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第6話 ジンは秘密基地を作りたい。

 お昼ご飯を食べ終わった後にテレビを見て寛いでいると、シュノがお裾分けをしに行くと言う。


「へー誰に?」

「万由子さん達にぃ」

「そっか。行ってらっしゃい」

「行ってきまぁす」


 渡辺夫婦、いや渡辺ファミリーが引っ越してきてからもう1ヶ月。ジン達の日常に、渡辺ファミリーという存在がだいぶ馴染んだように思う。



「ジンさーん! シュノさーん!」


 シュノとの買い物の帰り道、ジンとシュノを呼ぶ聞いたことがある声があった。声がした方向を見ると、手を振り近寄って来る渡辺夫婦with赤ちゃんの『弘人』くんが居た。ばぶばぶーと弘人くんが楽しそうに声を出している。


「お久しぶりでぇす、こんにちはぁ弘人君」

「あぅ〜」

「久しぶり二人とも、元気だった? 弘人くんこんにちは」

「はい。体調を崩すこともなく今日も元気ですねー!」

「いいね」

「前見た時より大きくなってるね」

「赤ちゃんの成長早いんですよ、こんな小さかったのにあっという間に大きくなって。ふふ」


 渡辺夫婦との出会った時間から丸二ヶ月、二人とも幸せそうで良かったとジンは思う。渡辺夫婦も買い物をしていたようで買い物袋が見えている。


「二人は何故ここに? 遠出?」

「へへ、引っ越してきたんです!」

「えぇ! いつ頃からぁ? どこら辺なんですかぁ?」

「今週の月曜日に、八生東の六丁目の方ですね」

「えー近いじゃん。ジン達は三丁目」

「近いですね!  労働エリア住みだったので子供産まれるから引っ越そうっ考えていたんですけど、場所が決まらず。そんな矢先の事件でジンさん達と出会って、八生を知り便利だなぁと思ったのでここに決めました!」


 それぞれ専門エリアでも住めるけど、そこに住むのは独身や子供がいない人達ばかり。しかも労働エリアは学校が無い。だから子供を育てるなら引っ越すしかないだろう。

 ジンは買い物や遊びで他の町や他県に出かけても、その場所の詳しいことは知らない。


 でも八生に住んでいて住みやすいと思う。必要最低限以上の物を、大型商業施設が近くにあるからそこで揃えられるし、歩けば何処かには何かしらの専門店や飲食店がある。コンビニはジン達の家の前にある通りなら駅までで四か所あるし、駅周辺にだってある。駅周辺にはさらに沢山店があるから、買えない物の方が少ない。


「車で三十分以内でスーパーだけでも、ジンが知る限り五か所以上あるからなぁ。六丁目ならジン達の家よりあのショッピングモールは近いんじゃないか」

「ああー! あそこは確かに近くて朝はそこに行って、生活必需品買いました。引っ越した日にも行ったんですけど、赤ちゃん専門店もあったしカメラ屋さんもあったから、予約しちゃいました! 幼稚園と保育園どちらも多くて小中学校がすぐ近くにあるから、弘人をそのまま進学させてもいいかなーって考えてます」

「いいですねぇ。犬目区のぉ半分は住居エリアと修学エリアが混ざった場所だからぁ、子供と女性もぉ多くてぇ交番も多いぃし〜、他より安全なんだよぉ」

「ヤナシの被害は、犬目区はほとんどないし隣の先鳥区もそうだね。あぁヤナシを飼うのは例外中の例外だから、他は無いよ」

「そうなんですね!」


 四人で道の端に寄り、雑談をする。あそこにはあの店があってあれが売ってて、あそこに細道があるから近道になるだとか。シュノと万由子さんで未来の弘人くんの離乳食の話になったり、恭弥さんが引っ越しに伴って仕事はそのままに別の場所に移動させてもらった話とか。十分以上話すと、恭弥さんが一緒に夕ご飯はどうかと誘ってくれた。


