降下作戦
降下作戦〜お届けします。
三日月
W・MISSION〜降下作戦〜
結から「ベーシストとしてステージに立つことになった」と通信が入った。
舞は思わず、小さく笑った。
(やったね、結)
口には出さなかった。
ベーシスト姿、見たかったな――そんな未練を振り払うように、舞は頬を軽く叩いた。
あと1時間ほどで降下時間だった。
ドームコンサートもそろそろ開演の時間だ。
(ダメだ!ダメだ!今はこの任務に集中)
と気持ちを張り直した。
舞は轟音の中、立ち上がり耳元をトントンと叩きインカム装着の指示をした。
「みんな聞こえてる?もう少しで降下作戦開始よ。一つだけ言っておくね」
「何よりも大切なのは生きること!この私も含めた二十八人……いや、この機のパイロットも入れて二十九人絶対に生きて帰るからね!」
士気を高めた。
ゆかとエミリーがにこやかに笑っていた。
「全員装備最終確認!」
「そろそろだね……ハッチオープン!高度速度どうか?」
「オールグリーン!」
開いたハッチの向こうは漆黒の暗闇でこの闇に向かって飛び出すには相当の覚悟が必要だ。
舞は視界の端、ハッチの外雲の隙間に何かが光ったのを見逃さなかった。
「!!」
舞の五感が――いや第六感がささくれだつ。
舞の背中を冷たいものが駆け抜けた。
叫んだ!
「全員緊急脱出!!!」
「飛べぇ!!」
――ズガアァァァンッ!!!
咆哮を上げて迫った地対空ミサイルが、輸送機の腹部を容赦なく食い破った。
夜の帳を引き裂くような大爆鳴。
数秒前まで仲間たちの笑顔に満ちていた機内は、一瞬にして猛烈な紅蓮の炎と爆風の渦へと変わる。
輸送機は黒煙を吐き、崩壊しながら墜落していく。
舞はパニック状態のパイロットを抱きかかえた。
燃え上がるハッチから、二人まとめて漆黒の虚空へ身を投げる――!
また罠なのか??
情報がリークされていたのか?
輸送機から全員飛び出せたのか?
あの短い時間で全員飛び出せたとは思えなかった。
振り返り火の玉と化した輸送機を見る。
心がざわつき、手が震えた。
パラシュートで降下し木に打ち込んだアンカーを利用して軌道を調整する。
ほとんど衝撃なく着地するとすぐに安全確認と周囲警戒に意識を向けた。
パイロットには怪我はなかったが軽いパニック状態になっていた。
「落ち着いて……大丈夫だから私の装備を持って北へ行くのよ」
食料と飲料を全て渡し、北に行くように指示する。作戦前のブリーフィングでも全員に伝えてあった。
「ミッション継続不可の時は北へ離脱しピックアップポイントへ」
本当は同行したいが先に北へ向かってもらう。
「生き抜いてよ」
その背中へ、舞は強く言葉を送った。
「フェアリー舞、本当にありがとう」
と言うと北へ向かった。
パイロットではここにいては生き残れない。
背中を見送る舞の手元には、もう二振りのナイフと、結とマユリから託された絆しか残っていなかった。
もしこれが罠なら全滅の二文字が脳裏を駆け巡る。
無線は当然ジャミングで使えなかった。
「みんな、お願い、生きて」
パイロットの走っていくのを見送った。……気配が消えたあと、辺りは怖いぐらいの静寂に包まれた。
下草を踏む音すら耳に入ってくる程だった。
(静かすぎる……)
不安が持ち上がるがみんな優秀なフェアリーとサポートメンバーだ。
きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
みんなは北へ、舞は南へ向かう。
何故なら追っ手があるなら南からだったからだ。
追っ手を北へは向かわせたりしない。
その前に少し西へ行き墜落した機体を確認しなければ。
歩きながら舞は考える。
疑念が疑念を呼ぶ。
もしこれが完全な罠――
このミッションに参加した人間全て……
アンドロギュノス全員が標的なら……
計画が全てリークされていたなら……
輸送機のルート。
降下時間。
離脱ポイント。
もし全てが罠だとしたら……
舞の全身毛が逆立つ……
ダメだ……
北はダメだ……
心臓が一拍空振りをした。
――その時、北の方角で凄まじい爆撃と銃声が立ち上った。
炎が空を、漆黒の闇を赤く染めた。
黒煙が不気味に照らされた。
まるで地獄へと案内される狼煙のようだった。
◇
舞は全速力で北を目指した。
向こうから誰かが接近して来るのを見て、舞は木の影に隠れた。
人影がはっきりと見え舞は叫んだ。
「ゆか!」
ゆかの進路に立ち塞がった。
ゆかが走りながら舞を視認し叫ぶ!
「戻ってこっちはダメよ!」
舞はゆかを止めて問いただした。
「ダメって何よ?!」
興奮したゆかが舞の襟首を締め上げて
「作戦が全部漏れてる!」
「どういうこと?」
「完全に罠だった。最初の輸送機の撃墜で半分は脱出が間に合わなかった!北へ向かったサポートメンバーはみんな死んだ。フェアリーもおそらく……私が確認出来たのはそこまでよ。もう逃げられない……」
(あのゆかですら動揺してる……)
「エミリーは?」
「分からないわ……北に向かってる人を止めるって別れたから」
「どのくらいの敵がいるの?」
「分かるわけないじゃない!!」
激昂し、ゆかは完全にパニックになっていた。
その瞬間――乾いた破裂音が密林に響いた。
バチッ!!
舞の平手が、ゆかの頬を打った!
「つっ!!」
そのまま、ゆかの両頬をしっかりと挟んだ。
鼻先が当たりそうな距離まで顔を近づける。
「ゆか!私だけ見て!」
凛とした安心感を感じる声だった。
ゆかの脳が冷静さを取り戻していった。
「大丈夫、フェアリーは弱くないし、エミリーは大事な人なんでしょ?エミリーの強さは私もゆかも知ってるよね?簡単にやられると思う?」
ゆかが首を横に振った。
「貴女がしっかりして、まずは味方を探して集めて!」
ゆかがゆっくりと話し始めた。
「多分人数はそれほど動員されてないとおもう。
爆弾とミサイルでほとんどやられたから」
「このままだと南へ行ってもまた同じことになるわ、だったらもう一度北よ!」
舞の決意のこもった声が密林に響いた。
「北は潰された。でも敵がいるなら、そこに味方もいる。まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない」
「南へ逃げれば、追撃されて終わる。だったら、北で突破口を開く!」
北へ向かおうとする舞にゆかが言った。
「ありがとう……落ち着いたわ」
「叩いたりして、ごめんなさい」
「ううん、舞……いいリーダーになったわね」
「絶対生きよう!」と二人は拳をぶつけあった。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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