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騎士に拾われた僕  作者: liege


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19/42

幕間 隠すモノ


「んんうぅ…ふぁああ…あさ……?」


 モゾモゾ


 カーテンの隙間からの光がまぶしい。

 もう冬だから、朝は寒くてベッドから出たくない。


 (家のベッドよりお屋敷のベッドの方が温かくて、なんだかお母さんに悪いなあ)


 そんなことを考えながらベッドの魔力に負けてごろごろしてると、ノックが聞こえてくる。


「テッサさんおはようございます、朝です」


 ノクス君の声だった。


「うぅ……あとちょっと……」


「朝食が冷めますよ」


 その一言で、私は渋々起き上がる。


「ノクス君おあよ~。顔洗ったら行くね~」


「はい。隣の部屋にお湯も用意してあります」


「わあ!ありがと!」


「はい」


 扉の向こうで足音が遠ざかっていく。


「…はぁ」


 ついため息が出てしまう。

 その原因はもちろんノクス君だ。


 ノクス君はたぶん優秀だ。元々ここで働いていたお母さんもほめてたし、お姉ちゃんとの勉強もすぐに理解しちゃうし。そして何より、最近模擬戦で負け越してる。


 そしてなにより、リラ様のお気に入りだ。根拠は見ていればわかる。あれは乙女の顔だもん。

 訓練の時はそこまでじゃないけど、食事や勉強の時のノクス君を見る目が全てを物語っていた。


「はぁ」


 またため息。正直この年まで恋とか異性とか気にしてなかった。

 なのに、この間のお姉ちゃんとノクス君のキス。いや、医療行為なんだけど。

 それが、頭から離れなかった。その日からお姉ちゃんはノクス君を意識してるみたいだし。

 

「あーやめやめ!顔洗ってご飯いこ!」


______


 最近は朝食が出るようになった。


 前までは、この屋敷に「朝ごはん」という習慣そのものがなかったらしい。ジーク様は食べなくても平気そうだし、リラ様も忙しい時は適当に済ませてるらしかった。


 でもノクス君が来てから変わった。

 最初はサンドイッチとかだったのに、今では温かいスープにしっかりとした料理まで並ぶようになっている。

 しかもこれがおいしい。お母さんとおんなじくらい。

 食堂へ行くと、すでにいい匂いが部屋中に広がっていて、ついつい鼻を鳴らしてしまう。


「くんくん。わあ!いい匂い!今日は何かな~」


「今日はテッサさんの好きな卵のスープですよ」


 ノクス君が振り返る。

 ここ数日、ちょっと眠そうな顔が当たり前になっていた。


「……ノクス君て、いつ寝てるの?」


「……普通に寝てますよ」


 絶対嘘だと思った。

 だってノクス君、朝は誰より早く起きてるし、夜は最後まで起きてる。

 しかもその間は、ずっと訓練と仕事と勉強をしている。



 最初は私の方がずっと強かった。

 木剣だってまともに振れなかったし、走ればすぐ息が上がっていた。

 なのに。

 今はもう違う。

 あっという間に抜かされて、その背中を見てる。

 そのたびに胸が高鳴る。


「…はぁ」


 何度目かわからないため息。

 幸い、ノクス君には気づかれなかった。



 ノクス君と魔法の話をしながら食べているとお姉ちゃんが食堂に入ってくる。うわ、髪ぼさぼさじゃん。

 リラ様まだ来ない。珍しい。いつもならお姉ちゃんと一緒に来るのに。

 挨拶を交わしながら席に着いたお姉ちゃんは、パンをちぎってもそもそと食べ始める。

 その後ろで髪にくしを通すノクス君。リラ様にも毎日してるから習慣化してるのかもしれない。


「……ねむい」


「昨夜遅かったですからね」


「誰のせいだと思ってるのよ」


「え?」


 本気でわかってなさそうな顔をする。

 私はスープを飲みながら、横目でそのやり取りを盗み見る。


 眠そうでやや不機嫌なお姉ちゃん。でもその表情はとても楽しそう。

 そして、整った顔立ちにやっぱり眠そうな表情のノクス君。でも最近は、前よりずっと柔らかい。


 本当は私の為の勉強なのにいつも私が寝落ちして、ノクス君に運んでもらっている。

 その後二人で遅くまで勉強をしているのだと思う。


 「………はぁ」


 

