罪と罰と覚悟
罪と罰と覚悟〜お楽しみください
三日月
The First Mission〜罪と罰と覚悟〜
靴底が鉄板に触れたその刹那、舞の意識は戦闘モードへ移行した。
◇
結はボートの上でライフルのスコープ越しに舞のしなやかな動きを追い続けていた。
結は自然に早くなる呼吸をなだめるように深い呼吸を繰り返し、心拍数を整えた。
グリップを握る手のひらには汗が滲んでいた。
結は手のひらに息を吹きかけ、引き金に指をかける。
(舞……私がついてるからね)
◇
貨物船のデッキを素早く移動する舞の姿は、
まるで密林で獲物を狙うヒョウのようだった。
しなやかで無駄な動きがない。
三人の警備員の背後に静かに回り込んだ。
一人目の警備員の首元に手刀を叩き込み、崩れ落ちる前に二人目、三人目も素早く沈めた。
結の目に、舞が最後の敵に向かって飛びかかる姿が映った瞬間、スコープの中央に新たな標的が現れた。
舞のすぐ背後に忍び寄る敵だ。
敵の動きが速い
(舞!危ない)
結の指がトリガーにかかる。
迷いや躊躇は全くない。
引き金を静かに引いた瞬間、弾丸が放たれた。
エナジー弾の発射音が波を引き裂いて耳に届いた。
望遠スコープに男が揺れるのが見えた。
狙撃された男は舞に接近する寸前に頭蓋を貫通する一撃を受け、甲板上で崩れるように倒れて動かなくなった。
きっと何が起こったのかも分からないままだったのだろう。
覚悟も決まっていたが、引き金を引いた指が強張り震えた。
舞も結も、人を殺すことが平気なわけではない。
しかし、現にこうして、結は頭を撃ち抜き
舞はナイフで新たな敵の喉を切り裂く――
引き金を引いた指が、ナイフを握る手のひらが、痛いほどに強張っていた。
二人の脳裏にこのミッション前に交わした会話が蘇る。
あの夜、二人は同じ答えに辿り着いた。
「舞?私このライフルで人を殺すことになるかもしれない」
結の手がブルブルと震えていた。
舞はその手をギュッと握り返した。
「私も震えているよ、ほら」
アンドロギュノスに入るまでは、人を殺すことなど人生にあるとは思わなかった。
結は以前ゆかが言った言葉を思い出した。
(私は生まれて生きている!そのことだけよ!死ぬその瞬間まで生きる!そう思っているわ!)
私は決めたはずだ。
覚悟とはなんだろう。
人を殺す覚悟など、ありはしない。
人を殺し、それでも生きていくという覚悟があるだけだ。
血塗られた手は、私たちだけでいい。
誰かの涙を止めるために、その罪を背負う。
そしていつか、その代償を払う日が来るのかもしれない。
――その時まで、死ぬその瞬間まで生きる!それだけだ!
あの夜、二人で交わした言葉だった。
「舞!」
「結!」
『行くよ!』
結の顔に《揺るぎない覚悟》が刻まれた。
◇
結は舞をスコープ越しに見た。
舞を見てると力と勇気がふつふつと湧いてきた。
ライフルを構えたまま、額に薄く汗を浮かべつつもその瞳には自信が宿っていた。
結の髪を海上の風が揺らした。
遠くに見える貨物船を見据えながら無線に話しかけた。
「舞、完璧な動きだったよ!次の指示をくれれば、どこだって狙い撃てるからね」
スコープ越しに船底方向を凝視し、脳裏に最短ルートを描きながら、ライフルをしっかり構えたまま通信機に向かって声を送った。
「了解!船底へ続くハッチは、左舷側の貨物エリアにあるみたい。デッキの船尾側を通って貨物コンテナの影を利用すれば見つからずに接近できるよ。敵の巡回ルートも把握してるから、三十秒後にA地点から侵入して」
「了解!」
舞との視覚共有モニターに迷いなく疾走している様子が伺えた。
きっちり三十秒後にハッチが開くのがスコープに見えた。
「パーフェクトよ!舞」
◇
舞の口角が引き締まる。
足音を消しながら船底に向かう。
「あった」
舞の視線の先に鉄格子の牢屋があった。
中には五人の少女が身を寄せ合うように座っている。
鉄格子の前に三人のマシンガンを持った男がウロウロしていた。
三人……しかも全員マシンガン装備……
誰か一人でも、ほんの一瞬でも仕留め損なえば――
きっと中の五人の命は……
舞は状況を知らせるために視覚共有カメラを起動させた。
結は瞬時に状況を理解した。
「そのまま視覚共有して、なるべく舞は視線を動かさないで」
視神経にエナジーを込めると結の瞳が銀色に輝く。
結はエナジーライフルにエナジーを込める。
キュイーンという音とともにエナジー弾が準備された。
ゲージに《EM》マークが光った。
出力を最大に上げる。
左眼で視覚共有モニターを、右眼でスコープの3D映像を捉え、二つの情報を頭の中で重ねていく。
船は絶えず揺れている。
それでも照準はぶれない。
結は呼吸を止め……エナジー弾に貫通のイメージを叩き込む……
完全に船が透けて見えた。
(いける!)
――バシュ!
船の外装を突き抜け、一番手前にいた男がいきなり壁に吹っ飛んだ。
二射目——
「な、な……!」二人目がマシンガンを構える前に
額に穴が開きそのまま崩れ落ちた。
三人目は何も言うことも出来なかった。
舞の飛ぶ斬撃エナジースラッシュが静かに闇を切り裂く。
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