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騎士に拾われた僕  作者: liege


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訓練編 ランカスター

前回より数日後

 ある日の午後。

 風は冷たく、空は薄曇りだった。

 中庭には、木剣がぶつかる乾いた音が響いている。


「違う」


 リラさんの声。

 僕の木剣が弾かれる。


「今のは下がりすぎ」


「……はい」


 息を整えながら構え直す。

 最近、よく言われる。

 退きすぎる、と。

 打ち込みが来る瞬間、体が逃げたがる。距離を取ろうとする。

 その癖がまだ抜けない。

 リラさんは二本の木剣を軽く回した。


 右手の長剣。


 左手の短い剣。


 二本。


 いつ見ても不思議だった。

 特に左手側。

 短いのに、あれで僕の攻撃を何度も弾かれる。


 僕が視線を向けていたことに気づいたのか、リラさんが少し首を傾げた。


「どうしたの?」


「……二本目って、いつから使うんですか」


 そう聞くと、リラさんが少しだけ目を瞬かせた。

 だが答えるより先に、後ろから声が飛ぶ。


「一本で立てぬ奴に、二本は扱えん」


 ジークさんだった。


 いつの間に来たのかわからなかった。

 テッサさんが「うわっ」と肩を跳ねさせる。

 ジークさんはそのままこちらへ歩いてくる。


「ランカスターはただの二刀流ではない」


 低い声。冬の空気みたいに重い。


「片方は殺すための剣」


 そう言って、リラさんの長剣側を見る。


「もう片方は、生き残るための剣だ」


次は短剣側を見る。


 僕は黙って聞いていた。

 ジークさんは続ける。


「盾で無いのは、昔の聖王国は弱かったからだ。兵が少なく、数で簡単に周辺諸国に飲み込まれる。ゆえに、量より質。敵を殺せぬ盾ではなく、殺せる「()」が必要とされた」


 木剣を一本拾う。


「殺さねば、生き残れん」


 次の瞬間、ジークさんが踏み込んだ。


 速い。


 リラさんへ打ち込み。

 だがリラさんは退かない。

 左の短剣が木剣を逸らす。


 同時に右手の剣がジークさんの喉元へ伸びる。

 一瞬の出来事に僕は目を見開く。


 防いだ。

 いや、違う。

 防ぎながら、攻めていた。

 ジークさんが鼻を鳴らす。


「死なず」


 もう一撃、リラさんが受け流す。


「引かず」


 さらに踏み込む、距離が近い。

 なのに崩れない。


「食い破る」


 最後の一撃。

 リラさんの短剣が木剣を絡め取り、右手の剣が胸元へ止まる。

 静かになる。

 テッサさんがぽかんとしていた。


「か、かっこいい……」


 僕も言葉が出なかった。

 ジークさんは木剣を下ろす。


「これがランカスターだ」


 その言葉が、中庭の冷たい空気に落ちる。

 僕は自分の木剣を見る。

 今の自分には、まだ遠い。


 だが。


 眼の奥がパチパチと光り、胸の奥が熱くなっていた。


______



 「やってみろ」


 ジークさんが木剣を放ってよこす。

 僕は反射的に受け取った。


 もう一本。


 短い木剣だった。

 今まで使っていたものより短く、軽い。

 テッサさんが目を丸くする。


「えっ、さっき二本目は早いって……」


「試すだけだ」


 ジークさんは短く言う。


 僕は左右の手に木剣を持つ。

 妙な感覚だった。

 どう構えればいいのかわからない。

 右手の木剣はまだいい。

 でも左が落ち着かない。


 何をさせればいいのかもわからなかった。

 リラさんがこちらへ歩いてくる。


「構えはそんなに変わらないわ」


 そう言って、自分の剣を軽く上げる。

 長い方を前に。

 短い方を少し引く。


「ランカスター流は、別にまったく違う剣術ってわけじゃないの」


 左手の剣が小さく動く。


「アーネスト流が盾で受けるなら、こっちは剣で流す」


 するり、と。

 滑らかな動きだった。


「根っこは近いわ。守って、生き残るための剣術だから」


 僕はその動きを見る。

 確かに似ている気がする。

 今まで教わってきた受けの動きに。


 ただ、止めるんじゃない。

 逸らしている。

 ジークさんが口を開く。


「お前は元々、受けだけは悪くなかった」


 低い声。


「避けるのも、流すのもな」


 僕は黙って聞く。


「だが受け身すぎる。逃げ癖がある」


 その通りだと思った。

 危ないと思えば、反射で退こうとしてしまう。


「だからまず前へ出ることを覚えさせた」


 ジークさんが木剣を肩に担ぐ。


「だが、このまま盾剣側に寄せすぎると癖になる」


 リラさんが頷く。


「最近ちょっと、“止める受け”が増えてるの。ランカスターは受け止めるより、流す方が大事」


 そこでテッサさんが「あー……」と声を漏らした。


「だから今日なんだ」


「そういうことだ」


 ジークさんが言う。


「盾に頼る癖がつく前に覚えさせる」


 冷たい風が吹く。


 僕は二本の木剣を見る。


 右。


 左。


 まだ全然馴染まない。


 でも、不思議と嫌ではなかった。


「構えろ」


 ジークさんが木剣を構える。

 次の瞬間、重い一撃と共に踏み込んできた。


 僕は反射的に握りなれた右を出しかける。

 だがその瞬間、リラさんの声が飛ぶ。


「左!」


 咄嗟に短い方を動かす。

 木剣がぶつかる。

 遅れて出したのが幸いして、受けたのは真正面ではなかった。

 斜めに触れる。

 すると衝撃が横へ流れた。


「あ……」


 木剣が逸れる。

 ほんの少し。ほんの少しだけ。

 でも、止めるより軽かった。

 ジークさんの目が細くなる。


「……十分か」


 その声は、どこか確かめるようで、次に進む予感を僕に与えたのだった。


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