第33話:カサンドラ、かく語りき
今回、だいぶ短いです。悪しからず。
「巫女・カサンドラが予言をもたらした。」
カタリからそう告げられたアルビが、指定された控えの間に到着した時には、すでに他の勇者一行は勢ぞろいしていた。
少しとはいえ、遅刻しているのだから当然だ。
謝罪もそこそこに、そのまま巫女・カサンドラの待つ客間へと向かう。
一行が見覚えのある女性。カサンドラ付きの侍女頭・オソノに先導されて客間に足を踏み入れると、その瞬間、そこにいた人物の表情がふわりと華やいだ。
「皆さん、お久しぶりです。また、お会いできてうれしく思います。」
ソファから腰を浮かせて一行を出迎えたのは、予言の巫女・カサンドラ。豊かな銀髪と、女性らしい柔らかな曲線。
相変わらず、美しい。
「こちらこそ、またこうしてお会いでき、光栄です。」
ライドが折り目正しく応じると、アルビをはじめ、他の面々もそれに続いた。
「ライド様は、会うたびに精悍さを増していくようですわね。勲詩に歌われるのも当然です。」
ニコリと微笑みながら、カサンドラが言う。
「カサンドラ様こそ、お会いするたびお美しくなられているように感じます。市井のものが目にすることがあれば、私以上の人気となるでしょう。」
そつなく返答するライドだが、やはり美人には弱いのか。巫女の笑顔に頬がわずかに緩んでいる。
いくつかの言葉を交わしているうちに、オソノがお茶を運んでくる。
その時になって、立ちっぱなしだったことに気が付いたのか。わずかに狼狽えた様子のカサンドラが皆にソファを勧めた。
おそらく、ライドとの会話に夢中になっていたのだろう。
数年前に聖都ではじめて面会した際は同席が許されなかった面々も今日は一緒である。
ここが教会の本拠である聖都ではなく、王都であること。さらに、カサンドラ自身の立場も、かすかにではあるが自由さを増していることが理由だろう。
とはいえ、ジンカイ、コナーズ、ケイマー、それにアルビの4人は基本的に口数少なくしている。
なぜなら、カサンドラがライドと話したがっているのが明白だからだ。
アルビなどは正直面白くない部分もあるのだが、相手は教会の重要人物でり、静観している。
ごく稀にしかライドと会うことのできないカサンドラに対し、気を遣っている部分もあるかもしれない。
「カサンドラ様。この度はなにか重大な予見を得られたとか。」
小粋で軽妙な話術など、とても出来ないライドが直球で尋ねる。
内心ではもう少し会話を楽しんでいたかったはずだが、カサンドラはそれをおくびにも出さずに微笑した。
「ええ、その通りです。恐ろしい魔物が王国に迫っています。」
カサンドラはそこで一旦言葉をきると、場の空気をほぐすかのような悪戯っぽいまなざしをライドに向ける。
「折角、ライド様にお会いできたと言うのに、どうしても暗い話になってしまいますね。本当は、もっとゆっくり、楽しいお喋りが出来たらいいのですが、役目がら仕方ないこととはいえ、なかなか上手くはいかないものです。」
その口調には率直でまっすぐな好意がこもっていた。流石のライドも照れる。
照れたが、その分、返答は堅苦しくなる。
「もったいないお言葉ですが、今は予見の内容をお伺いさせていただきたい。」
カサンドラはクスリと笑う。この人のこういう所が可愛いのだとでも、考えているのだろうか。
しかし、ふざけてばかりはいられない。
巫女は不意に口元を引き締めると、居住まいを正した。
「すいませんでした。では、予見についてお話ししましょう。」
そう断りをいれ、一同が効く体勢になったのを確認してから、カサンドラは改めて口を開いた。
「陛下や宰相にはすでにお話しさせていただいたのですが、今回の予見では2つの情景が見て取れました。」
「2つ。それは全く別の事柄ということですか。」
「ええ、感覚的なものですが、起こる時間がわずかにズレていますから。恐らくは別々の事件だと思われます。」
ライドが口にした疑問に、カサンドラが丁寧に答える。他に質問がないか確認するように、一拍の間を置いた後で再び話し出す。
「一つは悪鬼。群れ成す悪鬼がこの国の兵士と激しく争っていました。
中でも、その中の1頭。恐らくは頭目でしょう。全ての打ち砕くような戦棍と全てを防ぐような甲冑を身に着けて、王国の兵士をまるで紙でも引き裂くかのように。
そして、あの眼。ひどく獰猛な光を放つ。まさしく血に飢えた獣のような恐ろしい眼をしていました。」
悪鬼、そう聞いたとき。ライドの表情がわずかに動いたことに、カサンドラ、それに一行のうちの何人かは気が付いた。
しかし、あえてそれに触れる者はない。
代わりにという訳ではないが、ライドが口を開いた。
「それで、時や場所は?」
カサンドラは申し訳なさそうな顔をした。
「詳しいところまでは、分かりません。時はしばらく後、おそらく数か月ほど先の事でしょうか。場所については宰相が調査を行ってくださると言うことです。」
「そうですか。それで、もう一つは?」
話の先を促され、カサンドラは重々しく肯いた。
「はい、もう一つの方は時も場所もおおむね分かっています。」
続けてもよろしいですか。と聞くように、カサンドラの視線が一行に順番に向けられた。
「時期はかなり近く。恐らく、数日中。」
数日中。その期間の短さに一同の真剣みが増す。
「場所は王都より北東。天境山脈にほど近い辺境です。そこで、太古に封じられた邪龍が復活しようとしています。」
厳かに断言するカサンドラ。部屋の空気が小さく震えた。
次回から、魔物編に戻ります。




