コンサート
コンサート〜お楽しみください
三日月
W・MISSION〜コンサート〜
――ドーム・同時刻——
ドームコンサートが開演した。
ドームの全てのライトが消え完全な暗闇が観客を包んだ。
靴が床を擦る音すら耳に入ってくる程の静寂。
そんな中、静かに小さく美しい歌声がバラードを歌いはじめた。
まだ誰も物音すら立てない。
呼吸音すらためらうほどの静けさの中……優しい歌声がゆっくりと「あなたを愛してる」と祈るように歌いあげる。
……Aメロが終わる。
再び静寂——。
次の瞬間、暗闇のステージにいきなり光が走る!
誰もいなかったステージに愛理が立っていた!
爆撃のような歓声がドームを揺らす。
◇
――南米――
舞は敵の返り血と自らの血で全身を赤黒く染めていた。
北で待ち伏せていた部隊を切り裂き、叩き伏せていく。
血と硝煙の中を舞うその姿は、まるで死の舞踏だった。
突然暗闇にサーチライトが忙しく動き、舞の姿を捉えようとしていた。
一瞬、サーチライトの光が走り、舞の姿が照らされた。
爆撃の大音量が舞の全身を叩きジャングルを揺らす。
◇
――ドーム――
結のベースが重低音で会場を揺らした。
いつもと違うベースに観客が気付き始めた。
「あのベースすごくね」
観客がベースの結を見て騒ぎ始めた。
愛理の歌が加速し、息継ぎすらメロディになっていく。
愛理の声が重低音から高音まで駆け上がる。
観客の熱狂が最高潮になる。
愛理からエナジーが溢れ出し、声が燐光を帯びているようだった。
光り輝く歌声が全ての人を魅了する。
四万人が足踏みしてドームが揺れる重低音。
南米のジャングルを切り裂く爆撃の重低音。
遠く離れた二つの音が、奇妙にシンクロしていた。
次々と曲が進む。
時間の流れが加速してあっという間に時間が過ぎていく。
結も汗だくでベースをかきならすが心の中心は、警戒態勢でいついかなる時も愛理の周囲5mから離れない。
そして最後の曲が終わった。
ステージには誰もいなくなったが、観客からアンコールの大音量が止まることなく響いていた。
愛理は舞台袖でメンバーに告げた。
「アンコール曲は新曲にするよ!
キーは私が合わせるから、みんな適当に合わせてコードはいつもの感じね!」
舞台袖に戻ってきた愛理の両手には、二丁のマシンガンが握られていた。
(……本物!? いえ、まさか。演出用の精巧な小道具だよね?)
結の鋭い五感が、その鉄と硝煙の冷たい気配に一瞬だけ警戒のシグナルを鳴らす。
だが、ここは四万人の観客が見守るドームのステージ裏だ。
愛理のコンサート開始前と変わらぬ雰囲気が、結の警戒心に薄い膜を張っていた。
「新曲の演出よ!」
笑う愛理の言葉に、結は思考を緩めてしまった。
(曲名が『恋のマシンガントーク』とでも言うのかな?)
