第8話 ジンは歌が歌いたい。(上)
今日、ジンの家にはラズが来ていた。ジンが着替えの魔法を教えて貰うために、ラズを招いたからだ。
今回のラズはちゃんと玄関から来たので、シュノはちょっと嫌そうな顔をしてたけど、不本侵入しないならいいとラズを迎え入れた。
ジンは教わり始めてからたった十数分で、着替えの魔法を使えるようになった。ジンは何種類もの服を着替えて気の動きを慣らす。
普段の服に着替えたら、満足そうな顔をしてジンはラズに言う。
「ありがとう。もう帰っていいよ」
「え!? いやっまだ居るわ! ……他の魔法とか興味無い?」
ジンの言葉に目を見開いて、ジンの周りをうろちょろ動くラズ。ヘビが邪魔くさそうにラズを見ている。
ラズは、せっかくシュノに怒られない来訪なのだからもう少し居ると五月蝿い。そんなラズにジンはため息を吐いた。
「シュノが怒らないのは、ジンがラズを招いてから。あとラズが不本侵入せずちゃんと玄関から来たからからだよ」
「……あーへへへっ」
ママよりも年上でジンよりも大人なのだから、毎回ちゃんと正規ルートで訪ねてほしいとジンは思う。ラズだからこうなのではなく、もしかして魔法使いがこうなのかとジンは疑問に思った。でもラズの弟のリオは常識人だったから、ラズがおかしいだけなのだとジンは結論付けた。
家にいても特にラズとしたい事なんてない。からば、外に行くかと煩い視線を寄越すラズを無視してジンが考えていると、部屋にヨナが入ってきた。
「カラオケ行こー! コラボしてるんだよね。あ、ラズも居たの。ラズも一緒にどう?」
「カラオケ……行ったことない!」
「あぁそういえばコラボするってシュノが教えてくれたな」
「そう! 行こう!」
「いいよ」
「初カラオケ、楽しみー!」
いつの間に来たのか。ラズに気を取られてヨナの気配に気づかなかった。
ヨナがカラオケに行こうと誘って来た。ヨナの誘いに、ラズが嬉しそうにしている。
何も思い浮かばなかったから、ヨナの誘いに乗りカラオケに行くことにした。特に準備する事はないのでそのまま部屋を出た。
「あらぁ、カラオケ行くのぉ? 準備するからぁ待っててぇ」
ヨナはただ遊びに来ただけだと思っていたジュノは、急いで自分の部屋へ外出の準備をしに行った。なので先に玄関へ行き、靴を履き変えてシュノを待つ。
今回は白玉とヘビは留守番だ。今から行くカラオケ店はペット禁止なのだ。
初カラオケだから長時間カラオケがしたいと言うラズが、瞬間移動魔法を使ってジン達を移動させた。カラオケ店付近の人の気配がない場所へ移動だったので、人に見られることはなかった。
魔法は現実には存在しないおとぎ話、ファンタジーの話だとほとんどの人が思っているから、見られたら困るのだ。
店に入って時間を決める。フリータイムで、今は十三時だから十七時の四時間カラオケをする事にした。
レジでグッズを買って、部屋に行く。ドリンクバーは自由なので、ラズにドリンクバーの複数のジュース混ぜレシピをオススメしたら、シュノにやめなさいと言われた。
「こらっ」
「……美味しいよ」
「ダウトだ」
歌予約より先にコラボドリンクの注文をして、買ったグッズを開ける。ランダムグッズなので、ドキドキワクワクだ。ラズはコラボしたアニメを知らないけど、ジン達が買ってたから一緒に買っていた。
同時に開けて裏側で出す。せーので裏返してキャラを確認する。
「あああああっ!!ラズううう交換してえええ!」
「あっ、ヨナの交換してぇ」
「やった、出た」
「いいよー。なら私はシュノの貰おうかな」
シュノの推しをヨナが、ヨナの推しをラズが出し、ジンは自引きした。シュノが出した誰の推しでもないキャラをラズが貰って、開封の儀は終了。
ジン達が推しを出して喜んでいる姿に、ラズが暖かい目を向けてくる。子供を見る大人みたいな視線を向けるな。
ヨナはあと一人推しがいるらしいので、推しが出るまで無限ドリンク注文を始めた。ドリンクの消費を三人で手伝ったが、冷たいドリンクしかなくてジンは体が冷えたので早々にギブアップした。
ドリンクバーで暖かいココアをジンは飲んだ。暖かかった。
最初に歌ったのはシュノで二番目はラズ、三番目はジンで最後はヨナ。この順番で時間まで歌い続けた。でもジンは途中から息が続かなくなったけど、意地で歌った。歌うのは好きだ。
ヨナのもう一人の推しは、二十杯に行く前に何とか来てくれた。
ヨナは被ったシュノの推しを全部シュノにあげた。シュノは頬を緩ませた。
