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騎士に拾われた僕  作者: liege


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38/42

新米騎士のおしごと 安心


 あの光は危険だ。

 直観と実体験からすぐに動く。


 あの二人は大丈夫。

 耳を怪我してたけど、それ以外は問題なさそうだった。


 脚に力を入れ、踏み出す。

 あっという間に木々をなぎ倒していく。

 たまに巨木にぶつかり止まってしまうが、関係ない。

 途中何度も骨が折れ、木に刺さり、木が刺さり、怪我を治癒しながら進んでいく。


 進むにつれ断続的な音が聞こえてきた。それに伴い時折音の方向から木の実のようなものが飛んでくる。


()()()()…だっけ…?」


 マーサさんとクッキーを作るときに使った木の実。あれと違って、金属的でより尖ってはいるけど。

 飛んでくる木の実もどきをうまく弾き、切り捨てながら轟音を響かせ走る。


「見えた」


 近づくにつれ混成種の姿が見える。

 自分の発する轟音の中にたまに別の音が混ざってくる。何だろう。

 そして、()()()()()()()()()()


「…?」


 何故か、急に悲しくなった。


 頬を拭い、駆ける。

 目前に迫る混成種はどこかに向けて武器を向けていた。


「リズさん」


 体を丸めるようにして倒れているリズさん。

 手足は痛そうな方向に向いていて、一目見れば瀕死なのが分かった。


 ただ、薄っすらと目が開いていて、混成種を見ている。

 足を踏みしめ、体を止める。


「間に合いました。リズさん」


 そっと抱き起すとその冷たさに驚く。

 (魔力)をリズさんの内部に響かせる。

 苦し気な表情が、ほんのりと柔らかくなった。


 何かつぶやいていたけど、後ろの気配が濃くなって、それどころじゃなくなる。


 リズさんの脇を抜け、治ったばかりのお腹を右肩に乗せ、一気に担ぎ上げる。

 後ろに行った頭側から片腕と、前に来た片足を右腕でしっかりと固定した。

 

 後ろも見ずに、一気に加速する。轟音は出ない。

 リズさんに木の実もどきが当たらないように激流の盾を後ろに展開しておく。

 高速で回転する水の盾は、ジークさんの放つ矢も絡め取れるくらい強さだ。


 一拍おいて、耳障りな音が後ろから連続で聞こえてきたけど、問題なさそうだった。

 

 馬が駆ける様な音が迫まる。

 後ろから、斜め後ろへ、そして横へ。


 この巨体で、早すぎる。

 腕に噛みついている蛇が横に真っ直ぐになる速度だった。

 咄嗟に盾を動かすが、間に合わない木の実もどきが体に穴を開けていく。

 痛い。

 リズさんの足にも何個か当たる。

 すぐに治癒、でも、顔色はもっと青くなった気がした。

 

 連続で響く発射音に合わせて盾を動かし、攻撃を防ぐ。

 街道があると思う方向へ並走しながら観察する。


 あの木の実もどきは、たぶん、あの蛇の中身だ。

 飛ばしてくるのは、蛇が噛みついている側の腕だけ。

 しかも、撃つたびに蛇が細くなっていってる気がする。


 赤熱した腕から蒸気が吹き出してる。

 ……凄い熱そう。

 触れられただけで大怪我だろう。


「う…うぅ…ん?」 


 なるべく負担にならないように走ったけど、振動でリズさんが起きたみたいだ。

 肩の上で身動ぎするのが分かる。 


「おはよう!ございます!」


「ぇ…こ、ここは…?」


 ガガガガガガガガガガガガッ


「すみません!ちょっと!聞こえなくて!耳元で!お願いします!」


 混乱してるのか、しばらく動こうともぞもぞする。

 重心がずれないかひやひやしながら、目の前の木々を避けて走る。


 混成種は相変わらず周りの木を木っ端微塵にしながら発射してくる。


「ノクス」


 耳元で声がした。リズさんが頑張って耳元に近づいてくれる。


「あの蛇が見える?…あれがあい、あいつの武器をほ、補充してる…ケホッ」


 うなずく。


「あれが無くなると、止まる。…その後、隙ができ、る」


「わかりました」


 混成種を注意深く見続ける。

 

 そしてその瞬間は意外と早く来た。

 あれだけ鼓膜を叩き続けてた音が止んだ。

 今は激流の盾と、混成種の追いつかんとする足音だけだった。


「全然止まらないです」


「あ、れ?…あの後、確かに……。!ノクス!光が!」


 声を聴く前に気づいていた。

 あの痛い、不可視の攻撃。

 焼けるような痛みと炭化した傷口。

 

 激流の盾を厚く、速く、自分たちをすっぽり覆うように。

 

 光が周囲を照らす。

 盾が光を乱反射して何も見えない。


 衝撃と浮遊感。


 いやにゆっくりだった。

 乱反射する光が一瞬強くなる。

 盾が大きくたわみ、痛みと共に浮き上がる。


 ドバガアアアン!!!


 時間が一気に回り出した。

 鼓膜を震わせる轟音と、空気を切り裂く衝撃音が森全体に轟いた。


「くっ!」


 意識が飛びそう。

 リズさんを胸に抱きなおし身を固くする。

 木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。


 向こう側では、白い霧が森を覆い始めていた。

 木々の輪郭すら曖昧になるほど濃い。

 ……追って来れないのかも。

 全身は回復が必要になったけど、リズさんには目立った傷はなかった。


 あの音もない。光もない。胸のざわつきも、今は無かった。

 

 腕の中のリズさんは、まだ小さく呼吸している。

 それを確認して。

 

 また、歩き出した。


_____



 しばらく歩いていると、背中のリズさんの呼吸音に混ざって、遠くから轟音が聞こえてきた。

 木々を震わせる、聞き慣れた音。

 胸の奥が少し軽くなる。

 居場所を知らせるように、こちらも(魔力)を森へ響かせた。


 バリバリバリバリッ!!


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、応えるみたいに轟音がこちらへ近づいてくる。

 木々が揺れ、霧が押し退けられていく。

 ……やっぱり、僕よりずっと上手い。

 熱を逃がすみたいに白い蒸気を纏い、全身を真っ赤にした彼女の姿が見えた。


「ノクス! 無事だったか!?」


「はい。ユリクレアさん」


 その声を聞いて、胸の奥がふっと軽くなる。


 やっと、安心できた。


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