決意
〜決意〜お楽しみください
三日月舞
運命の出会い編〜決意〜
「あなたが結さんね、電話ありがとう。結さんが必要な情報をくれたから、少しでも早くここに来られたのよ」
雨でずぶ濡れの結を立たせて自分の乗ってきた車の後部座席に座らせてくれた。
「怖かったでしょうに……あの状況で車のナンバーを覚えるなんて。
結さん、あなたのその冷静な判断力が舞さんを救う鍵になるわ」
車のドアが閉まった瞬間、ようやく安心を実感した。
それと同時に急に身体が激しく震えだす。
フワフワのバスタオルとマグカップに入った湯気が立ち上るコーンスープを渡してくれた。
「これで体を拭いて温まりなさい」
その温かさが結の心を少しずつ解いていく。
「ゆかさん、ありがとうございました」
まだ声は震えている。
しかしもう怯えてはいなかった。
ゆかもバスタオルで髪を拭いている。
動きやすそうなパンツスーツ姿だった。
結の視線を感じ、笑みを浮かべる。
「色々聞きたそうな顔ね、でも取り乱さないでいてくれて助かるわ」
ゆかの射抜くような、けれど暖かい眼差しが結に冷静さを取り戻させていた。
「ゆっくり説明するわ。
まず一番聞きたいことからね。
舞さんは、ある組織に拉致された」
口を開きかけた結にゆかが指を1本立て、唇にちょんと優しく当てた。
「まずは聞いて」
「あ……はい、ごめんなさい」
「いいのよ、気持ちはわかるから、拉致と言っても今のところ命には危険はないわ。約束する。舞さんは必ず助け出すからね。次に聞きたいことはどうして狙われたのか、でしょう?
その前に確認、結さん……あなた『ふたなり』でしょ?」
結に緊張が走る。
ゆかは結に微笑みかけそっと肩に手を置いた。
手のひらから手の温度以上の暖かさが結に染み込んでいく。
「そんなに緊張しないで……私も『ふたなり』よ」
「えっ?……あ、そういえば舞が言ってました」
「名刺には環境保護団体って書いてるけど本当は違う。
世界中であなたたちのように涙を流し傷ついているふたなりを救出し、保護するために活動している組織があるの。
それが――『アンドロギュノス』。
私はそこのメンバーなのよ」
「アンドロギュノス?聞いたことありません」
「それもそうね、結さんあなたこの世界でふたなりが危険な目に遭っているって知ってた? 」
隣をパトカーがサイレンを鳴らし通り過ぎていく。
「噂話ぐらいは聞いたことあるだろうけど、いざ自分がその立場になったら実感するでしょ?噂は本当だったと……」
信号待ちで車が止まる。ゆかは結を真っ直ぐに見つめた。
「私たちはそんな噂の中で活動しているのよ。世間の人が知ることのない活動よ」
――その時、ゆかのスマホが鳴る。
ボタンを押しスピーカーから音声が聞こえる。
「もしもし、ゆか?」
「遅いよマユリ!車のナンバー追跡できた?」
「こんな夜中に起こされたら誰だって動きが鈍くなるものなのだよ!こっちでもうトレースはできてるから、ゆかのカーナビに送信するからちゃんと助けるのだよ」
心地よい可愛い声だった。
結は思わず声を出す。
「あ……ありがとうございます」
「ふふ……結さんだね?舞さんと一緒に会える日を楽しみにしているよ、そこのゆかに安心して任せておくのだよ」
その頼もしそうな声に結の胸に希望が灯った。
顔に活力も戻ってきた。
「ゆかさん!私も舞を助けたいです。私も連れていってください」
ゆかは結の目を見て、その本気を汲み取った。
「わかったわ、他の事情は車を走らせながら説明してあげる。いいわね?」
「はい!」
車が加速して走り出した。
結は座り直しゆかに問いかける。
「ゆかさん、あの人たちは私のことを、『実験動物』とか『モルモット』って言いました。これはどういうことなんですか?」
ゆかはしばらく考えてから静かに話し始めた。
「あのね、これは本当に世間には知られてない話なのだけど、私たち『ふたなり』って希少なのよ」
「数が少ない、と言う意味ですか?」
「違うわ、あのね、ふたなりには謎が多いの、その中でも『エナジー』と呼ばれる特別な力が私達の体内にはあるのよ」
「特別な力が?私にも?」
「もちろん結さんにもある。それもかなりの才能があると私は思ってるわ」
結は自分の手のひらを見つめた。
「エネルギー問題の面でも注目されつつある。
なにせ生きてる人間からエネルギーが取り出せるのだから」
「生きた人間から……エネルギーを取り出す?」
結の握る拳が固く握りしめられる。
「残念ながら研究は進んでいるわ。医療や産業や軍事——いろんな分野から注目されているの。
だから昔から『ふたなり』は捕まると研究対象――実験動物、モルモットなどと揶揄されることもあってね、だから色々な組織から狙われる。今回の拉致もその延長線にあるわ」
結はゆかの説明に自分の理解が追いつかず、外の景色を眺めていた。
「舞はどうして?」
「舞さんも『ふたなり』でしょ?そういうことよ。
それに舞さんはあなたがあの連中に目をつけられ始めてることを知っていたわ」
結が驚き口を挟む。
「待って……じゃあ、舞は私の代わりに連れていかれたってことですか?」
「酷な言い方だけど、舞さんは、きっとあなたの安全を条件に黙って連れていかれたのだと思う。
それにね舞さんは知っているのよ。
捕まった『ふたなり』がどうなるのかを」
ゆかは唇を噛んだ。
「あいつらは、尊厳なんて言葉を知らない。舞さんが見てきた地獄を、私は二度と繰り返させない」
その言葉を口にしたゆかの手にわずかに力がこもりった。
ハンドルがぎゅっと軋む。
結には、ゆかのその横顔が何かを思い出しているように見えた。
結はまたじっと外の景色を眺めながら溢れ出しそうな感情を整理する。
(なんてことなの)
(私の代わりに自ら身代わりに?)
(それに私が捕まったら、どうなるか知っていた?)
(舞……ふざけないでよ!)
(そんなの、私が許さない!)
結の雰囲気が、変わった。
結はゆっくりと顔を上げた。
その瞳には怯えることのない意志の強さが満ちていた。
「ゆかさん。私、絶対に舞を助けます」
その声は、もう震えていなかった。
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続きは10分後(≧▽≦)
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