「時間も丁度いいですし、ファミレスの前なんでどうです?」

「いいね。ジンはお腹がすいたところだったんだ」

「是非ぃ! どっちにします? 隣にもありますけど」

「期間限定が気になるから、あっちでもいいですか?」

「ジンも食べたい……シュノ」

「じゃあ半分こねぇ。全部食べれないでしょう?」

「うん」


 日が傾いて今は十七時過ぎ。渡辺夫婦も買い物帰りだったらしい。料理を注文して、料理が届くまでの間も会話は途切れない。

 あと今更だけどタメ口で話していいよってジンは言った。恩人だからと敬語で二人は言うけど、ジン達より歳上だし気にしなくていいのに。なんとか説得して二人は、タメ口になった。


「弘人は幼稚園に行かせようと思ってるの」

「いいね。ジンとシュノは保育園だった」

「そうなんですか? 俺は幼稚園でした」

「私は保育園だったわ」


 こうして話題は幼少期の思い出になり、四人のそれぞれのエピソードが披露されていった。


「俺小さい時木登りが大好きで、木がなかったから柵を登って飛び降りる遊びしてたら、着地を失敗して怪我しちゃって両親にすごい怒られたなぁ」

「木登りはするよね。誰でも。ジンもよく登った」

「私はしなかったぁ。ジンが登るのを、下から眺めてるだけぇ」

「私は今は無理だけど、よく虫を集めてはポケットに入れて母を驚かせてたわ」

「小さい時はなんでも触れるよねぇ……私もぉ触れてたけどぉ今見るのすら嫌ぁ。蝶々とかぁ羽が綺麗なだけでぇ、羽もいだらぁ蟻同じじゃなぁい?蝶々なんてぇほとんど羽蟻」

「蝶々と羽蟻を一緒にしないで、シュノ」

「あははっ確かに!」


 料理が運ばれて来たから、虫の話題はやめて食べる。弘人くんは恭弥さんにミルク飲ませてもらってた。


「あと数ヶ月で離乳食開始だからいろいろ調べているんだけど、好き嫌いが出てくるのよね……」

「今まで甘いのしか口にしてなかったから、別の味に慣れないんだよ」

「甘くしたらいいかな?」

「調理法によってはぁ野菜とか甘く出来ますよねぇ」

「かぼちゃとか美味しいよね」

「甘いかぼちゃね」



 まだ食べれそうだからと料理をさらに注文する。ジンはまだ最初の料理が食べ終わっていないので、頼んでいない。


「ジンは偏食とかせず、何でもかんでも口に入れたってママに聞いた」

「私はぁ偏食だったなぁ」

「俺も」

「私は星型にすれば全部食べたみたい。お皿とか野菜の形とか」

「あぁ、形派ね。俺は食わず嫌いだったわ。なんか食べたく無いで食べなかった」

「弘人も偏食になるのかしら…‥私達二人とも偏食だしねー」

「あはは……沢山食べてくれたら嬉しいな」

「弘人ー! 沢山食べるんだぞー!」

「あうーやー!」


 万由子が笑いかけると弘人くんの顔が満面の笑みに。赤ちゃんってなんで可愛いのだろうか。

 それにしても偏食って大変だね。世の親達頑張れ。ジンは食事に関しては育てやすかったのかもと、皆の偏食エピソードを聞いて思った。ジンは出された物は全部食べる派だったから、未知の世界過ぎた。

 追加料理が届いて皆食べる。ジンはやっと食べ終わった。ジンはシュノにちょっと分けてもらって、皆が食べ終わるまで待った。


 デザート! 期間限定スイーツのパフェ!! いざ実食。甘い。


「美味しぃい? ジン」

「美味しい」


 窓から見える空はすっかり暗くなって夜。万由子さんも期間限定のパフェで、恭弥さんはいちごアイスだった。いちごが好きらしい。弘人くんは周囲の雑音が気にならないのか、ぐっすりと眠っている。

