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第29話:禁じ手

勝ったッ!第2章完!

 いやー、火口蠕虫クレイターワームは強敵だったな。まさか、2体仕留めた後にもう1体出てくるとは。

 危なかったが、ジャスパーの機転のおかげもあって、なんとか大きなダメージなく退治することが出来た。


 そのジャスパーは今、俺の数メートル後ろ。一抱えもある火の魔石(ワームの巣の周辺に転がっていた)を背負ってヒーヒー言いながら歩いている。

 何でも、火蜥蜴(サラマンダー)の里では重宝されるらしい。


 グレムリンの巣まで戻ると、入り口の前にミラとリヨン、それにギーアが立っていた。他にグレムリンの姿もなく、ミラもリヨンも拘束されていない。

 俺の姿を見つけると、二人とも一目散に駆け寄ってきた。


「「ロク!!」」

「ミラ、リヨン!!無事だったか。」

 体を低くして、ミラを手のひらに乗せてやり、顔の高さまで持ち上げる。リヨンはぴょんと飛び上がって、首根っこに抱き着いてきた。

「もー、心配したんだから。大丈夫だった?けがはない?」

「こわくなかった?いたいところあったら、まほうつかってあげるから。」


 矢継ぎ早にとんでくるリヨンとミラの質問。それに順番に応えながら、こちらも二人がケガなどしていないかを確認する。

 どうやら、二人とも丁重に扱われていたようで一安心だ。


 そんな家族の触れ合いが一段落したところで、ギーアに向き直った。ギーアは巣の入り口近く。遺跡の床に(うずくま)るようにしていた。いや、より正確には、こちらに向けてひれ伏していた。

 その手に槍はなく、首元の飾りもいつの間にか外されていた。


 大人しく二人を解放したことも含め、ギーアの意図がよくわからない。俺は警戒心を残したまま、目の前の機妖精(グレムリン)向かって、足を一歩踏み出した。


 俺が近づいたのを感じたのか、機妖精(グレムリン)は顔をあげて口を開く。

『このたびは、本当にありがとうございました。また、いくつもの無礼を働いたこと、申し訳ございませんでした。誠、お詫びのしようもございません。』

 初対面の際の、こちらを威圧する厳めしい声ではない。しおらしく、かしこまった調子でギーアは言う。

『何かご入用なモノがございましたら、なんでもおっしゃってください。ワタシ達にご用意出来るモノでしたら、できる限り応えさせていただきます。』


 コイツは、何を言っているんだ。俺の家族に、宝物に刃物を突き付けておいて。

 目の前の生き物をまじまじと見る。灰色のかたい毛におおわれた顔からは、感情が読み取れない。欠けた左腕だけが寒々しい。


「おまえ、家族はいるのか。」

 気が付いたら、そう聞いていた。ギーアの瞳がわずかに揺れるのを俺は見た。

 見た、気がした。


『…おります。妻と、仔が4人。』

「ここに呼んでくれないか。」

 ギーアの口が何かを形にしようとし、結局は何も発っしない。代わりに背後に向き直り、巣の中に向かって何かを呼びかけた。


 妻と、仔が4人。ギーアの後ろに並んだのはそれからすぐの事だった。

 思ったより、子供がちいさい。若猫から子猫くらいの大きさの子供が丸い目を見開いて、俺を見ていた。怯えているのか、表情は弱々しい。


 ギーアが振り絞るような声を出した。

『私は、どうなっても構いません。どうか、妻と仔はお助け下さい。お願いいたします。』

 その台詞に、俺は今度こそ激しい怒りを感じた。


「お前が、俺の家族に手を出したお前が、それを言うのか。俺は、自分の痛みならどれだけでも耐えられる。だが、お前、お前が俺の立場なら怒りを感じはしないのか!?」


 今度は、俺にもギーアの表情が読み取れた。奴は胸を刺し突かれたような顔をしていた。それでも、なお口を開いた。

『お願いいたします。ココよりほかに棲むところなく、火口蠕虫(クレイターワーム)を倒すすべもない機妖精(ワレら)には、このような手に縋るよりほかなかったのです。ワタシはどうなっても構いません。どうか、ほかのモノたちは。』