 私がお茶を飲んでいるとリラ様が食堂にやってきた。なんだか怒気を感じる。

 挨拶を交わすなり、顔を真っ赤にしてノクス君に文句を言い始める。


「ノ、ノクス!今朝のあれはなにかしら⁉」


「…?」


 ノクス君が少し思案顔になった後、コテンと頭を倒しわからないといった顔をする。かわいい。


「…か、かわいい」


 お姉ちゃんから何か聞こえた気がした。


「!…っ…!あ、あのね、男女が一緒のベッドに入っていいのは同衾の時なのよ!私たちはまだ早いの!」


 リラ様何言ってるんだろ?いろいろな意味で。

 そんな私の心情に答えるようにノクス君が口を開く。


「先ほど起こしに行った際、リラさんご自身に、ベッドで抱きしめて暖めて欲しい。と言われたのでそうしました。リラさんはその後二度寝されました」


 この屋敷の主人というわけではないが、序列としてはほぼ主人の痴態を平然と暴露するノクス君。なるほど、それでいつもより遅かったんだと、変に納得。


「へぁふぇえ⁉そ、そんなこと言ったかしら⁉」


「はい。……もしかして冗談だったんでしょうか?だとしたら気づかなくて、すみません」


 落ち込んだ顔をするノクス君と慌てるリラ様。

 本日二度目の見せつけられてる感。お腹いっぱいだよ……。

 お姉ちゃんもお姉ちゃんでなんで傷ついたって顔してるの?


