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第17話:ビビとネリ

 今日も朝からイスタ村騎士団の三人組が攻め込んできた。

 お前ら、家の手伝いとかやってんのか?うちのミラはお手伝いも勉強もしっかりやる超絶いい子だぞ。


 そんなことを思いながらも騎士団の相手をしていると、村の方からハンクがやってきた。

 見ると後ろに2人、大人の女性と女の子を連れている。


「よお、ロク。どうだ、調子は。」

「いや、イスタ村騎士団の3人が来てくれるから退屈はまぎれてるが。なかなか、大人は難しいな。」


 ハンクに対して答える。

 そうなのだ。大人たちにも何度かコミュニケーションをとろうとしているのだが、今のところなかなかうまくはいっていない。


 山のふもとで会議を行った面々なら話くらいは出来るのだが、その他の人たちとなると近づいただけで逃げられたりしてしまう。


 そう言うと、ハンクは苦笑した。

「まあ、しょうがないか。それより、今日はお前さんに俺の女房と子供を紹介しようと思ってな。連れてきたんだ。」


 そうして、自分の後ろにいた2人を紹介してくれる。

 小柄でちょっとふくよかな女性が奥さんのビビさん。ミラより少し小さい女の子が娘のネリちゃん。

 ネリちゃんの髪はビビさんと同じ栗色、目はハンクと同じ緑色だ。まばらに散ったソバカスが可愛らしい。


「初めまして。岩石精(ゴーレム)のロクです。」

 目線があうように出来るだけ頭を下げて自己紹介をする。パッと見、土下座みたいだ。


「初めまして。この間はうちの旦那がお世話になって。もっと早くお礼に来ようとは思っていたんですけど」

 ビビさんは俺のことをこわがってはいない様だ。きっと、ハンクがうまいこと説明したのだろう。

 小柄でのんびりした見た目とは裏腹に肝っ玉母さんなのかもしれない。


「は、はじめ、まして」

 ネリちゃんはどもりながら、それでもしっかり挨拶してくれた。

 とはいえ、どうしたものか。下手なことをするとさらに怖がらせてしまう。しかし、軽妙なトークで場を和ませるようなスキルはもっていない。


「そんなにビビるなよ。こいつ、結構良い奴だぜ。」

 そう言って話に割り込んできたのは、それまで滑り台で遊んでいたはずのシレンだった。キタイとロタールも後ろに控えている。


 女の子のまえで格好つけているのか。シレンは地面に着いた俺の腕にもたれるようにしてポーズを決めている。

 なんか、高級車を自慢するナンパ男みたいだ。


 俺は少し悪戯心を出した。シレンが体を預けている腕をくるりと回転させて、掌を上に向ける。

 支えを失ったシレンが掌の上に尻もちをついたところで、今度はその手をゆっくりと持ち上げた。地上数メートルまで。


「え、う、うわわわわわわ。」

 素っ頓狂な悲鳴をあげるシレン。ハンクが苦笑し、他の4人は心配そうに眺めている。


 そのまま、俺の肩の上におろしてやると、シレンは俺の頭に必死に縋りついてきた。

「お、おまえ、急に何するんだ!!」

