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騎士に拾われた僕  作者: liege


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2

ジーク(ジーク・フォートランド・ランカスター)さん 屋敷の主 でかい 強い 白髪 金瞳 武器は_と_。


 「おじいさまを見たらきっとびっくりして記憶が返ってくるかも!」


 そう笑いながら言うリラさんの案内で、屋敷の外に出る。


 裏手に回ると、そこには広場があった。


 地面は踏み固められていて、ところどころ抉れた跡がある。

 ただの庭ではない。何かをするための場所――そう直感した。


 そして。


 いた。


 


 「……でかい」


 


 思わず、声が漏れる。


 そこにいたのは、白髪の男だった。


 「おじいさま」という言葉は、あまりにも似合わなかった。


 背が高い、だけどそれだけじゃない。

 立っているだけで、周囲の空気を押し潰しているような圧がある。


 その男は――


 自分の身長を優に超える丸太を、両手に一本ずつ持っていた。


 そして、それを振っている。


 ぶん、と空気が裂ける音がした。


 次の瞬間、地面が揺れた気がした。


 丸太が風を切るたびに、重たい衝撃音が遅れて耳に届く。


 


 ありえない。


 


 そんな言葉が、頭の中に浮かぶ。


 人間が扱っていい重さじゃない。


 そもそも、片手で振る大きさじゃない。


 


 なのに、その動きには一切の無駄がなかった。




 速い。


 重い。


 正確だ。


 まるで、長年使い込んだ剣のように扱っている。


 僕にはなんの記憶もないのに、そう感じた。




「……ね、言ったでしょ?」



 隣でリラさんが、小さく笑う。

 


「ジークおじいさまは、ほかの人よりちょっと力が強いのよ」



 “ちょっと”では済まない気がした。


 丸太が止まる。


 


 ぴたり、と。


 


 さっきまでの轟音が嘘みたいに、静寂が落ちた。


 ゆっくりと、男がこちらを向く。


 目が合った。


 


 ――その瞬間。


 


 心臓が、ひとつだけ強く跳ねた。



 すべてを見透かされてる。


 そんな感覚だった。



 獣に睨まれたときのような、本能的な警戒。


 

 逃げた方がいい。



 そう思ったのに、足は動かなかった。


 


「……起きたのか」


 


 低い声だった。


 静かなのに、妙に響く。


 


「うん。でも記憶がないみたいで…」


 


 リラさんが言いよどむ。



 男は、こちらをじっと見ている。



 何も言わない。


 ただ見ているだけなのに――

 


 中身まで覗かれているような、不快感があった。


 

 やがて、男が口を開く。


 


「……壊れてるな」


 


 ぽつりと、そう言った。


 


「え?」


 


 リラさんが聞き返す。



 男は答えない。


 

 ただ、もう一度丸太を構える。


 


「出ていけ」


 


 その一言だけを残して。


 興味を失ったように、再び振り始めた。


 風が唸る。


 丸太が風を裂く音が、規則正しく響く。


 


「ちょっと、おじいさま!」


 


 リラさんが声を張る。


 


「出ていけってどういうことよ! この子、行く当てもないのよ!?」

「外に出したら死んじゃうわ!もしかしたらさらわれるかも!」



 だが、ジークさんは振り返らない。


 


「だからどうした」


 


 淡々とした声だった。


 


「わしには関係ない」


 


 丸太が振り下ろされる。


 重たい音が地面に響く。


 


「……っ」


 


 リラさんが言葉を詰まらせる。


 


「救えぬものを拾うな。それは優しさではない」


 


 まるで切り捨てるみたいに言う。


 


 正しいことを言っているのは、なんとなくわかった。



 でも――

 


「じゃあ」



 気づけば、口を開いていた。



 二人の視線が、こちらに向く。



「ここにいる資格がないなら、出て行きます」



 自分でも驚くくらい、静かな声だった。



 別に、どうでもいいと思っているわけじゃない。



 ただ。

 


 そうなるなら、それでいいだけだ。

 


 少しだけ、間が空いた。


 

 丸太の音が止まる。


 

 ジークさんが、ゆっくりとこちらを見る。


 

 さっきと同じ目。



 なのに、ほんの少しだけ、色が変わった気がした。


 

「……この辺りの治安では、死ぬかもしれんぞ」


 

 ぽつりと呟く。


 

「よいのか?」


 

「そうなるなら」



 視線が、まっすぐ突き刺さる。



「お前には、……何もないな」

 


 言われて、少しだけ考える。

 


「……そうかもしれません」



 否定はできなかった。


 

 ジークさんはしばらく黙っていた。


 そして――


 


「リラ」


 


