ヴァンパイア
ヴァンパイア〜お楽しみください。
三日月
ツインビル編〜ヴァンパイア〜
はぁはぁ…………
戦場に結の荒い呼吸が響いた。
結はもう既にエナジーバーストを二発撃っていた。
いや、撃たされたと言うべきか……
敵は最初から結にエナジーバーストを浪費させるつもりだった。
常に複数人でまとまって飛び出してくる。
敵の数も減ってきているが、結は動きを止めず、蹴りで相手の回避する方向を誘導する。
なるべく多くの敵を同じ射線に――
「ここだ!エナジーバースト!」
光の渦が一度に五人を消し飛ばした。
「ぐ……う……ぁ……」
心臓が壊れてしまいそうなぐらい早鐘を打った。
ライフルを杖にして何とか立っていた。
(敵は?)
(もう居ない?)
(終わったのか?)
その時ゆっくりとドアが開いた。
ドアの隙間からニードルガンが発射された。
間一髪転がって避ける。
結がいた場所にニードルが束になり床に穴を穿つ。
ドアを睨むとヌッとクイーンが残虐な笑みを浮かべて出てきた。
狂気に満ちた歪んだ顔。
鈍い銀色に光る右腕——失った腕は武器を仕組んだ義手になっていた。
両手にニードルガン。
結は激しく震える身体をなんとか支え、血の気の引いた唇で歪に微笑んだ。
「はは、嘘でしょ。……最悪のタイミングで、大ボスのお出ましってわけね」
クイーンが義手を見せながら恨みを込めて言う。
「ないはずの腕が痛くて痛くて……ファントムペインなんて!フェアリー結!――お前を殺せばこの痛みが治るのよ!」
「あなた――それにしても雰囲気変わったわね、言葉も汚いわ」
クイーンが唾を飛ばしながら激昂する。
「お前を穴だらけにすることだけを考えて生き延びた!もうあの技も使えないんだろ?」
「それが狙いなの?もしかして他の傭兵をそのために?」
「私の駒になって死なせてあげたのよ!」
「もういい……それ以上喋らないで!反吐が出るわ!」
言葉を交わしながらも、二人は遮蔽物から遮蔽物へと移る。
少しでも有利な射線を取るために。
結が飛び出しながらライフルを撃った。
結の弾丸が当たったように見えたがクィーンの身体の輪郭が揺らぐ。
「な……何?」
目を疑った。
クイーンの姿が三人になっていた。
三人全てが実体のような殺気を放っている。
「ふふ……分裂投影――!死ぬまでいくつ穴が空くのかしらねぇ」
ニードルガンが三体のどれから撃たれるのかわからなかった。
(本体を確定できない!)
足と腕に被弾して穴が空いた。
血が滴り、痛みで視界が揺らぐ。
舞の顔が脳裏に浮かんだ……
(死んでたまるか)
エナジーリミッター解放!!
結は自分自身にありったけのエナジーを流し込んだ。
全身の細胞が人の領域を越えようとしていた。
結の周囲の空間が歪む。
その瞬間——その姿が消えた。
クイーンは結の動きについてこれず当たり構わず撃ちまくった。
結の感覚だけが極限まで加速する。
飛来するニードルが止まって見えた。
少しずつ時の流れが元のスピードに戻っていく。
……三人のクイーンが結に向けてニードルガンを撃った!
結は全てをかけて叫んだ!
「ファイナルバースト!!!」
光の奔流が銃口を溶かしながら発射された。
手の中で、小さな爆発が起きた。
——エナジーライフルが壊れる。
相棒を失う感覚に、結の心が揺れた。
全てを飲み込むエナジーの奔流が束になり螺旋を描きながら、クイーンに襲いかかる。
「くああ!」
本体だけが咄嗟に身を捻った。
二体の投影体は消滅し、逃げ遅れた本体の左腕も光に呑まれた。
結はその場に倒れ胸を押さえて息が出来なかった。
「がひゅぅぅ……がひゅぅぅ……」
空気が、入ってこない。
結の視線にモゾモゾと動く影が……
クィーンが血を吐きながら、顔を血で真っ赤に染め、身の毛もよだつような笑顔で立っていた。
「勝った!」
顔を思い切り蹴られた。
結の顔から鮮血が飛び、自分の口に入った――
(ドクン!!)
