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騎士に拾われた僕  作者: liege


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新米騎士のおしごと 帰還

 ユリクレアさんの先導で森を抜けた頃には、空はもう薄暗くなり始めていた。

 来たときはまだ午前とかだったのに…。 


 街道脇の草原には簡易の陣地が組まれていて、騎士や従騎士たちが慌ただしく動き回っていた。

 誰かがこちらに気づき、声を上げる。


「いたわ!!」

「リズ隊長だ!」

「担架を持ってこい! 回復班はどこだ!?」

「探査班に信号を上げて!」


 一気に場の空気に熱がこもる。

 駆け寄ってきた騎士たちが、血まみれのリズさんを見て顔を青くした。


「生きてるのか……?」

「ひどい傷だぞこれ……」


 その声を聞きながら、僕はゆっくり膝をつく。


 背に乗せていたリズさんを、慎重に担架へ寝かせた。

 呼吸は浅いけど、穏やかな表情だ。

 回復班がすぐに囲み、鎧を外しながら回復魔法を展開していく。


「これは…!」

「…傷が、ありません…!」

「一体…?」


 そこまで言って、回復班が僕を見る。


 僕の鎧も、穴だらけで血まみれ、所々溶けている状態だった。

 けれど、傷はもうない。


「ノクス君、君が――」


「はい。ただ、流した血は戻ってないので油断はできないと思います」


 それを聞いて驚愕しながらも、回復班の人たちはリズさんを担架に乗せ幕屋に移動していった。


 その様子を見届けて、そこら辺にドサッと座り込む。

 少し疲れた。

 

 後ろで静かに見守っていたユリクレアさんが手助けしてくれ、そのまま近くの木箱に背中を預ける。

 鎧を何とか脱ぎ、力を抜いた瞬間、どっと眠気みたいなものが押し寄せてきた。

 

 目を閉じる。


「……混成種はどうなったんだ?」


 誰かがそう呟いた瞬間、周囲が少し静かになる。

 自分に聞かれてるんだと遅まきながら気づく。

 目を開き、ゆっくり顔を上げた。


「霧の奥で見失いました。ただ、こっちも手負いだったので助かりました」


 それを聞いた周囲の騎士たちは難しい顔した。

 

「そうか。討伐は難しかったか。いや、生きているだけで儲けものだ」


「すみません」


「いや、君が悪いわけでは――」


「ノ”グズぐん”っ!!」


 勢いよく飛び込んできた赤髪によって会話が中断される。


「うぐっ」


「よがっだぁ……!!」


 テッサだった。

 泣き顔のまま、僕の服をぎゅっと掴み、顔をうずめる。


「急にい”なぐなるじ! 森の奥がら変な音い”っぱいするじ!!も”ぉ”ぉ”ぉ”……!!」


「ごめん。心配かけて」


 落ち着くように、いつもやっていたように、ゆっくりと頭を撫でる。

 なんだかお屋敷に居た頃を思い出すな。


「ぐずっ、…ほんとだよぉ……!」


 顔を上げず泣きじゃくるテッサの後ろ、少し離れた所に、エルはいた。


 目が合った彼は何か言いたげだった。

 けれど、結局何も言わず、目元をきらっと光らせた。


 その直後。


「総員、警戒を維持しなさい!!」

「霧の内部への斥候は出さないで!」

「陣はこのまま維持しろ!!」

「伝令と要救護者のみ帰還せよ!」


 森の方向から、指揮官たちの怒号と一緒に、聞きなれた声が聞こえた。

 その声の人物が近づいてくる。


「ノクス。無事ね」


「はい。リラさん」


「うぎゅっ!?」


 リラさんはテッサの存在を無視しながら抱擁してくるので、こちらも腕を回す。

 幸い、間にテッサが居るから、胴鎧の硬さを味わわず、頬の柔らかさだけを感じてる。

 テッサ、ありがとう。


「心配、してたのよ?」


「すみません…」


「いいの、私も謝らなくちゃいけないの」


 耳もとで囁くように言われる。あまり聞かれたくないのかな。


「…?」


「混成種に対応できるのが私か、団長だけなのは聞いてる?」


「…あんまり」


 そういえば団長にあったことないな。

 騎士団宿舎でも政務舘でも見たことない。

 噂で聞いたのは、政務が嫌で旅してるってことぐらい。


「今は団長不在で、私が討伐してるんだけど、誰にも言えてないことがあったの」


「…?」


「私、怖かったの」


「怖い…ですか?」


「今回は、私が討伐できるか分からなかったの。前回も死にかけながら倒したのに、今度こそ死んじゃうんじゃないかって…。だから、今回は団長の帰還を待っていたの…でも…」


 リラさんの声音は、怖くて震える子供のようにも、懺悔する罪人のようにも感じた。

 心なしか腕も振るえている気がする。


「混成種はね、討伐する度に、強くなっていたの。攻撃方法も、速さも、動き方も。まるで、前回の失敗を、改善するみたいに……」

 

 少し、涙声だったかもしれない。

 相槌の代わりに、後ろに回した手で、背中を撫でる。

 鎧の下の小さな体を安心させるように、ゆっくりと。


「それでこんなことになっちゃって、だからノクスに、謝らないと…。ごめんなさい。本当にごめんなさい」


「…いえ」


 人に謝られた時は、何と答えればいいのだろう……。

 気の利いたことの言えない自分に対して、お腹の底に力が入る。


「…それと、私の大親友を救ってくれて、ありがとう」


 リラさんの頬から、暖かいものが僕の頬にも伝わる。

 なんだか、胸が苦しい。穴が開いたときみたいだ。


「…上手く言えないですけど、リラさん、大丈夫です。大丈夫なんです」


 謝って欲しわけでも、お礼が欲しいわけでもなかった。

 ただ、笑って欲しかった。


 まだうまく言葉に出来ないけれど

 伝わってほしくて、強く強く抱きしめた。


「ぎゅむむ。んんーーっ!!」


 …?


「 む、むぎゅ、ぎぇふっ……! む…む………」


「ノ、ノク!ルミナス様も!テッサが死にそうです!」


 …あ。


「…!テッサ!?あまりにも見慣れた光景過ぎて気づかなかったわ!大丈夫!?」


「んばぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ら、らいじょぶれ…」


 カクン


「テ、テッサー!」


 ちょっと大げさに見えるリラさんの反応で周りの空気は弛緩する。

 でも、その騒がしさの中で見た顔には、もう涙はなかった。


 胸の痛みが、少し引いた気がした。


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