【野次馬の正しいマナー 別視点】
なんとなく蛇足。細かい話はガッツリ省略です。
「貴方が王になるのよ」
それが母上の口癖だった。跡継ぎである兄は母に厭われ、腹違いの次兄も母は嫌いだった。
何故なら、兄の乳母を勤めていた女性を父が手を出したせいで、次兄が生まれたというのは、周りの者が教えてくれた。
だからこそ、2番目に生まれた俺は母上の手で育てられた。だから母上は兄よりも俺を愛してくださる。
何より、側妃となった女は辺境伯の娘で、身籠っている時に夫が亡くなり未亡人となったという女だ。産まれた子が男子であれば跡継ぎとして母子ともに家に居られたであろうが、女子であったためそのまま家から追い出された所、乳母の仕事を見つけて王宮にきたらしい。
そのいきさつも、公爵家出身の母上には許せない事このうえない事だった、いつも田舎娘の癖にとか、売女と呼ぶのだ。
父上は物心つく頃からあまり母上の部屋には訪れない、仕事が忙しいからだと言っているが、召使達が裏でコソコソ話しているのを聞くと違っていた。
幼い俺はコッソリ影に隠れて使用人達が居るエリアで話を聞くのが習慣になっていた。
「王妃様も、少しは大人の対応をなされたらいいのに」
「無理よ。王様がお茶会に誘ってもダメなのよ?側妃様との仲を取り持とうとされてるのに、全部断るし。」
「また断られたの?側妃様がご挨拶に来られても門前払いだったじゃない。これじゃー王様も嫌よね〜通われないわよ。」
「まぁ、蝶よ花よと育てられた公爵家のご令嬢だった王妃様には耐えられないのかしらね?」
「そうでしょ?殿下がお産まれになった時は、実の子なのに全く興味なく、すぐ夜会に繰り出したんですもの、浪費ばかり、王様も気の毒よね。第3王子が産まれたら、いきなり子煩悩で乳母もつけずに自ら育てたって、今更よね〜」
「そうよね。子に愛情を注ぐ女性が良いって王様が言われたからでしょ?最近癇癪が多くて嫌になるわ、私も宮移動したい」
イライラする心を沈めながら、思うのは母上を侮辱した召使の処遇だ。
母上に告げるのが一番手っ取り早いが、話の内容を伝えなければならない、それでは母上が傷つくから違う内容で首にしなければ。
何が良いだろうと調べ回れば、色々出てきた。それを女官にいって監督不届きだと告げれば直ぐに召使は入れ替わった、母上を冒涜する奴は許せない。
母上はか弱い女性なんだ、この宮で母上の味方は少ない。だから僕が守らないと。
そのため少しでも二人の兄を持て囃す声を退け、母上が望む息子にならなくてはならない。
幼い自分ではやっぱり全てを潰すことは出来ず、二人の兄の話が耳に入ってしまう。そうすると母上は不機嫌になり、俺の両肩を掴んで言うのだ。
「貴方が王になるのよ」
「はい、母上!」
笑顔で返せば母ほっとしたように頷くのだ。母上がそう言うのなら王になれると思っていたし、なると思っていた。
そして、二人に優秀な教師が付けられたと聞けば、俺にも優秀な教師が呼ばれた。
必死に勉強して、父上に認められれば、父も母の元に通ってくれるという思いだけで学んで行った。
兄とは月に一回会えばいい方だ。
それも時々父上が家族を集めてする夕食会の時が多い。だけど母は頑なに出席せずに父上が苦笑をもらしている。明らかに呆れられている。
このままでは本当に母上は愛想をつかされてしまう。
この夕食会は居心地が悪い、母上が出たがらないのも、そのせいだ。同じ兄弟だと言うのに兄は、側妃と笑顔で談笑し、次兄は父上と、俺だけ異質な空気に息苦しい、だが出席しなければ母上は本当に孤立してしまう、それだけは避けなければならない。
側妃が話しかけられ、嫌々ながらも返す、困った顔をされてもお前は俺にとって敵だ、それに返事をしているだけマシだろうが、まるで女主のように振る舞うそいつが許せなかった。
兄も父上も奪った女だ。
兄が苦言を呈したが、知るか。母上と俺の裏切り者の癖に。
*
ある日、勉強が終わり母上に挨拶に行くと、扉を開ける前に陶器の割れる音と女性の叫ぶ声。
また、母上は癇癪を起したらしい、誰だ?母上を苛立たせる言葉を吐いた者は。眉間に皺がよる俺に気づいたのか扉を護る衛兵が小さく告げた。
「先ほど王が訪れました。」
「なるほど。」
小さくため息をつきながら衛兵に礼を告げると、俺は中に入って行った。
「母上、どうされました?」
優しい笑みを浮かべて小さく小首をかしげれば母上は泣きながら追いすがってきた。