 次の話題は子供の遊び場になり、ジン達は公園の話をする。万由子さんが弘人くんとの散歩は何処がいいかと聞かれたからだ。散歩は大事だ。


「ジンが知ってる公園は六か所くらい。駅の方にある丘? 丘かあれ」

「わかんなぁい。丘じゃなぁい」

「じゃあ、丘で。でその丘の上にも公園がある。ちゃっと高いし角度があって体力がないと、一番上に着くまでに必ず息が上がる」

「そうなんだ」

「でもぉ、一番上には公園とぉ広めの遊具が無い広場があってぇ、そこではボール遊びとかしてる小学生が多いかなぁ。公園はもっと小さい子が多いかもぉ」

「ログハウスの遊び場もある。ただだから多くの子供が遊びに行ってるし、出入り口付近に自動販売機とベンチがある。ジンもよく遊んだ」

「大人は体が大きいからぁちゃっと動きにくいけどぉ、子供にはちゃうどいいよねぇ」

「へぇ」


 他の公園の説明もする。二丁目にある公園は園児が多く三丁目は小学校の低学年が、五丁目は高学年が多いだとか。もうすこし先に行くとある六丁目には大きな遊具があるとか。近くの階段を降りると別の公園にたどり着くとか、あそこの迷路みたいな脇道を通って右に曲がると人がほとんど来ない小さな公園があるとか。そのまま近くの坂を歩くとあそこに着くとか。とかとかとかとか。


「俺公園の中に秘密基地作ったことあったなぁ」

「みんな秘密基地作りするわよね」

「ジンも作った。秘密基地とは言い難い、大きな枝を刺しただけの場所だったけど」

「何それー。面白い」


 懐かしい。その大きな枝は今では立派な木に成長している。ジンが時々思い出すから、あの木とジンの縁は繋がったまま。ジンのあの木を想う気持ちが木に流れて、ただの枝だったのに大きな木になってしまった。

 このまま想い続ければ、百年足らずで木に精でも産まれるんじゃないかと、ちょっとワクワクなジンだった。


 木を想う行為は、百年思われる事で産まれる付喪神如く木の精を産む可能性がある。しかもジンの気も僅かだが、縁から流れている。園児の時に植えた枝が、数年後見に行くと大きくなっていたのだからジンはとても驚いた事を覚えている。

 あの木を植えたのは、十二年前。六歳の頃だった。



 皆の流行りは秘密基地を作る事。毎年流行っている気がするけども。

 なので丘の上の公園で秘密基地を作ろうとジンは思ったんだ。ちょうど遊びに来ていたし、秘密基地に出来そうな場所が多い公園だったから。ジンだけじゃない、シュノと若菜と一緒に周囲を探索していい場所を探した。


 でも秘密基地に良さそうな場所は見つからなくて、どうするかと悩みながら歩いている時にジンが切られたデカい枝を取ってきたんだ。


「何それ」

「枝! あっちに沢山切られてた」

「大きいもんねぇ」

「何してるの」

「これを秘密基地にする!」

「え……」


 戸惑うシュノと若菜を尻目にジンはそう言いながら、デカい枝を近くにあった細い木の根元に刺した。


「シュノ支えるの手伝って。若菜、いい感じの棒を何本か持ってきて。倒れないようにする」

「分かった」

「うーん。分かったぁ」


 ちょっとしか地面に刺さっていないデカい枝は、ジンが手を退かすとすぐに倒れそうになる。だからシュノに支えてもらって、ジンはもっと深く穴を掘った。

 若菜に持ってきてもらった棒も刺して、倒れないように固定する。シュノが支えなくても自立するデカい枝を見て、ジンは胸を張った。


「完成!」

「秘密基地にしては丸見えだ」

「ただ枝を植えただけじゃん。でもいいねぇ。秘密基地って事にしよう」


 子供は単純でアホなのだ。三人の秘密基地が出来た。公園にあるベンチの隣。支えてる木と種類が違う木の枝。近くで見たら違う木だってすぐに分かる。

 チグハグで歪な三人の秘密基地。そこは今でも忘れない、思い出の場所になった。


「また秘密基地作ろうねぇ」

「今度はちゃんと基地してる秘密基地にしよう」

「いい感じの場所ないかな」


 子供は気が変わるのが早い。もう満足して次の秘密基地の話だ。話の途中で先生達の帰ると言う声を聞いて、先生達の元へ三人で走った。爆走だった。1番足が速いのはジンだった。

