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騎士に拾われた僕  作者: liege


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訓練編 2

 朝。

 まだ外が暗いうちに目が覚める。

 体は痛かった。特に腕と肩が酷い。

 けれど、動ける。

 昨日リラさんに塗ってもらった薬のおかげだと思った。


 ゆっくり起き上がる。

 水を飲み、顔を洗う。

 冷たい水が肌を刺した。

 そのまま着替え、早朝の仕事をこなす。


 今朝は早く起き過ぎた。この体はどんなに疲れていても、早起きしてしまうみたいだ。

 少し考え、まだ誰もいない中庭へ向かう。

 朝の空気は冷たい。まだ日も顔を出していない。

 ほんのりと明るくなる中、薄く霧が残っていた。


 壁際には木剣が立てかけられている。

 少し迷ってから、それを手に取った。


 握る。


 まだ慣れない感触。

 けれど、昨日よりは少しだけしっくりくる。


 僕は昨日見た足運びを思い出す。


 前へ。

 後ろへ。

 踏み込み。

 引き足。


 何度も繰り返す。

 ぎこちない。

 それでも、昨日のリラさんの動きを何度もなぞる。


 不意に気配がした。

 振り向く。

 ジークさんだった。

 いつの間に来たのか、壁際にもたれかかっている。


「おはようございます」


 僕は木剣を下ろす。


「ああ」


 ジークさんは返事をした後、しばらく僕を見て何かを考え込んでいた。


 それからこちらへ近づく。


「続けろ」


 僕は頷き、また足を動かした。


 前へ踏み込む。

 木剣をふるう。

 踏み込む。

 ふるう。 


「止まれ」


 ジークさんが近づいてくる。

 そして、僕の胸を軽く押した。

 反射的に体が後ろへ逃げようとする。


「それだ」


 低い声。


「お前は退くことが先にある」


 ジークさんは僕を見る。


「生き残るには正しい」


 静かな声。


「だが、守るには足りん」


 その言葉に、はっとした。


 守る。


 頭の中に、金色が浮かぶ。

 短い髪。

 笑う顔。

 僕の名前を呼ぶ声。


 ――リラさん。


 胸の奥が少し熱くなる。

 僕の恩人。


 ジークさんはそんな僕を見ていた。

 何かを察したのかもしれない。

 だが何も言わない。

 ただ木剣を拾う。


「来い」


 次の瞬間、打ち込みが始まった。



____



 ジークさんの打ち込みは、朝だというのに重かった。


 木剣同士がぶつかる。

 腕が痺れる。

 踏み込みが遅れれば、そのまま体勢を崩される。


「遅い」


 低い声と一緒に次の一撃。

 僕は反射的に後ろへ逃げようとして、ぎりぎりで踏みとどまった。


 前へ。

 盾を押し出す。

 鈍い衝撃が肩まで響く。


「……っ」


「そうだ」


 短く肯定される。

 そのまままた打ち込み。

 休む暇がない。

 僕は息を切らしながら必死に食らいつく。


 逃げたい。

 横へ流れたい。

 距離を取りたい。


 でも、そのたびに先ほどの言葉が浮かぶ。


 『守るには足りん』

 

 体が勝手に動こうとするのを無理やり押さえつけ、留まる。


 木剣が迫る。

 僕は半歩、前へ出た。

 盾で受ける。

 肩を貫くような衝撃。


 だが、崩れない。


 ジークさんの目が細くなる。


「ほう」


 その時だった。


「あっ!、ジーク様!こんな早朝からやってる!」


 明るい声が飛んできた。

 テッサさんだった。

 寝癖が少し跳ねている。

 その後ろから眠そうなリラさんも歩いてくる。

 僕を見るなり、少し目を丸くした。


「ノクス……今さっきの動き……」


「はい、リラさんの真似です」


「真似というか、すごくなじんでる気がしたわ…!」


 少し驚いた声。

 でも、どこか嬉しそうでもあった。

 ジークさんは木剣を下ろす。


「今日はここまでだ」


「えっ、終わり?」


 テッサさんが意外そうに言う。


「朝飯だ」


 そう言ってさっさと屋敷の方へ向かっていく。

 僕は息を整えながら木剣を下ろした。


 腕が熱い。

 汗が額を伝う。


「大丈夫?」


 リラさんが近づいてくる。


「顔、すごい汗よ」


「……大丈夫です」


 そう答えると、リラさんは少し眉を下げた。


「無茶しすぎないでね」


 その言葉に、少しだけ胸が温かくなる。

 不思議だった。

 昨日までの僕なら、こんな言葉をかけられても、たぶん何も感じなかった気がする。

 でも今は違う。

 心のどこかが、小さく揺れる。

 テッサさんがこちらを覗き込む。


「ねえねえ、今どこまでやってたの?」


「足運びと盾です」


「うわぁ……地味……」


「基礎を舐めるな」


 即座にジークさんの声が飛ぶ。

 いつの間にか振り返っていた。

 テッサさんが肩を跳ねさせる。


「ひぃっ」


 その様子に、思わず少しだけ口元が緩んだ。

 するとリラさんが目を瞬かせる。


「……今、笑った?」


「…?」


 リラさんが何か言った気がしたけど、そちらを向いても何も言われない。

 

 僕は急いで朝食の準備に入る。





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