「ロク」

 リヨンが俺に声をかけてくる。ミラは俺の足にしがみついていた。

 分かってるよ。二人とも。分かってる。ただ、感情の置き場所が見つからなかっただけだ。

「二人とも、もうここには用がない。さあ、早く外に出よう。」

 俺は二人に向けて肯くと、そう促した。俺も二人に続いて、出口に向けて歩き出す。


 最後に振り返ると、ギーアは呆気にとられたような顔になっていた。こんな奴にかける言葉など、大してない。

「二度と、俺たちに関わるな。」。


 俺たちは遺跡から脱出した。


……。


 ジャスパーとは、夕方にキャンプで別れることになった。相手が荷物をまとめ終えたところで声をかける。ミラとリヨンは晩御飯の準備中だ。


「それで、お前はどこまで噛んでるんだ。」

 前置きなく聞いてやると、予期していたのか、火蜥蜴(サラマンダー)の自称冒険家は素直に答えた。


火口蠕虫(クレイターワーム)に勝てて、交渉の出来そうな相手を連れて行く。そいつが首尾よくワームを片付けたら、魔石をいただく。それが俺と機妖精(グレムリン)の長がしていた約束だった。」

 やっぱり、と思った。調査をしていた俺たちの前に、同じ目的のコイツが現れ、連れて行かれた先であの騒動。関りがない方がおかしい。


 俺の沈黙をどう解釈したのか、ジャスパーがさらに説明を加える。

「あの遺跡を魔力減少の原因調査中に見つけたのは本当だ。別の入り口、大きくひび割れた壁の隙間から侵入したら、グレムリンの集落でな。長から頼まれたんだ。

 最初からすべて説明したら来ないかもしれないし、グレムリンたちが交渉は自分で行うと言っていたから詳しい説明をせずに連れて行った。

 ミラちゃん達は、居たほうがグレムリン側の警戒心が緩むと思ってな。

 悪かった。まさか、あんな行動に出るとは思っていなかったんだ。本当にすまなかった。」


 ジャスパーが頭を下げた。


 正直、腹は立つ。しかし、機妖精(グレムリン)たちを許したのに、コイツをどうにかするのもバランスが悪い。結局、くぎを刺すにとどめた。

「二度とするな。まあ、二度と会わないかもしれないが。」


 ジャスパーはすまなそうな顔でもう一度だけ頭を下げると立ち上がった。すぐわきに置いてあった荷物と魔石を背負う。

 元は夕飯を食っていく予定だったが、まあ、気まずい部分もあるだろう。俺も止めはしない。


「二度としないよ。まあ、旦那とはまた会うような気がするけどな。」

 反省しているのか分らない口調でそう言うと、じゃあな、と一声。夕闇の降りて来た山の斜面をヒョコヒョコと歩きだす。


 俺はソレを見送ることもなく、ミラとリヨンが料理をしている囲炉裏端へ戻った。ジャスパーが帰ったことを伝えると、2人とも少しホッとしたような、残念なような顔をした。


………。


 結局、怪しい遺跡はあったものの、それはあくまで火山から優先的に魔力を運ばれていただけで、このままいけばソコも遠からず魔力が減少する。

 あの地域の魔力減少の原因は火山活動の衰退以外に何もない。


 ドリさんの所に戻ってそう報告(遺跡の下りは、ジャスパーに聞いておいたのだ。)した俺は、久しぶりの聖樹の森で2、3日過ごした。

 つまり、ガラードンと組手をしたり、ミラの覚えた魔法を見せてもらったりと非常に有意義な生活を送った。

 なんか、年末の休みに実家に帰った気分。全力でくつろいじゃうぞ~って感じだ。


 しかし、あんまり長居をして村の方を留守にしていると、折角稼いだ村人の好感度が元に戻ってしまうかもしれない。

 踏ん切りをつけて帰ることにした俺は、再び荷物とミラ&リヨンを肩に担いで山を下りた。

 2人もついてきたのは、まあ、予定というか、予想の範囲内だ。


 火山の調査と違って、こちらは勝手知ったる道のりだ。何事もなくイスタ村の村はずれ、いつもの小屋に到着した。

 ところが、そこに1つの想定外が。


「よお、旦那。遅かったな。」

「おい、なんでお前がここにいる。」

「かはははは、来ちゃった。なんつって」


 なに、テヘッて顔してるんだ。誤魔化されないよ。そんなんじゃ。

 ていうか、村の人たちもよく許したな。アレか?俺で慣れたのか?


「ジャスパーさん。どうしてここにいるの?」

「あ、ジャスパーじゃん。何やってんの?」

 ミラとリヨンもそれぞれ疑問を口にする。ジャスパーは「どうだ、驚いたか。」とでもいう様に大笑した。


 火山の麓で別れて数日。

 俺たちは火蜥蜴のジャスパーと再会した。

触手(火)VSオッサン(岩)をキング・クリ〇ゾンにより回避。

以後、これは禁じ手とします。

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