「王子!!!貴方だけが私の息子よ!!息子なのよ!!!お願いよ!!母を置いてかないで頂戴!!」
「どうされたのです?母上。私が母を置いて行くはずがありませんよ。」
「私は、いつも貴方の事を思っているのです!!貴方に迄見捨てられたら私は!!!」
「母上、母上!落ち着いて下さい。私が母上を見捨てるはずがありません。私は母上のたった一人の息子でしょ?」
「そうよ!そうよ!!貴方だけが私の息子よ!!!」
腕が軋むのではないかという程強く握りしめられ、整えられた爪が腕にささるが、まるで何も無いように笑顔を保ちながら、母上が落ち着くのを待った、泣き叫ぶ母を落ち着かせ、侍女に目配せさせれば精神安定剤を混ぜた茶が用意される。
「母上、お茶でも飲んで落ち着いて下さい。」
そう優しく俺の手からカップを手渡せば母も安心して飲み干した。
少しすれば、落ち着いて眠り始める。
部屋付きの侍女達に聞けば、王が母上に息子である俺を縛り付けるのは良くないと告げにきたらしい、他にも色々言っていたようだが。それは言葉を濁されてしまった。まぁ、さしずめ母の言動のせいだろう、嫡男である第一王子は自分の子ではないと周りに言いふらしてるらしいからな。
部屋に戻り服を脱いで腕を見れば、爪痕が赤く残っていた。まるで獣が齧り付いたかのように。
*
学園に通う年齢になり、やっとロイヤルウエスト学園に入れば、その年に次兄がイースト学園に編入した。
王族は長男しかイーストに通えないはずなのに、教師陣に聞けばこの学園で教えられる知識はもう無いからだという理由で編入試験を受けさせたらしい、巫山戯るな。
学園内ではあいつの噂ばかりで苛立ちだけが募っていく。どんなに成績が良くても、やはり兄達も優秀ならば弟も優秀だと同列に並べられる。
このままではいけない。このままでは・・・。
あいつに行けて俺に行けないわけが無い。
だってそうだろ?俺は王に成る為だけに勉学に勤しんだんだ。
それなのに教師陣は難色を示す、色々な理由をつけていたが結局は、王位継承権がもっとも低い三男が行く必要がないと言うことらしい。無駄に継承権争いになると。
母上に会えば、早くイーストへと編入しろと言う、したくても出来ないと言えば、母上が実家に連絡しやっと編入試験を受ける事ができた。
まぁ、簡単に圧力をかけたわけだ。
一安心したら、学園内の事に目が行くようになった。後輩で入ってきた生徒のうわさ話や派閥。
もしかして有効な情報ではないかと気づき、あちこち聞き回っていった。それに編入には、王が難色を示したらしく、もう少し揉めそうだった。だが、一回試験を受け、合格すれば編入は可能だ。そう規約に書いてあるのを知っている。例え王であろうとも、才能ある者を止める理由にはならない。
気になる噂に少し顔を突っ込み、解決させると評価が上がる事に気づいたのはそんな時だった。ついでに事件も解決させれば、俺への周りの評価も城内での評価も上がる。
それに気づいてからは積極的にうわさ話を集めた。定期的に話をする友人もでき、ウエストでの内容を聞ける者も確保してからは安心して編入できた。
イーストでは・・・壁のある付き合い方ばかりだった。何故第三王子がここにという顔を隠しもしない奴ら、表面上だけの付き合い。
友人に会うついでにウエストには顔を出していた時出会ったのが、彼女だった。
地味な子だ、あまり記憶に残らない平凡な貴族の少女、だが姉が印象的だった。
10人が10人美人だと答える姉、その後ろに控える侍女のように影の薄い妹。
彼女は姉の為に、姉の恋人の素性を調べていた。こっそり無邪気な妹を演じながら、上級生の階に行っては会話をしながら側に居る人の会話も聞くという器用な芸当をしていた。注意力散漫だと、回りから言われてるようだが、四方八方に神経を尖らせているからそう見えるだけだ。
だから、ほんの少し興味をもった。そして、彼女の考えを知って協力をしてみた。
彼女は、人が居なくなるとブツブツと独り言を呟く癖があるらしく、聞いてみたら姉にふさわしい男が必要らしい、容姿端麗頭脳明晰、そして程よく野心がある男で姉を大切にする男。これはまた、難易度が高い品物だ。
だが、彼女の中ではすでにリストアップはされてる様子、服に忍ばせてるメモ書きに何か書いてるのに気づき、自分が持つ密偵を使い写させれば。家柄や性格等をメモした手帳だった。
