銘切り
銘切り〜お楽しみください
三日月
訓練編〜銘切り〜
二人は科学技術局の近未来的なエリアに足を踏み入れた。
めざす先は開発課にいる、マユリのところだった。
マユリは二人を見つけると、幼さの残る顔に嬉しそうな笑顔を浮かべ、机の上のケースに手を置いた。
「随分とお待たせしたね!お二人さん。やっと君たちの相棒が出来たよ」
鈍い光を放つケースを前に緊張が走った。
マユリが見かねて言った。
「これから運命を共にする相棒を、いや恋人を前にそんなに緊張してどうするんだい?」
キューピッドよろしく、結の腕にケースを抱えさせ、もう一つのケースを舞の胸に押し付けた。
ケースの冷たさは二人の熱ですぐに馴染んで行った。
マユリは結に頷き、ケースを開けるよう促した。
結がゆっくりとケースを開けると、そこには黒光りするスナイパーライフルが入っていた。
特殊な金属でできていて見た目は重厚そうだが使いやすそうだった。
「結……君にはやはりスナイパーライフルがいいと判断し、この特殊エナジーライフルを開発したのだよ。構えてくれたまえ」
結がゆっくりとケースから持ち上げる。
「軽い!」
思わず声が出た。マユリが指示を出す。
「構えて!」
ライフルを構えトリガーにはまだ指をかけない。
瞳が輝き、スナイパーライフルを慎重に構える姿勢は研修で磨かれた自信に満ちていた。
銃身の独特な金属光沢に魅了されながら、軽さに驚きの表情を浮かべる。
「重量バランスがすごく良い……しっくりくる……」
構えては外し、あっという間に馴染んでいった。
「まるで以前から私の一部だったみたい」
舞には結がソワソワしてるのが手に取るようにわかった。
「早く使ってみたいのでしょ?」
結の目が輝いた。
「結、試射室に行くのだよ」
◇
三人は訓練所隣接の射撃場へ来た。結の手にはライフルがしっくりと収まっていた。
幾度となく通った射撃場だった。
テーブルのシミひとつも忘れてはいなかった。
いつも通りライフルを構え狙いをつけると、標的マーカーが現れた。
結の眼光が鋭く輝き、次々と確実に中心を撃ち抜いていった。
「さすがね」
マユリと舞が驚嘆していた。
「次!ライフルにエナジーを込めてみるのだよ!」
「ライフル自体にエナジーを込める?……こんな感じ?」
結が意識を集中させ、身体から湧き上がるエナジーをライフルに込めるようにイメージする。
すると、キュインという音と共に、インジケータに《EM》のランプが光り、ライフルが燐光を放つ。
「これは?」
「《EM》エナジーモードの略なのだよ!」
離れたところに標的マークが出た。
すさまじい反応速度で標的に狙いを定めトリガーを引く!!
トリガーを引いた瞬間――射線上に子供を模したぬいぐるみが飛び出し、標的との間を塞いだ。
結は咄嗟に『当たっちゃダメ!』と強く念じた。
標的がバラバラになって地面に落ちた。
「……貫通、しちゃった?」
結は最悪の事態を想像して唇を噛んだ。
しかし、マユリが拾い上げて手元に持ってきたぬいぐるみには、傷一つ付いていなかった。
「え?どうして?」
マユリがドヤ顔で言った。
「これがエナジーライフルさ!」
「――エナジーライフル」
マユリがズイっと前に出て説明した。
「このライフルは、結がエナジーを込めるとエナジーモードが発動し、通常弾からエナジー弾になるのだよ!
