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フェアリー•レゾナンス  作者: 三日月
運命の出会い編

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不穏

不穏〜お届けします。


三日月

 本当に充実した毎日だった。

 

 朝起きるとすぐ横に愛しい人が寝ていた。

 飽きることなく寝顔を見ている。

 

 舞は時計を見て、起きる時間がかなり過ぎているのに気づいて慌てて「おはよう、結」と起こした。


「ん……おはよ……もう……また寝顔見てたでしょ?恥ずかしいよ」

 

 そんな朝の繰り返しが二人の幸せで、こんな日が永遠に続くと思っていた。


 ◇

 

 二人は休みを合わせ、水族館デートで楽しい時間を過ごした。

「私、今こんなに幸せなの……怖いくらい」

「結、私もだよ」

 

 幸せに浮かれていた。

 周囲の視線に気づかず、二人は普段通りの会話をしていた。

 

 その二人を、影からみつめる男たちがいた。

 明らかに普通の人間ではない。

 身体つきにも、立ち姿にも、暴力が染み込んでいるような男たちだった。


 二人はそんな視線に気付かずに幸せな時間を過ごした。

 結と駅で別れた。


 繋いだ手が離れる瞬間、愛しさが溢れる。


『一緒に暮らさない?』


 そんな言葉が出そうになる。


 しかし舞の暗い記憶がその言葉を遮る。

 精一杯の笑顔と「またね」に形を変えて伝えた。


 「うん」


 結が駅から南へ歩いていくのを見送り、舞が北に向かって歩き出した。

 

 舞が自分のマンションのエントランスに近づいた時、結からメッセージがきた。

 

 【今日は本当に楽しかったよ、もう少しで今のマンションが更新なんだ……それでね、次会った時に相談があるの。また連絡するね。おやすみなさい】


 舞は歩きながらさっき飲み込んだ言葉が現実になる予感にときめいた。

 

 スマホがスリープ状態になり画面が黒くなると少しにやけている自分の顔が映り込んだ。


(ばか!何浮かれてるのよ!)

 

 自分を叱咤する。


 瞬間の違和感。

 黒い鏡面に男が映った。

 舞は口紅を直すふりをして小さい鏡で後ろをみた。

 男の視線が舞に向いていた。

 ドクンと心臓が跳ね、しばらく動けなかった。

 

(私を見張ってる?もしかして……あいつらが?)

 

 舞の目に強い光が宿った。


 いきなりマンションの横の小さな路地に向かって走った。


 幾つか路地を抜け、後ろを見るとやはり男が追ってきているのが見えた。

 

 (間違いない……)


 舞は曲がってすぐに止まり隠れて息をころす。


 心臓が飛び出そうだった。

 

 男が走って角を曲がった瞬間、舞の回し蹴りが男のこめかみにまともに入った。


 倒れた男の顔に護身用の催涙スプレーをこれでもかというぐらい吹き付けた。


 男の側に立ち、見下ろしながら問いかけた。


「お前は誰?」


「……」


「管理局なの?」


「へっ!実験動物が人並みの幸せなんか願いやがって!お似合いの仲間じゃねえか、もう逃げられないんだよ!」


 舞の視界が一瞬真っ暗になって、思考が停止した。

「な……お前!結を!」


「今頃寂しがってるんじゃないか?」


「結!!」


 舞は全速力で走り出した。


 震える指で結に電話をかける。

 

 しかし、何度呼び出しても応答はなかった。

 

(お願い……出て!)

 

 舞は速度を緩めることなく、結のマンションへ向かった。


◇

  

 結は自分のマンションに向かっていた。


 途中で舞にメッセージを送ったが返事はなかった。


 遠回しに【一緒に住まない?】と聞いたようなメッセージで送信ボタンを押してから顔が真っ赤になった。

 

 帰宅した。

 もし、こうして帰ってきた時に部屋に愛しい人がいてくれたなら……

 

 そんな妄想に心踊らせていた。

 

 鍵が開きドアを閉めて鍵を掛けた。

    

 ホッとした瞬間――鼻先に嫌な臭いがかすめた。

 (何?タバコ??)