 結局新しい秘密基地を作る事はなかったけど、あの公園に行く時は毎回あの枝だった木を見る。触ってみたら支えなしで地面に自立していて、作った時と違って簡単に抜ける様な枝じゃない、立派な木がそこにある。これは、ずっとジン達の秘密基地。



「うわぁいいなー! 今度教えてよ場所」

「いいよ」

「わぁ懐かしぃ。私は最近行ってないなぁ。やっぱり急な坂がねぇ。終わったかと思ったらさらに登らないとでしょう?」

「ね。分かる」


 自転車でもちょっと面倒だあそこは。秘密基地か。秘密基地は幾らでもあっていいから、今度若菜誘って秘密基地作りでもするかな。


 デザートを食べ終わったら、渡辺夫婦が奢ってくれた。今日はこれで解散。


「ありがとう二人とも、またね! 荷解き終わって落ち着いたら家に遊びに来てね!」

「是非遊びにきてね。弘人とも遊んでほしいわ」

「うん。またね」

「また会いましょうねぇ」


 手を振って渡辺夫婦が駐車場に向かうのを見て、ジン達は歩き出した。時間はもう七時近くり家に帰ったらシャワーを浴びて、今日は疲れたからもう寝てしまおう。


 橋を渡って暗い土手を、スマホでライトをつけて歩く。隣で歩くシュノが思い出話を始めた。さっきまで過去を振り返ってたからいろいろ思い出したみたい。ジンも何個か思い出した。

 でも、今もまだ忘れないない事がある。過去にシュノと若菜とした約束の事。



 親が迎えに来たのに部屋の隅に座り込む若菜が、家に帰りたくない、家が嫌い。ジンと一緒にいたいと言うから、ジンは若菜に言った。


「じゃあジン一緒に住んだら家が好きになる?」

「うん」

「なぁに? じゃあシュノも一緒に住むぅ! 若菜いいよね?」

「うん」

「今は無理だけど、大人になったら一緒に住もう」

「本当?」

「うん。約束」

「やった……約束だよ」

「えへへシュノも約束する」

「ゆーびきりげんまん! うそつーいたら、はりせんぼんのーます! ゆびきった!」


 小さい頃の忘れられる様な約束。約束した嬉しさからそのまま嬉しそうな顔をして帰っていった若菜。子供は単純なのだ。

 シュノは両親が死んだ時からジンの家で住んでるけど、若菜は家族が死んで隣の家に引っ越してきただけ。一緒に住んでないから、約束はまだ叶ってない。期限とか決めてないから、いつか一緒に住む事にしよう。若菜も喜ぶでしょう。たぶん。


「大人になったら一緒に住むって約束覚えてる?」

「覚えてるよぉ。大人になる前に一緒に住む事になったけどねぇ」

「若菜も覚えてるかな?」

「覚えてるんじゃなぁい? ジンの事に関しては忘れる事なさそうだしぃ」

「若菜だもんな。ひよこ」

「鴨の親子」

「ふっ」


 うん。懐かしいな。時々過去の事を思い出すのはいいかもしれない。保育園にいる時、若菜はいつもジンの後ろにくっついてたんだ。小学校と中学校でもそうだったな。ずっと同じクラスだったから、よくセットにされてシュノが自分も一緒がいいといつも言ってた。

 クラスが違う年は仕方ないと思うけど、毎回口を尖らせるシュノの機嫌を良くする事に若菜は長けていた。


 休み時間の度にジン達のクラスに来ては不機嫌になるシュノと、シュナの機嫌を良くする若菜。それを眺めるだけのジンの組み合わせは、同級生達がまたやってるよと思われる程に見慣れた日常だった。

 中一の頃にジン達の関係性を理解した先生達は、中二からシュノも同じクラスにしてくれて、シュノはいつもご機嫌だった。


 若菜はその時にはもう寒がりだったけど、ジンが別行動する時はシュノが居たから中学もちゃんと通えていた。流石に高校では別々だったからそうはいかなかったけど。


 話しているうちに家に着いた。シュノが家の鍵を開けて、中に入る。シュノが靴を脱いで上がり、ジンに振り返る。


「おかえりなさぁい。ジ〜ン」

「ただいま。シュノ」


 ほんの少しだけ、過去に戻りたくなったジンであった。



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