そしてそのエナジー弾は、なんと結の意思で曲げることもできるのだよ!今、結はこのぬいぐるみを、子供だと思い弾丸を曲げたのだよ!これが科学技術局が総力を挙げて開発したエナジーショットなのだよ!!名付けて!グレート・エクスペリエント・ムービング・エナジー・バレット・ファイヤー・ショット!!」
ゴホゴホとマユリが咳込む。
「マユリ、大丈夫?一気に喋りすぎよ」
(名前は絶対嫌だけど)
結が笑いながら茶化す。
「この機能説明の瞬間!このためだけに私は生きているのだよ!」
得意げにマユリが満面の笑みを浮かべた。
結は目を丸くして、ライフルとぬいぐるみとマユリを交互に見つめた。
自分の意思で弾丸の軌道を変えられたことに衝撃を受けていた。
「こんなことが」
手に持つライフルがさらに愛おしく感じられ、銃身を優しく撫であげた。
「すごい...ただ狙うだけでなくて、意思で弾丸を曲げられるなんて」
「結のエナジーでできた弾丸だからね!ということは……言いたいことはわかるよね?」
「使いすぎはエナジー暴走に繋がりかねないってことだよね!」
「そう、諸刃の剣ってことなのだよ!」
結のライフルを持つ手に力が入る。
「わかったわ、マユリありがとう」
「ん?」
「何?」
「いや……それだけなのかな……と……」
結は気づいたように
「すごい!これは天才としか言いようがないわ!」
「ムフッ」
マユリの顔が緩む―
(マユリって意外とチョロイのね)
◇
結とマユリの視線が舞に移った。
「次は舞の番なのだよ」
舞はゆっくりとケースを開けた。
舞も自分がイメージしていた通りの武器が入っていた。
自然に口角が上がる。舞は腰に鞘と呼ぶべきホルダーを装着する。
そして右手で左腰の、左手で右腰のホルダーから刃渡り四十センチ程の二振りのコンバットナイフを抜いた。
青白く輝く金属の冷気のような気配が立ち上がった。
――瞬間、舞を中心に半径五メートルの温度が下がったかのようだった。
射撃場にダミーデコイが数体現れた。
――その瞬間、マユリには舞の姿が消えたようにしか見えなかった。
ただ一人結の視力だけがかろうじてその動きを認識しその軌道を追っていた。
舞は予備動作もなく消えたように移動し簡単に鋼鉄のデコイを切り裂いた。
デコイの腕から銃が出て舞に向けて模擬弾を発砲した!
ザンッ!
舞は弾丸を斬った!!二つに切れた弾頭が舞の後ろに着弾した。
「舞!ナイフにエナジーを!」
とマユリの声が聞こえ、舞は集中してナイフにエナジーを込めると、ナイフが淡い燐光を放ち始めた。
そして気合いとともにデコイに向けて二振りのナイフを交差するように振り抜く。
光の斬撃が飛び、鈍い炸裂音と共にデコイが交差する斬撃痕を残して地面に転がった。
「す!すごい」
「エナジーに感応する金属で舞が思い描くほど固く鋭くなるのだよ!飛ぶ斬撃はこれも科学技術局が総力を挙げて開発した機能なのだよ!ファイナル・ブレード・エナジー・ウルトラ・インビジブル・スラッシュとでも呼べばいいのだよ!」
舞は黙ってナイフをホルダーに収めた。
(呼ぶわけないでしょ)
聞こえないフリをした。
手甲のような形状のアーマーを左腕に装着する。
「そのアーマーも私の自信作なのだよ!
後でしっかりマニュアルを読んでくれたまえよ!どうだい?気に入ってくれたかい?」
「マユリ……最高だよ」
二人の声がシンクロした。
科学技術局の局長としてではなく、一人の仲間として白衣を脱ぎ、二人を抱きしめた。
そして耳元でそっと囁いた。
「私にできるのはここまでだ!どうか死んだりしないでおくれよ!二人がいない世界の事など考えたくもない。もう、退屈は懲り懲りなのだよ」
去り際に振り返り
「あーーお代はミッションが終わったらスイーツでもご馳走してくれたまえよ」
白衣を羽織りドアを開けて射撃場を出ていった。
マユリなりの愛のこもったエールだった。
二人の目頭が熱くなった。
「ふっふっふっ!はっはっはー」
いつまでもマユリの笑い声が廊下でこだまのように響いた。
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次回更新は明日19時です




