出発前
出発前〜お楽しみください( ˊᗜˋ)(ˊᗜˋ)(ˊᗜˋ )
三日月
バカンス編〜出発前〜
ツインビルでの激闘からしばらく。
舞と結には、リハビリを兼ねた短い休暇が与えられていた。
今日は休暇前のマユリのCOCOON検査の日だった。
その前に舞と結はマユリと三人でカフェで顔を合わせていた。
マユリと会うのはあの八十八階以降初めてだった。
何となく気恥ずかしい空気が流れる中、舞が先陣を切って話し出した。
「マユリ、改めて……この間はマユリのおかげで助かったわ、ありがとう……それに私たちのためにあんな戦場にまで来てくれて」
マユリは不意にその話に触れられて、慌てて取り繕った。
「いやいや……お礼なんていらないのさ!あのとき二人のネックレスデバイスが二人のエナジーを測定して、ありえない数値が観測されたのでね。現地調査に向かっただけのことなのだよ」
「だったらどうして一緒に泣いてくれたの?」
と舞は少し意地悪そうに聞いた。
「それを言わないでおくれよ」
マユリの顔が赤くなった。
「まぁその……この話はもういいじゃないか、それより私に聞きたいことってなんだい?」
「そのネックレスのことよ、私たちが、その、なんか自分でも訳の分からないことになったのに、あのネックレスが私たちの闇を吸い取ってくれたような気がするのよ」
マユリが襟を正す。
「うむ、あのデバイスは言った通り御守りみたいなもので、暴走したエナジーを制御するために作ったのだよ。上手くいったのはCOCOONで今まで二人のエナジーをずっと見てきたからだと思っているのだよ」
マユリが真剣な顔で二人の目を見て言う。
「でも……言っておこう!あそこまでなのだよ、あれ以上の暴走はもう私では制御出来ないのだよ。今回は偶然と、君たちの絆があったからこそだと、私はそう思っているのだよ。なんにせよ君達の役に立てて良かった」
三人の間に優しい風が吹いた。
舞が小っ恥ずかしくて話題を変えた。
「そもそも私たちふたなりってなんなの?なんのために生まれたのかな?」
マユリの眉がピクリと動く
「それはまた哲学的な質問だね。人はどこから来てどこへ行くのか?ってことかな?」
「ううん、もっと具体的にふたなりについて知りたいのよ」
舞とマユリの会話に結は黙って聞いていた。
「実を言うと、ふたなりにはまだまだ謎が多いのだよ、
私ももちろんそうなのだが……」
「確かにふたなりには普通の人にはない能力が発現する例が多いと確認されている」
「しかし、なぜなのか?ということはまだよくわかってないのだよ!」
「それとレゾナンス・シグマと呼ばれる共鳴紋、指紋のように一人として同じ紋様はないと言われている、ふたなりだけのあの紋様も謎なのだよ」
三人の意識が腹部へ向く、手のひらで服の上から共鳴紋に触れる。
「ただ一つ、わかっているのは、エナジーは共鳴紋から湧き出すのだよ」
「エナジーが?」
「だからふたなりにだけ、エナジーがあるのだよ」
「ちょっと待って、じゃあこの共鳴紋は力を生み出すためにあるの?」
「それすらわかってないのだよ」
マユリは続ける。
「ふたなりは子を成すことができない!なのに普通の人間の子供として先天的に生まれる。イレギュラーなのか?それも分からない」
「その辺はもしかしたらティアの方が知っているのかも しれないのだよ」
少し考えるように視線を泳がせた。
「ただ私も推測の域は出ないけど……もしこの世に神というものが存在しているならば」
マユリは自嘲気味に、静かに微笑んだ。
「神様はきっとふたなりなのだと思ってるよ。科学者とは思えないセリフだと呆れないでおくれよ」
と言って笑った。
「マユリみたいな神様だったらこの世はスイーツ天国だね」
「それは君達も同じなのだよ。ほら来たよ」
注文していたスイーツがテーブルに並ぶ。
「さぁ天国に行くのだよ」
三人は笑ってフォークを握りしめた。
楽しい時間が終わりマユリが時計を見ながら席を立った。
「さぁ検査の時間なのだよ」
少し前を歩いているが、マユリの足取りはどこか重かった。
マユリの検査には慣れたものですぐに準備を済ませて、COCOONのシートに座り目を閉じてリラックスする。
「ふふふっ慣れたもんだね、ありがたいよ」
COCOONの蓋が降りていき、完全に外と隔離される。ふわふわと浮いているような感覚に身を委ねた。
外で凄いスピードでキーボードを叩いているマユリの顔がハッチが閉まる直前にチラリと見えた。
いつもよりも何かに我慢しているように緩く唇を噛んでいた。
マユリのエンターキーを押す指が一瞬止まる。
二台のCOCOONに視線を移し……そして震える指で実行キーを押した。
COCOONが低音の小さい機械音が部屋に響いた。
あの夢のような記憶の奥底に潜っていくような感覚がやってきた。
◇◇
結が初めて見る光景だった。
はるか昔……中世?