 

 心臓が締め付けられるような恐怖が、結の身体を襲った。

 本能が危険を告げていた。

 

 (誰かいる!)

 

 鍵を開け、ドアノブに手を伸ばした瞬間――

 

 万力のような力で腕を掴まれて部屋の方へ引きずられた。

 

 三人の男達が視界に入った。

 

 部屋の中にいたのは妄想の舞でもなく見たことの無い男たちだった。

 

 悲鳴をあげようとした瞬間、男の巨大な手のひらが結の顔を覆った。

 結の口どころか顔半分覆い尽くし、息も出来ないほどだった。

 腕を捻じあげられ痛みで動けなかった。


 ポケットの中でスマホが鳴り響く。

 舞からの着信音だったが出ることは出来なかった。

 

 男の手が、結のシャツを乱暴に掴みまくり上げられた。


「やめて!」


 結は必死で身をよじった。

 

「これか?共鳴紋あったぜ」 

「当たりだな」

 

 羞恥心、恐怖、怒り、不安。

 

 すべてがぐちゃぐちゃに入り交じったまま、結は男の脛を蹴った。

 

 逆上した男に背中を蹴られ、ドアにぶつかりけたたましい音が鳴った。

 

「この実験動物が!」

 

 男の罵声。

 そして硬い靴底の感触。

 衝撃で結は、ドアに頭を打ちつけた。

 

 意識が遠のく。その向こうで冷酷な声がした。

 

「お前もう終わりだ、一生モルモットだよ!」

 

 頭が真っ白になり、一人の女性の名を呼ぶことしかできなかった。

 

 舞……舞……舞……舞……舞……舞……舞……舞……………………助けて!!

 

 男が結の髪を掴もうと手を伸ばした。

 ――刹那

 すごい勢いでドアが開き、疾風のように舞が飛び込んできた。

 先頭の男にスタンガンを当ててスイッチを押した。

「がっ……あ、が……ッ!」

 男は変な声を上げながら悶絶して動かなくなった。

 

「結!!逃げて!逃げるのよ!」


 舞は残りの男たちをスタンガンで威嚇しながら、結を立たせた。

 

 バッグから一枚の名刺を取り出し、結の手に握らせる。

 

「ゆかさんに電話して! この人なら助けてくれる!」

 

「舞……!」

 

「お願い、逃げて!!」

 

 結は名刺を握りしめ、部屋から逃げ出した。

 

 

 ああ……舞……来てくれた。

 ――でも


 結が廊下へ這い出した直後、舞は室内に残ったまま、ドアを閉め、後ろ手にドアの鍵をかけた。


ドアの前に立ち塞がり、拳を上げた。

「先には行かせない!」 

  

 一人の男が舞に突っかかってきた。

 舞の前蹴りが、男の鳩尾に当たった。

 しかし男が怯まずにそのまま舞に向かってきてタックルしてきた。

 

 そのまま抱きつかれた。

 肘で殴ろうとするが、押されて頭を鉄のドアにぶつけられる。

 頭がクラクラと揺れ、視界がぼやけた。

「ちくしょう、行かせない!」

 (結だけは……守る!)

 

 覚悟を決めた瞬間、舞の魂の奥底からなにかがせり上がってくる気がした。

(な……何?これは?)

