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騎士に拾われた僕  作者: liege


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幕間 思い出すモノ

 彼の試験が終わった。


 やっぱり気になる。


 模擬戦を見れば見るほど、()とは違っていて、似ていた。

 そもそも()は戦えない。


 空気も少し違う。


 でも。


 目。

 声。

 不思議な距離感。


 そして何より。

 人に触れる時の、あの優しさ。

 教会前で無断での回復魔法使用。

 普段なら応援を呼んでお終いだった。


 だけど。


 あの横顔見た時、胸が高鳴った。

 忘れられるわけがなかった。

 だから助けた。関わりたかった。

 けれどあの場で話すには人が多すぎた。


「ちょっといい?」


 私は声を掛けた。


 彼――ノクスは静かにこちらを見る。


「……何か?」


「んー、ちょっと確認したいことがあってさ」


 軽く笑いながら腕を引く。

「大丈夫大丈夫、怖いことじゃないから」


 なるべく余裕な態度で接する。

 緊張が見えないように。

 そうして連れてきたのは、訓練場脇の空き部屋だった。


「ここは?」


「元会議室みたいなものかな~。今は誰も使ってないけどね~」


 扉を閉める。

 少し薄暗い部屋。

 長机。

 椅子。

 静かな空気。


 緊張なんておくびにも出さない。

 私は壁に背を付け、ノクスを見る。


 ノクスは私を見て、胡乱げな表情だ。


「そんな警戒しなくても平気だってぇ」


「……してません」


「してるしてる。目が野良猫なんだもん」


 くすくす笑う。

 昨日、神殿前で会った時もこんな顔をしていたなと思う。


「昨日ぶりだねぇ」


「はい」


「神殿前で会ったの、覚えてる?」


「覚えてます」


 そう言って頭を下げる。


「昨日は助けていただいて、ありがとうございました」


「ん、いいよいいよ。あれくらい」


 軽く手を振る。


 でも。


 本題はそこじゃない。


「――でさ」


 少しだけ声を落とす。


「昨日より前に、どこかで会ったことない?」


 ノクスは少し考えてから、静かに首を横へ振った。


「……ないと思います」


「思います?」


「記憶が曖昧なので」


 その返答に、リズの眉がわずかに動く。


「……曖昧?」


「半年前以前の記憶がありません」


「……は?」


 心臓がドキリと跳ねた。


 半年前。

 ()が居なくなった時期だ。


 もしかしたら本当に()かもしれない。


 そんな淡い期待が顔に出てしまったのかも。


 ノクスがこちらをのぞき込んできた。

 ノクスの表情がほんの少し揺れる。

 そして。

 胸の奥を探るみたいに――


「……あなたは」


 ――ノクスが小さく口を開く。


「僕を知っていますか?」


 その言葉に、胸が締まる。

 知っている。


 いや。


 正確には違う。

 知っている“はず”だった。


「……似てる子を知ってる」


 それしか言えなかった。

 さらに近づいてくる。

 体臭と汗の匂いまで同じだ。

 体温を感じる。

 そして。

 ノクスが少し目を細めた。


「……あなたの匂い」


「え?」


「懐かしい気がします」


 心臓が跳ねた。


「昨日、初めて会ったはずなのに」


 ノクスは不思議そうに続ける。


「なんだか落ち着くというか……」


 そこで少し迷ってから。


「あった…かい?というか、すみません。急にこんな事…」


 駄目だって。


 そんな顔で。


 そんな声で。


 そんなことを言われたら。


「……ずるいなぁ」


 思わず笑ってしまう。


 泣きそうだったから。


 ノクスを押しのけ、壁に押し付ける。


 逃がさないように。


 縋るみたいに。


 ノクスはぽかんとした表情だ。

 変わらないね、あの頃と。


「ほんとに何も覚えてないの?」


「はい」


「そっか……」


 だったら。

 思い出させればいい。


「なら」


 頬へ触れる。


「思い出させてあげる」


 そのまま唇を重ねた。


 熱い。

 柔らかい。

 逃げない。

 拒まない。

 まるで昔みたいで。


 胸が痛かった。


 もっと確かめたくなる。

 その時。


 がちゃり。


「ノクス君――」


 扉が開いた。

 振り向いた先にいたのは赤髪の少女だった。

 その後ろにはリラもいる。

 体が固まる。

 少女も固まる。


「…………え?」


 今の状況を考える。

 薄暗い部屋。

 壁際へ追い詰められたノクス。

 顔を重ねていた私。


 一瞬で少女の顔が真っ赤になる。


「えっ!? えぇっ!?!?」


「お、おぉ~……」


 まずい。

 ものすごくまずい。

 まともな言葉が出なくなるくらいには。

 まずい状況だった。


 だって。


 しばらく前からリラはすごく浮かれていた。

 それがこの少年が原因なのも今日、分かっていたから。

 今まで浮いた話が全くなかったリラ。

 浮かれだしたのも半年前からだったかも。

 なんて、現実逃避してみる。


「……リズ?」


 静かな声で言う。

 リラは笑っていた。

 笑っているんだ。


その子(私のノクス)に、何をしているのかしら?」


「いやぁこれはそのぉ……確認?」


「接吻で?」


 ちゃんと見られてたみたい。


「……はい」


 圧がすごい。


 怒気が殺気に片足突っ込んでる。


「ノクス君!? だ、大丈夫だった!?」


「……舌を舐められました」


「いや、言い方ぁ!!」


 少女が悲鳴を上げる。

 頭を抱える。

 やらかした。

 やっちゃった。


 怒気が収まった…?

 こそっと見る。

 リラが笑顔のまま、小さく呟いた。


「……私だって、まだなのに」


「え?」


 少女が固まる。

 私も固まる。

 空気まで固まった気がする。


 怒気が昇華されて悲しみになってる?


「………」


「リ、リラ?」


「リズ。私たち親友よね?」

 

「う、うん…」


「親友同士って、時には殴り合いの喧嘩をするものだって、この間教えてもらったの」


「そ、そうかな?殴り合いの無い喧嘩だってあ――――」


「今度、しようね?ぜったいしようね?」


 おわった…。

 


________



 その頃。


 会議室まで案内した眼鏡の男は。


「試験終了の閉陣式をしたいが……動けん」


 怒気にも殺気にも感じる気配に腰を抜かしていた。

眼鏡さん「怖かった…」

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