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ジンはプレゼントには向かない。(中)


 ジュン君が依頼しに来て二日が経った。セイミアとヨナは被害が増える度に、あっちを行ったりこっちに行ったり。妖気を見つけては辿っていくが、出会う妖怪は事件とは無関係。事件が起きてから出向くには遅すぎるとセイミアに事件現場周辺を探る事を任せて、ヨナは外にいるココを注視する事にした。新たな被害が出る時に捕まえれば良い。そう決めてみたものの、いかんせんココが多すぎる。

 日本はココの生産国だけあって百万体以上いる。ココは主に学校や幼稚園に保育園、介護施設や病院で働いている。人もそれぞれで働いているがどの職場でも半分の職員がココなのだ。

 睡眠と食事が必要なく、核さえ壊れなければ体が壊れても動けるし、体も直せる。ジュン君が生まれてから現代までの三千年以上、ジュン君の蝶能力でココは増え続けている。


 被害に遭ったココは皆外に居る時を狙われている。屋内で働いているココは除外するとして、外だ。この二日で被害が、ヨナ達の住んでいる地域に近付いてきた。何処かへ移動している途中で犯行に及んでいるらしく、被害があった場所では新しく被害は出ていない。でも何か手がかりがあるかもしれないから、セイミアを呼ぶ事はできない。

 最初の犯行から一直線移動しているので、ヨナは次の被害が起こるであろう範囲を絞りそこへ向かった。



 所変わって、ヨナが向かっている被害予想範囲内。複合型商業施設の近くにある公園で、ベンチに並んで座りながら空を眺める二人がいた。


「お、カラス」

「ん? カラスだな」

「やっぱり、カラスは妖怪でも光り物を集めるんだね」

「カラスだからな」


 ジンと悟空だ。シュノからお使いを頼まれて二人で買い物に来た帰りだった。本当は徒歩三十分圏内にあるショッピングモールでも買えたんだが、お菓子好きの悟空にはそこでは物足りず徒歩一時間圏内にあるデカい方を選んだ。この徒歩は今のジン基準で、健康な時は半分くらいの時間で着いていた。

 デカいだけあって二百以上の店があり、いろんなお菓子を沢山買えた悟空は大満足だった。甘味は世界を救う。これは悟空の言葉。


 帰るまでにちょっとお菓子食べたいと悟空が言い出したので、公園でお菓子を食べた後少しのんびりしていたジン達。その頭上をカラスが飛んでいった。

 流石にもう帰るかと公園から出て歩いていると、帰り道の途中にある中学校の校庭で人だかりが出来ていた。体育の授業の最中だったらしいが、どうやら様子がおかしい。外から眺めてみると、授業中だったであろう先生が、窓から顔を出して様子を伺っていた事に気付いた生徒が、大声で先生に説明し始めた。ちなみにこの中学校は、ジン達の母校。先生達はジン達が入学する前から変わらない。


「岬せんせーい! 五木先生の核がない!! 取られた!!」

「え!? まさかっ職員室には!」

「他の子が言いに行ったー!!」


 どうやら最近話題の事件がここでも起こってしまったらしい。


「なるほど」

「……もしかして、あのカラスが持っていたのは」

「…‥そうだろうな。ここからでも先生の所から妖気を感じる。あいつが取っていったに違いない。悟空、後を追ってほしい。ジンは荷物を置いてくるよ」

「分かった」


 悟空は觔斗雲に乗ってカラスが飛んでいった方向を追いかけて行った。ジンは出来る限りの早歩きをした。ジンは足が遅いし、走るのは体力が低下しているジンには少し難しかった。土手について橋まで向かう途中で、空の方からジンに声がかかった。