とても有効な情報ばかり、その中で俺が良いと思う男を数人それとなく彼女の姉の近くに行くよう友人にしむければ、彼女のお眼鏡にかなった男が居た。
そして運命の少女にも会った。ただ、彼女の父親が良くなかった。彼女の父親は第二王子派、つまり俺の次兄の派閥にいるのだ。いや、周りには中立派だといってるらしいが、その娘自身がそう言って俺を振ったのだ。
だから、余計熱が入った。
彼女が気に入る物を調べ、好みを調べ。そしたら慈善活動を積極的にしている事を知った。市井で彼女の活動を見守り、ついでに偶然を装って出会い、手伝う。
完璧だった。
今日も彼女の活動を手伝い、帰りに市井でうろうろしていれば、お使いの侍女のような少女に出会った、しばらくしてそれが、こないだの学校内で情報を集めていた少女だと気づいたのは密偵からの報告書でだ。
おさげにエプロン姿で少女は、市井でもうわさ話に耳を傾けていた、だがら徐々に近づき何を聞いているのか興味を持った。
彼女はとりあえず色々な噂を見聞きする。それが貴族に取って有意義な情報であったりするものや、くだらないうわさ話だったりと様々だ。
地味な少女だ、それなのに何故か、惹かれた。彼女の瞳は俺と一緒で冷めたものだった。俺以外にもそんな目をする奴が居るのかと驚いたのと同時に、何で気になったのか納得した、何より隣に居て落ち着くと勝手に思っていた。
お互い踏み込んでこない、表面上の付き合い。
気になって詳しく調べれば後継の居ない伯爵家の次女。しかも、奥方の子では無く庶子だという噂がある少女だった。もみ消されているが、ちょっとした騒動迄あったらしい。
なんとなく、同じだと思った。
俺と同じく暗闇の中に居るような子だ。
「ルーナ。」
彼女の前では決して呼べない名を呟いた、月の女神の名を冠した彼女。
*
最近母上の癇癪が酷く、侍女の一人がとうとう怪我までしてしまった。母上には困ったものだ、落ち着かせて話をきいていると、兄が母上に会いにくるらしい。
今迄、兄上から母上に会いに来る事等あっただろうか?疑問に思いながらも母上を落ち着かせて茶会の準備を指示した。
召使達が忙しなく準備をする中、休憩している者達の話し声が聞こえてきた。耳を澄ましてきけば、やっと殿下と会ってくれるのかと言う話だった。今まで何度兄上が殿下が来ても追い払っていたらしい、今は俺が大きくなり母上を諌められるようになって良かったと。
「・・・諌める・・か。」
モヤモヤとした気持ちは、消化しきれずうちに溜まって行った。
兄が来る頃には、母上は落ち着いていた。よかったとため息がでてしまった。初めて兄をこの宮に迎えた。
一番良い、庭園が見える部屋に招き入れれば、貴族特有の長い賛美の言葉と挨拶が流れる。まるで他人のようだなと一人思いながら、適当に相づちを取りお礼をすれば、茶の準備だ。
母上はずっと黙っていたのに、茶を入れる侍女から茶器を奪い自ら入れ始めた。
「母上?」
「初めて、親子水入らずなんですもの、私自ら入れるわ。」
久しぶりに見た母上の笑顔だった。それが何だか薄ら寒いような、胸が締め付けられるような気持ちで、それ以上何も言えなくなった。
兄も、王妃自ら入れて頂けるなんて光栄ですと返すだけだった。
そして、兄が倒れた。
母上が自ら入れたお茶を飲んで。何が怒ったのか一瞬分からなかった。だって今自分も同じお茶を飲んでいたのだから。
「母上?何を?!何をしたのです!!!」
我に返り急いで、お茶を入れる為のお湯を兄上の口の中に流し込だ。時間が立ってぬるくなっているはずだと思いながら、毒を吐き出させるために流し込んだ。
騒がしさに気づいたのか隣室に控えていた衛兵と侍女達が中に入ってくれば、部屋の現状に侍女が悲鳴を上げた。
「きゃあああ!!殿下!!早く医者を!!」
「殿下!!」
慌ただしく人が出入りする中、気がついた近衛が母上を取り押さえた。母上は笑いながら言った。
「貴方が王になるのよ!これで邪魔者はいなくなった!!」
「母上!!何を言ってるのです!」
こんな時に、何をと思いながら振り返れば近衛兵が押さえつけているというのに、それを物ともせずに暴れる母の姿だった。いつもの儚げな姿はなく、まるで悪鬼のように思えた。
「貴方が王になるのよ!私の息子である貴方が!!」
「あの女が育て子ではなく私の子よ!!私の子こそが!!」
「何の為に産まれたと思っているの!!お前だけは私の味方なのよ!!」
