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騎士に拾われた僕  作者: liege


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訓練編 1.5

前回の続き

喉元に突きつけられていた木剣が離れる。


 リラさんが一歩下がり、考え込むように言う。


「……まだまだ粗削りだけれど、ノクス、あなたが使っているのはアーネスト流よ」


 僕は仰向けのまま息を吐いた。

 胸が苦しい。

 腕も脚も鉛みたいに重かった。

 汗が目に入る。


 空は少し赤くなり始めていた。


「立てる?」


 リラさんが手を差し出してくれる。


 僕はそれを掴んだ。

 引き起こされる。

 立ち上がろうとしたけど、ひざが笑って上手く立てない。


「うわ、本当に限界までやってたんだ……」


 テッサさんが半分呆れながら近づいてくる。

 でもその目は半分きらきらしていた。


「ノクス君、全然倒れないんだもん」


「倒れてたよ」


「最後だけでしょ?」


 そう言われると、返す言葉がなかった。

 リラさんはそんな僕たちを見ながら、相変わらず考えるような顔をしていた。

 それから、ふと聞いてくる。


「ノクス」


「…はい?」


「本当に、剣を習った覚えはないの?」


 ない記憶を探っても、やっぱり何も思い出せない。


「……わからないです」


 正直な答えだった。

 記憶がない。

 だから、何を知っていて、何を知らないのかも曖昧だった。


 でも。


「ただ……」


「ただ?」


「なんとなく、避け方がわかる時があります」


 自分でも変なことを言っていると思った。

 リラさんは黙って聞いている。


「どこから来るか、とか」


「……うん」


「どう受けたら、あまり痛くないか、とか」


 そこで、リラさんの表情が少し変わった。

 言葉を選ぶみたいに、ゆっくり口を開く。


「それ、普通の剣の覚え方じゃないの」


 風が吹く。


 汗で濡れた服が少し冷えた。


「剣を習う人ってね、まず“どう当てるか”を先に覚えるの」


 リラさんは静かに言った。


「でもノクスは、“どう痛くないか”から入ってる。防御や応じ剣は、そもそもどういった攻撃が来るかわかっていないと、出来るものではないの」


 その言葉が、妙に胸に残った。

 どうしてだろう。

 少しだけ、息が詰まる。


 その時。


「ペルか」


 低い声がした。

 ジークさんだった。

 いつの間にか近くまで来ていた。

 リラさんがそちらを見る。


「お爺様?」


「ペル?…ですか?」


 初めて聞く単語だった。

 ジークさんは僕を見る。

 鋭い目だった。


「お爺様、ペルとは訓練用の杭の事ですよね?」


 そこに確認するようにリラさんが答え合わせをする。

 うなずくジークさん。

 そして淡々とした声で言う。


「腐った貴族どもが娯楽の為にペルとして人間を使う」


 僕は黙る。

 何も言えなかった。

 言われてもわからない。

 でも、不思議と否定できなかった。


 リラさんが小さく眉を寄せる。


「……どこの貴族がそんな事を…」


 その問いにも、答えられない。

 知らないからだ。

 僕は何も覚えていない。

 なのに、体だけが知っている。

 それが少し怖く感じた。

 沈黙が落ちる。


 遠くで鳥の声がした。


 やがてジークさんが口を開く。


「明日もやる」


 それだけだった。


 だが、その声は少しだけ優しさを感じる、見定めるような響きがあった。


「今日は終わりだ。飯を食って寝ろ」


 僕は頷いた。

 体は限界だった。


 それでも。


 不思議と、嫌ではなかった。


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