第7話 ジンは土曜九時のドラマが好き。
ジンはお昼ご飯の後、白玉の散歩をしに家を出た。散々ランニングマシンで走っているのに、今日は散歩にも行きたいらしい。数分歩いていると、白玉の上に乗るヘビがチラチラとジンを見てくる。一体なんなのか。
「なんだ、ヘビ」
「ぴぃー」
ヘビはそう言うと空を凝視し始めた。ジンと白玉は歩くのをやめてヘビと同じ様に空を見てみると、空から薄緑に金が輝く小鳥が落ちてきた。きーちゃんだ。受け止めたほうがいいのかそのままの方がいいのか悩んでいると、きーちゃんがジン達を見て羽を広げた。自由落下をやめて羽を羽ばたかせ、白玉の頭に着地した。
「ぴーぴーぴー」
「おはよう、きーちゃん。何してるの」
「ぴーぴー」
「一緒に散歩するか」
「ぴー!」
きーちゃんがそう言うので、一緒に散歩する事にした。ヘビときーちゃんは仲がいい。特にヘビからきーちゃんへの好感度が高いみたい。ヘビは強い奴が好きだから、強いきーちゃんが好きみたい。戦いたいらしい。戦闘狂かもしれない。
一応みことちゃんにきーちゃんと一緒に散歩していると、画像付きで連絡した。すぐに返事が来て、私も一緒に散歩する! とあったので近くの公園に行き、みことちゃんを待つ事にした。
「きーちゃん、家を出る時はみことちゃんに伝えないとダメだよ」
「ぴぃー?」
「きーちゃんが強いのは知っているけど、みことちゃんだって心配なんだ。強くても心配してしまうんだよ。きーちゃんが大事だからね」
「ぴー……」
ベンチに座って最近無断外出が目立つきーちゃんに、ジンは注意する。するときーちゃんは意気消沈してしまった。
「姫にでもいいから、ちゃんと誰かに外に行くと伝えればいいだけなんだよ。そこを怠ってはいけない」
「ぴーぴー」
「みことちゃんが誰にも告げずに何処かへ行ってしまったら、心配だろう」
「ぴー!」
「気をつけるんだよ」
「ぴーぴー」
きーちゃんは分かってくれたらしい。ヘビはベンチの端で仰向けになっていて落ちそうだ。でもその下に白玉がいる。どうやら、白玉の上にわざと落ちて遊んでいるらしい。
元気になったきーちゃんも、ヘビ達に混ざってベンチから飛び降りて白玉の上に落ちる遊びしている。ジンはその様子を動画に撮りながら眺めた。
公園には園児達が遊びにきていたから、白玉達に気付いた園児達が近寄って来た。白玉は地面をきーちゃんは空を飛んで、園児達と駆けっこをし始めた。
ヘビは園児達と遊ぶのは嫌だったらしく、ジンの膝の上にいる。でも園児の好奇心から体を突かれて、最初は逃げていたが諦めて触られるのを許している。
「ジーンー!」
みことちゃんが着いたみたい。みことちゃんがベンチに来ると、ヘビがみことちゃんの肩に飛び乗った。園児達はヘビの行動に驚いていたが、それで興味がなくなったのか白玉達との駆けっこに混ざっていった。
「おはようみことちゃん」
「おはようっ」
「姫は?」
「ドラマ見てる。一緒に行くか誘ったんだけど、見返すのに忙しいから行かないって」
「ほーん。なんのドラマ?」
「過去の昼ドラ。題名なんだっけなぁ……どろどろ不倫系かと思ったら、寝取られ趣味の妻による仕込みだった話」
「あー」
世間話を少しすると、みことちゃんがちょっと早めのおやつを食べに行こうと誘って来た。
「コーヒーゼリーを新しくしたんだって! ファミレスのコーヒーゼリーをジンが褒めてたって話したら、優お姉ちゃんが美味しいの作ってやる! ってメラメラしてた」
「おー。じゃあ行くか。楽しみ」
「ねっ!」
ジンとみことちゃんは立ち上がり、白玉達に声をかける。
「行くよー」
「優お姉ちゃんのとこ行くよー!」
白玉達が駆け寄って来て、園児達と手を振りながらジン達は公園を後にした。白玉は歩いているが、ヘビときーちゃんは白玉の上に乗って、ぴーぴーぴーぴーと会話が弾んでいる様だ。ずっと話している。
「仲良いねぇ」
「ね」