と、自分に言い聞かせるように微かな苦笑を浮かべるしかなかった。
胸のざわつきを、どうしても拭えないまま――。
周囲の異変は全くなかった。
愛理がステージに飛び出した!両手にはマシンガンを持っている。
暴力的大歓声の中……
愛理は何も言わず静かになるのを待った……
やがて熱狂が収まり、ドームが静かになっていった。
愛理は静寂の中、ゆっくりと優しい声で話し始めた。
「今日は来てくれてありがとう。とうとう最後の曲になりました」
観客から悲鳴のような声が上がる。
声の質が変わった。
「今宵の最後の曲を聴きながら幸せを感じてあなた達は生贄になれるのよ」
「今なんて?生贄?聞き間違い?」
観客もザワザワとなっていく。
「今日のために書き下ろした今日だけの曲。聴いてください。『フェアリー・レゾナンス』」
曲名と共に愛理の持っていたマシンガンが乾いた音を奏でた。
結の顔色が変わった……
◇
――南米――
舞は走り、飛び、転がり、爆撃を避けた。
何度も爆風で飛ばされボロボロになりながらエナジースラッシュで追撃砲を破壊していった。
息つく暇もなく戦闘ヘリがホバリングしながら機関銃を撃ってきた。
木の影に隠れて身を隠す。
時計を見た、時間の流れが遅くまだそんなに時間が経ってないことに気付き唖然とする。
ヘリから何か投下された。
ドラム缶のようなずんぐりした物体……舞は一瞬の判断で思い切り走り、崖に飛び込むように跳躍した。
焼夷弾が辺り一面を火の海に変えた。
熱で皮膚がチリチリと痺れた。
崖から飛び出した瞬間に近くの巨木にアンカーを打ち込む。
すぐさま傭兵が崖下を確認しに来る。
覗き込んできた傭兵の首がエナジースラッシュの斬撃で落ちた。
すごい熱気でジャングルが揺れているようだった。
右手の火傷が痛む。
ヘリからロケットランチャーが発射され舞のそばに着弾した。避けられない。
「やばい!」
舞は最大にエナジーシールドを展開して耐えた。
それでも衝撃で吹っ飛んだ。
谷をゴロゴロと落ちていく。木に背中を打ち付けて止まった。
ヨロヨロと立ち上がった舞の両手には、まだ奇跡のようにナイフが握られていた。
(私は刃!折れたりしない!!)
砂煙と黒煙の中から舞が上空の巨木にアンカーを打ち込んで、ホバリングしていたヘリと同じ高さまで上がった。
ヘリに二本のエナジースラッシュが交差するように走った。
ローターが砕け散り、制御を失ったヘリが墜落していく。
地面に落ち轟音と共に炎が立ち上がる。
刹那もう一機戦闘ヘリが飛んできた
「くっ!キリがないのね」
舞は動けずに巨木の陰に隠れていた。
ヘリから何かパラシュートで落ち、ヘリはそのまま飛び去った。
静寂が訪れた。いつの間にか敵の気配が無くなっていた……
「何を落としていったの?敵は?」
舞はゴフッっと血を吐きながら、落下してきた物体に接近してみる。
少し開けた平地にその物体が静かに着地した。
勝手にパラシュートが外れどこかへ風で流されて行った。
歩きにくい……きっと肋骨が折れてるのだろう。
一歩進む度に顔が歪むほど痛かった。
着地した物は一メートル四方のサイコロのような機械だった。
舞が近づくと、側面が開き、何かが出てきた。
アームが数本伸びてきて、その先に映写機のような物が付いている。
光り始める、そして目の前に立体映像が映し出された。
「??何?これ?……」
舞は何事かもわからなかった。
「なんなのこれは?」
映像を凝視する。
目に入った血を泥だらけの腕で拭い、その立体映像に魅入る。
音声と同期していき徐々にコンサート会場だと気付いた。
どこだ?ドームか?ゆっくりと音声も流れてきた。
今日のために書き下ろした今日だけの曲。
聴いてください。
――『フェアリー・レゾナンス』」
冷徹な曲名が告げられた直後、愛理が構えた二丁のマシンガンが、火花を散らして無慈悲な金属音を奏で始めた。
凄まじい銃声。
一瞬遅れて沸き起こる、地獄のような悲鳴と怒号。
4万人の熱狂は一瞬にして血のパニックへと叩き落とされる。
そして――。
ノイズ混じりのホログラム映像が切り替わり、画面いっぱいに、戦慄に目を見開いた「結の顔」が映し出された。
ドクン、と舞の心臓が不快な音を立てて跳ね上がった。
折れた肋骨の激痛すら彼方へ吹き飛ぶほどの、圧倒的な絶望。
思考が完全に凍りつき、視界が真っ白に染まる。
南米のジャングルの奥深く、夜の静寂を完全に切り裂いて、舞の魂の叫びが木霊した。
「結ぃぃぃーーーーーーーッ!!!
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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