王
王〜お楽しみください。
三日月舞
W・MISSION〜王〜
結は心の底から怯えていた……
この虐殺が全て私の為?
心が崩壊しそうだった。
舞……助けて!
魔法陣の集積されたエナジーがその中心にいる結の牙のチャクラを回していく。
常人なら極限の修行の果てにようやく得られるはずのエネルギー。
七つの循環に禁忌の八番目のそのエナジーが倍以上に結の身体を暴力的に循環していく。
「あっあっ……あ…………ああああ……何……なんなの……あああああ…………アガガァァ……」
牙のチャクラが回り因子の中の記憶が蘇る!
ああああ……
戦争!
迫害!
ああ……
はるか昔からヴァンパイアは悪魔と言われ人々から忌み嫌われてきた。
千年以上積み重なってきた忌まわしき記憶が蘇る
アガゴゴアァァ……
王だけに脈々と受け継がれできた記憶が結に刻み込まれていく
……おおおお……
結の魂の奥底から結の心を引き裂いて何かが出てこようとしていた。
大きな牙の生えた口が、アギトが、結の中から結を咀嚼する。
記憶が開いた。
人間め!!私たちが何をしたというのだ!
許さんぞー人間共!!
バリバリ!っと背中の皮膚が裂け、結の背から禍々しい翼が生え金色の虹彩が縦に伸びる……
鋭い牙が生えかぎ爪が伸びる……オオゥ……
この間のビルでの異形化とはレベルが違う。
皮膚の色も変わっていく。
あの優しい目が
あの優しい微笑みが
あの優しい指が
あの優しい声が
あの優しい魂が
一つづつ黒い衝動に塗りつぶされていく。
舞は夢を見てるような顔で立体映像をぼんやりと眺めていた。
呟くように……ダメ…………ゆい……いっちゃだめ……ゆい?ゆい?ダメだよそんなの……ゆい?……いかないで…………こっちをみて……おねがい……ゆい?……わたしをひとりにしないで……ね?……ね?……ああ……ゆい…………
舞は瞬きもせずにじっとブツブツと何か言っていた。
飛び立とうとする結に愛理が聞く
「結様、あの南米のフェアリーはどうしますか?」
「あのカメラで見ているはずです」
結がモニターカメラを見る……
舞と視線が重なる。
一瞬舞に微笑んだようにみえた。
舞は……ああ……ゆい……よかった……きっと戻れるよ……ね?……ね?と手の届かはずのない虚空に手を伸ばす……
結の牙の生えた口が開いた――
コロセ!
結が飛び去っていく……空っぽの舞の手からあれ程離さなかったナイフがあっさりと落ちて地に刺さった。
結が翼をはためかせ飛んでいく…………
その遥か上空に浮いている人間がいた
「やっと四柱の1人が覚醒した!……」
ティアが見たこともないぐらい口角を上げて笑っていた……
「牙は目覚めた。けれど角は……まだまだ開かぬか」
カンパニーの傭兵が舞に近づいて行く。
「鬼は殺させる訳にはいかないわね」
と何か魔法を使おうとしたが、何かを察知したように動きを止める。
「ん?マユリ……あの女、勝手に!!まぁいいわ……」
魂の抜け殻になったような舞はフラフラと歩いていく……はぁはぁと呼吸も浅く……目の焦点もあってなかった……コロセ!という言葉が耳から離れない……
カンパニーの傭兵達が近づいて来る気配がする。
もういいや……
と思った時ジェットグライダーが領空に飛んできた。
声が聞こえる……
「まいーーー」
マユリの声だった……
聞き慣れたはずの声が、雷鳴のように空から落ちてきた。
「マユリ?……えとね……ゆいがね……ゆいがね……」
「アホンダラー寝ぼけとんのか!!ワレェッ!!」
涙でぐしゃぐしゃの顔をグライダーのハッチから身を乗り出している。
「バカタレーー捕まらんか〜いーー手を出せやーー」
マユリがグライダーから手を伸ばす
「諦めんのかーーこのボケナス舞ぃぃぃー」
「そんな簡単に折れるんかぁぁ自分!!ッ!」
「意地見せたんかい!!オラァ」
あのマユリが大阪弁で叫んでいる。
その目からは涙が流れているのが見える
「ま……まゆりぃぃぃ〜」
舞の手がピクリと動く
「この私をこの退屈な世界に置いていくんかぁーー」
舞の手がマユリの方へピクリと動く。
「舞のことも1人にはさせへんからなぁ〜」
「マユリぃ」
舞の手がマユリに向かって伸びた
「よっしゃーー」
がっちりと手と手が合わさり舞はマユリに抱き抱えられ戦場から離脱した。
安全地帯まで来てグライダーは着陸した……
マユリが舞に近づく……
「落ち着いたかい?」
「……まだよくわかんないよ……でもマユリのおかげで助かった……私はマユリに生かしてもらった」
「舞、大袈裟なのだよ……生きたのは舞の意思、魂が生きたいと思ったからなのだよ、最後私の手を掴んだのは舞、君なのだよ……」
少しずつ落ち着きを取り戻すと同時に色んなことが頭に浮かぶ……
「全部……全部罠だった……完全にアンドロギュノスが標的だった」
「舞……全部知ってる。この一連の罠の連鎖はティアの思惑なのだよ」
「ほかのみんなの安否は?」
「詳しいことはまだ分からないのだよ」
「ただし敵か味方かといえば私は今ティアを裏切った立場にいるからその私についてきた舞も裏切り者ということになるのかな?」
「どうしてこんなところまで?」
「ん?そんなの決まっているじゃないか、舞、君がここにいるからだよ」
舞が潤んだ眼でマユリをじっと見つめる。
「結を助けたい!元の結に戻したい!マユリ……手伝ってくれるよね?」
「スイーツ1年分ってところで手を打とうじゃないか」
「一年分?一生マユリのスイーツは私が面倒見るわ」
「お給料足りるのかい?」
二人は笑う。
「マユリ……本当にありがとう」
「もういいのだよ、舞」
舞は咳払いして……
「ところでマユリは大阪生まれなの?」
マユリの顔が見たこともないぐらい赤くなり
「そういうことになるのかな」
と気取って言うが声が少し震えていた
「マユリ!二人でティアの奥歯ガタガタいわしにいくでぇ!」と茶化す
「もう忘れてくれたまえよ」
2人は固く手を握りあい。
港に向かって歩き出す。その歩みは何も諦めてはいない決意が込められていた。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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