火点
火点〜お楽しみください
三日月舞
バカンス編〜火点〜
休暇中は舞と結は二人で初めてミッションではなく純粋なバカンスにモルディブに来ていた。
ゆっくりと部屋でのんびりして、舞はヨガやピラティスに勤しむ。結も舞に習ってヨガの基本から学んだ。
二人で水着を着てアンドロギュノスの私有地ビーチを歩き、夜はドレスアップして目一杯おしゃれに高級レストランで美味しい食事を堪能して過ごした。
夕暮れの海はオレンジ色に染まり、波の音だけが静かに響いていた。
「あーー本当に楽しいバカンスだったね」
「うん、久しぶりにリフレッシュ出来たね」
そして最終日二人は街でショッピングを楽しんでいた。
「マユリやLABOのみんなにお土産買わなきゃね」
「今日はなんだか街が昨日までと違うね」
街が何やらざわついていた。
その時――
行商の人だかりの中から争いのような声が聞こえた。
少女のよく通る声がする。
「お前ら〜お金払え〜」
ガラの悪いチンピラに威勢よく叫んでいた。
どうやら縄張りに無断で商売をして絡まれているらしい。チンピラが商品の代金を踏み倒しているようだ。
「うるせぇ〜こんなところで勝手に商売」
女の子が押されて尻もちをつく。
スカートがめくれ上がり下着が見えてしまい、少女が慌てて押さえる。
少女は見られてないか?と周りに視線を巡らすが、チンピラ達の目の色が変わったのを見て
(しまった!見られた!)
と警戒した。
「おい!お前……」
チンピラが少女に手を伸ばす。
その手首を音もなく近づいた舞が掴んで締め上げる 「イタタタタ……なんだテメエ!」
「やめなさいよ……大人がみっともない」
「この!」
殴りかかってくる拳を手のひらで受け止め握力を少しこめる。
「いたたたたた……なんだよテメェーゴリラか?」
「よくこんな可愛い女の子にゴリラなんて言うわね」
顔は笑っているが握力が増した。
男の拳の骨がギシギシと軋む。
「ひぃぃ」
もう一人も殴りかかってきた。
舞は捕まえてる男の顔を引き寄せガードすると、男の顔にパンチが当たり鼻血が出た。そのまま男の背中を押して男ごとぶつけた。
二人は吹っ飛び、残りのチンピラも逃げていった。
結は女の子に近寄り
「怪我はしてない?」
と、やさしく聞いた。
女の子は目を輝かせて言った。
「ありがとう〜お姉ちゃんたち、すごい!まるで伝説の妖精さんのようだよ〜」
「へぇそんな言い伝えがあるんだね〜私達はただの旅行者だから、よく知らないの」
「だよねー子供だましの伝説だもん。誰も信じてないよー」と笑い飛ばした。
「あ――私は結。こっちは舞。あなたは?」
「私はモカだよ」
三人が話していると
「子供だましの伝説なんかじゃないって――妖精さんはいるんだから!」
もう一人女の子が走って寄ってきた。
「カリン!まだ言ってるの?妖精なんていないって言ってるでしょ」
モカとカリンは口ゲンカを始めた。
「カリンったら毎日毎日空を飛ぶ夢を見るんだって〜自分が妖精にでもなった夢見てるんじゃないの?」
「そんなのじゃないってば!」
結は二人の間に入り仲裁した。
「やめなさい!二人は友達なんでしょ?」
カリンが怒ったように
「こんなやつ知らなーい。いつも無茶して心配ばっかりかけるんだもん」
とモカに文句を言う。
結は舞を見てクスリと笑った。
舞はばつ悪そうに頭をポリポリと掻いている。
「それよりごめんね、さっき転んだ時にちらっと見えちゃって」
モカが一歩引き警戒の目を向けてくる。
「大丈夫よ――安心して、私も舞も同じだから」
「そうなの?カリン以外で初めて会ったよ、それも二人」
カリンとモカはふたなりで幼い頃から両親のいない同士、力を合わせて生きてきたらしい。
モカはいつも無茶をしてそれをカリンが助ける。
そんな関係が何となく舞と私に似てるなぁと結は他人事とは思えなくなっていた。
