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フェアリー•レゾナンス  作者: 三日月
The First Mission

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ダイブ

ダイブ〜お楽しみください


三日月

The First Mission〜ダイブ〜

 射撃場には、まだマユリの笑い声の余韻が残っていた。

 結はライフルを傍らに置いた。

 マユリから受けた抱擁の温もりが、まだ身体に残っていた。


 結は頬を染めたまま、舞の方を見た。

 

 射撃場の蛍光灯が二人の決意に満ちた横顔を照らしていた。

「舞、これからどんな任務が待っていても、私たちなら乗り越えられるよね」


 自然に互いの手を重ね、体温を確かめ合うように指を絡めた。

 二人ならどんな試練にも立ち向かえる。

 そう思うだけで力が湧き、互いの魂が共鳴しているようだった。


◇

 

 部屋に戻ると机の上に分厚いファイルが置かれていた。

 二人は意を決してファイルの最初のページをめくった。



 《The First Mission》


 

 とだけ書いてあった。

 その文字を見た瞬間、背筋がゾクっと震えた。

 


◇

 

 

 ――漆黒の闇の中、小型の輸送機が高度8000メートルを飛んでいた。

 

 貨物室にはプロペラの轟音が響いている。

 輸送機の金属製ハッチは冷たく硬く、舞は縁に片手をかけて外を見つめていた。

 気負いも、特別な高揚もなかった。

 高度8000メートルの冷気が頬を刺す。眼下に広がるのは遠くに見える明かりと暗い海面だった。

 

 目標の貨物船は、本当にこの暗黒の中にいるのだろうか?

 レーダーには確かに反応があるが、漆黒の闇を見ていると不安がもたげてくる。

 

 レーダーだけを頼りに、舞は何度も確認した。

 

 舞は通信機のスイッチを入れ結に通信を送った。

 はっきりとした冷静な声が出た。

 震えはなかった。


「結、聞こえる?準備状況知らせて!」

 すぐに結の元気な声が返ってきた。

「舞、射撃準備オールグリーン!安心して」

 

 舞はうなずき最後の装備点検をする。

 左右のナイフをスッと抜き、暗闇の中のわずかな光を刃に反射させる。

 刃文が舞の魂に《揺るぎない覚悟》を灯した。

 

(よし!いける!)

 

 そしてまたホルダーに戻し、左手の多機能アーマーの動作とウェーブスーツの確認も怠らなかった。

 

 ウェーブスーツの生命維持機能がなければ寒さと低酸素でミッションどころではないだろう。

 降下作戦用の減速フィールドを発生させることが出来るマユリご自慢の特殊な戦闘スーツだ。


◇

  

 舞の脳裏に1週間前に二人で読み込んだファイルの内容が蘇る。

 

 The First Missionと書かれたファイルを二人で熟読した。

 

 内容は――太平洋上を航海する貨物船。

 表向きは輸出用貨物だが実際は捕らえられた共性たちを、密かに運ぶレゾナント人身売買船ということだった。

 作戦が立案され舞と結がその任務に抜擢された。

 貨物船には拉致されたレゾナントがいるとアンドロギュノスの諜報部が確認していた。

 舞は単独で空から侵入。

 結は一キロ離れたボート上からライフルによる索敵と狙撃支援を担う。

 二人で何度もシミュレーションして作戦を練り上げた。

 そして結と幾度となく、いろいろな覚悟の話をした。

 迷いは無い。


 

 それを思い出しながら舞はハッチの縁を握り直した。深く息を吸い込んだ。

 初めての任務という緊張が一瞬だけ全身を走る。

 


「舞?私たちなら出来る!私がサポートするのだから大丈夫よ」

 結の頼もしい声が聞こえる。

 

 ふぅ〜っとゆっくり息を吐く。

 ヨガの呼吸法だ。

 ゆっくりとチャクラにエナジーを送っていく。

 身体の奥底から力が湧いてくる。

 

 ヘルメットのモニターにカウントダウンが表示されパイロットに声をかける。

「ありがとう!帰りも安全にね!」

「フェアリー舞こそご武運を!」

「OK!ハッチオープン!」

 プロペラの轟音が耳をつんざいた。

 

 5……

 (すっと目を閉じる……)

 4……

 (五感が研ぎ澄まされていく)

 3……

 (ゆっくり目を開ける)

 2……

 (息を大きく吸う)

 1……

 (ゆっくり1歩踏み出す)

 0……

 まるで公園に散歩に行き、水たまりを軽く飛んで避けるように、漆黒の闇の中に飛び込んだ。


 あっという間に輸送機が離れていくのが見えた。

 

 頭から自由落下していく。

 舞の視界と世界がグルンと裏返った。

 腕を身体の横にそえて目標に向けて位置を調整していく。


 ◇

 

 結は貨物船からおよそ一キロ離れた高速ボートのデッキに座り、愛用武器エナジーライフルを構えていた。

 高性能スコープを覗く鋭い眼光は銀色を帯び、守るべき一点を決して逃がさないスナイパーの眼光だった。

 

 ヘルメットについている視覚共有モニターには闇夜へダイブする舞の視界が映し出されていた。


 ◇

 

 舞の身体が闇に溶けた瞬間、ウェーブスーツの制御システムが起動した。

 背中から微細な振動が走り、空気抵抗を操るフィールドが展開された。

 風が唸りを上げて身体を包み込む。

 急降下の加速が、内臓を引き下げられるような圧迫感が走り、身体が悲鳴をあげた。

 

 それでも視界はぶれずに目標を見据えていた。

 

「結、降下開始。風速、想定範囲内」

「了解。軌道修正値、送るね。……今のままで完璧よ、舞」

 左手の多機能アーマーに、淡く光るラインが浮かび上がった。

(言われた通り、マニュアル読んだからね)

 マユリのあの顔を思い出し、ニヤリと笑った。

 

 貨物船の輪郭が、夜の海にぼんやりと巨大な影を浮かび上がらせた。

 鉄と油と塩の匂いを孕んだ、無機質な要塞。


(……いた)

 

 舞の心拍が一瞬だけ強く跳ね、次の瞬間、すっと静まった。

 集中。

 雑念ゼロ。

 思考と身体が、ひとつの刃になった。

 

「結、目標視認。侵入ポイント、前部デッキ右舷。

三十秒後に接触」

 

「風向き良好。狙撃ポジションはすでに確保済み。

いつでも、舞の背中は守ってるからね」

 

 その一言が、背中に温度を灯す。

 舞はわずかに口角を上げた。

 「……ありがとう」

 そして、

 闇と海と鋼鉄の境界へ——

 

「減速フィールド最大展開」

 激しい減速Gで身体が悲鳴をあげる。

「くぅぅ――」

「相対速度、船と同調。三、二、一、着地!」

 着地の瞬間、ウェーブスーツが衝撃を吸収する。

 

 音もなく甲板に妖精が舞い降りた。

 

読んでくださって、ありがとうございました。

次回更新は明日19時です。


そしてよろしければブックマークや評価など頂けると

私自身の励みになります。

どうかよろしくお願いいたします。

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