口内に血の味が――甘露のような甘さが結の脳を焼き尽くす。
(死にたくない!死にたくない!)
願う先に舞の笑顔があった。
その笑顔に――虚空に手を伸ばす。
その手をクイーンが踏みつけ靴底でグリグリとねじる。痛みで悲鳴が上がる。
「その悲鳴が――ああ……気持ちいい」
恍惚とした吐息を漏らす。
クイーンは狂っていた。
義手の右手の手首を外す。
仕込まれたニードルの束。
「ゴフッ」クイーンが血を吐いた。
その血の温かな飛沫が結の唇に触れる。
ドクン!
もう、抑えられなかった。
血の味が結の奥底にいる『何か』を完全に目覚めさせた。
声が聞こえる――精神の声……
『その力、何のために使う?』
(生きる!!舞と生きる!)
「そろそろその顔に穴を開けて殺してやるわ」
クィーンはニードルガンの狙いをつけた。
「死ね!」
クィーンが撃った。
しかしニードルは発射されなかった。
ん?クィーンが右手を見る。
見られなかった……クィーンの義手の右腕が肩から消えていたからだ。
床に転がる自分の義手より先に結を見た。
ゴォォォァァアア!!
カッと見開かれた双眸が、黄金色に染まった。
その虹彩が獣のごとく縦一文字に裂ける。
歪んだ口から牙が覗く。
メキ……メキメキッ――
伸び続ける牙が唇を傷つけ、顎を伝って血が滴った。
指先が震える。
爪が肉を押し退けるように伸び、漆黒の鉤爪へと変貌していく。
そして――皮膚までが変わり始めた。
血の気が引いたように灰白色へと染まり、肌の表面がひび割れたように硬質化していく。
その下では青黒い血管が脈打ち、結の身体を内側から別の生き物へと作り替えていた。
「――ッ……ァ……!」
もう言葉にならない。
理性を押し流すように、ただひとつの渇望だけが膨れ上がる。
――血。
もっと――血を。
次の瞬間。
バキィッ!!
背中から衣服を突き破り、禍々しいコウモリの翼が一気に展開した。
青いエナジーが翼の血管を走り、夜の闇を切り裂くようにバサリと広がる。
服の下では、腹部から下腹部に刻まれた共鳴紋が青く明滅していた。
そこにいたのは、もういつもの結ではなかった。
それでも――
黄金に裂けたその瞳の奥にだけ、わずかに結が残っていた。
ゴォォォァァアア!!
絶対的な禍々しさの中にどこか神々しさがあった。
クィーンは恍惚とした顔でその禍々しき力の塊から目を背けられなかった。
「ああああああ」
ヨダレを垂らして目を輝かせていた。
「ああ……なんて美しいの――」
ヴァンパイアが口角を上げ、牙を剥き出しにする。
「ヴァンパイア……こんなに美しい化け物……ひぃ」
結が鋭い爪の腕を閃いた。
次の瞬間、クィーンの首が言葉の途中で宙に飛んで床に転がった。
最後の「化け物」という言葉が結の耳にこびりついた……
べっとりと返り血で濡れた自分の手を見つめ、それがもはや人間の指先ではないことに、結の魂が震えた。
結の心の中の最後の欠片が叫んだ。
「違う!私は化け物じゃない!」
しかし口から出たのは、ごおおあぁぁぁぁという咆哮だった。
読んでくださりありがとうございました。
次回更新は明日19時です。
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