夢を見てるような顔で立体映像をぼんやりと眺めていた。

 

 ぼんやりと呟いた。

 

 ……ダメ…………ゆい……いっちゃだめ……ゆい?ゆい?ダメだよそんなの……ゆい?……いかないで…………こっちをみて……おねがい……ゆい?……わたしをひとりにしないで……ね?……ね?……ああ……ゆい…………

 

 舞は瞬きすら忘れていた。

 

 映像と音声が無慈悲に舞の網膜と鼓膜に焼き付く。

 

 立体映像の中で、飛び立とうとする結に愛理が問いかけた。

「結様、あの南米のフェアリーはどうしますか?」

「あのカメラで見ているはずです」

 

 映像の中の結がモニターカメラを見る……

 

 モニター越しに結が自分を見つめたような気がした。

 一瞬、結が自分に微笑んだようにみえて口元が綻んだ。

 

 

「……ああ……ゆい……よかった……きっと戻れるよ……ね?……ね?」

 

 舞は手の届くはずのない虚空に手を伸ばす……

 

 結の牙の生えた口が開いた――

 

 

「殺せ!」



 結が飛び去っていくのを画面で見つめていた。

 

 ……飛び去って行く画面の中の結を追いかけるように舞の手が伸びた。

 届かない虚空に伸びた舞の手から——

 何があっても離さなかったナイフが、あっさりと落ちた。

 地面に突き刺さる。

 

 結が翼をはためかせ飛んでいく…………



 ◇

  

 

 ——ドーム上空——

 ドームのはるか上空——浮いている人間がいた

「やっと四柱の一人が覚醒した!……」

 ティアが見たこともないぐらい口角を上げて笑っていた……

「牙のチャクラが覚醒した……けれど角は……まだまだ開かぬか」

  

 カンパニーの傭兵が舞に近づいて行く気配に気付く。

「鬼は殺させる訳にはいかないわね」

 と何か魔法を使おうとしたが、何かを察知したように動きを止める。

 

「ん?……あの女、勝手に!!まぁいいわ……」

 


 ◇

 

 

——南米—— 

 魂の抜け殻になったような舞はフラフラと歩いていく……

 はぁはぁと呼吸も浅く……

 目の焦点もあってなかった……

 『殺せ!』という言葉が鼓膜にこびりついて離れない……

 

 カンパニーの傭兵達が近づいて来る気配がする。

 

 もういいや……

 

 と思った時、輸送VTOLが領空に飛んできた。

 

 声が聞こえる……

「まいーーー」

 マユリの声だった……

 聞き慣れたはずの声が、雷鳴のように空から落ちてきた。 

 

「マユリ?……えとね……ゆいがね……ゆいがね……」


「アホンダラー寝ぼけとんのか!!ワレェッ!!」

 

 涙でぐしゃぐしゃの顔を輸送VTOLのハッチから身を乗り出している。

 コクピットにはあの逃したパイロットの顔が見える。

 

「バカタレーー捕まらんか〜いーー手を出すんや〜」

 

 マユリがハッチから手を伸ばす

 

「諦めんのかーーこのボケナス舞ぃぃぃー」

 

 あのマユリが大阪弁で叫んでいる。

 その目からは涙が流れているのが見える

 

「ま……まゆりぃぃぃ〜」

 舞の手がピクリと動く

 

「この私をこの退屈な世界に置いていくんかぁーー」

 

 舞の手がマユリの方へピクリと動いた。

 

「舞のことも一人にはさせへんからなぁ〜」

 

「マユリぃ」

 舞の手がマユリに向かって伸びた

 

「よっしゃーー」

 

 がっちりと手と手が合わさり舞はマユリに抱きかかえられ戦場から離脱した。


 その小さな身体からは想像もできないような力強さで舞を抱えた、マユリのその手が舞の身体だけではなく崩れかけた魂までも抱きしめていた。

 


◇


 

 安全地帯まで来て輸送VTOLが着陸した。

 マユリが元々定員オーバーのVTOLを離脱させた。

 ゆっくりとマユリが舞に近づいた……

「落ち着いたかい?」

 

「……まだよくわかんないよ……でもマユリのおかげで助かった……私はマユリに生かしてもらった」

 

「舞、大袈裟なのだよ……生きたのは舞の意思、魂が生きたいと思ったからなのだよ、最後、私の手を掴んだのは舞、君なのだよ……」


「でも、ひとつだけ怒ってるのだよ」


「……」


「舞……一瞬でも命を諦めたね?」


「…………」


「もう二度とあんな顔を私にみせないでおくれよ」


 マユリがその小さな身体いっぱいで舞を包み込むように抱きしめた。

 舞が静かにその胸の中で嗚咽した。

「ごめんね」


「分かればいいのだよ」

  

 少しずつ落ち着きを取り戻すと同時に色んなことが頭に浮かぶ……

 

「全部……全部罠だった……完全にアンドロギュノスが標的だった」

 

「舞……全部知ってる。今まで言えなかったのだが、この一連の罠の連鎖はティアの思惑なのだよ」


「ティアの思惑?どうしてこんなことを……ほかのみんなの安否は?」

 

「詳しいことはまだ分からないのだよ」

 

「ただし敵か味方かといえば私は今ティアを裏切った立場にいるからその私についてきた舞も裏切り者ということになるのかな?」

 

「どうしてマユリはこんなところまで?」

 

「ん?そんなの決まっているじゃないか、舞、君がここにいるからだよ」

 

 舞が潤んだ眼でマユリをじっと見つめた。

 

「結を助けたい!元の結に戻したい!マユリ……手伝ってくれるよね?」

「スイーツ1年分ってところで手を打とうじゃないか」

「一年分?一生マユリのスイーツは私が面倒見るわ」

「お給料足りるのかい?」

 二人に笑顔が戻った。


「マユリ……本当にありがとう」

「もういいのだよ、舞」

 


 舞は咳払いして……

「ところでマユリは大阪生まれなの?」

マユリの顔が見たこともないぐらい赤くなり

「そういうことになるのかな」

 と気取って言うが声が少し震えていた

 

 二人は固く手を握りあった。

 

 港に向かって歩き出す。その歩みは何も諦めてはいない決意が込められていた。

読んでくださりありがとうございました。

次回更新は明日19時です。


そしてよろしければブックマークや評価など頂けると

私自身の励みになります。

どうかよろしくお願いいたします。

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