優お姉ちゃんは十年前にうちの近所に引っ越して来た人で、地元の人しか来ないカフェで働いている。
学校の帰り道でボーッと突っ立ってた優お姉ちゃんに、みことちゃんが話しかけた事で縁が生まれた。
「お姉ちゃん何してるの? 迷子?」
「……っ!! あ、こっ……いや、えっと……うん。あの迷子、なの。……スマホの充電が無くなっちゃって、地図が見れなくて……ははは」
「どこ行きたいの? 私が案内してあげようか?」
「……ううん。大丈夫。でも道教えてほしいかな」
「いいよ! どこに行きたいの?」
「えっとね……」
二人の様子をジンは遠くから見ていた。だってみことちゃんが、知らない大人に話しかけているから。女の人だけど危ないかもしれないでしょう。
この日はシュノは風邪ひいて休みで、若菜はしばらく学校を休んでいたから、ジンは一人で帰るところだった。この年は別クラスだったみことちゃんは隣の隣の家に住んでいるから、一緒に帰るかと追いかけたら、知らない大人に話しかけていたんだよ。ジンは後で絶対に知らない人に話しかけたらダメだよって、みことちゃんに言い聞かせると決めたんだ。
「道を教えてくれてありがとう。私は優。この辺りに引っ越そうと思って下見に来てたの」
「へー! そうなんだ! 私ね、この近くに住んでるんだよ!」
ジンは頭を手で押さえた。みことちゃんに言い聞かせる事が増えた。これ以上みことちゃんに個人情報を話さない為に、ジンはみことちゃん達に近付き声をかけた。
「みことちゃん」
「私、日桜命って言うの!」
「え……」
「みことちゃん……」
ジンは 遅かったみたいだ。ほら見ろ。流石のお姉ちゃんも驚いたのか、目を見開いてポカン顔を晒しているぞ、みことちゃんよ。
「……あ、えっと。命ちゃん、知らない大人に名前と家の場所を教えたらダメよ」
「優お姉ちゃんは知らない人じゃないよ! さっき名前教えてくれたじゃん!」
「みことちゃん……!!」
「あ、ジン」
「……っ……そっかぁ、そっかぁ……」
ジンの名前もバレた。目を見開いたままジンを見てみことちゃん見た優お姉ちゃんは、なんだか泣きそうな顔をしてたけど、衝撃が強すぎたみたい。たぶんいい人なので、ジンも諦めた。
黄色の髪に茶色の目、信一郎っぽい顔をした人だった。親戚なのかなと思ったけど、信一郎が優お姉ちゃんと会った時お互い初対面で、本当に知らないみたいだったから顔が似てる他人なのだろう。この世に顔が似た人が三人いると言われているし。
テレビでそっくりさんのDNA調べたら実は祖先が同じだったって話を見たから、ルーツが同じなのかも。信一郎の家系は百年も前から全員ライオン獣人だから、それ以上前の祖先が同じなんだろうね。優お姉ちゃんは人間だし。
そんなこんなでみことちゃんが家にまで連れていって、荷物を置いた後は八生を案内する事になった。さすがにさっきあったばかりの優お姉ちゃんと二人きりにするわけにはいかないので、ジンが帰りを待ってた悟空とジンもついて行った。
みことちゃんと優お姉ちゃんは仲良く手を繋いでいた。優お姉ちゃんは手を繋ぐ事を躊躇っていたが、みことちゃんが強引に手を繋いでいた。なんなんだみことちゃん。危機感を持ちなさいよ。いい人だと思うから大丈夫とみことちゃんが言ったけど、大丈夫じゃないから。ジンもいい人だとは思うけども。
「……ここ、まだあるんだ」
「お姉ちゃん来たことあるの?」
昔からあるらしいカフェの前を通ると、優お姉ちゃんが小さい声でそう言った。つい溢れてしまった言葉だったらしいが、みことちゃんは聞き逃さなかった。
「うん。他のところは知らないんだけどね、食べに来た事があるの」
「そうなんだ! 私はねここのプリンが好きだよ」
「そうなんだ。私も好き。ジンちゃんは何が好き?」
「コーヒーゼリー」
「そうなんだぁ」
会った時のカチカチな雰囲気が緩んで、今では穏やかになっている。懐かしそうにカフェを眺めている優お姉ちゃんに、悟空が入ろうと提案する。
