鍛錬
鍛錬〜お楽しみください
三日月
訓練編〜鍛錬〜
研修施設の訓練棟は朝早くから活気に満ちていた。
射撃場には、硝煙の臭いが残り、銃火器の金属的な輝きが朝日に照らされて、自然に士気が高まった。
教官のサラは、元フェアリーらしい鋭い動きで訓練メニューを指示した。
舞と結は、遅れを取り戻すべく厳しいカリキュラムに挑んでいた。
座学ではエナジー制御の理論を学んだ。
作戦立案、一般教養、危機対応に至るまで、フェアリーとして必要な知識を徹底的に叩き込まれていった。
そして、基礎体力向上訓練では暴走時の爆発的な成長を背景にした驚異的な持久力を見せつけた。
銃火器訓練では結が特に天賦の才を開花させた。
驚くべき反応速度で狙いを定めた瞬間に放たれる弾丸が的の中心を貫き、周囲を驚嘆させた。
舞はナイフ格闘訓練に没頭した。
野生動物の動きを模したシミュレーションでも素早い身のこなしで完璧に対応した。
想定外の動きにも即対応する反射神経。
教官であるサラさえも認める圧倒的な技量を披露していた。
ある夜――就寝前のひととき。
厳しい訓練で疲労の色を浮かべながらも二人はベッドに並んで座っていた。
二人の瞳には確かな自信が宿っていた。
結が射撃場でのスコアを見せた。
「舞!見てよこれ、すごくない?」
舞はスコアを見て
「命中率100%。それに的が出てからの反応速度、両方SSSの評価だね。本当にすごいよ」
自分の事のように目を輝かせた。
結は射撃場の記憶をたぐるように
「銃を持って狙いを定めるとすべてがスローになっていくような感覚なの。
初めて銃を撃った時、舞を助けるために撃ったあの時もそんな感覚だったよ」
「結、ホントすごいよ〜きっとその誰かを守るって気持ちが結の才能を開花させたんだよ!」
スッと立ち上がった。
「私は脳筋で戦うだけ!」
というと呼気とともに回し蹴りを見せた。
結の鼻に空気が焦げ付いたような匂いが届いた。
二人の間に笑顔が溢れつかの間の心の平穏を楽しんだ。
もう少しで研修終了だった。
いつの間にか二人は手を絡め合い、お互いの体温を確かめるように唇を重ねた。
窓からの月光だけが二人を見守っていた。
それから数週間後。
研修終了を間近に控えた、ある夜。
厳しいカリキュラムを終えた二人が宿舎の部屋でほっと一息ついた、その時――けたたましい警報音が轟いた。
直前まで緩んでいた二人の顔がカチリとスイッチが切り替わるように鋭く研ぎ澄まされた。
部屋の空気——気配そのものが一変した。
五感のすべてが一瞬で戦闘モードに切り替わった。
「結!」
緊急事態だと判断した舞は瞬時に身を起こし、パジャマ姿のままベッドサイドのインカムと訓練用ナイフを掴んだ。
そのまま勢いよく、ドアを開け放ち外へ飛び出した。
結は素早くインカムを装着し訓練用ライフルを握りしめた。
屋上へ最短最速で駆け上がる。
高所からなら訓練棟敷地を一望できる。
もちろん屋上の安全確認も怠らない。警戒しつつスコープを覗き索敵する。
「舞!索敵する」
訓練で身につけたエナジーの使い方だった。
視神経にほんの少しエナジーを注ぐ。
――結の瞳が銀色に光った。
視界が異様なほど鮮明になり、壁や木々の影に隠れた熱源が結の網膜に映し出された。
「二時の方向、二体! 銃持ちのアンドロイド兵よ!」
「了解!」
森を駆け抜ける舞は、豹のような速さで敵の懐に飛び込んだ。
センサーが反応するより早く、鋭い蹴りが一体の頭部ユニットを粉砕した。
もう一体が銃を構えるが、舞は残像を残して回避し、その銃を持った右腕を蹴り上げ、渾身のパンチで胸部を打ち抜いた。
「結、助かったわ!」
空中に舞った敵の銃をキャッチした舞は、ふと違和感に気づく。
「……ゴム弾?」
背後に凄まじい殺気を感じ、全身が総毛立った。
インカムから「舞、うしろ――」と結の声が走り、途絶えた。
首筋に刃の感触。
「舞、気を抜くのが早いわよ」
影のように現れたサラが、ナイフ……ではなく、一本の「木の棒」を喉元に突きつけていた。
屋上では、結が通信に意識を向けた瞬間をゆかに狙われた。
結の背中に木の棒を押し当てられた。
「敵の数を鵜呑みにしては危ないわよ」
同じように結を制圧していた。
「合格よ。素晴らしいコンビネーションだったわ」
警報が止まり、サラが満足そうに告げる。これが最終試験だったのだ。
「あとの『奇襲』は、私たちからの餞別よ。この教訓を忘れないで」
二人は晴れて正式なフェアリーとして認められた。
教官の言葉を聞いて舞と結に嬉しさが込み上げた。
「よかった……合格なんだね!」
結の喜びに溢れた声が聞こえた。
舞は、気を引き締めた。
唇を噛み締め、一人、呟いた。
「――あんなのじゃ護れない!」
地面に落ちたサラの木の棒を見て、自分の未熟さを噛み締めた。
その小さな呟きには決意が滲んでいた。
◇
そして二人は、フェアリー研修を過去最高の成績で修了した。
訓練棟の大広間では祝賀会が催された。
ゆかとエミリーが駆けつけ、泡立つジュースのグラスを掲げて二人の健闘を称えた。
特に射撃訓練ではパーフェクトを連発した結の活躍が話題となり、結はスタッフや教官から祝福の握手を求められて輪の中心にいた。
少し離れた会場の端で、舞は結を笑顔で見守っていた。
結が舞を見つけそばにやってきた。
「みんな私達を祝福してくれているね」
と優しい声で話した。
「そうだね。これから私達が守っていくべき笑顔だね」
「頑張ろうね」
この人達の笑顔も私達が守ってみせる。
二人は改めて誓った。
グラスを三つトレーにのせたマユリが近づいてきた。
二人の心に、ちりりと痛みが走った。
自然と握りあった手に力がこもる。
「結、舞、まずは、おめでとうなのだよ」
「ありがとう。マユリ」
「それにしては浮かない顔なのだよ、どうかしたのかい舞?」
「マユリ――」
舞の唇が震えた……
「せ、背中の傷」
マユリは一瞬顔色を変えたが、すぐにいつもの調子に戻り、
「いやぁこれかい?」
と白衣の襟元をずらして背中を覗かせた。
「階段から落ちてしまってねぇどこかで引っ掛けたのだよ」
舞が声を少し荒らげた。
「やめてよ!」
舞の瞳に溜まっていた涙が、一筋落ちた。
「知ってたのかい?」
「この間、あの時の記録映像を見たわ」
「そうだったのかい……辛い想いをさせたようだね」
マユリがふわりと二人を抱き寄せた。
「こんな痛みなど、君たちがこれから背負う戦いに比べれば、気にするほどのことではないのだよ」
マユリの手の温もりと、声の優しさが二人を包んでいった。
「でも今度、私を傷つけたら、解析にかけてバラバラにしてあげるのだよ、わかったかい?」
様子を見ていたゆかとエミリーが周りのスタッフに目配せした。
可動式の仕切りが降りてきて三人の周囲に小さな空間を作った。
会場にいたスタッフたちの中にも、目を赤くしている者が多かった。
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