邂逅
初投稿です。めっちゃ緊張です。
よろしくお願いします。
舞@妖精
――ドアのガラスに映った自分に、ほんの一瞬だけ目を疑った。
〈金色に輝く自分〉が映った気がした。
(……今のは何?)
視線の先には、夜の街にぽつりと浮かぶ一軒のBAR。気付けばそのドアの前に立っていた。
すぐに目を擦る。いつもの自分が映っていた。それでも、胸のざわつきだけが消えなかった。
気のせいだと片付けるように息を吐く。
別に飲みたいわけではなかったが、何かに導かれるようにドアを開けた。
街の喧騒も聞こえない。
ただ耳をすませばグラスに転がる氷のカランという音だけが聞こえそうなBARだった。
舞はカウンターに座った。
ポニーテールを解き、髪をかきあげる。
少し赤みがかった髪色がとてもよく似合う。
別に誰かと飲みたくてここに来たわけではなかった。しかし独りの寂しさに襲われることはある。
(私はずっと独りだった)
(この身体のことを、誰にも言えないまま)
事情が事情だし……仕方ないかとため息をつく。
店内はどこか色彩が薄く、現実感がなかった。
――その時、視線を感じた。
顔を上げる。
その人だけは違った。
まるでそこだけ、世界が色を取り戻したように――
心臓が、大きく跳ねる。
茶色のセミロングの髪がとても綺麗で、その瞳と目が合った。
舞は一瞬時間が止まったような気がした。
初めて会ったはずなのに――
同じ「孤独」の気配がした。
その女性は恥ずかしそうに笑った。
――その瞬間。
「……あなたも、ずっと一人だったんだね」
舞は息を呑んだ。
「どうしてわかったの?」
店内の音が全て消えたような沈黙の後、
「……私も、ずっとそうだった」
そしてまた自分のグラスに視線を合わせカラカラと氷を回した。
「……これ、少し苦いよね」
「うん、そうだね」
「でも、嫌いじゃない……」
舞は引力に引かれたかのように近づいていく。
「……なんか不思議だね」
「うん」
「初めて会った気がしないね」
舞はその女性の横の、椅子に目をやり
「隣いいかな?」と言いながらグラスを寄せた。
他人とはなるべく関わらない。
そのモットーを忘れてしまうような魅力がその女性にはあった。
「もちろんいいですよ――」
「ありがとう。私は舞……よろしくね」
「私は結……こちらこそ。こうやって誘われたことないから少し緊張しちゃう」
と顔を赤らめた。
「私もよ、こんな声のかけ方するなんて……自分でもびっくり。なにか結さんに感じる何かがあるのかも」
「私も舞さんにシンパシーを感じるわ」
自分のことを語り合った。
「私は二十二歳よ」
「私も同じです」
「なんだか親近感湧くね」
結が舞の身体をチラチラと見ている。
「な、何?」
「あ、ごめんなさい、すごく引き締まった体してるなぁて羨ましくて」
「仕事でインストラクターしているのよ。趣味で総合格闘技のジムにも通ってるの。護身もかねてね」
「すごいね、かっこいい」
しなやかな強さを感じる立ち姿だった。
「そんな見たら照れるよ。結さんは何してるの?」
「広告代理店でイベントプランナーをしているの。 趣味は学生の頃はバンドやってた!ベースだけどね。今はたまにアーチェリーに行ったりしてる。あの狙いを定める緊張感が好きなんだよね〜」
グラス越しに見つめる時間がやけに長く感じる。
二人の間に緊張が増していく。――(もしかしたら?)という気持ちがどんどん強くなる。
結もまた(もしかしたらこの人が)という気持ちが止まらなくなっていた。
舞が気になってたことを聞く
「ねぇどうしてカウンターで私の事すごい見てたの?」
「うん、すごく素敵な人だなぁってそれとなんか寂しそうだなぁって」
「寂しそう?一人だったから?」
「そうじゃないよ、寂しそうっていうのは少し間違ってるのかな……なんだか孤独であることを覚悟している?そんな気がしたの」
「そんなふうに見えたの?なんだか恥ずかしい……」
舞は身体が震えそうなぐらい動揺していた。
(私は孤独……誰にも言えない秘密を抱えてる。
結さん?あなたどうしてそれに気づくことができたの?もしかして私達は……)
「結さんはどうなの?同じ一人で座ってたじゃない?」
「私はそうね……昔からすごく勘が良くて」
「勘?」
「そう、その勘が今夜ここに来て、ここに座って、舞さんを見つけたって感じ、意味わかんないよね。」
と言って笑った。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
もう目を逸らせなかった。
――グラスの氷が、カランと小さく音を立てた。
会話が途切れる。
けれど――不思議と気まずさはなかった。
ただ、何かを言えば、全部が変わってしまいそうで。
その一言が、喉の奥で止まっていた。
舞は、ほんの少しだけ視線を落とした。
(……この人に触れたら、戻れなくなる)
結も同じように、グラスに視線を落としていた。
指先が、わずかに震えている。
「……ねぇ」
同時に声が重なった。
二人は顔を見合わせて、小さく笑う。
「先、どうぞ」
「ううん、舞さんから」
譲り合うその距離が、もどかしい。
近いのに、触れられない。
「……なんでもない」
舞は、そう言って笑った。
本当は、なんでもないじゃないのに。
「……私も」
結も同じように、言葉を飲み込む。
また氷の音だけが続いた。
グラスの中の氷はもう小さくなっていた。