「菓子時だ。ちょうどいいからここで食べよう。俺様が奢ってやる」
「やったー!」
「え、いいんですか?」
「あぁ。早く入れ」
悟空がカフェのドアを開けて、入店を促す。皆が入ったら悟空が最後に入ってドアを閉めた。四人掛けのテーブル席に座って、メニューを開く。まあ、見るまでもなくジンはコーヒーゼリーを頼むのだが。
みことちゃんはパンケーキを悟空はパフェを頼んだが、優お姉ちゃんは悩んでいるみたいだった。
「優お姉ちゃんはどれにするー?私のおすすめはね、プリンだよ」
「チョコアイス美味しいよ」
「全部頼むか」
「え! 全部!? えーっとそうだなぁ、じゃあプリンで」
「悟空が食べたいだけでしょう」
「ふんっ。全部頼むぞ」
「わー! 少し分けてくれる?」
「もちろんだ」
「やったー!」
「……ふふっ」
眩しそうに目を細めて笑う優お姉ちゃんにジンも気を許してしまい、食べ終わる頃にはすっかり仲良くなってしまった。
それから一週間後に引っ越して来た優お姉ちゃんは、カフェで働き始めて元々よく来ていたカフェだったが、それ以上にカフェへ行くようになった。元々地元の人しか来ないし、その人数も少なくてガラガラだったから、注文はするけどほとんど遊びに行く感じだった。
シュノと若菜はどうも優お姉ちゃんとは折り合いが悪いみたいで、特にシュノは敵対心が凄かった。優お姉ちゃんとジンが話しているとジンからくっついて離れないし、凄い不機嫌になる。若菜もジンの側から離れず、一言も話さなくなる。まあ誰とでも仲良くなれるみことちゃんが凄いだけで、合う合わないがあるから仕方ない。
「どこが嫌なの?優お姉ちゃんの」
「目」
「目?」
シュノはぶっきらぼうにそう言って、詳しくは教えてはくれなかった。
「いい人だとは思うよ。だからシュノちゃんはジンと関わる事を許してるんだ」
「ほぉ」
「俺もジンと命を見るあの人の目が気に入らない」
「なぜ」
「……ちゃんと見てないから」
「え?なに、教えてよ」
若菜は教えてくれなかった。
「悟空分かる?」
「……ジンと命と最初に会ったから、二人には特段甘いだろう」
「うん」
「要は気に入らないんだ。態度がわかりやすく違うからな」
「え、そうなの?」
「他の者共を邪険に扱っているわけではないし、円滑な人間関係を築いているが二人は特別らしい」
「知らなかった」
「それはそうだろう。表面上ほとんど変わらないからな。シュノと若菜がジンに関して煩いからな」
「え?」
なんとなく分かったけど分からなかった。とりあえず、シュノと若菜が優お姉ちゃんが気に入らないと言う事がわかった。
そんな二人を見る優お姉ちゃんはいつも困った顔をしてたけど、目は優しかった。たぶん二人がああなってる原因を理解しているんだと思う。優お姉ちゃんに聞いたけど、やっぱり優お姉ちゃんも教えてはくれなかった。なんなんだ。
という訳でカフェに着いた。ドアを開けて中に入ると、優お姉ちゃんがカウンターから手を振ったから振り返した。
「いらっしゃい。コーヒーゼリーとプリンね。今日は多いね。白玉とヘビときぃはどうする?いつもの?」
「ヘビはパンケーキ、白玉はバニラアイス」
「きーちゃんは……チョコプリン!」
みことちゃんがきーちゃんにメニューを見せると、きーちゃんなチョコプリンのところに降りたのでチョコプリンを頼んだ。
「はーい。待っててね」
「うん」
三分もしないうちに全員分届いたが、食べる前に写真を撮った。記念。食べたら美味しかった。うん。コーヒーゼリーは美味しい。
「ジンちゃん、どう?」
「美味しい」
「ファミレスのと比べて……」
「あちらにはあちらの良さがある」
「そっかぁ……ありがとう」
優お姉ちゃんはちょっと残念そうだった。だがどちらも美味しいのだから、仕方ない。
