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思いつくままに ー短編集ー  作者: siro
短編

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29/30

苦みは甘みで誤摩化す

大地は大きく深呼吸してから、図書室の扉を開けた。

時刻は夕方の4時。


いつもユキと待ち合わせしている図書室。そして、いつもかち合う桃華が居る場所だ。

静かな場所である図書室は、今桃華の声が響いている。


進んで行くと、自習机に桃華とユキが座っていた。ユキの眉間には皺が寄っている。ちらりと大地が近づいてきたのに気づくと立ち上がった。


「大地」


「帰るぞ」


「大地先輩!!」


桃華は飛びつく様に大地にしがみついた。

ヤバい殴りそう、と自分の中で苛つく心を押さえ込みながら、ユキを見れば哀れみの表情を向けられていた。


横で桃華はずっと話し続けている、その姿は肉食獣の目だ。怖いな〜とユキは思いながらも、少しずつ離れて行きながらそっとその場を離れた。


下駄箱に付く頃にはユキはもう側にいない、大地は若干の悪寒を感じながらも無言で下駄箱で靴を変えた。桃華も靴を変えに急いで自分の下駄箱に行き、直に戻ってきた。


ユキが居ない事に気づいていないのか、合えてふれてこないのか桃華は笑顔でまた大地の腕にしがみついてきた。それはまるで逃がさない様に。


「大地先輩!今日はうちの車が迎えにきてくれてるんです。一緒にかえりましょ」


「いや」


「あ!もうきてる!」


いつも車でなんてきてないだろっと心の中で叫びながらも、ぐいぐいと引っ張られて大地は車に押し込まれてしまった。


入った瞬間、あ、これヤバいやっとすぐに思った。

何よりも、運転手の顔が見えない。何よりも何か遮断するような、結界の中に入ったような感覚に陥った。


「大地先輩、今日家には誰もいないんです。だからお茶していってください」

体に抱きつきながら桃華が上目遣いで誘って来る。

だが、大地にはぎりぎりと罠をはる蜘蛛女に見えた。怖い!怖い!やばい!っと大地は心の中で叫びながら、桃華と距離を置こうと肩に手を置いて離そうとすると急ブレーキがかかってそのまま倒れ込んでしまった。

「先輩ったら、大胆。そんなに待てないんですか?」

柔らかな感触に目を開ければ、桃華の胸が目の前にあった。起き上がろうとするも、ぎゅっと抱きしめられて身動き出来ない。

「ちょっとだけならいいですよ」

にっこりと微笑みながら、桃華が言ってきた。もちろん大地の中の答えはNOだ。だが体は言う事をきかない。


どういう事だ?っと思っている間に桃華に唇を奪われてしまった。ぬるりとした感触に嫌悪感がわき上がる。

これはもう無理だ、ヤバい食われる。

大地は必死にポケットに入っている携帯を手に取った。その間だけにも桃華は大地のブラウスのボタンを外して素肌の体に触れて来る。

狐のストラップを握りしめ、心の中で叫んだ。


 ー 美綾みりょう先輩!!助けて!!




少し前に、ユキは美綾先輩と一緒に別の車に乗っていた。

車の中は豪華だ。ファーが敷き詰められたふかふかの椅子、優雅にお茶を飲む美綾先輩。何より車の中が良い香りだ。


「大地、大丈夫かな」

べったりと張り付かれていた様子を思い出しながらユキは呟いた。


「危ないでしょうね」

サラリと言われた言葉に、ユキは思わず声を上げた。

「えぇ!!」


「ちょっと学園の結界を変えたのよね。たぶん、あのお人形さんとっても飢えてる状態よ☆」

「え、待ってください」

「だから、つまみ食いしてるかもー」

そう言いながらお茶を口に含んだが直に真剣な目に変わった。


「美綾先輩?」


「美綾様、車に乗りました」

運転手が唐突に話しかけた。


「なるほど、車に何か仕込んでるわね。そのままつけて頂戴。」


「ど、どうして車なんですか?大地大丈夫ですか?」


「そりゃー、ねぇー。車の中は密室ですもの」

にっこりと微笑んだ美綾にユキは、本当に大地が心配になって来た。


動き出した車は、途中でスピードを上げた。外の窓を見れば、町の景色では無くなっている。

「美綾先輩??」

怖くなり、くっつけば、美綾は微笑みながら言った。


「大丈夫よ、ユキちゃん。あちらさんが境界に入り込んだだけ。これは、お迎えに行かないと駄目ね。」


「きょ、境界って人間世界と他の世界のですか・・・?」


「そ。連れ込む気みたいだから。あ、ちょうど大地君からのヘルプも来たわね。」


「これ、もう。」

「ユキちゃんはこの中で大人しく良い子でまっててね。」

そう言って、美綾は車の天井の扉を開けて外に飛び出した。


一瞬白い尾が見えた。





ドコンっと鈍い音と共に車のボンネットがへこんだ。

大地からは見えないが、ガラスが割れる音が聞こえた。


「何?!」

桃華が大地を抱きしめたまま、飛び起きたおかげで、その姿がやっと見えた。

白い忍者のような下履きに、サラシがまかれ、その上に赤い着物を羽織った、長い髪の毛と九尾の白い妖狐が立っていた。


綺麗な赤黒い鉄線を取り出し、振るった瞬間天井は消え、逃げ出す運転手を叩き割った。がしゃんという音と共に人形だったものは陶器の固まりへと変わった。

飛び出した黒い固まりをすかさず、袖の下から取り出した壷に封じ、妖はまた袖の下に入れ直した。


「さて、そろそろうちの生徒をかえしてもらおうかぇ?」


「な、何コイツ!!」


桃華は怯えた様に大地にくっついた。大地は、運転手が破壊されてから身動きができる事に気づいた。ひっついてきた桃華を突き放し、本能のまま、妖狐の方に逃げれば、首根っこ掴まれた。


「捕縛。」


妖狐が呟き、扇子を広げると、文字が浮かび上がり桃華目がけて文字が飛んで行った。


「きゃぁああああああああ!!」


悲鳴を上げる桃華に、恐ろしさを感じながら、大地は手に持っていた携帯を握りしめた。周りの景色に目をやれば、黒い林だ、いくつもの道があるのが分かるのにうっそうと森の中を走っているという変な感触。


やばい、ここ境界じゃないか。帰れるのかな。と不安な気持ちをもちつつも。文字でぎりぎりと巻き付けられた桃華は扇子が閉じられる音と共にその場所から消えた。


「安心せい、ちょっと特殊な場所に封じただけよ」

にっこりと微笑んだ妖狐は美しかったが、力の差に大地は戦いた。


大地を掴んだまま妖狐はふわりとジャンプする。

「ひぃぃぃ」


「力の差を知るという事は良い事よ。これからもユキの暴走を止めるんことだ。あれは力のある巫女ゆえな」


言われた事を頷きながらも、大地はジェットコースターにのっているような感覚に悲鳴を上げ続けた。


ぼすんと柔らかな場所に落とされ、目をあければ、豪華な車の中。自分の首元を掴んでいたのは美綾先輩だ。


「あ」

大地が何か言う前に唇に指を当て、意味深に微笑んだ。



ー 力の差を知るという事は良い事よ ー



先生達が何であんなに低姿勢だったのかわかったわ。と大地は心の中で呟きながら意識を失った。


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