カンパニー
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三日月
妖精狩り編〜カンパニー〜
薄暗く広い部屋の真ん中に円卓テーブルが置かれていた。
そこで開かれているのは、表には決して出ない者たちの会議だった。
各席には人影はなく、モニターと《ONLYSOUND》と書かれた四角い端末だけが置かれていた。
ありとあらゆる裏の世界のフィクサー達が音声通話のみの会議に参加していた。唯一、その会議の進行役だけがスーツ姿で円卓の真ん中に立っていた。
「太平洋貨物船のレゾナント人身売買」
沈む貨物船がモニターに映し出された。
「アメリカのレゾナントシンジケート壊滅」
顔を腫らしたシンジケートのボスが警察に連行される画像が映し出された。
モニターが次々と切り替わる。
「日本の管理局強襲」
半壊したビルが映し出された。
「フランスの実験設備破壊」
工場らしき建物が火に包まれている映像が映し出された。
「直近でこれだけの共性ビジネスが破綻に追いやられています!」
男が資料を机に放り投げながら呆れたように羅列していく。
「我々が共性の売買を生業の一つとして、大きな資金源となっているのは周知の事実であります。レゾナントは希少でございます。それを確保し、スポンサーに高値で売る!そうすることで我々は潤ってきた!」
男はカメラを見つめながら少し大袈裟に身振り手振りで話していた。
「しかし!!ここ数ヶ月せっかく捕らえたレゾナントを奪還しようとする争いが絶えません。そして、それはことごとく敗北。レゾナントは奪還され保護され守られています。原因ははっきりしています!」
モニターに偵察衛星からのリアルタイム画像が映し出される。日本列島が映し出され、そこから関東、東京へと段階的にズームされていった。
やがて、交差点を歩く二人の女性の姿が鮮明に映し出された。
買い物をしている普通の若い女性にしか見えない。二人並んで買い物袋をぶら下げている。
「アンドロギュノス特殊戦闘員フェアリー!」
男が説明した。
「フェアリー舞とフェアリー結。この二人が我々のビジネスを壊しています。これは由々しき事態でございます。厄介なことに、この二人は強い!そこで提案がございます。まずはこの二人の抹殺!それを最重要案件とし世界的傭兵組織『カンパニー』に依頼をかけるべきだと進言致します」
会議の参加者の一人が言う。音声スピーカーから掠れた声が響く。
「カンパニーへの依頼はかなり高額と聞く」
ゴホンと咳払いの後、続ける。
「そこまでの費用を払う価値があるのかね?」
男が待ってましたとばかりに即答する。
「もちろんです!この二人から始まり次はアンドロギュノス壊滅!そうなれば世界中に隠れている共性——レゾナントを全て自由競争による売買合戦になるのです。安いものではありませんか?」
◇
雑踏のなか、舞と結の二人が並んで歩いていた。
二人で買い物に出かけていた。
両手に荷物をぶら下げ、いい買い物が出来たのだろう。
満足な笑顔で歩いていた。
スクランブル交差点の信号が青に変わった。
結が一歩踏み出したが、舞は何故か一歩も動かなかった。
結が振り返った。
「舞?」
舞の両手の荷物が地面に落ちた。
おもむろに真上を見上げたその瞳——鋭い眼光が、遙か成層圏の彼方に浮かぶ一点を睨みつけた。
会議室のモニターに、こちらを睨みつける女の顔がアップで映る。
会議室の空気が一瞬で凍りついた。
そして次の瞬間、ざわめきが広がった。
「見えてるのか?」
「馬鹿な!偵察衛星の画像だぞ!」
その女の目が冷徹に細められた。
その瞳が、ギラリと黄金の輝きを放った。
――バリッ!!!
衛星画像に雷のようなノイズが走った。
「おおっー」
参加者たちの声が上がり、緊張が一気に伝播していった。
音声参加のモニターに全て青い文字で「認可」と表示される。
男がそれをみて高らかに声を上げる。
「賛成全会一致にてフェアリー舞、フェアリー結の抹殺計画を発動致します!」
◇
「舞?どうかした?」
空を見あげた舞に結が声をかけた。
舞が視線を戻すといつもの優しい眼差しだった。
「ふふっ、なんでもないよ〜。何となく視線を感じただけ」と、おどけてみせた。
◇
『カンパニー』――圧倒的な武力を誇り、世界の紛争には必ずその影があると噂される、最強の傭兵組織。
国家ですら、彼らを敵に回すことを避けるほどだった。
その中でも武闘派の最高戦力と言われる四人の傭兵にフェアリー舞とフェアリー結の抹殺司令が告げられた。
「俺たち傭兵だぜ?どうしてこんな小娘達に出なきゃならないんだ?」
巨漢のキングが机を叩く。
一撃でファイルが乗った机がバラバラになる。
「いつもと同じではありませんか?依頼があり戦場で戦果をあげる。何も変わりませんよ」
どこかインテリジェンスを感じるジャックが冷静に話した。
唯一の女性傭兵クイーンが手元のファイルをペラペラとめくりながら、
「なかなかその小娘たち強そうよ」
と肉食獣が獲物を見つけたような残虐な笑みを浮かべた。
「どこで勝負をかける?それに確かアンドロギュノス……あの裏切り者がいるところだな、この二人の次はあいつを殺す」
エースがライフルを整備しながら、何かを思い出したように唇を歪めた。
「妖精達の羽をもいで地べたに這いつくばらせてやるぜ」
キングが太い指をパキパキと鳴らす。
「私たち四人……カンパニーの力、見せてやるわ」
そう言いながらクイーンがファイルを空中に投げた。
次の瞬間、クイーンの腕からニードルガンが発射される。
ファイルが穴だらけになり壁に縫い付けられた。
「妖精狩りの時間よ!」クイーンが恍惚とした笑みを浮かべていた。
◇
――新しい任務が言い渡された。
砂漠地帯での偵察任務だった。強襲や潜入などではなく偵察だった。
レゾナントが捕らえられている、という確証がないということだった。
作戦出発前にマユリが二人の元へ来て言った。
「今回の偵察任務は、きな臭い匂いがするのだよ」
「きな臭い?」
舞が身を乗り出した。
「私も気になって調べてみたのだがね、情報の発信源がよく分からないのだよ」
「罠の匂いも捨てきれないって事だよね」
結も心配そうな声を出した。
「本当に助けを求めている人がいるのか……それとも罠なのか。でも、どちらにしても私達は行かなければならない。……少しの可能性も目を背けてはダメなのよ!」
舞が決意を込めて言った。
もし情報が正しく、本当に助けを求める少女がいるのなら――見捨てることなどできない。
いつでも救出ミッションに移行する心構えは持っていた。
「マユリ、いつもありがとう」
「行ってくるわ!」
「帰ってきたらいつものスイーツ忘れないでくれたまえよ」
「わかった。約束ね」
三人はいつものように抱き合った。
その腕だけが、いつもより少し強かった。
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