もっと昔?
戦争をしていた。
無数に矢が降り注ぐ。
弓矢の雨の中を泥を跳ね上げながら軍馬に乗った結が駆け巡る。
「引けー砦まで撤退だ!」
しんがりを務め追い討ちの敵を仕留めながら退却戦をしているようだ。
結の周りの味方が次々と射抜かれ、塵になっていく
(あぁ……仲間が……)
追っ手が叫ぶ!
「ヴァンパイア共を逃がすな!」
(なんの記憶なの?)
結の口から咆哮が迸った。
「この人間共がぁ」
結はあの禍々しいヴァンパイアの姿になって馬から飛び、追っ手の首筋に牙を打ち立てた。
口の中に血の味の記憶が――
エラー音が鳴り響き、COCOONが止まると結の記憶も薄くなり消えていく。
意識がぼんやりとする。
今見た夢も何も思い出せない。
「私……泣いてる?」理由も分からないまま、目から涙だけが流れていた……
◇◇
舞もまた夢とも記憶ともつかない光景の中にいた。
どこか田舎の村のようだ。
村人が畑仕事をしている。
のどかな景色の中聞き慣れた声がした。
「お姉ちゃん〜」
舞が振り返りながら返事する。
「ここにいるよー」
と言った瞬間景色が反転して辺りは火に包まれた。
お姉ちゃんと呼んでくれた声が咆哮になった。
駆けていた可愛い妹が二本の角が生えている鬼へと変貌した。
見知らぬ敵と戦っている。
「鬼狩りだーにげろー」
村人たちの悲鳴。
「いや!戦うのだ」
武装した兵士たちの怒号。
「この鬼たちを打ち倒すのだ!」
様々な叫びが村に響く。
二本角の鬼に数え切れない程の銃弾が浴びせられる。
舞は叫んだ!
「この人間共がぁ」
舞はあの鬼になり
二本角に向かって駆け出した。
エラー音が鳴り、機械が止まると結と同じく記憶は薄れ、涙だけが残っていた。
◇
「マユリ…………COCOONって?……」
マユリは答えない。
マユリはデータシートを引きちぎるように掴んだ。
しかし声だけは、優しかった。
「舞……結、今日はここまでだ……休暇はのんびりすごしてくれたまえよ」
と言ってLABOから出ていった。
◇
マユリはそのまま本部の最下層よりまだ下……誰も立ち入ることの出来ない地下深くの特級特別区画にいた。
ブンッと低く重苦しい機械音が部屋に響く。
誰もいないはずの部屋の真ん中に誰かいる気配がした。
マユリはまるで己の魂から搾り取るように、独り言を呟いた。
「もうこんな役回りはやめさせてくれないか?」
答えはなく、暗闇の奥で何かの機械音だけが低く脈打っていた。
マユリのその顔は暗がりの中、泣いているようだった。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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