表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士に拾われた僕  作者: liege


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

5

 翌朝、まだ日も昇りきらない早朝。


 僕はマーサさんに教わった仕事を、順番にこなしていた。


 その中の一つ――水汲み。


 裏手にある井戸から水を汲み、各部屋の水瓶へと運んでいく。朝の空気は冷たく、指先が少しだけかじかんだ。


 水を運び終え、次の桶を取りに戻ろうとしたとき。


 屋敷の扉が開いた。 


 ジークさんだった。


 ちょうどすれ違う位置で足が止まる。


 

「おはようございます」


 

 声をかける。


 返事はない。


 けれど、ジークさんは僕を見た。


 少しだけ戸惑ったような、奇妙なものを見るような目だった。



「お前、本当に一昨日の小僧か?」



「ノクスです」


 

「ん?」



「ノクスといいます。一昨日、リラさんに名付けてもらいました」


 

「……マーサが言っていたのはお前のことか」


 

「マーサさんですか?」


 

「いや、今はいい」


 

 短く切り捨てると、ジークさんの視線が変わった。


 重く、鋭く、こちらを押し潰すような圧。


 

「お前が、生きる理由はなんだ?」



 視線だけで、押し潰されそうになる。


 身長差もあって、見下ろされる形になるその圧は、まるで刃のようだった。


 けれど。


 僕は、動じなかった。


 理由はわからない。


 ただ、この程度で崩れるものではないと、体が知っていた。


 だから、目を逸らさずに答える。


 

「リラさんのためです」

 


「リラか……」


 

「はい」



「好いているのか?」


 

「わかりません」


 

「……」


 

「ただ」


 

 言葉を探す。



「リラさんは、おいしいスープと一緒に、僕に何かをくれました」

 


「何か、を?」


 

「何かを消してくれました。何かを、感じさせてくれました」



 うまく説明できない。


 でも、それしか言えなかった。



「……恩義か」


 


「わかりません…」



 きっと、それもある。でも、それだけじゃないと、なぜか思った。


 

「ではなぜだ」



「リラさんが、生きているからです」


 

 多分これが、一番しっくりする。

 


「リラが生きているから、お前も生きると?」



「はい」



「リラが死んだらどうする」



「……わかりません」


 

 僕は死を選ぶのだろうか?

 

 それとも。

 

 リラさんの分まで生きようとするのだろうか?

 


「わからんことばかりだな」



「……すみません」



 ジークさんは、ほんの一瞬だけ。


 疲れたような、呆れたような、悩んだ顔をした。


 でも、仕方ない。


 僕にもわからないから。


 

 スープをくれた。

 手を握ってくれた。

 ノクスをくれた。

 涙を拭ってくれた。


 

 それが何なのか、言葉にはできない。


 好き、というのもわからない。


 でも。


 あの人に、寂しい顔をしてほしくないと、思った。


 それが何なのかは、わからない。


 けれど確かに、そこにある。



 ――これが、僕の感情なんだと思う。



 


 気づけば。


 先ほどまで感じていた圧が、消えていた。



「……ふむ」



 ジークさんが、小さく息を吐く。



「死人の作った料理なぞ食えんと思っていたが」


 

「死人は、料理を学ぼうとはしないか……」


 

「儂の目も濁り始めたか」



「死人……?」


 

「……おい」


 


 それ以上には答えず、話を切り替える。


 

「今日の昼は肉を多く出せ。倉に無ければ、これで買ってこい」


 

 そう言って、紙の束を渡される。

 

 綺麗な長方形の紙。人物のようなものが描かれている。


 見覚えはない。



 はずなのに――



 胸の奥が、ぞわりとした。


 使い方は”()()()()()”。

 

 でも、それだけじゃない。


 懐かしいような、気持ち悪いような。

 


 でもその感覚は、次の言葉で吹き飛ぶ。



「今日より、儂も盤を囲むとしよう」



「……え?」

 


 一瞬、理解が遅れる。


 盤を囲む。


 それは――



「一緒に、食べてくれる……んですか?」



「うむ」


 

 胸の奥が、強く締め付けられた。



「……ありがとうございます。精一杯、作ります」


 

「うむ」



 それだけ言うと、ジークさんは足早に去っていった。


 僕は、しばらくその場に立ち尽くしていた。


 胸が苦しい。


 でも、この苦しさは――嫌じゃない。


 僕は少しの間、そこから動けずにいた。




 


 やっと動き出し、残りの仕事を片付ける。


 途中でリラさんが起きてきた。



「おあよ……あれ、もう働いてるの?」


 

 少し金色の髪が跳ねている。

 

 挨拶を交わし、近くの部屋から椅子を持ってくる。


 マーサさんがくれた櫛で髪を梳かしながら、さっきのことを話す。


 話していくうちに。


 リラさんの表情が、ころころと変わった。


 驚いて、赤くなって、困って、そして――ぱっと明るくなる。


 その変化を見ていると。


 自然と、口元が緩んだ。



「……え?」



 リラさんが、じっとこちらを見つめてくる。


 僕も見つめ返す。


 リラさんが、また赤くなった。


 本当に表情が豊かな人だと思う。

 

 でも、剣術の指南役だっていうから驚きだ。


 ジークさんみたいに厳しいのだろうか。

 


「わ、わたし! そろそろ準備しなきゃだから!詰め所行かなきゃだから!」



 急に慌てたように言って、背を向ける。

 


「い、行ってきます!」



 ばたばたと走り去っていった。



「……?」

 


 どうしたんだろう。


 昨日よりだいぶ早いけど…?


 仕事大変なのかな?



 少し考えて――



「あ」



 気づく。


 僕の仕事。


 今日は、買い物がある。


 

「……僕一人で、大丈夫かな」


 相場とか、わからないよ。

 

 小さく呟いた。

ノクス君かわいかっこいい容姿かなって妄想しちゃう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