「なに?」


 


「死なせるな」


 


「え?」


 


「…住む場所くらいはくれてやる」


 


「ほんと!?」


 


 ぱっと顔が明るくなるリラさん。



 けれど、次の言葉で固まった。

 


「だが――」



 ジークの声が、わずかに低くなる。

 


「儂は何も教えん」


 

 空気が張り詰める。


 

「こいつを育てる気はない」



 はっきりと、断言した。



「リラ、お前が生きさせろ。さもなくば、こいつは簡単に生をあきらめるぞ」


 


 リラさんが何か言いかける。



 でも、その前に。



「それでいいです」



 僕は、答えていた。

 


 ジークさんの目が、わずかに細まる。



「……」


 


「別に、何かをしてほしいわけじゃないので」



 嫌みでも何でもない、正直な気持ちだった。



 ここにいられるなら、それでいい。



 しばらくの沈黙。



 やがてジークさんが、ふっと息を吐く。



「……礼儀を知らんな」


 


 そう言いながら、丸太を地面に突き立てた。


 

 鈍い音が響く。


 


「リラに教われ」


 

 それだけだった。



 屋敷へ戻る道中、リラさんは何も言わなかった。

 


 さっきまでの勢いはなく、どこか気まずそうに前を歩いている。



 僕も、特に何も言わなかった。



 言うべきことが、思い浮かばなかったからだ。



 部屋に戻ると、ようやくリラさんが口を開いた。

 


「……ごめんね」

 


 小さな声だった。



「おじいさま、いつもは優しいの。今日は……ちょっと、ああいう態度だったけど」



 申し訳なさそうに目を伏せる。



「いえ、僕は大丈夫です」

 


 言葉の通りだった。

 


 最初こそ驚きはしたけれど。



 ぞんざいに扱われることも、拒絶されることも。

 


 ――何も感じなかった。

 


 むしろ。



 どこか、懐かしかった。


 

 なぜそんなふうに思うのかは、わからない。


 

 でも、その感覚だけが、かすかに残っていた。



「……そっか」



 リラさんは、少しだけ安心したように息を吐く。



 それから、気持ちを切り替えるように顔を上げた。

 


「じゃあ、これからのことを決めないとね」

 



 その後、簡単な話し合いになった。



 といっても、選択肢はほとんどない。


 

 僕はここに住まわせてもらう代わりに、屋敷の掃除を手伝うことになった。


 

 給料は出ない。


 

 でも、住む場所と食事があるだけで十分だと思った。


 

 むしろ、それ以上を求める理由が見つからない。



「この屋敷ね、前はもっと人がいたの」


 

 リラさんが、ぽつりと呟く。



「使用人も、結構いて……」



 言葉が、少しだけ途切れる。


 

「でも、今はいないの。みんな、おじいさまが暇を出しちゃって。仕方ないことなんだけど…」

 


 その横顔は、少しだけ苦しそうだった。

 何かを、言うべきだったのかもしれない。

 


「今は、昔からの知り合いの人が時々見に来てくれてるの。元使用人で……今はパン屋さんやってるんだけど」


 無理に明るく話そうとしているのがわかる。



 僕は、特に何も言わなかった。

 


「ご飯もね、基本は外で食べてるの。ちょっと前まで忙しくて、料理する暇なかったし」


 

 少しだけ胸を張る。



「一応、騎士の仕事してるから」



「若いのに、すごいですね」



 素直にそう言うと。


 


「君のほうが若いでしょ!」


 


 すぐに言い返された。


 


「……そうなんですかね」



 自分の年齢すらわからないのに、不思議な会話だと思った。




 そのとき。


 

 ふと、頭の中に言葉が浮かんだ。



 ――ニホンジンは若く見られやすい。




「……?」


 


 思わず、眉をひそめる。


 


 意味は、なんとなくわかる。


 

 でも、それが何なのかは説明できない。


 


 自分の中にあるのに、自分のものじゃないみたいな感覚。



 記憶が戻りかけているのかもしれない。



 ……あるいは。


 

 最初から、どこか壊れているのか。

 



「どうかした?」



「いえ、なんでもないです」



 考えるのをやめた。


 

 どうせ、答えは出ない。


 

 しばらくして。


 

 リラさんが、ぱん、と手を叩く。



「よし! いい頃合いね」

 


 立ち上がる。



「夕食、食べに行こ!」

 


 言われて、窓の外を見る。



 夕日は沈みかけ、空は薄暗くなっていた。


 

 時間が過ぎるのは、思ったより早い。

 


 僕は、静かに立ち上がった。  



前書きにネタバレ仕込むってやっちゃってますね

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