「そんなにビビるなよ。イスタ村騎士団の名が(すた)るぞ」

「ビ、ビビってねーよ。イスタ村騎士団はビビったりしない。」

 そう言う声が震えているが、言わないでおいてやることにいた。武士の情けだ。


 そんな風に、最初こそ怖がっていたシレンだったが、すぐに慣れてはしゃぎ始める。

 無茶をするヤツが男子のヒーローなのは万国共通なのか。俺の肩の上で片足立ちをしたりして、大人たちをヒヤヒヤとさせる。


 だが、一人が楽しそうにしていると、他の子供も羨ましくなるのだろう。

 キタイが、続いてロタールが、肩の上に乗るのにそう時間はかからなかった。

 ネリはそれでもしばらくはオズオズと内気な様子を見せていたが、俺が手のひらを差し出すと、意を決した様子でピョンと飛び乗ってきた。


 肩に移るのにはシレンが手を貸してやっていた。その辺りは流石に年上で面倒見がいい。

 キタイやロタールももう慣れたもので、勝手に俺の背中を登ったり、降りたりして遊んでいる。なんだか、ジャングルジムにでもなった気分だ。


 昨日もそうだったが、子供を見てるといやが応にもミラのことを思い出してしまう。女の子であるネリちゃんを見ていると特にだ。

 ミラ、元気かな。

 こうして考えていると、今にも小屋の後ろから出てきそうな気が……。


 目があった。


 赤茶の瞳が2つと、灰銀の瞳が2つ。合わせて4つの目が小屋の影からジトッとした視線をこちらに投げかけていた。

 何だろう。怖い。


 人間だったら、冷や汗をかいているところだ。子供たちが体にまとわりついていなかったら、走って逃げていたかもしれない。


「なんか、しんぱいしてそんしちゃったね。ママ。」

 そう言うミラの視線が痛い。


「そうだね。寂しがってるかと思ったけど。随分、楽しそうに遊んでるよね。」

 そう言うリヨンの表情が冷たい。


「二人とも、どうしたんだ。来てたなら声をかけてくれりゃよかったのに。ああ、紹介するよ。ハンク、は知ってるな。その奥さんのビビさんに、娘さんのネリちゃん。あとはシレン、キタイ、それにロタールだ。」

 何故か早口になって、俺は皆を紹介した。


 ハンクやビビさん、それに子供たちも二人の存在に気が付いた。

 流石に皆の前でジト目を継続する気はないのか。二人がオズオズと小屋の影から出てくる。


 ビビさんたちは少しばかり怯んだような顔をした。

 恐らく、リヨンが翼をもつ人頭鳥(ハルピュイア)であることと、ミラの髪の毛が鮮やかな赤色であることに驚いたんだろう。

 しかし、それがすぐさまの拒絶につながりはしなかったので、俺は正直ホッとしていた。


「初めまして。そこの岩石精(ロク)の仲間で人頭鳥(ハルピュイア)のリヨンです。それでこっちが」

「ロクとママのむすめのミラです。」

 二人のその言葉に最初に反応したのは、意外なことにネリちゃんだった。俺の肩の上からミラとリヨンに話しかける。


「は、はじめまして。わたし、ネリっていいます。あの、おくすりありがとうございました。おかげで、げんきになりました。」

 2人にお礼を言うネリちゃん。あれ、俺には?


