あなた達はそういう目で私を見てたんだね
ダルダさんがお城の中を案内してくれてから数日が過ぎた。最近は運動もかねてお昼ご飯はここの食堂で食べさせてもらってる。ジェットのご飯は美味しいけどやっぱり引きこもり過ぎてても暇だしね。それより、ここに来てからお昼が近くなるとお腹が空いてくるから不思議。森にいた頃は、朝ロロの実を食べれば次の日まで何も食べなくても平気だったからな〜。いや、お腹が空くのが普通なんだけどさ。
食堂まで行く間、会う人に頭を下げられるのも慣れてきた。いや、慣れてきたというか気にしても仕方ないなみたいな。この世界がそうなら私が合わせる方だし。
「ルミ、こっちだぞ」
曲がる方向を間違えた私を優しく正してくれるアンバー。……そんな目で見ないで!こういう時はアズールみたいに貶してくれた方がまだいいわ!しょうがないじゃん!どこ歩いても同じ景色の道なんだから!
「あと何回か歩けば私だって間違えないで行ける」
「そうかそうか。もし我らがいない時に迷ったら素直に人に聞きなさい」
「もう!確かに森はあれだけど、室内でちゃんと目的地が分かってるなら私だって覚えられるからね!?」
あくまで小声で言い合ってればすぐに食堂に着いた。次は間違えないからね!
食堂に着くとチラホラ人はいるけどもう私達が来ても平気で食事を続けてる。ここは初日に王様とかと食べたのとは勿論違う部屋だけど、こっちの方が馴染みがある感じで落ち着いて食べれるからいいよね〜。
アンバーは要らないから私の分だけ注文。本当はおにぎりとかがいいけど無いからサンドウィッチで我慢。お礼を言いながら受け取り、定位置に行こうとすればその席の前に誰かが座ってた。んー、あの感じは……。
「よう!いつもこのぐらいの時間に食べてるって聞いて来ちまった。一緒にいいか?」
「ダルダさん。いいですよ」
頷きながらテーブルにお皿を置き、よいしょとイスをひいて座る。ダルダさんがかしこまった感じが苦手そうなのと私達が気にしないのでいつも通りにと言えばすぐにこんな砕けた接し方をしてくれるようになった。みんなはともかく敬られる事の無かった私にしてみればこっちの方がありがたい。
「やっぱりそれルミの椅子だったんだなあ!いや〜子供椅子なんて、うちのガキが赤ん坊の頃に使ってんを見たっきりだからな〜」
「…………」
「まあ確かにここのじゃあルミにはちと大きすぎるからな。ピッタリの作ってもらってよかったなあ!」
ガハハと笑うダルダさんには全く悪気は無いんだろうことは分かる。……分かるけどムカつくのはムカつくんだからな!?
プルプルと怒りと羞恥で震える手をテーブルの下に隠し、顔を下に向けて呼吸を整える。落ち着け自分。この羞恥は椅子を頂いた時に覚悟したじゃないか。ここでダルダさんにもろもろをぶちまけてスッキリしてもこの椅子を作ってくれた厨房のおじいちゃんズを悲しませるだけだぞ!私の気持ちとおじいちゃんズどっちが大事なんだ!おじいちゃんズだろ!!
もう一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。よし、大丈夫。
「どうした?食べないのか?」
「食べますよ。ここのご飯は美味しいですから」
一皿の量は多いけど。サンドウィッチなんて2個ぐらいでいいんだよ。10個もいらんわ。
だよなあ!と目の前で何皿もの料理をガツガツと食べる姿を見てるだけでお腹いっぱいになってくる。野菜とハムのサンドイッチを頬張る。おいしい。
たとえ私の座ってる椅子が子供椅子であったとしても、おいしいものは変わらない。この美味しさの為ならいくらでも羞恥心なんて捨ててやろう。
そもそもの話、ここの家具は全体的に私には大きい。子供もいない、女性ですら私より大きいんだからしょうがない。
ご馳走様でした、と手を合わせる。ほぼアンバーにあげたけどね。ダルダさんもちょうど食べ終わったみたい。あれだけ大量にあったのに……恐るべし。
「はぁー食った食った。そういえば気になってなんだけどよ、ルミは何歳なんだ?7,8歳か?」
…聞き間違いかな?
「…何歳って?」
「違うのか?じゃあ10歳ぐらいか?」
ダルダさんを見ると…冗談で言ってる訳ではないみたい。あぁ…そういえばみんなも最初私のこと子供って勘違いしてたっけ。ということは、ダルダさんを含めこの椅子の製作者である厨房の方々も、誰も私のこと成人女性だと思ってないってことですか?いっぱい食べるんだよってそういうこと?
よくよく考えればそうだよね。ダルダさんだって、いくら大雑把な性格をしてそうでも私のことを成人女性だと認識していれば抱き上げて運ぶなどという暴挙はしなかったはずだ。
日本人は童顔が多いと聞くが、恐らくここでも私の顔は童顔の部類なんだろう。全く持って嬉しくないけど。さらにこの身長もあって誤解したんだろう。私に会った全員が。
思わずアンバーを見ると…
スッと顔を逸らされた。
――――――
――――――――
王の執務室。
「…ダルダさん、そんな辛気臭い空気出すなら外で剣でも振ってきてはいかがですか?」
「お前……もうちょい優しくとか出来ねえのか?だから嫁がいないんだぞ。この前お前の親父に会ったけど、せっかく持ってきた見合いをまたすっぽかされたって泣いてたぞ」
「父も懲りなくて参ってますよ。私が見合いなど行くわけないじゃないですか」
やれやれと全く悪びれる様子に、こいつの親父が可哀相でならない。ルドルフに宰相の座を譲るまで公爵があんなに感情豊かな人だなんて知らなかった。こいつもそうなのだろうか…。
「私をあんなのと一緒にしないでください」
「何も言ってねえよ」
「ねえここ俺の部屋。執務室。俺珍しく仕事がんばってるのに二人してなんなの?」
我慢出来なかったのかジンがペンを置いて声をかける。その顔には自分だけルミと会ってご飯まで一緒に食べて心底羨ましいと書いてある。
「いやな?さっきルミと飯食ってる時に知ったんだがな?」
一度言葉を区切りジンとルドルフの顔を見る。二人はダルダのその何ともいえない顔に疑問を感じながらも黙って先を促す。
「…何歳だと思う?ルミ」
その問いかけに二人は
「八歳だな!」
「いえ、十歳程でしょう」
二人の答えに、自分だけではなかったと安堵しながらあの時の酷く冷めたルミの目を思い出してまた気分が落ち込む。
「……歳だ」
「「?」」
「ルミ……二十一歳だってよ」
「「…は?」」
「だから、二十一歳」
「「……」」
ダルダはこの時、初めてルドルフの口をポカンと開けた間抜け面を見た。




