ローストビーフ
焚き火を囲み、鶯たちは疲れをとっていた。
思い思いの場所に座り込んで談笑していたが、数人は警戒の目を光らせていた。
「マイちゃん~? そこほつれてるから縫ってあげる~」
「え、いいよ。どうせすぐほつれるし」
「だぁめ♪ なにが事故につながるか分からないわ~」
「それは……そっか」
「それになにより身だしなみは気をつけなきゃ~」
「リュシオル、武器を見てくれないか」
「はいはい……蟲の体液と一緒に砂埃も一緒に吸い込んでるな……」
「そうなのか」
「布かなにかで濾す機能をつけるべきか……」
「オォー……」
「お腹すいたねえオーちゃん」
「腹減ったぞグリレェ! 隊長命令だ早くしろー!」
「待ってろすぐできっから!」
「グリレ君、芋はあるのかね!」
「うるせえ! お前はそればっかりか! 黙って見張ってろ!」
「あるのかね!!」
「付け合わせにある!」
「ありがとう!」
コーラカルは、賑やかな鶯たちの様子を少し離れた場所で見ていた。そんな彼女に気が付いたアダンは、リュシオルに礼を言ってからコーラカルへ歩み寄った。
「おい、一人で居ると危ないぞ」
「はい、アダン様」
「こっちに来て混ざれ、そして笑うんだ」
「笑う事は難しいかもしれません……」
「やめなさいよアダン」
「邪魔するなマイ、もう少し頑張ればこいつも笑ってくれる」
「なんでそんなこと言いきれんのよ」
「初めて会った時よりも表情が柔らかくなっただろう」
「……そうかな」
「……そうでしょうか」
二人が揃って首をかしげると同時に、グリレが調理場から飛び出してきた。手にした木の皿には大きなローストビーフが乗っており、鶯たちは歓喜の声を挙げた。その他に大きな鍋もあり、中身はネギのスープだった。
「さあとっとと食え……おっ、美味しいか分からないけどね……アダンはこっちのソースで、マイはこっちだよ。アカリはこっちでオーは……たっ、隊長は特製塩でしたね」
グリレは髪をへたらせると、大きな肉の塊を切り分けてソースを各人に配り歩いた。各々肉を受け取り、自分用に作られたソースを絡めて口の中にいれると、柔らかな肉と抜群の相性のソースが口の中で混ざり合い、ため息がでるほど美味であった。グリレの料理はいつも個々人の好みと体調に合わせて作られており、食事の時間を栄養補給以上の憩いの時間に昇華していた。
アダンは肉にかじりつきながらスープに口をつけると、手を止めているコーラカルに気がついた。
「お前は食べないのか?」
「少し頂きました」
皿にはほとんど残っているスープがみえた。
「おっ、おおお美味しくなかった?」
「いえ、とても美味しかったです」
「ならもっと食え。じゃないと持たないぞ。目的地までは距離がある」
「お優しい方ですね」
「なんだって?」
「私を気づかってくださっているのですね」
「鶯に加わった以上、仲間には変わりないからな」
「いいえ、それ以上の想う力を貴方様から感じます」
「なんだかよくわからんが、ありがとう。か?」
アダンは無表情でそう言うとスープに口をつけたが、コーラカルの視線に気がついた。自分の服の裾を見ているようだった。そこには丸の中に目に当たる弧がふたつ、口に当たる弧が一つの簡易な笑顔の刺繍がされていた。
「気になる? これはファレーナさんがつけたんだよ!」
アカリが笑うと、周囲の皆も笑った。
「アダンちゃんならそれ気に入ると思って~」
「だからってちょっと子供過ぎないか?」
「笑顔の刺繍、とても素敵です」
「そうだろう」
「ほんと笑顔フェチよね……」
「アダン様は笑顔にそこまで固執されるのですか?」
「面白い話じゃないぞ」
コーラカルがそのまま自分を見つめてくるので、引き下がる気はないのだなと観念し、口を開いた。
「俺の父親は……いや、父親なのかどうかもわからんが、世話をしてくれていた男がいたんだ。その男は死んだんだが……死ぬ間際に笑ってた、妙に穏やかな顔で。あの笑顔が頭に残ってる。俺はもう一度あんな笑顔が見たい、ただそれだけだ」
「アダン様も、優しい方ですね」
「……いいから食え」
コーラカルは「分かりました」と小さく呟くと、スープに口をつけ始めた。アダンはその様子を見届けると自分の皿を片付けると寝床の準備へ向かった。
枯草を集めてその上に布を敷き、簡易的な寝床をつくった。夜の見張りは交代制で、彼の順番はまだ先だ。アダンは寝床に横になると目を閉じた。