カリンは嬉しそうに言った。
「今夜は村の<妖精祭り>なんだよ!この日には願ってる人の元に妖精さんが現れるの!」
目を輝かせて話してくれた。
「それで今日はなんだか賑やかなのね」
結は声を出さなくても意思疎通が出来る指と手の動きで表すフェアリーサインで(あのチンピラたちきっと諦めないわよ……モカとカリン心配ね)といった。
夕方になり村が祭りモードに入っていく。
舞と結は部屋からのんびりと祭りで賑わいつつある景色を見ていた。
ぼんやりと祭りの準備が整いつつある村を見つめる二人……
今日で休暇も終わり明日帰国する。
しかし心のどこかで何かが引っかかっていた。
モカとカリンのことだ。
予感は的中しモカが息を切らして走ってきた。
「お姉ちゃん!カリンが!カリンが!連れていかれた!」
舞と結は同時に立ち上がる……
「あのチンピラ!」
拳に力が入った。
「何があったの?話して」
結が問いかける
――夕方、モカが家に帰ると部屋に書き置きがありカリンの字で【心配しないでしばらくお金稼ぎに出稼ぎでもしてくるよ!帰ったら二人でどこか村から出て暮らそ】と、置き書きがあった。
モカはその紙に涙が落ちた跡があるのを見逃さなかった。
カリンは攫われたんだ……
というよりモカとの暮らしのため
モカの安全のために、もしかしたらお金と引替えに自分を売ったのかもしれない。
モカはどうしていいか分からず、舞と結のところに来た。
舞と結は助けに行こうとは言わず、警察に行った方がいいとアドバイスする。
「どうして?お姉ちゃん助けてよ!あんなに強いのに!警察や私ではどうにもならないよ!」
と叫んだ。
結は心を鬼にしてキッパリと言う。
「カリンはあなたの為に、あなたの幸せを祈り行ったのよ」
「……私達が介入していい話ではないわ!あなたが何とかしなさい!」
結は胸を抉られるような痛みを堪え、わざと冷徹な声を絞り出した。
「私達は明日には自分のしなければならない事をするために自分の国に帰るわ!」
「そんな人をあてにしていいの?これからもあなたたち二人で生きてゆくのでしょ?!奪われたのなら自分の力で奪い返しなさい!」
心の鬼にして突き放した。
「お姉ちゃんのバカぁ」
と叫んでモカは飛び出して行った。
舞が結の肩をポンポンと叩く。
自分たちの通ってきた血塗られた道を、あの子たちには歩ませたくない。
でも――
弱いままでいればもっと残酷な運命に飲み込まれる。
結は舞の胸で少し泣いた。でもすぐに顔を上げ
「舞!いくよ!」
と力強く立ち上がった!
モカは息が切れても走り続けた。
(どこ?カリンどこにいるのよ?)
焦燥感から涙がこぼれる。
街では妖精祭りが始まっていた。
名物のスカイランタンも始まっていた。願いを込めたランタンを熱気球のように無数に大空へと飛ばし祈り願う妖精祭り最大の名物だ。
カリンの無事を願う。
モカもふたなりが悪いやつに捕まるとどうなるか少しはわかっていた。乱暴され売られてボロボロに擦り切れるまで玩具にされる。カリンがそんなことになるのを想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
悪いやつというワードで記憶が開いた。
「はっ!悪いやつ!そういえば村はずれの洞窟が悪い人達のたまり場になっていると聞いたことがある」
絶対に近寄っては行けない場所。そこだ!
(カリン!待ってて、今行くから)
モカが落ちていた木の棒を拾い上げ両手で力強く握りしめた。
これはモカが自分の力で戦うと決めた
《勇者の聖剣》だった。
握る力でモカの手が白くなる。
モカはお祭りの喧騒に背を向け駆け出した。
足をもつれさせながら走った。
読んでくださりありがとうございました。
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