 ネリちゃんの言葉に我に返ったのか、ビビさんも口を開く。

「はじめまして、ビビです。あなた達が聖樹の葉をくれたおかげで村中が助かりました。ありがとう。」


 言われたリヨンとミラが照れている。

 人にお礼を言われるなんて初めてだからだろうか。ミラは初めてあった同年代の子供に照れている部分もあるのかもしれない。


 そのままお見合い状態になって、場が硬直してしまうかと思われたその時、ビビさんが追撃を放った。

「そうだ。昨日焼いたお菓子があるから、よければお茶にしないかしら。」


 これに食いついたのはリヨンだ。もともと、俺にくっついては集落の近くに出没し、村の食べ物を失敬していた前科がある。人の作った菓子とか大好物のハズだ。


「もちろん、喜んで。ロク、テーブルとか食器はあるの?」

「ああ、一通りは作ってある。ただ、食材は何もないぞ。」

 ここ数日、暇に飽かせて食器やらなにやらはかなり製作した。いずれは二人もこちらに呼びよせようと思っていたからだ。


「それじゃあ、私は家からお菓子と茶葉を持ってくるわ。お湯を沸かしておいてもらっていいかしら。」

 ビビさんの提案にリヨンが頷いて見せると、ビビさんはネリちゃんをハンクにまかせて村へと戻って行った。


 リヨンはと言えば、小屋の中に入ってゴソゴソ働き始めた。と、思ったら戸から顔を出した。

「そこの三人組。ちょっとお水くんで来て。」


 三人組。間違いなくシレン、キタイ、ロタールのことだ。

 先程から半ば空気と化していたが、ここで再びスポットライトが当てられた。

 とはいえ、命じられた内容に三者とも顔をしかめる。


「イスタ村騎士団はまもののめいれいなどうけないのだ。」

「え~、ここまではこんでくるの。」

「おもいし、たいへんだし」

 シレン、キタイ、ロタールの順に思い思いの文句を垂れたが、リヨンに「働かざる者、食うべからず」と申し渡されると、しぶしぶ腰を上げた。


 ミラとネリはリヨンの指示に従って食器の準備をしているようだ。食器やテーブルを綺麗にしている。

 布巾なんかなかったはずだから、山から持ってきていたのだろう。

 準備のいいことだ。


 それぞれが働き始めてしまい、俺とハンクだけが外に取り残される形になった。

 いい機会なので、気になっていたことを聞いておこうと口を開く。

「なあ、今までなんとなく聞きそびれていたんだが、ネリちゃん達の病気ってなんだったんだ?」


 ハンクは顎に手を当てて、唸ってしまう。

「それが良くわからんのだ。腹痛に、下痢、それから発熱。なにか悪い物でも食べたみたいな症状なんだが、誰も心当たりはないというし。患者は年寄りと子供が多いが、若い衆が全員無事だったわけでもない。」


「なあ、もしかしてなんだが、病気になった人は村の北東の方向に畑を持っていたりしないか。それか、北東の畑でとれたものをたくさん食べたとか。」

 俺の言葉にハンクの顔色が変わる。

「確かにうちも北東に畑を持っているが。なんだ。なにか心当たりがあるのか?」


 心当たりというほどではないんだが、と前置きして俺は話し出した。

「夜の間、俺は大抵瞑想。つまり大地の魔力と自分の魔力を同調・循環する修行をしているんだが、どうも村の北東側の魔力の流れがおかしいような気がしてな。」

「おかしい、てのは具体的にはどういう風にだ。」

 ハンクが身を乗り出してくる。子供の病気の原因だ。真剣にもなるだろう。


「普通なら大地の魔力ってのはゆっくりと淀みなく流れていくものなんだ。濃淡の違いこそあってもな。だが、この村の北東のあたりはそれがどうも淀んだみたいになっていて、上手く流れていないようなんだ。」