「ジン!」

「……ヨナ」


 立ち止まって声の方向を向くと、ヨナが落ちてきた。雪を出して着地の衝撃を緩和させた時の冷気が、体温が上がったジンを冷やしてくれた。


「やっほー! ジンは何急いでんの?」

「……ちょっと待ってて」

「うん、大丈夫? 顔赤いよ珍しい。ジンいつもちょっと顔色悪いから、赤いのみるの久しぶり」

「……ありがとう」


 呼吸が乱れたいるジンを雪で作った団扇だヨナが仰いでくれた。冷たい空気がジンの頬にあたる。


「冷たい」

「大丈夫そ?」

「うん。ありがとう」


 呼吸が整ったジンは、つい先程見た事をヨナに説明した。


「ついさっき中学校の先生が核取られた」

「え!?」

「やったのは妖怪のカラスで、今悟空が後を追っている」

「えー!!」

「あのカラスは闇の方のカラスだな」

「う、うわぁ。……進展あった」

「どう言う事?」


 ヨナはまさかここでジンに会うとは思っておらず、少し躊躇った。でもジン達が通っていた中学の先生が関わっているなら、ジンは絶対に依頼に参加する。というか言わなくてもそのままジンの方で解決してしまうだろうから、ヨナは全部話した。客の情報に関する契約は今回無かったから、もうマジで全部話した。


「……なるほど。家に一旦帰ろうとしてたんだよね。シュノのお使いの途中だったんだから」

「おけおけ。じゃ早く帰ろっか。……ねぇもう一本橋があればって思うよねー?」

「うん。何度も思ったし、今でも思う」


 土手の下の方へ移動する。ヨナの周りが急激に冷えたと思ったら、瞬きの間に土手に雪で作られた橋がかかった。ヨナがジンを抱いてその橋の上を走り出す。ヨナが通った後ろから端は崩れて行き、通り終わったら地面に少しのシミを残した消えた。ヨナはジンを抱えたまま走り、ジンの足なら十分くらいかかるところを半分以下の時間で家に着いた。よくまぁそこまで軽いわけでもないジンを抱えながら爆走できるものだな。ヨナすごい。ジンは感心した。


 家の中に入ろうとすると玄関が開いてシュノが出迎えてくれたので、荷物を渡してジンは玄関に座るのに合わせてシュノも座った。ヨナはそのまま立ち続けてジンの時と同じく依頼の事を話した。


「ふぅん。なるほどねぇ。犯人っていぅか、犯鳥? は分かってるわけだからぁ後は捕まえて、核を取り戻すだけなのねぇ」

「うん」

「分かったぁちょっと待っててぇ」

「うん」


 玄関で座りシュノを待っているとヘビがやってきたので、ジンがヨナの話を教えてあげる。ヨナはセイミアと客に連絡している様だった。


「ヘビも行く?」

「ぴっ」


 シュノと一緒に白玉も来た。一緒に行くつもりらしい。移動手段にはピッタリだ。


「よぉし行くよ〜」

「うん」


 シュノの声かけで皆外へ出る。白玉が大きくなって、その背中にヨナが前で後ろがシュノの順で座る。空を飛ぶのは車で行くよりも早くて良い。誰も免許持ってないから乗れないけど。シュノは免許取りたいみたい。頑張って取ってほしい。


 目的地が近いらしく高度が落ちて来た。気配を探ると近くに悟空と、中学校で感じた妖気と同じ妖気があった。


「悟空が捕まえてるみたい」

「本当?」


 地面に降りると、怒気を発する悟空に脚を掴まれて核を口に咥えている、可哀想なくらいに震えたカラス妖怪が見えた。近付いて、ヨナが鳥籠を作り悟空がその中にカラスを入れた。カラスは鳥籠の中で核を落とし、悟空から出来る限りの距離を取っている。だが鳥籠を悟空が持っているので、距離は近い。


