番外:ドリさんの獣人講座
『ドリさん、今日は亜人について教えてくれよ。』
ある日の事。授業の前にそう頼むと、ドリさんはフムと肯きながら髭に覆われた顎を撫でた。
「亜人、と一言で言っても二通りの意味がある。広い意味では獣人にエルフとドワーフを加えた只人以外の人族の総称。狭い意味ではそこから獣人を除いたエルフとドワーフのみを指す。」
へぇ~、と感心する俺の反応を確かめながら、ドリさんは聖樹の枝の一つに腰かけた。
地面に腰かけている俺と大体同じ目線になる。
「まあ、一度に多くを教えても覚えられまい。今日は獣人か狭義の亜人の説明をすると言うことでどうじゃ。」
もちろん、異論はない。
『それなら、今日は獣人の方で頼むよ。そっちの方が関わる可能性が高いんだろ?』
「そうじゃな。エルフもドワーフも自らの拠点からはほとんど出て来んからな。エルフは大森林の中にあるという隠れ里。ドワーフは西方のドワーフヘイムにそれぞれ引きこもっておる。」
ドリさんはウムと肯き、髭をなでる。咳ばらいを1つしてから、授業が始まった。
「“獣人”というのは、人族の中で体の一部に獣の特徴がある者たちのことで、全部で6の種族がある。
南の大森林には種族ごとの小国家があるのに加えて、王国内にも集落が点在しておるし、都市部にも一定数が居住しておるな。」
『たしか、グレイス王国では扱いが悪いんじゃなかったっけ?』
以前の授業の記憶を頼りにそう言うと、ドリさんは「その通りじゃ。」と肯いた。
「そうじゃ。まともな仕事は少ないし、只人には課せられていない人頭税もかかる。
人頭税の方は王国の国教である聖智教へと改宗すれば、減免されるということでな。最近はそれ目当てに旧来の信仰を捨てる者も多いと聞くが、本来は種族ごとに別々の神を戴いた独自の信仰を持っておるよ。」
『独自の信仰ていうと?』
「彼らの信仰と文化は、精霊神と祖霊という概念に特徴がある。
精霊神というのはそのまま、彼らが種族ごとに奉じる神の事じゃ。6つの種族ごとにそれぞれ土、緑、火、風、水、光の精霊神を信仰しておってな。それがそのまま各種族の得意とする理術精霊魔法と対応しておる。
一般的に言って、只人よりも理術精霊魔法への適性は高いようじゃ。その代わり、得意の属性以外はからっきしらしい。」
自分の属性以外の魔法は使えないと言うと、なんだか魔物にも通じるような気がするな。
『ふーん、それで祖霊っていうのは?』
「祖霊というのは、彼らの種族ごとに定められた特別な魔物の事じゃ。彼らにとって同じ精霊神から加護を受けた魂の兄弟であり、同時に精霊神の使いだともされる。」
そこで言葉をきると、ドリさんは髭をしごきながら言う。
「まあ、すぐにはピンとこないじゃろう。今はそう言うもんじゃと覚えておけ。さてと、それでは種族ごとに説明するぞ。」
「まずはサボ族。これは大地の精霊神スサオウを信仰し、岩角牛を祖霊とする。温厚だが大柄で力が強い。頭から生える一対の角が大きな特徴じゃ。」
牛の獣人ですね。分かります。
「次にリンカ族。緑の精霊神ククノチを信仰し、祖霊は剣牙虎。やや小柄だが、その分だけ身軽。夜目も利くな。大抵は三角形の大きな耳がある。」
猫の獣人なのか。虎の獣人なのか。それが問題だ。
「3番目はクー族。火の精霊神カオグウを信仰しておって、妖狐が祖霊じゃ。享楽的な性格の者が多いと言うが実際の所は分からんな。耳も目立つが、何より太い尻尾が特徴じゃな。」
今度は狐が来たか。次はなんだ、犬かなにかか。
「4番目はクロ族。風の精霊神シナツヒを信仰して、祖霊は月狼。非常に血族の結束が強く、実直と言われておる。鼻の良さは獣人の中でも随一じゃ。」
本当に犬だった。いや、狼か。
「5番目は少し毛色が違うな。レピ族というんじゃが、水の精霊神ミヅハを信仰しておる。祖霊は龍魚。只人の耳の位置に扇状のエラがあって、一定時間は水中でも活動できる。鱗人の別名通り鱗がある者も珍しくない。」
へぇ、魚。というかウーパールーパー的な奴か?確かに毛色が違う。
「最後がアーラ族。信仰しているのは光の精霊神ヒナギ。祖霊は王光鳥。非常に目がよく。長身痩躯の者が多い。毛髪の代わりに鳥のような羽毛を持つが、翼はないし飛ぶことはないぞ。」
最後は鳥か。
順番に牛、猫、狐、犬、魚、鳥。6種類だけとはいえ、結構なバリエーションなのではなかろうか。個人的には兎とか、羊辺りがいてもよかったんだが。
まあ、今のところ遭遇する可能性もあんまりないから言うだけ野暮だな。
「さて、ざっと説明したが、何か質問はあるか。何もなければ、今日はもう終わりにするが。」
『あ、ちょっと待って。祖霊とかのあたり、もう少し詳しく聞かせてくれないか。』
「ふむ、よかろう。まず祖霊という概念から説明するが、そもそも……。」
俺が質問を投げかけて、ドリさんが説明する。
そんな風にまた一日が過ぎて行くのだった。