 俺の言葉にハンクはジッと考え込んでしまった。恐らく、自分の知る患者のリストと村の北東に畑を持っている者のリストを突き合わせているのだろう。


「その魔力の流れが病気の原因だと?」

 しばらくの後、ハンクが顔をあげた。質問に対して俺は首を振る。

「それは、分からない。俺は人間の病気に詳しくないし、村や畑にはあまり近づかないようにしているから。」

「分かった。俺から村長達に掛け合ってみるから、許可が下りたら畑を調べてくれるか。」

 もちろんだ、と俺は肯く。


 と、そこまで話したところでお茶の準備が出来たようだった。

 ビビさんにネリちゃん、それにミラとリヨンに騎士団の3人がテーブルについてお菓子を前にしている。

 俺とハンクも立ち上がって、小屋の方へ移動した。俺は窓の外に座り、ハンクは椅子に腰かける。


 見ていると、お茶を前に皆が手あわせて指を組み合わせた。

 リヨンとミラは何をしているのか分らない様子だが、いつも手を合わせて「いただきます」はしている。

 そんなものだと思ったのか黙って手を合わせていた。


「英知と慈愛の神テクノラ様。今日もまた貴い糧を得させていただいたことに感謝いたします。光を(ラスター)。」


 ビビさんの声に続いて子供たちも唱和する。たしかこの国では聖智教という宗教が一般的なはずだから、その教義にあるのだろう。


 お祈りがすんだ途端、子供たちは我先に菓子に手(1名は足)を伸ばす。中でも一番早いのがリヨンだ。

 おい、お前はもういい歳だろうが。なにシレンと菓子を取り合っているんだよ。

 ほら、ミラとネリちゃんにも笑われてるぞ。


 小屋の中が一気に明るくなり、俺もなんだか元気な気持ちになる。たった数日とはいえ、ミラたちと離れていたのは寂しかったからな。


「あの~、」

 そんな、暖かい空気の中。場違いに心細げな声が絞り出された。声の主はハンクだ。

「俺のお茶は?なんか、お菓子もないんだけど」

 それには子供たちが元気よく答えた。

「働かざる者、食うべからず!!」


 見事なハモリだ。思わずハンクもテーブルにうなだれる。

 いやまあ、確かにお茶の準備は手伝わなかったけどさ。これでも結構、マジメな話してたんだよ。

 俺は心の中でハンクをフォローしてやった。



 そんな風に一部の例外はあったが、お茶会は和やかな雰囲気で進んだ。

 リヨンはビビさんと友達になったのか、次回の訪問の約束をしているようだし。リヨンはシレンやネリちゃんと一緒にいち早くお菓子を食べ終えると外に飛び出して遊んでいる。


 こうしてみると、リヨンの体力は抜きんでているらしい。ネリちゃんではついていけていないし、年上のシレンとも張り合っている。

 まあ、毎日ホルンちゃん達と山道を走り回っていれば当然かもしれない。


 父親代わりとしては、もう少しお淑やかでもいいと思うのだが、母親役が母親役だけに無理だろう。

 まったく、いくつになってもガキで困る。


 あれ、リヨン?

 なんで、そんな目で俺を見るんだ。嫌だな。変なことは考えていないよ。

 え、声に出てた?いや、待ってくれ。話せばわかる。俺は別に、とりあえず呪文を詠唱するのはやめよう。

 な?ちょ、おま、それアカン奴や……ヌワァアアアアアアアア!!



 そんな風に一部の例外はあったが、お茶会は和やかな雰囲気のまま終わった。

 ハンクとビビさんが子供たちを引き連れて村の方へと帰った後、俺は山に帰ると言うリヨンとミラを見送ることになった。


「折角なんだから、泊って行けばいいのに。」

 俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて「クフフ」と笑った。なんだか、意味ありげだ。


「どうしたの、ロク。私たちがいないのがそんなに寂しいの?」

 否定することもできたが、その時の俺はちょっと素直な気分だった。多分、ハンクの一家の仲のよさそうなところを見ていたせいだろう。


「まあ、そうだな。やっぱり、二人がいないと寂しいよ。」

 リヨンがニッコ~ッと笑った。それを見てミラもニコニコしている。

「まったく、しょうがないなあ。また2、3日したら来るから心配しないでよ。その時は布団も持ってくるしさ。」

 リヨンがそう言ってウィンクする。なんだか、上機嫌だ。ミラが手招きするので顔を寄せると、小声で言う。


「あのね。ママも、ロクがいなくて寂しいって言ってたよ。」

「コラ、ミラ。余計なコト言わなくてもいいの。」

 どうやら、聞こえていたらしい。

 大げさにしかめられたリヨンの顔が心なしか赤い気がして、なんだか俺もドギマギした。


「じゃあ、もう行くから。しっかりね。」

「お、おう。ミラの事、頼んだぞ。」

「あ、まってよ。ママ。ロク、バイバーイ。」


 今にも飛び立とうとするリヨンの背中に、ミラが急いで捕まって、こっちに手を振って来る。俺も二人に手を振り返す。

 リヨンとミラはゆっくりと舞い上がると、俺の頭上を2、3回旋回してから山の方へと飛んで行った。

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