「何か話した?」

「いや、なかなか肝が座っている。俺様の問いに答えないとは……」


 そう言いながらカラスを見下ろす悟空に、カラスは羽で顔を覆った。ヘビがジンの方から鳥籠に飛び乗り、鳥籠が揺れるときゃーと悲鳴が上がった。


「恐怖でぇ話せないだけに見えるけどぉ」

「んー。悟空それがして」

「あぁ」


 ヨナが悟空から鳥籠を受け取り、核を回収しておく。核を確認すると傷もなく綺麗なままだった。ヨナは安堵の溜息を吐いた。


「よかった……この核は無事」

「他の核は何処にやったの」


 ジンがデカい白玉を背景にカラスに話しかける。羽の隙間からチラチラとカラスがジンを見ながら、ちっさい声で話し始めた。


「……う、そのぉあっし、ただカシラの奥方に贈り物をしたかっただけなんですぅ……!!」

「不倫?」


 シュノが反応した。シュノの言葉にカラスは大慌てで否定する。


「い、いえ!! 全くその様な事はなくてぇ! 奥方の機嫌をカシラが損ねてしまって……奥方の機嫌を良くするためにぃみんなで贈り物を探して! この石綺麗だしぃ……沢山有るんだから何個かいいかと思っただけなんですぅ……」

「ふぅーん」

「沢山居るからって取って良いわけないだろーが」

「で、でもぉ綺麗だしぃ……ひいっ! 寒いっ寒いっすぅ! ねぇさん方見逃してくださぇ……」


 シュノは見下ろしながら圧をかける。ヨナが冷気を鳥籠に纏わせる。うるうると潤ませた助けを求める目をジンに向けて来たカラスに、ジンは頭を横に振った。分かり易くガーン!! と項垂れるカラスを見ながら、ジンは口を開いた。


「……お前達の事情は知らない。他の核はどうしたの。何処にあるの。案内して」


 また羽からチラチラとジンを何度か見たカラスは、悪意に塗れた笑顔をジンに向けた。その瞬間にカラスの体が大きくなり、鳥籠を壊した。


「……っ」

「!!!お前!」

「っ!ジン!!」

「ジン!!」


 大きくなったカラスは飛び上がり、ジンを足で掴んで空を飛んだ。その後ろを悟空と白玉、鳥に変身したヘビが追う。白玉はシュノとヨナを置いて来てしまった事を思い出し、地上を走って追いかけるヨナ達を回収して、悟空達の後ろについた。カラスはとても早かった。悟空達に追いつけてもカラスとの距離は離れていく。


「ギャハハハハハ! 誰が案内してやるかってんだよぉ! これは貰っていくぜぇ良いプレゼントになりそぉだぁ!! ギャハハハハハハハ!」


 不快な笑い声と共に何処からともなく現れたカラスの大群に、悟空達は足止めを食らった。


「ちょっ、邪魔!!」

「殺すわよ! どきなさい!!」

「情けは無用、俺様の道を塞ぐ者は神であっても許さない!!」

「ガルルッ!」


 ヘビは鳥から作画が違う龍の姿に変えてカラスを吹っ飛ばし、悟空は如意棒でガラスを叩き落とした。ヨナが長柄武器を作り斬りかかろうとするが、その前にカラス達がミンチに変わった。ヨナは驚いた。そして後ろを振り向こうとしたが、思い留まって前だけ見た。


「はああああ……私は、殺すって言ったわよね」


 ジンが捕まった事でブチギレたシュノが糸を作り、カラスを切り刻んだのだ。ちょうど小さな森の上を通っていたので、カラス達の死体は人の目に触れる事なくそのまま自然に還ってくれるだろう。シュノの物凄く冷たくて低い声に、ヨナは冷や汗をかいた。


「ふぇぇ……」

「わんわんっ!」


 ちょっと怖がってるヨナと違って白玉はとても楽しそうだった。けど白玉の動きが止まる。あのカラス達の足止めのせいで、早々に抜け出していった悟空達も見失ってしまったのだ。


「どうする?」

「大丈夫。ジンのスマホにGPSがあるから」

「あー……ね」


 シュノはGPSを確認して位置を白玉に伝える。シュノはジンの心配はしていない。悟空達もそうだ。ジンは一人で勝利を手にすることができるだろう。でも心配はしていないがムカつくのだ。ジンが皆大事だから、ジンを狙ったと言う事実が許せない。シュノはそれはもう顔に隠せないくらいブチギレているが、ヨナも白玉も内心ブチギレていた。