「何のために働いてると思ってるの? お金で殴り殺すためよ」
「何を」
「欲しい物が手に入らないという現実を」
グッズにお金を使いまくるタイプのヨナの顔は虚無で、目は遠くを見ていた。
時間が来て部屋の外に出る。先に部屋を出たシュノが、推しグッズを見て喜んでいる。
「ブタ本当に好きだよねシュノ」
「かわぁいいでしょぉ?」
「うん」
アニメのマスコットキャラ、名前は『ブタ勝』くん。複数手に入ったから、部屋に飾る用と使う用にするらしい。使う用の推しのランダム缶バッチを、シュノのブタの顔をしたポシェットの紐部分に付けた。
「ジンは、マイクロブタカフェ行ってみたいと常々思っている」
「あ〜! わかるぅ〜!」
「マイクロブタ、カフェ……!?」
「今度ぉ行こぉうね♡」
「うん」
そんな物があるのかと驚くラズに、マイクロブタカフェのホームページを見せてあげる。ラズは目を輝かせて、他の動物のカフェを検索し始めた。好きな動物のカフェがあるといいね。
会計を済ませてカラオケ店を出ると、時間も時間だし店で飲み物だけ口にしなかったジン達はすっかりお腹がすいてしまったので、近くのファミレスに入った。
少し急な階段を上った二階にあるファミレス。ここはママが唐揚げが美味しいと言っていた。
「何食べようかなー」
「ジンは唐揚げ」
「いいねぇ。ジン、唐揚げと雑炊にする?」
「うん」
「おー増量中のステーキがある」
「このパスタ美味しい?」
「美味しいよそれ」
「ならこれにする」
「私はハンバーグにしようかなぁ」
「これなに? ネギ?」
「玉ねぎ」
「パスタとハンバーグどう思う?」
「ご飯無しで頼めばいいと思う」
「採用」
料理を頼んで、ジンはメニューのデザート欄を見ながら待つ。隣に座ったヨナが覗いて来たので、一緒に見る。
「ここのガトーショコラ、前頼んだ時フォークで刺せなくて石かと思った」
「出したばっかりでカチカチだったかー」
「あんこ」
「私パンケーキにしよぉっと」
「ふーん。私はプディングにする」
「ジンは再挑戦のガトーショコラ」
「今回も固かったら、私がアーンしたげる」
「ありがとう」
「は? ヨナ席変わって。アーンは私がするのよ」
「もしもしだから!」
デザートも食後に届けてもらうようにして、注文する。
ヨナの失言にガチになったシュノが突っかかる。
「ふふふ……カラオケ楽しかった! また今度一緒に行こう!」
「うん」
「いいよぉ」
「別のコラボが来週から始まるから、来週行こう」
「やったー!」
カラオケが楽しかったラズの誘いに皆乗ったので、来週もカラオケに行くことが確定した。次コラボをジンは検索する。次のコラボは『星屑の魔法少女』だ。
中学生の少年が謎のウサギと契約して魔法少女になり、研究者の失態により全世界に解き放たれた人工魔法生物と戦う、後処理系ギャグ物語。でも、深夜放送だ。
サラダが来たので、シュノが分けてくれたので食べる。サラダって店によって味の当たり外れあるとジンは思う。
ジンが好きなサラダは他店のエビのサラダ。エビの大きさが選べるし、ドレッシングが美味い。優勝すぎる。でも全体の量がどんどん減っているのは見過ごせない。
「あそこのカラオケ、あまり有名じゃないマイナーな曲とかは無い機械しかなかったから、歌いたかった曲がなくて残念だった」
「分かる」
「機会によって違うの?」
「そうなのぉ。マイナーな曲が入ってる機械を置いてる店自体少ないからぁ、その機械がある店に行くけどぉ持ち込み可じゃないのが、いやぁ」
「分かる」
地元にあるカラオケ店は、マイナーな曲が沢山ある機械があって嬉しいんだけど、揚げ物を必ず注文しないといけないからダルいのだ。あの店。ジンは不満を愚痴る。
話題はカラオケ店の不満点から、カラオケに行った過去の話に変わった。
「カラオケと言えば、カラオケに来ても歌わない子居たよね」
「あー居た居たぁ」
「居たね」
「カラオケに何しに来てるんだろうって思う」
「聞きにぃ?」
「他人の歌を?」
ヨナの疑問に、シュノもハテナを浮かべながら答える。本当に何しに来てるんだろうとジンは思う。
友達と一緒に居たいからって人も居るのかもしれない。理由は様々なんだろう。
「セイミアは歌わないよね。歌うの好きだって聞いたけど」
「私は歌うより歌を聞く事の方が好きだって聞いたよ」
「そうなんだ」
そういえばセイミアもそうだったとジンが言うと、ヨナが教えてくれた。
「そもそもぉ、セイミアはぁ滅多に話さないでしょう?」