美味しそうに食べるヘビと白玉。体を汚しながらチョコプリンを食べるきーちゃんをみことちゃんが撮影していたので、後で送ってもらう事にする。
そんなジン達を優お姉ちゃんは、嬉しそうに眺めていた。優お姉ちゃんはジンとみことちゃんが一緒にいるところを見る事が好きらしい。
三人で一緒に前出かけた時に、三人で自撮りしようとしたら二人だけの写真が欲しいとか言ってきたことがある。その後ちゃんと三人で写真を撮ったけど、その時のジンとみことちゃん二人の写真を優お姉ちゃんはホーム画面に設定している。なぜだろう。
なんでと聞いてみたら、好きだから返事が。何?ジンには理解出来なかったが、優お姉ちゃんはいい人なので、まあいいかとスルーしている。
食べ終わったらみことちゃんが姫ように持ち帰りを頼んで、出来るまで待った。汚れた白玉達をジンは魔法で綺麗にした。魔法って便利だよな。
「何にしたの?」
「パスタ」
「スイーツじゃないんだ」
「メニューを送ったら、パスタがいいって連絡が来たの」
「なるほど」
「帰りにコンビニ寄っていい?」
「いいよ」
持ち帰りが出来て、ジン達は席を立った。
「ご馳走様でした。またね」
「ご馳走様でしたー! 優お姉ちゃんまたね!」
「ぴぃ」
「ぴーぴー」
「わん!」
「また来てね〜!」
店を出て、コンビニに向かう。
「何に買うの?」
「くじ!」
「あー」
そういえばネットで見たけど、今日からみことちゃんが好きなアニメのくじがやっているんだった。
コンビニ着いたら、みことちゃんはくじを十回回した。でも欲しい物が出なかったらしく、代わりにジンが二回引いた。そしたらみことちゃんが欲しい物が手に入ったので、あげたら喜ばれた。お金を払うと言われたけど、要らないって言ったら被った物を二個貰った。部屋に飾る事にする。
今日行った公園もカフェもコンビニも家からすぐ近くだから、すぐに家に着いてしまった。もう少し一緒にいたかったけど、ジンも録画したドラマが見たかったので解散する事にした。
「またねー!」
「またね」
今日はシュノが出かけているので、ジンを出迎える声は無い。
魔法で綺麗にしたけど、白玉とヘビを洗う。気分の問題である。白玉もヘビも水遊びが好きなので、ただ洗うだけじゃなくて遊んだら楽しそうだった。動画を撮ってシュノに送った。すぐに既読がついて、親指を立てポーズのスタンプが送られて来た。
リビングに行き、テレビをつけると気になるニュースが流れていたので見ておく。
千年前に発見されたヤナシを作った研究所から、新たな部屋を発見したらしい。瓦礫で閉じられて無酸素状態の部屋だったらしく、状態がいい数千年前の物が沢山あったようだ。その中でも目を引いたのは、ヤナシの資料。
《書かれている事が事実なら……ヤジンの祖とされているヤジンが誕生日する前に、他のヤジンと一緒に原初のヤジンも作られていたという事になります。》
《資料から原初のヤジンは当時嬰児だったと推測されますが、ヤナシの成長スピードや環境への適応力から……生きている可能性がありますね。》
《我々が気付いていなかっただけで、養殖ヤジンが増えた今、混ざって生活している可能性があるという事ですね。》
《はい。ですが今までヤジンが人を襲う事例はありませんのでーー》
最強と謳われるヤジンの祖よりも、原初のヤジンは強いのだろうか。ジンが気になるのは、そこだけ。
ヤナシは総じてIQが高い。ヤジンも同じだ。だから原初のヤジンが今も生きていて、しかも子供を作って人を襲う事があれば、ヤナシよりも厄介だ。
今いるヤジン達と見分けがつかなければ、人の形をしている事でヤナシ討伐部隊のヤジン達が、討伐に躊躇う可能性がある。養殖と天然という違いは出てくるが、同族で殺し合う事になる。悩ましい問題だ。
まあこの話は一旦置いておいて、ジンは録画した土曜日のドラマを見るために、リモコンを操作した。
今季は探偵モノ。ジンは始まる前から胸を踊らせた。