 ヨナが離れる前に一瞬だけ見えた悟空の額には、青筋が浮かんでいた。シュノと同じくブチギレたら顔に出てしまうタイプ。シュノの怒りを背中に感じて自身の怒りが落ち着いた白玉は、早く追いつくためにいつもよりも力を解放して、空を飛んだ。



 一方そのころ、肩を掴まれて空を飛んでいたジンは、肩の痛みに眉を寄せていた。カラスの爪が食い込んで痛い。カラスを今すぐ倒す事は可能だけど、ジンは空を飛ぶ手段を持ち合わせていない。空を飛ぶ魔法をラズに教えて貰うんだったとジンは思いながら、悟空達がいなくてもジンだけでどうにかなるし他の核がある根城へ運んでくれるならと痛みに耐えてそのまま運ばれていた。

 ヨナがしていた様に気を集めて地面に放出し落下の衝撃を緩和させる方法もあるけど、ここはちょっと高すぎる。あれで無傷で済むのはヨナが妖怪だからで、ジンは人間だから怪我する。


 闇のカラス。太陽の使いである、闇のカラスと反対にして言うなら光のカラスとは違い、闇なだけあってとても陰湿で陰に生きる生き物。そこら辺にいる動物のカラスとは比べ物にならないくらい小根が醜悪で、かなりの頻度で光のカラスと戦っている。この戦いだ闇のカラスが勝つ事はほとんど無い。

 奥方の機嫌を損ねたと言っていたが、最近も戦っていたはずだ。近所に住む動物のカラスが愚痴っていた。きっとその戦いで何かあったのだろう。まあそこまで知る必要も興味も、ジンには無い。核の回収が最優先だ。

 後ろから悟空達の気配がするが、カラス達に阻まれている様で何度も離れては近付いて話繰り返し、いつしか気配が感じ取れなくなった。どうやら闇のカラス達の領域内に入ったらしい。


 領域内は闇に覆われて見えないが、ジンを獲物として見る視線が周囲から向けられている。ここの闇のカラスが滅ぶ日は、今日かもしれない。ジンはこれからのカラス達の言動によっては全滅させる事に決めた。カラスは止まらない。闇の中、更なる闇へジンは運ばれていく。

 ジンは闇は怖くない。慣れたと言った方が正しいかも。寝てる時はいつも闇の中だから。怖がる必要は無い。だってジンを闇の中から光の下へ連れ出してくれる存在を知っているから。強まり続ける陰の気の中、ジンだけが陽の気を纏っていた。



 カラスの死体が地面に落ちていく。悟空とヘビはジンの気配が無くなった付近を見ていた。


「どう思う」

「ここだな」


 悟空の問いにヘビは答える。そしてお互い左右は数メートル移動して、攻撃を打ち出す。悟空達の攻撃が当たる瞬間、先ほどまで悟空達が居た場所にシュノ達が飛び込み、糸が雪が爪が見えない何かを切り裂いた。


 裂け目から溢れ出す強い陰の気を纏った闇、カラス達が溢れ出てくる。その隙間を掻い潜って皆は光がない闇の中を突っ込んでいく。何も見えない。だが問題ない。闇くらいでは皆の進みを止める事はできない。


「皆殺しじゃああああ!」

「消え失せろ!!」

「ははっ! さいこー!!」

「わんわんっ」

「あはははは!!!」


 シュノと悟空の怒声とヨナ達の笑い声が、闇を揺らす。カラスを蹴散らし、カラスの血で汚れていく体。体中を纏い始める陰の気が、少しずつ皆の思考を汚染していく。それでも止まらない。だって必ず光はそこにあるから。進むほどに闇が深まり陰の気は強くなっていくのに。

 その闇の中に皆は、光を見た。



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