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第8回 ラテン語

1 導入



 ラテン語は古代ローマで使われた言語です。

 現在、母語として話す者はいません。ですが、そもそもフランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などは、ラテン語の子孫です。その意味では、死語とはいえない部分があります。

 ローマが東西に分かれたのち、東ローマではギリシア語に取って代わられました。一方、西欧では西ローマが滅びて以降も、近世まで共通語として機能しました。


 文法は極めて難解とされますが、それとは裏腹に、発音は非常にラクです。ほぼローマ字読みでOKです。そもそも、ローマ字のローマは、ラテン語が話されたローマです。

 日常的にラテン文字を使用する英語、フランス語、イタリア語などの話者がラテン語を読むと、どうしても各々の母語の癖が出てしまうといいます。結果、普段はカナ文字と漢字で生活している我々のほうが、かえってラテン語を正確に発音できるとか!


 ラテン語の教科書の多くは、特に断りが無くても古典ラテン語を解説します。これは、紀元前後に使われたラテン語です。ローマ神話関連の固有名詞は、古典ラテン語か、さもなくば英語の発音に基づいて表記されます。

 対して、現在カトリックの典礼で使用するラテン語は、教会ラテン語といいます。両者の間で、発音に若干の違いがあります。

 今回は、先に古典ラテン語の発音を紹介し、その後で教会ラテン語について、古典ラテン語と異なる部分だけ挙げます。

 ローマ神話のような多神教的な世界観の物語のネーミングに用いるならば古典ラテン語、キリスト教のような一神教的な世界観ならば教会ラテン語、といった使い分けをされますと、より雰囲気が出ると思われます。




2 文字



 最初は、J、U、W、Y、Zを除く21文字を使っていました。


 前1世紀に、ギリシア語のυ(ユプシロン)とζ(ゼータ)の音を表記するために、YとZを追加します。


 また、元々Iは母音のイとヤ行の子音(半母音)の両方を表し、Vが母音のウとワ行の子音(半母音)に対応していました。中世になってようやく、IからJが独立して子音を担当し、VとUが分かれてUに母音が当てられました。

 多くの教科書や辞書は、IとJ、VとUを使い分けます。しかし、中には執筆者の方針で、JとUを用いない本もあります。当然ながら、古代ローマの時代に作られた碑文には、IとVしかありません。

 やたら子音が多くて発音しにくいと思ったら、VをUだと思うと、スラスラ読めます。


 Wはまず使いません。




3 母音



【a、e、i、o】日本語のア、エ、イ、オとほぼ同じ。eとoに、開口音と閉口音の区別は無いようです。


【u】口を尖らせてウ。


【y】ギリシア語のυ(ユプシロン)や、ドイツ語のü(ウー・ウムラウト)と同じ。

 uを言う時のように口を尖らせ、その状態で無理矢理イと言います。ユと聞こえます。

(例)Ulyssēs/ウリュッセース(【ギ神】オデュッセウス。トロイの木馬の発案者。英語でユリシーズ)


 a、e、i、o、u、yの6文字とも、短母音にも長母音にもなります。

 母音の長短で言葉の意味が変わってしまいますが、綴り上は判別できません。教科書や辞書は、長母音にマクロン(ā、ī、ūなど)を付けます。

 が、そもそもカナ書きする時は、長音符を省くことが多いです。

(例)Aenēās/アエネーアース(【ギ神・ロ神】ギリシア語でアイネイアス。トロイア落城の際、トロイアを脱出して流浪の末イタリアに辿り着く):実際のテキストには、単にAeneasと書かれます。訳語も、アエネアスとするほうがむしろ多数。


 二重母音はae、au、ei、eu、oe、uiの6つ。1つの音節の中で、全て綴り通りに読みます。




4 子音(1文字の場合)



【d、k、m、p、s、t】全てローマ字と同じ。kはほとんど使いません。


【f、l】どちらも英語と同じ。


【b】(1)原則としてローマ字のb。(2)sまたはtが後続すると、ローマ字のp。


【c】常にローマ字のk。e、i、yが後続しても、変わりません。

(例)Cerēs/ケレース(【ロ神】穀物の女神。ギ神のデメテルに相当):セレスではありません。


【g】英語のdragon/ドラゴン(竜)のg。


【h】英語のhell/ヘル(地獄)のh。


【j】ローマ字のy。

 またjは、前後が両方とも母音だと、長く発音します。カナ書きする際は、ヤ行の前にイを補います。

(例)Jānus/ヤーヌス(【ロ神】門と始まりの神。ギ神に対応する神がいない珍しい存在)