「……セイミアってお友達?」
そうだ、ラズはセイミアには会った事が無いんだった。
ジンが話題ミスったと思っていると、ヨナがラズにセイミアの紹介をした。
「うちの店で働いてる店員なんだー」
「へぇなら、店に行けばそのセイミアに会えるんだ?」
「店番してればね」
「ふーん」
あまり興味が無いらしいラズの返事は、空返事だった。
料理を猫型ロボットが運んで来たので、受け取る。完了ボタンを押してくださいと喋るロボットに驚いたラズは、完了ボタンが見つけられずどうすればと戸惑っている。
ヨナが笑いながらボタンを押してやると、配膳ロボットが帰っていく。ラズは感嘆の声をあげた。
「最近増えたよね、アレ」
「かわぁいい〜」
「いいねアレ、母国には無かったよ」
「可愛いよね」
「他店では犬型もあったよ」
「えー見てみたい!」
ファミレスの配膳ロボットは多種多様だ。本物の動物に見間違うようなロボットや、見るからにロボットという風体のロボットとか。
このロボット達が、渋滞を起こしている動画がバズっていたのを思い出した。お喋り機能も付いているから、ロボット同士の渋滞中の会話が面白い。誰も道を譲ろうとしないんだ。
ジンは思い出してちょっと笑ったけど、表情筋は上手く動いてはくれなかった。
「そういえば何でラズは日本に越してきたの?」
「たしかにぃ」
ヨナがラズの引っ越しの理由を聞いた。シュノも理由は知らなかったし、興味無かったから改めて聞いてみたいと思った。
ジンは、初めて会った時に星占いとか何とか言っていたようなと思いを馳せた。
「星占い」
「ウケる。それで引っ越したんだ。なんて出たの?」
「日本へ引っ越した方が吉!」
「おみくじかよ」
「おみくじには定住しろって出たよ」
「ほぉ」
その話を聞いてシュノがスマホを出して、今年のおみくじの写真を見せてきた。大吉と書かれている。ジンは今年も大吉だった。ヨナは末吉。
「みてみて〜私、今年大吉だったのぉ〜ラズは?」
「へへん! 大凶」
「うける」
「やば! はははっ」
「逆に運がいい」
「確かぁ、大吉よりも数が少ないからぁレアなんだよねぇ?」
「そう」
ジンもシュノがおみくじを撮っていたのを真似て、おみくじの写真を撮っていたのでラズに見せてあげる。
「ジンも大吉なんだ!」
「ジンはいつもぉ大吉だよぉ」
「ジンのおみくじ、私大吉以外見た事ない」
「いぇーい」
「ははっ」
真顔ピースして喜んでみせたジンに、気が抜けた笑顔を返すヨナ。ヨナも一緒におみくじを引いたけど、ヨナはちょっと読んですぐに結んでたな。
ジンはいつかジンもおみくじを結んでみたいと思うけど、大吉だからおみくじは財布に入れている。
「他なんかないの?」
「んー。あとね、『お前が待たせてる者に会える』って」
「待たせてるんだ」
「らしい」
「なら、早く会いに行ってあげないとだねぇ」
「そうだね。何処にいるんだろう」
「見つけられるといいね」
「ジンが縁を辿ってやろうか?」
「いや、いい。自分で見つけるよ。星占いだって出来るし」
「そう」
その後も話し続けて料理を食べ終わると、デザートを持ってきてもらうように注文する。
ジンはデザートがどれくらいで届くかを、スマホのストップウォッチをスタートさせて測る。
ここじゃない他の店だったけど過去にアイスが乗ったパンケーキを頼んだら、届くまでに二十分もかかり、できたてじゃなくて食感が悪くアイスも少し溶けているという、最悪な状態だった。注文したのに中々来ないから、店員呼び出して持ってこさせてそれだぞ。
シュノがクレーム入れてた。当然だと思う。
デザートが来たのでストップウォッチを止める。あの二十分に比べるまでもなく、よく見る提供時間。ジンは頷いて食べ始める。美味しい。
食べ終わったら、すぐに会計をして店を出た。もう十九時近い。ラズが来た時と同様に瞬間移動魔法を使って、ジンの家の庭に移動した。便利だ。
前に瞬間移動魔法が載っている本を読ませてもらったが、着替えの魔法よりも面倒くさそうだったから練習する事はやめた。でも本の内容を覚えたので、ジン自身は出来なくても教える事は出来る。誰かに教える機会は無いけど。
「おやすみー。今日はありがとう」
「おやすみ。またね」
「おやすみみんなー!」
「おやすみぃ」
ヨナとラズと挨拶して、ジンとシュノは家に入る。窓から白玉が顔を覗かせていたので撫でておいた。
シャワーを浴びたら今日は直ぐに寝てしまおう。ジンは眠気を堪えながら、歩いた。