でもそれは、さっきまでの静けさとは違っていた。
少しだけ、熱を帯びている。
あと一歩。ほんの少し勇気を出せば、届く距離。
でも――
(怖い)
舞は、そう思った。
(やっと出会えたのに、失うのが怖い)
結もまた、同じだった。
「……今日は、もう帰るね……」
結のその一言に、
舞はほんの一瞬だけ驚いたあと、ゆっくり頷いた。
「……うん」
その“うん”の中に言えなかった全部が詰まっていた。
連絡先だけ交換した。
その日の夜……2人は全く寝れず夜中に何度もスマホを見てしまう。
空が白み始めた。
結のスマホがチカチカと光る。
通知を見た。
舞からだった。
【今夜も会いたい】の文字が寝不足の目に焼き付く。
結もすぐに【私も会いたい】と返した。
その日の昼間、舞はジムで指導しながら注意深く周りを見る。
(監視されてる……なんてことはないよね……)
「心配しすぎか……」独り言を呟く。
夜のことを思うと自然にバーベルが軽く感じた。
シャワーを浴び出掛ける準備をする。
鏡に映る自分の体を見て……呟く
「――大丈夫だよね」
昨夜とほぼ同じ時間にBARに着いた。
結は先に来ていて、軽く手を挙げてこっちだよと合図してくれた。
結は昨日よりも美しく、舞は見蕩れてしまう。
「あんな夜中にごめんね」
「ううん……私も起きてた……それでスマホのメッセージが来た時……本当に嬉しかったの。」
2人は乾杯した。
グラスを持つ手が、少しだけぎこちない。
昨日と同じ場所のはずなのに、距離の測り方が分からなくなっていた。
「昨日の続きみたいだね」
結が小さく笑う。
「うん」
舞も、少しだけ照れたように頷いた。
「昨日、言えなかったこと……まだ残ってる?」
その一言で、空気が少しだけ揺れる。
店には時計が一切置いていない。時間など気にせず過ごして欲しいということなのだろうか?
スマホを見る。(もう!こんな時間?)
時がどんどん過ぎていく。
舞は覚悟を決めて聞いた。
「これは私の勘なんだけどね」
「うん」
「私……ずっと誰にも言えなかった秘密があるの」
舞の指先が震える。ゆっくりと息を吸う。
「結さん……あなたも同じなの?」
結の体が驚いたようにビクッとなる
「ど……どうして?」
「私もだからよ」
ハッとした顔で舞を見た
舞のたまらなく優しい笑顔があった。
そっと舞が結の手を握る。
暖かい優しい手だった。
結がその手に自分の手を重ねた。
「勘が当たっちゃったね」
見つめ合いそして心が重なる。
(……もう、戻れなくてもいい)
勇気を出して舞が囁くようにいう。
「良かったら私の部屋に来ない?」
舞は自分の手の震えを隠すように結の手をぎゅっと強く握った。
「う……うん……」
結は自分の声が震えてるのを隠すように答えた。
二人はBARを出るとごく自然に手を繋いだ。
夜の街を舞の家に向かい歩く二人のヒールの音が心地よく街に響く。
(なんなの?この気持ちは?初めて同じ歳のふたなりの女性と出会ってこんな次の日に部屋に誘うなんて……)
信号が赤になり待つ時間が永遠に感じる。
結が舞の迷いを感じたのか?
「なんだか私の魂と舞さんの魂が共鳴したように今も私の全てを震わしているみたい……こんなにドキドキしてる」
結が舞の手を自分の胸に押し当てた。
トクン、トクン、胸の感触と確かな鼓動の震えを感じて舞は考えるのをやめた。
この人を離したくない……その気持ちだけだった。
(ゆ、い……)
信号が変わり歩き始めた。
恥ずかしそうな結の横顔があまりにも美しかった。
家までの距離がもどかしく走り始めたい衝動を抑えた。
舞の部屋に入る。ドアを閉めた瞬間、静寂が落ちた。
次の瞬間、結を抱き寄せていた。
「ねぇ……私の事は舞って呼んで……私も結って呼びたいから……」
「わかった」
指先が震えながら、互いの服に触れた。
隠し続けてきたものを
初めて誰かの前で解き放つ瞬間だった。
――ふたなり。
二人はお互いの秘密を共有した。
今まで誰にも言えなかった……
見つめ合う。
「どうして?こんなに会ってすぐなのに結のことこんなに好きになってる」
「私も舞のことが好き……こんな気持ち初めて……」
お互いの気持ちが伝わりもう決壊したダムのように気持ちが溢れる……
二人は知った。もう二度と孤独には戻れない。
夜が終わるまで――
互いの体温を確かめ続けた。
朝カーテンの隙間から光が差し込み2人の身体を照す。
「おはよう舞。」
「おはよう……結」
そんな朝の挨拶すら愛おしく感じる。
「こうしてふたなり同士が出会うことなんてあると思ってなかったよ」
結が舞の髪を撫でながら話す。
「きっとふたなりどうしって基本気づかないし……
人に言えないよね?結は御両親以外に誰か知ってる人いるの?」
結は考えるように視線を泳がし、「ううん、いない……いなかった。誰にも言えなかったし」
「そうだよね……周りにバレて管理局に通報されたら大変なことになるって……」
「それって都市伝説じゃないの?」
舞は一瞬目を伏せ……しばらく黙り込む――
結が何かを感じたのか
「何かあったの?」と聞く
「ううん、大丈夫、ちょっと昔のことを思い出しただけ、誰だったかなぁって、知り合いが酷い目にあったことあるって聞いたことあるから……結も注意してね」
「うん。わかったよ」
2人の甘い恋人生活が始まった。
永遠に続くはずだった
――あの日、気づかれるまでは。
読んでくださってありがとうございました。