 

「おい、ちょっと待て」

 三人目の男が部屋の奥から顔を出した。

 

 男の顔を見た瞬間、舞の全身から血の気が引いた。

 脳裏に直接叩きつけられる、あの冷たい金属音。灰色の天井。身体を固定する拘束具の感触。

 

(あいつらだ……あの施設から、追ってきたんだ)

 

 拳を固めることすらできず、膝が笑う。

 勝てるわけがない。

 あの恐怖を知っているからこそ、抗う術を失っていた。

  

 先程まで魂の奥でうねっていた何かが、恐怖に塗り潰されていった。

 

「お前は……」

 握っていた拳にも力が入らなかった。

 男は記憶を探るような目をして舞の顔を凝視した。

「あん?……」

「!!」

「ははーん思い出したぜ」

「六年前か?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、舞の世界が凍りついた。

 絶望したように身体から力が抜けた。

 

「もう逃げられないのは、わかってるよな?」

 

「あ……あ…………お願いします……。あの子だけは巻き込まないで……。私が代わりになるから……」

 

 諦めと絶望が舞を支配した。

 涙がとめどなく流れた。

(結は……結だけは……)

 

「本当に約束よ……あの子だけは巻き込まないで……」

 

 男は納得した顔で舞を立たせた……

 スタンガンで伸びてた男が立ち上がり、舞の頬を張った。

「このレゾナント!実験検体が!」

 

 舞の唇が切れ血が流れた。

(ちくしょう……私に護る力があれば)

 

◇ 

 

 結は涙をボロボロ流しながら、部屋を出てマンションの外へ這い出した……外は雨だった。

 傘もささず、雨か涙か分からないぐらい泣きながら、結は少し離れた路地に座り込んで動けずにいた。

 

 舞が男達に連れられ車に乗せられた。

 結は激しく動揺した。

「助けなきゃ」

 しかし恐怖で一歩も動けなかった。

 自分への悔しさで涙が溢れた。

(私に力があれば一緒に戦えたのに)

 

「早く乗れ、実験動物」と背中を蹴られ舞は後部座席に頭から突っ込まれた。

 リーダー男が残りの二人に小声で指示を出した。

「わかってるな?もう一人近くにいるはずだ」

 

 舞が車に押し込まれ車が走り去る……

 ――結は咄嗟にナンバーを覚えた……


 テールランプが雨の向こうへ消えた。

 結は、その赤い光が見えなくなっても立ち上がれなかった。

 

「ま、舞……ああ……どうしよう……警察?舞……どうしたらいいの……」

 

 その時、思い出した。あの名刺だ。

 結はポケットから名刺とスマホを取り出して、何回もスマホを落としながら震える指で番号を押した。

 

 呼出音がしばらく鳴り留守電に切り替わった。

 

 すがる思いで、震える声で状況を説明した。

 

 それでも、頭のどこかだけが、少しずつ冷えていくようだった。

 

 言わなければならない言葉をひとつずつ必死に口にした。

 この一言一言が舞を助けるヒントになるはずだ…舞……舞……

「舞を助けてぇ」と叫び留守電の制限時間になり切れた。


 どのくらいの時間が経ったのだろう。

 冷たい濡れたアスファルトに座り顔を膝に埋めて震えていた…… 

 すぐ前に人の気配がした。

 

 はっとして顔を上げる前にタバコの匂いが鼻をついた。

「こんな近くにいるなんてな」

「探させやがって!」

 

 顔を上げた瞬間張り手が頬を打ち、痛みで全ての思考が止まった。

 

 抵抗する気力も、意思すらも、張り手一つで飛ばされたようだった……

  

 唇が切れ、血の味が口内に広がった瞬間、

 ぞくり、と背中が震えた。

 (あ……甘い)

 心臓の鼓動がゆっくりと大きく鳴り、下腹部の共鳴紋が淡く光った。

 

 

 視界に赤いフィルターがかかったようになり

 結の世界から音が消えた。

 

 身体の奥底からなにか得体の知らないものが這い出てきた。

 結という器を破り、怪物が目を覚まそうとしていた。

 そんな悪寒と恐怖が、喉元まで込み上がった。 

 

 雨が強くなり唇からの血が薄まると怪物の気配が消えた…………

(なんだったの?さっきのは……)

 

 そしてまた男の暴力が結に向いた。

「今夜は二匹だぜ!」

 

 下卑た笑い声が、途中で途切れた。


 青い疾風が結の髪を揺らした。


 

 


 

読んでくださりありがとうございました♪



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