「……ぅん」


 今日何度目かのため息は何とか防げた。朝から連発しすぎて幸せが売り切れてないか心配だよ…。




 朝食のあと、リラ様は騎士団詰め所へ。お姉ちゃんは家の仕事をしに帰る。


 私たちは訓練だ。

 庭へ出ると、冷たい空気が肌を刺した。

 ジーク様はもう立っていた。


「始めるぞ」


 ああ、始まる。

 そこからは地獄だった。


 全力疾走と魔法維持。前あった事故を警戒して私はノクス君の斜め後ろで走る。

 私は最初こそ追従してたけど、スタミナの差であっという間においてかれてしまう。


 打ち合い。

 流し、踏み込み、魔法を織り交ぜる。

 最近は特にそれが増えた。


「止まるな!」


 ジーク様の声が飛ぶ。

 私は炎を纏わせた右の木剣を振る。

 けれどノクス君は、それを左の短剣で逸らした。

 受け流される瞬間、水が絡み付き重くなる。

 剣筋がずれ、動きが制限される。


「っ!」


 そこへ右が来るが左の木剣でなんとか逸らす。危なかった。

 でももう次が、左が来ていた。

 全身で前へ出てくる。

 止まらない。態勢を崩される。


 昔のノクス君は、防ぐばかりだった。

 今は違う。

 流しながら、ずっと前へ来る。

 怖いくらいに。


 流れのままに左を何とか防いだ私は完全にスキをさらしていた。

 そこへとどめの———。


「そこまで」


 ジーク様の声で木剣が止まる。

 私はペタンと座り込み、肩で息をした。

 ノクス君も息を切らしていた。でもまだ立っている。

 私は木剣を地面につきながら笑う。


「……また負けちゃったぁ」


 ノクス君が困った顔をした。


「いや、その……」


「慰めなくていいってぇ」


 わかってる。

 本当に強くなってるんだ。

 それが、悔しい。

 でもそれ以上に、鼓動が高鳴る―—。




 昼食を挟んでも訓練は続く。


 お母さんが持ってきてくれる料理は美味しい。

 でも最近、食べながらでも疲れが抜けなくなっていた。

 午後の訓練で、私は吹き飛ばされた。


「きゃっ!」


 全身びしょ濡れで尻もちをつく。

 ノクス君が慌てて駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「……大丈夫」


 差し出された手を見る。

 その手は剣だこで、少し前よりずっと硬くなっていた。

 私はその手を掴んで立ち上がった。


 悔しい。

 置いていかれたくない。

 あなたの隣に居たいっ…。



 夕方、訓練が終わり、ボロボロの体を引きずり屋敷に入る。

 お母さんがお風呂の準備をしてくれていたみたい。

 あー早くリラ様帰ってこないかな…。

 流石に屋敷の主たちを差し置いて、先にお風呂を使わせてもらうなんてできない。


 自分の部屋で濡れた体を拭いていると、ノックとともにノクスの声が聞こえる。


「テッサさん。リラさんが帰られました。湯あみは一緒にしよう。と言ってました」


「わかった!ありがとう!すぐ行くって伝えといてー!」


「わかりました」


 さすがに寒かったからリラ様からの提案は嬉しい。

 早速準備をして浴場へ行く。

 リラ様はすでに入浴中で私が入ると「お疲れ様。今日はどうだった?」とねぎらわれ、いつもの女子トークをする。

 もうノクス君に全然かなわないというと、リラ様は少し思いつめた様子で考え込み、言う。

 

「……ノクスを騎士団に入れようかと思っているの」


「……それは、その、いい、と。思います…」


 胸が高鳴った。

 春になったら私は騎士団に入団する。騎士は貴族でもない限り宿舎住みだ。

 だからもう気軽にノクス君と会えなくなると思っていた。

 でも、もし一緒に入団できたら…。


「ノクスはもう実力もついてきているし、何より本人の強くなりたいっていう気持ちに添えると思うの」


「そ、そうですね!」


「そしたらいつか、任務とか一緒に行けるかしら…ふふ。その前に手柄もないとだめよね?身元の保証が私だけじゃ一般騎士のままだろうし…。こ、婚姻はまだ早いから、ゆ、ゆっくりと…」


 リラ様が、いつものクールなリラ様が…。本気なんだなぁ。


 ………絶対に押さえなきゃ。気持ちも、体も。言葉なんてもってのほか。


「リラ様ならもうノクス君の心をきっとつかんでますよ!応援してます!」


 心にも無いことを言う。


「そ、そうかしら?でもテッサに応援してもらえるなら、なんだかうまくいく気がするわ!」


「はい!大丈夫ですよ!私がほしょーします!」


「ふふ。ありがとね。テッサ」


 その瞬間、私の初恋は終わったのだ。





 夜。


 私は机に突っ伏していた。


「うぅ……わかんない……」


「だからここは、この年代の王が――」


 頭の上からお姉ちゃんの声がする。

 勉強会だ。

 私は頭を抱えた。


「騎士に座学いらなくない!?」


「いるの」


「剣で勝てばいいじゃん!」


「そういう人を落とすための試験でもあるのよ」


「でもリラ様は——」


「リラ様は特殊なのよ。あなたは凡庸でしょ。姉の私と同じなんだから」


 ひどい。

 ほんとにひどい。

 わかってたことだけどさ。

 その時、ノックがして返事をすると、扉の隙間からノクス君が顔を覗かせた。


「あの……今日もいいですか?」


「どうぞ」


 お姉ちゃんが答える。

 ノクス君はいつも通り遠慮がちに入ってきた。

 最初の時は何かの用事で来て、お茶を用意して見てるだけだった。

 でもいつの間にか、一緒に座るようになった。時たまお姉ちゃんに質問してる。

 

 理解が早い。計算はお姉ちゃん以上。常識は全くなし。かっこいい。


「なんでわかるの!?」


「え?」


「今の一回で理解してたじゃん!」


 ノクス君は困ったように笑う。

 私はまた机に突っ伏した。

 だめだ。

 剣でも追い抜かれて。

 勉強でも置いていかれる。

 胸が苦しくなる。

 そんな私を見て、ノクス君が静かに言った。


「でも、テッサさんはちゃんと頑張ってます」


 その声は、本当に優しくて。

 言葉と一緒に撫でられた頭がぽかぽかして。

 お姉ちゃんのうらやましそうな顔にも気づかなかった。

 

 さっきお風呂で初恋がおわった。

 今、また恋をした。

ラブコメ

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