【n】英語のdemon/デーモン(悪魔)のn。


【q】必ずquという綴りで現れます(→5)。


【r】イタリア語などの巻き舌のr。ライオンの真似をしてガルルルル……、と言う時の音。


【v】ローマ字のw。何故かカナ書きする時、vaはワではなくウァ、vuはウではなくウゥと表記する傾向があります。

(例)Minerva/ミネルウァ(【ロ神】戦争と技芸の女神。ギ神のアテナに相当):ミネルワはあまり見ません。ミネルヴァは教会ラテン語の発音(→6)。

(例)Vulcānus/ウゥルカーヌス(【ロ神】鍛冶の神。ギ神のヘファイストスに相当):最近はウルカヌスという表記も増えているようです。当方はそのほうが好き。


【x】英語のaxe/アックス(斧)のx。exam/イグザム(試験)のように有声子音にはなりません。

(例)Ulixēs/ウリクセース(Ulyssēsに同じ)


【z】英語のgoods/グッズ(商品)のds(破擦音)。イタリア語のzを有声子音として読む時や、古典ギリシア語のζ(ゼータ)も同じ発音です。




5 子音(2文字の場合)



【qu】英語のquest/クエスト(探求)のquの音。

(例)Quirīnus/クィリーヌス(【ロ神】ローマを建国したロムルスが生きたまま昇天し、神になった姿)


【gu、su】母音が後続する時に限り、uはローマ字のw(半母音)になります。gやsはそのまま発音します。


【ch、ph、rh、th】それぞれギリシア語のχ(カイ)、φ(ファイ)、ρ(ロー)、θ(シータ)を音訳したものです。

 当時はギリシア語と同様に発音したようですが、現代の人間が古典ラテン語のテキストを読む場合は、hを無視します。すなわちそれぞれ、c(kに同じ)、p、r、t。

(例)orichalcum/オリカルクム(金属の真(ちゅう)。ギリシア語でオレイカルコス、英語でオーリキャルク。有名なオリハルコンがどの言語の発音かは不明です)


 同じ子音字が2つ連続すると、イタリア語や古典ギリシア語のように長く発音します。

 カナ書きする時は、mm、nnならば「ン」を補い、それ以外の子音では「ッ」を補います。が、実際には省略することもよくあります。

(例)Bacchus/バックス(【ロ神】酒の神。ギ神のディオニュソスに相当。英語でバッカス)




6 アクセント



 1つの音節から成る語は、その音節にアクセントがあります。


 2つの音節から成る語は、1つ目の音節にアクセントがあります。


 3つ以上の音節から成る語は、最後から2番目の音節が次のいずれかを満たす場合にはその音節に、いずれも満たさない場合は最後から3番目の音節にアクセントがあります。

(1) その音節の母音が長母音または二重母音であること。

(2) その音節の母音の後に、子音が2つ以上あること。




7 教会ラテン語



 教会ラテン語の読みかたは、古典ラテン語と比べ、イタリア語に近くなります。


【ae、oe】エー。


【ph】英語のf。


【v】英語のv。


【c】(1)e、i、y、ae、oeが後続すると、ローマ字のch。(2)それ以外では、ローマ字のk。


【g】(1)e、i、y、ae、oeが後続すると、英語のj。(2)それ以外では、英語のdragonのg。


【sc】(1)eまたはiの前では、ローマ字のsh。(2)それ以外では、バラバラにsとk。


【b】s及びtの前でもb。語末にbsという綴りが現れると、sが英語のz(摩擦音)になります。


【gn】ローマ字のny。

 フランス語やイタリア語では、同じ綴りに対し、よく似た発音を持つ単一の子音を使います。が、教会ラテン語では完全に、ニャニュニョと同じ音です。


【ti】以下の条件を全て満たす場合に限り、ティではなくツィになります。

(1) 直前がs、t、xのいずれでもないこと。

(2) iにアクセント(→6)が無いこと。

(3) iに母音が後続すること。

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