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騎士に拾われた僕  作者: liege


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1

アウレリア・ルミナス・ランカスター(リラ)様 金髪ショートヘア 金瞳 聖王国の一代騎士爵 回復魔法が使える  武器はレイピアとマン・ゴーシュ

 眼鏡をかけた男の狂った笑み。

 妖艶な女の濁った眼。

 老人の、物を見るようなまなざし。

 そして――美しくも冷たい少女の口づけ。


 最後に、僕が僕に言った。


『これは僕のためでもあるから――』


 そこで、途切れた。


 


 目を覚ます。


 何か夢を見ていた気がする。

 けれど思い出そうとすると、指の隙間からこぼれるように消えていった。


 


 周りを見渡す。


 知らない場所だった。


 部屋の中は少し古びているが、きれいに掃除されている。

 使われている気配はあるのに、どこか静かで、落ち着かない。


 


 なぜ自分がここにいるのかわからない。


 困惑する。


 ――はずだった。


 


 だが、思い出そうとしても、そもそも思い出すべきものがない。


 何も、ない。


 


「……ああ」


 


 そこでようやく気づく。


 


「記憶喪失、ってやつか」


 


 妙にあっさりと納得できてしまった。


 焦りも、不安も、あまりない。


 それが普通じゃないことくらいは、なんとなくわかるのに。


 


 どうすればいいのかわからない。


 けれど、わからなくても別にいい気がした。


 


 とりあえず、部屋を出る。


 


 廊下は少し暗く、古びている。

 だが、やはり手入れはされていて、人が住んでいることはわかった。


 


 しばらく当てもなく歩いていると――


 


「やっと見つけた!」


 


 後ろから声がした。


 


 振り返る。


 


 そこにいたのは、金髪でショートヘアの少女だった。


 少し息を切らしている。

 こちらを見た瞬間、ほっとしたように肩の力を抜いた。


 


「よかった。どこに行ったのかと思って焦ったわ」


 


 金色の瞳が、わずかに責めるように細められる。


 


「えっと……すみません。あなたは? ここはどこですか?」


 


 少女は一瞬きょとんとしてから、すぐに答えた。


 


「私はリラ。ここは私の住んでる家。それで――あなたは?」


 


 その問いに、言葉が詰まる。


 


「……わかりません。記憶が、なくて」


 


 リラは目を見開き、それから難しい顔になった。


 


「うーん……盗妖精に記憶を取られちゃったのかしら……」


 


 ()()()()()()()()()()()


 けれど、たぶん“記憶喪失”と同じ意味なんだろうと、なんとなく理解する。


 


「すぐ返してくれればいいんだけど……」


 


 リラはそう呟いてから、顔を上げた。


 


「ちょっと詳しく話を聞きたいから、さっきの部屋に戻りましょ」


 


 僕は頷いて、彼女の後をついていく。


 


 部屋に戻り、改めて向かい合う。


 


「それで、覚えてることだけでいいから話してくれる?」


 


 僕は、自分でわかる範囲のことを話した。


 といっても、ほとんど何もない。


 


 リラは途中から頭を抱えていた。


 


「……本当に何も覚えてないのね」


 


「はい」


 


 逆にリラは、僕がどうしてここにいるのかを教えてくれた。


 路地裏で倒れていたところを助けたこと。

 二日間、目を覚まさなかったこと。


 


 お礼を言うと、リラは胸を張った。


 


「当然のことよ」


 


 どこか誇らしげだ。


 


 ――つつましい。


 


 そう思った瞬間、じっと睨まれた。


 


「今、なんか失礼なこと考えなかった?」


「……気のせいです」


 


 少しだけ、会話が楽しいと感じた。


 




「はあ……これからどうしようかしら」


 


 リラは腕を組みながらぶつぶつと呟く。


 


「あなたは盗妖精に記憶を全部盗られちゃったみたいだし、この二日間で探してる人もいなかったし……」


 


 ちらりとこちらを見る。


 


「もしかして孤児院の子かしら? でも、それにしては肉付きいいのよね。顔もいいし、本来ならすぐ引き取られるはずだし……」


 


 考え込んでいる。


 


 僕はその様子を、ぼんやりと見ていた。


 


 これからどうなるんだろう。


 どうすればいいんだろう。


 


 ――わからない。


 


 でも、不安はなかった。


 怖くもない。


 


 なぜかはわからない。


 


 もしかしたら、目の前のこの人が、何とかしてくれると思っているからかもしれない。


 


 僕の中には、やりたいことも、なりたいものもない。そもそも記憶がない。


 


 ただ、生きている。


 


 ……いや、正確には。


 


 死んでいないだけ、なのかもしれない。


 


 死ぬなら、痛くないほうがいい。


 苦しくないほうがいい。


 


 そんなことだけは、ぼんやりと考えていた。


 


「ねえ」


 


 気づくと、リラがすぐ目の前に立っていた。


 


 肩に手を置かれる。


 


 真剣なまなざしだった。


 


「あなたはこれからどうしたい?」


 


 その問いに、少しだけ考える。


 


 けれど、やっぱり答えは出なかった。


 


「記憶もないまま外に放り出すなんて、私はできない」


 


 リラはまっすぐに言う。


 


「だから、よければここに住まない? もちろん、盗妖精が記憶を返してくれるまで、だけど」


 


 どうしたいかなんて、わからない。


 


 でも――


 


「……はい」


 


 気づけば、頷いていた。


 


「よし、決まりね!」


 


 リラはぱっと表情を明るくする。


 


「そうと決まれば、おじいさまに許可をもらわないと」


 


「おじいさま?」


 


 僕が首をかしげると、リラは少し苦笑した。


 


「この家はおじいさまの家なの。私も一応、爵位はあるけどお金はあんまりで……ここに一緒に住まわせてもらってるのよ」


 


 驚いた。


 爵位ってことは貴族様なんだ。


 


 貴族様とか()()()()()()()()()()()()、偉い人なんだと思う。


 


 ……それにしては、ずいぶん気さくな人だけど。


 


 

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