血走った目に映るのは自分だけだった。まるで捕らえられたように俺だけが映っていた。
「は・・・はう・・え・・・」
歯車が狂っていく音がした。
兄は、そのあと後遺症のようなもので舌が痺れているらしい、もしかしたら跡取りも作れないかもしれないというのは医者の言葉だった。
そして、母上は気が狂れたということで療養と言うなの幽閉となった。母上の実家は血筋も家柄も、国の中枢に使える重要な立ち位置の家柄だ、家を取り潰してしまったら、被害は国にかかる。その為の処置だった。
俺は、兄上をすぐに処置を行って救ったという事で謹慎処分で済んだ。母上を諌みきれなかった事が問題だということで。
俺には、もう何も残っていない。残っているのは母上が残した言葉だけ。
「貴方が王になるのよ」
でも、それも叶いそうにない。
*
次兄がいつの間にか軍部に上手く入り込んでいた。しかも、俺が隠していたルーナの存在に気づかれてしまった。
密偵から、兄がルーナの事で嗅ぎ回っているという話を聞きつけたと報告してきた。しかも、俺が会った後にルーナが首を突っ込んだ内容に巻き込まれた時に、次兄の配下の者が接触したらしい。
しかも、ルーナを馬車に入れてそのまま家まで送って行っただと?!あからさまだ。確実に俺への当てつけ。ルーナの家も身分も知っていると。
俺の行動をチェックはしていただろうと思っていた、だから気をつけて変装までして外に出ていたのに、誰かが密告でもしたのだろうかと疑心暗鬼に捕われる。
しかもその後から、俺への尾行があからさまになった。今迄は2人くらいしか居なかったため簡単に撒けたのに、人数が増えたのだ。
しかも、次兄が俺が捕まえるはずだった商人を先回りして捕まえてしまった。
イライラする。本当に、なんで上手く行かないのか。このままでは、何もかも奪われてしまう。しかも、ルーナの学校にわざわざ自ら捕らえに行ったと聞いて、気が気じゃない、ルーナは俺の物だ。誰にも奪わせはしない。
それに、ルーナの家は中立派だ。それに義兄は俺よりだ。だが、中立派を装ってる時点で、有利になった方に行ってしまう。
久しぶりに見つけたルーナと情報交換をしようと新聞を渡せば彼女が呟いた一言が何故か心に突き刺さった。
だから、思わず聞いてしまった。
「君は、誰が次期王にふさわしいと思う?」
答えは、とても曖昧でルーナの考えも中立派だった。いや、国の現状判断でするならば、ルーナは第二王子派かもしれない。
次兄が国の事をどう思っているかは知らない、周りの俺への評価は知っていた。それに答えるように振る舞っていた。そう、振る舞っていただけだ。俺が王になろうと思ったのは・・・。
ルーナが逃げ出そうな雰囲気を醸し出して思わず引き止めてしまった。今女性に人気のアイスを買ってなだめた。ここは前に一度、彼女と来た事がある場所だった。
そして、ルーナを引き止めるには恋人にしてしまえば良いと思いついた。
それが、自分が求めていた物と違う結果になる事を知らずに。
ただ、今まで通り側に居て欲しかっただけだったんだ。安心するその場所を。
*
大きく歯車が軋んでいた。次兄の兵士には邪魔される。市井に出るたびにうじゃうじゃ現れて付け回される。
とてもイライラしていた。
そして、思わず逃げ出そうとしたルーナに苛ついてしまった。今迄のように軽い冗談も会話も出来ない。今すぐココから逃げるか、去ってくれという顔をされる。
苛ついた、とても。だから、無理矢理ルーナに告白してしまった、そして怯えられて逃げられてしまった。
最近ずっと市井に出かけるたびにルーナを探す。
やっと喧噪から外れた教会へ入って行くのを見かけて追いかければ、そこには先客が居た。次兄の配下の男だった。
「俺なら、君を大切にする。だから俺を選べ。ルーナ」
しかも俺の前でルーナを口説き始めた。
「ルーナ!」
思わず名を呼んでしまった。だが、ルーナは驚いた顔を向けたあと、冷めた目をして小さくため息をついた。
まるで、もう終わりだと告げているように見えてしょうがなかった。
木が大きく軋む音が響いた。
「ぼくはルーナの恋人だよぉ〜。第三王子派の学生君」
そう言ってその男はルーナを連れて教会を出て行ってしまった。問いただしたい事はたくさんあったのに、一瞬見えたルーナの笑顔の横顔を見て、俺が知らない笑顔だと思った。
俺は動けなくなった。




